2018年7月25日、26日の2日間にわたって、東京・渋谷にて『Nintendo Labo』を用いたハッカソンイベントが開催された。

 今回のイベントでは30名の小学生たちがそのハッカソンに挑むという。ハッカソン。謎の単語。ハックション。これはくしゃみ。

 そして、小学生がプログラミング……“現代感”がすごい。流れる時代から置いていかれそうな焦りとともに、記者は会場へ向かった。

 “ハッカソン(Hackathon)”とは、“ハック(Hack……工夫してやり抜くの意)”と“マラソン(Marathon)”を組み合わせた造語で、ソフトウェア関連の技術者が集い、限られた時間内にアイデアを競うワークショップ、開発イベントのこと。おもにIT分野で用いられる。

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『Nintendo Labo』のガレージモードでプログラミング

 ハッカソンに参加した30名の小学生のうち半数は、イベントを主催したCA Tech Kidsが運営するプログラミングスクールの生徒だったが、残りの半数のほとんどは、今回新たに応募をしたプログラミング未経験者。そんなわけもあって、イベント初日は『Nintendo Labo』を触りながら、プログラミングの仕組みについて学習する時間が設けられた。

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 小学生たちが最初に作ったのはJoy-Conの振動で動く“リモコンカー”。『Nintendo Labo』に触れるのが初めてという子もいたものの、図工の授業のようにワイワイと楽しそうに段ボールを組み立て、つぎつぎにリモコンカーを完成させていった。

 作ったリモコンカーで遊んだ後は、仕組みを学習。説明を聞きながら、真剣な面持ちで画面を見つめる小学生たち。その集中力のすごさといったら! いつも原稿を書いている途中でついつい関係のないサイトを見たりTwitterを開いてしまう記者は、我が身を反省する思いだった。

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 その後、“リモコンカー”から少し発展して“つり”を作成。こちらもひとしきり遊んだ後に、『Nintendo Labo』のほとんどのゲームに利用されているJoy-ConのIRカメラなど、ゲームを動かす仕組みについて説明されていた。

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 おつぎはいよいよ、ガレージモードを触りながら、作るおもちゃについてアイデアを練るシンキングタイム。つまり、ハッカソンが本格的に始まるのはこれからということ! 小学生たちの瞳にも火がともった。

 2日目には、ここで考えたアイデアをもとに作品を作って、その仕組みや工夫した点についてプレゼンを行うことになっている。小学生たちにどんなものを作ろうとしているか尋ねてみたが、口から出てくる作品の構想は十人十色。改めて、小学生の発想力の柔軟さに驚かされた。

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大人顔負けのプレゼン&成果物の展示会

 そして迎えた2日目。初日に考えたアイデアを形にし、つぎつぎに発表していく。発表では、考えた作品のどこが優れているか、注目してほしいポイントについて自分の口で説明。会場には親御さん方も来ており、微笑を浮かべながら発表を見守っている。

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 発表後は、それぞれが作った作品を実際に触って遊べる展示会。会場内の小学生が展示する側と、展示されたもので遊ぶ側のふたつの組に分かれて、それぞれの作品が優れていると思った点を評価していく。小学生たちが作品をはさんで、作品に使われているプログラミングなどについて意見交換をしている姿が印象的だった。

 瞳をキラキラと輝かせながら会場を回る小学生に交じって、記者も展示された作品を体験させてもらったのだが、どの作品もすばらしい出来栄え! 中でも記者が驚かされたのが『1-2-Switch(ワンツースイッチ)』の“ミルク”を再現した作品。

 実際に遊んでみたところ、Joy-ConのSRボタンとSLボタンを握り、動かすと、Switch本体の液晶に白い光のゲージが溜まっていき、まさに“ミルク”。さらに、本人なりの工夫として、どちらかがゲージを3本ぶん溜めたところでゴングの音が鳴りゲームセットとなるというルールに変更されている。つまり、小学生が“ミルク”の遊びの仕組み(プログラミング)を理解し、命令を分解し、『Nintendo Labo』のガレージモードで再現し、さらにアレンジできているということだ……えっ、すごくない?

 将来有望な小学生プログラマーの実力に大きな衝撃を受ける記者。だって、記者が小学生のころは、パソコンをちゃんとシャットダウンすることすらできなかったもの(電源ボタンを連打して先生にしこたま怒られたよ)。

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“ミルク”を再現していたハヤトくん。「型紙に合うように光らせるのが難しかった」とのこと。

 もちろん、自分で考えた遊びを作っている子どもたちもたくさん。そのほかにも、画面が埋め尽くされるほどプログラミングを施したものや、ダンボールの工作に工夫を凝らしたものなど、それぞれの感性を活かした作品がズラリ。話を聞いてみると、今回『Nintendo Labo』のガレージモードでプログラミングを体験した結果、実際にPCでプログラミングをしてみたくなったという子も大勢いた。

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フウカちゃんが作った“オルゴール”は、1日目に完成させた“つりToy-Con”を少し分解して、再利用したおもちゃ。奥に回せばドレミファソ……と鳴り、手前に回すとドシラソファ……と、鳴る。「プログラミングは好き?」の質問に、「大好きです。1個1個の部品で、ひとつひとつの動きかたが変わっていくところが好き」と答えてくれた。
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 出題者が事前に番号を押し、回答者が同じ番号を押すと正解音が、違う番号だとブザー音が鳴るという“ライトクイズ”を完成させた、小学校6年生のコウセイくん。「いや~何回見てもゾッとするんですよね、自分でも」と見せてくれた、ガレージモードの画面。複雑です。
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Joy-Con(R)と(L)をそれぞれ別のプレイヤーが持ち、片方がJoy-Conを振ると、Switch本体が光って音が鳴り、さらにもう一方のJoy-Conが震えるという仕組み。ふだんからプログラミングスクールに通っているリオちゃんは、iPhoneアプリも制作しているのだそう。「将来は、ゲームもそうだけど、ほかにも介護に使えるような、人の役に立つアプリを作りたいです」とのこと。偉い。

 やはり、楽しみながら基礎を学べる『Nintendo Labo』のガレージモードは、プログラミング教育において非常に高い有用性を持っているようだ。記者は今回のハッカソンで小学生たちが楽しそうにプログラミングに取り組む様子を見て、そう確信した。日本プログラミング界の未来は明るいのだ(おおげさ)。

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イベントのラストを飾った“展示会”の様子。それぞれ、自分の作った遊び(プログラム)を並べて紹介する。展示パネルもダンボールで作られているため、全体的な見た目は“お店やさん”のように見えなくもないが、そこに並んでいるものの中身は、大人も舌を巻くプログラムの数々なのだった。この中から将来、日本を代表するような(ゲーム)プログラマーが現れる……と、いいな!

 最後に、本イベントの主催者へ直撃したインタビューをお届けする。

「遊びの楽しさを教育に役立てるということが必要だと思う」

上野朝大(うえのともひろ)

2013年サイバーエージェントグループの子会社としてCA Tech Kidsを設立。同社代表取締役社長。

――今回のハッカソンイベントですが、どのような経緯で開催が決まったのですか?

上野 じつは過去、2015年にも『スーパーマリオメーカー』を使ってゲーム作りを体験するイベントを任天堂さんと共同で開催させていただいたんです。そのご縁で、今回も「現場で子どもたちに触ってもらったらどうなるのか試してみたい」とお声掛けいただき、ハッカソンイベントという形で実現しました。

――なるほど。任天堂さんと以前からご縁があり、実際にこうした子どもたちが集まる教室をやられていてオペレーション経験もあるCA Tech Kidsさんにお話があったという流れというわけですか。

上野 はい。我々としても、前回使わせていただいた『スーパーマリオメーカー』や、『Nintendo Labo』が教育の現場でも役に立つという一面を広めたいと思っていました。その思いは任天堂さんもきっと同じで、今回イベントで使った『Nintendo Labo』はすべて任天堂さんに提供していただいたんですよ。Nintendo Switch本体も人数ぶんお貸しいただいています。

――そうだったんですね。実際、『Nintendo Labo』(のガレージモード)って、どれほどプログラミングと近しいものなのでしょうか?

上野 いわゆる“プログラミング言語”は使っていないのですが、中身はほとんどプログラミングといっしょと言ってもいいんじゃないでしょうか。違う点は、『Nintendo Labo』では言語ではなく、画面上で線をつなげたりして、視覚的に動作の命令を組み合わせて、複雑な動きを実現しています。言語で動作を命令するプログラミングの導入として非常にすぐれていると思いますね。それから、ガレージモード内のお手本トピックを見れば、動きの仕組みを小学生でも理解できるようになっているんです。今回のハッカソンでは、そのお手本をしっかり見てもらったので、楽しんでもらえたのかなと。

――プログラミング未経験の子どもたちもすごく楽しそうに作品を作っていましたね。

上野 そうですね。今回のイベントはプログラミング教育というよりも、“遊びと教育の融合”を主題に据えています。というのも、これまでゲームなどの遊びは教育上敵視されてきたわけですが、遊びの楽しさを教育に役立てるということは必要だと思うんです。最近では、実際の教育でも探究的な学習が重視されていますからね。

――楽しみながら学習できるという仕組みはすばらしいですよね。

上野 我々が運営しているプログラミングスクールに通っている子どもたちも、今回のようなイベントでプログラミングを体験して、「楽しいから」という理由で通うようになる子が多いです。習いごとというより、趣味感覚ですかね(笑)。

――最後に、今回のイベントを振り返ってみていかがでしたか?

上野 ハッカソンが成功するのかどうかは、ふたを開けてみないとわからないような状況で開催したのですが、こうして終えてみると、『Nintendo Labo』の可能性と子どもたちが秘めていたポテンシャルがしっかり発揮されたイベントになったなと、手応えを感じています。夏休み中は今回のイベントと同じような催しも行うことをすでに予定しているのですが、そちらではどんな作品ができるのかとても楽しみです。