ゲームファンの投票などにより、年間を代表するにふさわしいタイトルを選出する、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)主催による日本ゲーム大賞 年間作品部門。その2017年の優秀賞を受賞したタイトルのクリエイターに受賞時の感想を聞くインタビュー企画。せっかく人気クリエイターさんにお話をうかがうのだから……ということで、日本ゲーム大賞を受賞した作品が海外で高い評価を獲得しているということを切り口に、いま日本のゲームが再び評価されている理由などを聞いてみた。

 今回お話をうかがったのは、『バイオハザード7 レジデント イービル』(以下、『バイオハザード7』)で、日本ゲーム大賞 優秀賞を受賞したカプコン 川田将央プロデューサーだ。

 ちなみに、日本ゲーム大賞 2018の“年間作品部門”の一般投票の受付もそろそろ締め切り間近(投票期間は2018年7月20日まで!)。「あ、うっかりしていた!」という方はこの機会にどうぞ。

川田将央氏

カプコン『バイオハザード7 レジデント イービル』プロデューサー

日本のクリエイターは限られたリソース中で知恵を絞ることで、多様な方向にクリエイティブが発揮できている

『バイオハザード7』の川田将央プロデューサーに聞く、「これからも日本人らしさを出していきたい」【日本ゲーム大賞特集】_01

――日本ゲーム大賞 2017の優秀賞の受賞は、予想されていました?

川田 そうですね。反響が大きかったので、「いただければいいな」とは思っていました。以前にも、日本ゲーム大賞の“優秀賞”を『バイオハザード5』でいただきましたが、開発スタッフの苦労も報われますし、応援していただいているファンの方にも喜んでいただけました。今回もよいタイトルに仕上がっていたので、開発スタッフやこのゲームを遊んで楽しんでもらったプレイヤーの皆さんのためにも、「取れるとありがたい」とは思っていました。

――実際、受賞されてみてのご感想は?

川田 優秀賞の10作に選ばれたわけですが、いずれもすごく個性的なタイトルばかりだと思いました。とくに昨年(2017年)は、かなり顔ぶれが個性的で、その中に選ばれるのは光栄でした。

――たしかに、昨年はけっこういろいろなタイトルがありましたね。

川田 横綱相撲をしていた、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』に始まり、『ポケットモンスター サン・ムーン』もあれば、『ペルソナ5』あり、『ファイナルファンタジーXV』もあり、『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』や『仁王』のような新規IPもあり……といった感じでしたものね。さらには『人喰いの大鷲トリコ』が発売されたということで、振り返ればかなり日本発のコンテンツが元気よかったと思いました。

『バイオハザード7』の川田将央プロデューサーに聞く、「これからも日本人らしさを出していきたい」【日本ゲーム大賞特集】_02
日本ゲーム大賞2017授賞式の模様から。

――実際のところ、『バイオハザード7』も含めて、海外でも日本のタイトルが注目を集めている印象がありますが、この現状をどのように分析されていますか?

川田 日本のスタジオが、海外のビッグタイトルのように潤沢な予算と開発環境でゲームを作る機会というのは、正直なところ失われてきているのかなとは思うんですよ。そのぶん、海外大手のスタジオは失敗を減らすためのリスクヘッジがしっかり行われており、結果的に一方向に尖ってきている気がしています。そんな中で、2017年の“優秀賞”の顔ぶれを見る限りでは、日本のクリエイターは海外作品に比べれば限られたリソース中で知恵を絞り、クリエイティビティを発揮した結果、多様なクリエイティブにつながったのかなと思いました。これは、データを分析したわけではなくて、まったく自分の印象でしかないのですが……。

――なるほど。そんな中で、『バイオハザード7』も、2016年にE3で発表されてから反響も大きくて、期待値も高かったと思うのですが、海外でも評価されていると実感されるのは、うれしいですよね?

川田 そうですね。国内も含めてグローバルで売っていかないといけないので、海外市場を主体とした作りかたや売りかたというのを前提とししつも、日本でも支持されるように模索してきました。『バイオハザード7』の場合は、もちろん情報解禁時の盛り上がりは狙ってはいましたが、あそこまで期待通りになるとは正直思ってはいませんでしたし、ものすごくうれしかったです。去年の『モンスターハンター:ワールド』や今年の『バイオハザードRE:2』や『デビル メイ クライ 5』に関しても、非常に盛り上がってましたが、各タイトルのファンの皆様の支持を得ているのが、いちカプコンスタッフとしても嬉しかったですね。

――ところで、日本とグローバルとでは、ゲームファンの嗜好の違いはどのあたりにあると分析されていますか?

川田 これも個人の印象なのですが、日本のファンの方はゲーム中に描かれていないところまでも補完して、ゲームプレイをしていただいており、海外のファンの方は、凄くリニア(直線的)にゲーム体験というのを受け取っていただいているという印象がありますね。

――ワールドワイドに展開するとなると、ゲーム作りにあたっては、海外向けにというのもある程度気にされると思うのですが、その一方で、日本のユーザーさんは敏感な方も多いですから、そのへんを気にされる方もいるかと思います。そのバランスを取るのは難しいですか?

川田 そうですね。ただ、最近は海外スタジオで作られたユニバーサルデザインのタイトルは、日本人にもすごく遊びやすく作ってあります。ひと昔前の、いわゆる“洋ゲー”と呼ばれていた時代に比べると、よくも悪くも“洋ゲー”らしいアクの強さはどんどんなくなってきていて、日本人プレイヤーにもすごく入り込みやすい世界観設定なり、映像体験というものができるようになっています。たとえば、先日のE3で公開された『The Last of Us Part II』のデモでは、戦闘が終わって移動する際に汚れた手をズボンで拭いたりする仕草が入ったりしていたのですが、ああいう細かい仕草が一連のアニメーションの中に自然に入っていて、かつアクション要素を阻害しないところなど、リニアに遊んでもらう大切さと表現力の連携がとてもうまくできていて凄いと思いました。

川田 そのあたりの説得力のあるゲームプレイを海外メーカーは丁寧に作っていることが多い印象を受けます。逆に日本では“ユニーク”なクリエイティブ力を発揮しているように思います。リアルではないけど非常に魅力的な人物造形で世界にアピールした『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』の2Bは、日本人じゃないと作れないと思わせる域に達したように思います。良し悪しというよりも、魅せかたの違いというものが出てきているのかなと、感じています。

――川田さんが世界に向けてゲームを作る場合、日本国内だけで展開するものと比べて、どんなところを注力しますか?

川田 やはりどれだけゲーム体験を楽しんでもらえるかに尽きる、と考えています。さまざまな手法でグローバルに向けてゲーム開発を行う必要があるのですが、どこまでいっても海外スタジオと同じものは作れないとも思っています。ただ日本人のよさというところも出てくるのではないかと感じています。

――それはつまり、日本人のよさを出しつつ、海外ゲームの真似事にならないように気を遣ったりするのでしょうか?

川田 そういう意味では、リアルな画作りをしていても、『モンスターハンター:ワールド』や『デビル メイ クライ5』にはカプコンらしさというか、日本らしさというものが出ていると思います。

――実際、海外で賞を取られて、その後日本でセールスに影響があったりします? あるいは、記念セールを出しやすくなったりだとか……。

川田 日本市場だけだと、たとえば日本ゲーム大賞で賞をいただくことで、「売上につなげていきましょう」というのは率先してやると思うのですが、海外の賞はなかなか日本市場に結びつかないのかなという気はします(笑)。ただ、もちろんコアなファンの方は、そういうところもきちんと見てくださっていますし、SNSで話題にしていただけていますね。

川田 いろいろな賞をいただけるというのは励みにもなりますし、メディアに露出するいい機会にもなります。「賞をもらいました」とチーム内に伝えるとスタッフは本当に喜んでくれます。日本ゲーム大賞はファンの投票に沿った賞のひとつなので、感激もひとしおですね。

――それはいい話ですね(笑)。賞を取ったりすると、テンションが上がって、そのタイトルのダウンロードコンテンツだったり、次回作などを作るときに力が入る原動力になったりするのかしら?

川田  いいゲームがどんどんリリースされていく中で、ユーザーダイレクトな日本ゲーム大賞には、私たちとしても足を向けて眠れないな……というところです(笑)。

――(笑)。今年も9月に日本ゲーム大賞の発表授賞式がありますが、カプコンさんが取るかもしれませんね。

川田  本当に、取れるといいですね!

――では最後に、日本のゲームユーザーに向けて、日本ゲーム大賞への期待や、今後の抱負なども含めてメッセージをお願いします。

川田  最近実感するのですが、家庭用ゲーム機というのは、作るほうも楽しいし、遊んでいただくとさらに遊び甲斐があるのかなと思っています。日本のゲームも世界で注目されていますし、気になるゲームをどんどんプレイしていただけたらうれしいです。