諸事情あって名前は出さないが、各国の代表チームが国の威信をかけて戦う世界大会がいままさに開催中。世界的スター選手や、日本を背負って戦う代表選手たちのスーパープレイを見ていると……遊びたくなるのが、あのゲーム。 そう、サッカーゲームの古典にしてトップランナーである『ウイニングイレブン』(以下、『ウイイレ』)!

 本稿では、最新作『ウイニングイレブン 2019』の発売を2018年8月30日に控えてまさに開発まっただ中のところ、開発者に直撃インタビュー。サッカー大会に関する思い出、シリーズの進化の過程や苦労した点、現状のサッカーシーンと開発との関係などを伺った。

【公式】ウイニングイレブン 2019 / E3トレーラー

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益田 圭氏(ますだ けい)

KONAMI 『ウイニングイレブン』シリーズ アシスタントプロデューサー。
『ウイニングイレブン5』からシリーズの開発に参加。当初はデザイナーとして、おもにモーションデザインや、ゴールシーン・ファールシーンの演出などを中心に担当した。その後リードデザイナーやディレクション業務を経て、『ウイニングイレブン 2013』以降は、プロデューサーとしてゲーム全体の企画進行に携わっている。

――いままさに世界大会が開催中で、熱戦が展開されています。益田さんは長く『ウイイレ』シリーズを作ってこられていますが、サッカー大会とリンクした思い出や、印象に残っているエピソードなどはありますか?
益田とくに思い出深いのは、日韓が舞台だった2002年の大会でしょうか。時差がなく、試合の放送も良い時間帯が多かったので、業務中のスタッフたちもテレビを設置したMTGルームに集まり、みんなで日本代表を応援して盛り上がったのがすごく印象に残っています。観戦後は、『ウイイレ』でシミュレーション対戦をしたりしましたね(笑)。
――そうしたサッカー大会の開催は、実際にゲームの開発事情と大きく関わってくるものなのでしょうか?
益田かつては通常のナンバリングタイトルとは別に、サッカー日本代表を応援するタイトルを発売したこともありましたね。ふだん関心のないお客さまも触れてくれましたし、やはりゲーム自体への関心も高まるのかなと思います。国内市場の話に限れば、サッカー日本代表が勝ち進むほど、商品を手に取っていただけるお客さまが増えたりもしますから、無視はできないし、大事な要素だとは思っていますね。
――大会に合わせて、発売時期を調整したりすることもあるのですか?
益田今年に関して言えば、そうした大会よりも、海外クラブのシーズンの開幕に合わせて、とにかく早いタイミングでファンに新しいシーズンを遊んでもらうことを最優先しました。年々制作の努力を重ねて新タイトルの発売を早めていまして、今年(2018年)の場合は8月30日に最新作を発売予定です。
――今回は、日本代表やスペイン代表など、大会直前に監督が交代するといったハプニングもありました。監督が代わったり選手が移籍したりするとチームの事情も変わってきますが、ゲームへの反映という点ではいかがでしょう?
益田いまは、オンラインによる新しいサービスとして、しっかりフォローできるようになっています。実際に実施している部分でいいいますと、毎週末の試合のスタメンやフォーメーションを配信していて、各チームの最新情報が、それこそ監督交代なども含めてしっかり反映されるようになっているんです。ダービーマッチがあれば、それを題材としたイベントをゲーム上でちゃんと遊べたりもします。そうした最新情報とのリンクが、新しいサービスとして提供できています。

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――益田さんはPSからPS4まで多くのプラットフォームでの開発を経験されてきましたが、その時代時代で、どんなことを目指して『ウイイレ』を作ってきたのでしょうか?
益田アクションをメインとしたサッカーゲームとして、いつも“個性を中心とした駆け引きのおもしろさ”を目指してきました。そここそが我々の強みでもありますし、2014年には“The Pitch Is Ours”=「ピッチは我々のものだ!」という標語も作りました。これは「ピッチの中では絶対負けない、おもしろいものを作るぞ!」という意味です。
――ハードの進化とともに、制作面でも変化してきた部分は多いのでしょうね。
益田プラットフォームが移るたびに制作人数も増えましたし、ゲームエンジンを切り換えたりもしたので、そういった移行期間ではすごく苦労しました。昔はたとえば選手モデルにしても、デザイナー個人の力量で選手の顔を似せたり、ユニフォームのテクスチャに影を入れて立体的に見せたりと、職人芸的な作業をしていたんですね。でもいまは、実際の選手を3Dスキャンしてモデルをおこしたり、ユニフォームならライティングで現実に即した立体感、色味をつけるなど、物理的にも正しい手法を使うのが主流で、やりかたもどんどん変わってきています。苦労したぶん作業が効率化でき、以前よりも多くのデータを量産できる体制になっています。
――遊ぶ側としては、去年あれだけできたんなら、今年はもっとよくなるだろう、と期待してしまいますが……。
益田表現が向上していく中、お客さまの求める水準がどんどん高くなっていくのは当然ですよね。昔は見た目からくる情報量が少なかったぶん、頭の中で補完して納得していた部分が、いまはどんどん見えてくるようになっていますので、表現をしっかりしないといけません。お客さまも納得できるようサッカーをリアルに再現していくということは、シリーズを長く作りながら苦労してきた部分です。
――ほぼ毎年リリースすることを期待されるというのも、たいへんなのでは?
益田実際のサッカーでも、選手データや、チーム自体の昇格・降格が毎年切り替わります。やはりお客さまには、「毎年新しい状態で新しいシーズンのゲームを楽しみたい!」という思いがありますから。そこに向けては、しっかり発信していかないといけませんし、“1年1タイトル”というポリシーはずっと守り続けていきたいですね。

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――遊んでいて、「いまの攻撃はバルセロナっぽかったな!」などと言って盛り上がれるのも、『ウイイレ』の大きな魅力ですね。
益田そのあたりは、とくに意識して作ってきた部分です。個性化という面では、選手個人個人の個性をパラメータで表現しているのですが、それをさらに広げて、戦術も含めてチームの個性というものも考えています。だからFCバルセロナはFCバルセロナらしい攻撃をしてくるし、リヴァプールFCならリヴァプールFCらしい攻撃をしてくるわけです。以前はどこを相手にしようがいっしょでしたが、そのチームの違いも感じられるように意識していますね。
――“○○らしさ”とひと口に言っても、時代によって移り変わりもありますし、再現するのは簡単ではないのでは?
益田そうですね。サッカーにはトレンドがあるので、最近の作品では、最新の戦術や各チームの特徴を、“コンセプトアレンジ”という仕様に落とし込んで搭載しています。たとえば“ゲーゲンプレス”(※)や“ティキ・タカ”(※)などですね。お客さまに1年ごとに新しい驚きや楽しみを提供するためにも、そうしたトレンドはしっかりチェックして、現状のサッカー事情にリンクした内容を提供していかなければいけないと思っています。

※ゲーゲンプレス……ボールを奪われた瞬間に即座にプレスをかけ、相手のパスコースを限定し、前線の高い位置でボールを奪い返してカウンターを狙う戦術。
※ティキ・タカ……選手が動いて複数のパスコースを生み出しながら、タッチ数が少ない素早いショートパスでボールを運んでいく戦術。

――サッカービジネスはどんどん大きくなる一方ですが、それは『ウイイレ』の開発にも影響はあるのでしょうか? とくにライセンス問題などはより難しいものになっているのでは?
益田確かにライセンシーはいろいろと難しいのですが、お客さまがいちばん期待している部分でもあるので、我々もつねに最大限の努力をしてきています。とくにいまはオンライン環境のおかげで、選手の移籍や監督交代なども、仕組みとしてはすぐに対応ができるんです。ただライセンス上の問題もあり、肖像権なども含めて「誰々が移籍したから、いままで使えていたものが突然使えなくなっちゃう!」といったこともけっこうあるんですよ。そうした問題点をクリアーするのはたいへんですね。新選手が入ってきたときに、そのデータを新たに入れ込むのも、かなり大きな苦労をともないます。
――昔に比べると、権利関係で、リーグ全体で取れるものやチーム個別で取れるものなど、何か状況は変わってきましたか?
益田以前に比べればいろいろな制約が増えたということは正直あります。ですので、いままで入っていた内容が、そのままつぎの年にキープできるかというと、そうとは限りません。それでも、弊社としてはもちろん現状で満足しているわけではありませんし、ファンの皆さんが期待されているライセンスをできるだけ獲得、維持する努力を今後も続けていきます。
――権利関係はどんどん複雑になっているんですね……。昔のサッカーゲームは、ニセ選手名が満載でも楽しく遊べていましたが、いまはそうもいきませんしね。
益田昔はそれこそ、選手全員がフェイクネームなゲームで遊んでいた経験がある方も多いと思います(笑)。それを楽しんでいただける時代でもありました。でもいまのニーズを考えると、やはり「本物で遊びたい」という欲求が当たり前ですからね。

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――最新作となる『ウイイレ2019』が2018年8月30日に発売となりますが、今回はどのようなことを目指し、目標としているかをお聞きかせください。
益田先ほど週ごとに実際のフォーメーションやスタメンがオンラインで反映されるというお話をしましたが、多くのお客さまに遊んでいただいているmyClubにさらなる新要素が加わったことが大きな変化です。週ごとに各リーグで活躍した選手を我々がチョイスし、かつその試合で印象的なシーンの写真をカードにして、新しい選手として配信します。通常の選手とは意匠を変えた形で配信することで、コレクション的な要素も含めたいと思っています。
――カード集めは楽しそうですね! コレクション的な楽しみのほかに、プレイングの面でも意味はあるのでしょうか?
益田もちろん実際にゲームで使うときでも、たとえばリーグ戦でループシュートを決めていたなら新スキルであるコントロールループのスキルが付いたり、決定力のパラメータが高くなっていたりと、通常の選手とはちょっと違う、活躍に応じたパラメータがついた選手になります。さらにこれはまだ企画段階ですが、よりサッカーの最新事情にリンクしていくため、ダービーマッチや大きな世界大会のタイミングで、それにちなんだ選手たちを配信していけたらと思います。
――そうなると、開発サイドとしては、「とにかくヒーローが出てくれないと!」という部分はありますよね。
益田そういったヒーロー選手は、「あのときのあの選手が再現された!」という要素として、お客さまのプレー意欲にもつながると思います。ですので、ぜひとも新たなスター選手に出てきてほしいし、まさにいま(2018年6月末)開催されている世界大会にも大いに注目しています(笑)。
――現在、開発の進行度はいかがでしょうか?
益田、E3 2018では初出しのプレイアブルを展開することもできました。2018年8月30日の発売に向けて、ほぼ順調に制作が進んでいますよ。

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――『ウイイレ』シリーズは、eスポーツ対応タイトルという意味でも注目を集めています。その現状についての意識はいかがでしょうか?
益田eスポーツ関連のゲームということで、やはり見る人が増えるでしょうし、もちろんゲームを知らない人や触ったことがない人が見る機会もあるでしょう。そこでまずほかのゲームタイトルとひとつ違うことは、“土台がサッカー”というところですね。勝敗の行方や楽しむポイントが、現実のサッカーとズレすぎてはいけません。
――ああ、なるほど。画面のリアルさもあって、見る側の楽しみかたは、現実のサッカーの試合を見る感覚に近くなりそうですね。
益田ですので、サッカーを知っている人が思う「こんなポイントで駆け引きが生まれて勝負が決まる」というところとゲーム内容がズレていたら、楽しめなくなってしまいます。「これはサッカーじゃないじゃん!」と思われてしまわないか、つねに一般のサッカーファンも楽しめるという部分を意識して作っている感じですね。
――ゲーム上のバランスという部分でぜひお聞きしたかったのですが、先日見た大会(※2018年5月27日に開催された第18回アジア競技大会 ジャカルタ・パレンバン eスポーツ 日本代表選手選考会)で、ベスト4のプレイヤー全員がアーセナルを選択して、戦術・フォーメーション・活躍選手がどれも似通ったものだったケースがありました。あくまで勝利にこだわるなら、システム的にしかたがない部分だとは思うのですが、真剣勝負のeスポーツならではのこうした課題を、どうお考えでしょうか?
関連記事:第18回アジア競技大会に挑む、eスポーツ日本代表が決定!

益田まさにそこは、これから向き合っていかなければいけない課題のひとつです。ふだんの能力値のままだと、やはり強力なチームに集中してしまうという問題は、昔からありました。そこでひとつの施策として、“能力平均化”という仕組みを導入しています(※)。

※『ウイニングイレブン 2018』以降、大会用モードの“PESリーグ”では、選手の能力が平均化される機能を搭載。クラブの総合値が対等な状態で対戦することができる。

――それでも使われるチームに偏りが出るということは、完全に均等というわけではない……?
益田やはり、サッカーゲームとしては“選手の個性”を尊重していて、たとえば「メッシはメッシらしい」といった部分を残したいんです。「誰を使っても同じ」サッカーゲームが観ていて、遊んでいておもしろいかと言われると、現時点では違うと考えているので。ですが、チーム全体として平均化していても、選手の個性を残そうとすると、やはりチームごとの特色が出てきて、どこかでバランスが変わってくるんですね。その結果が、さきほど言われた“誰もが選ぶアーセナル”となってしまったわけです。そこに関しては、今後の大きな課題として引き続き取り組んでいきます。
――eスポーツは、今後オリンピックとも関わって、より注目度も高まっていきそうです。eスポーツの未来に関しては、どうお考えですか?
益田新しいお客様や若い世代がゲームに触ってくれる、いい機会になると思っていますし、可能性にはとても期待しています。我々発信する側としても、プロゲーマーの選手をみんなで応援して盛り上がれるように、運営や演出を工夫する必要がありますね。今後はそういった要素も、ゲーム会社の新しい仕事になってくるのかな、というイメージを持っています。
――では最後になりますが、『ウイイレ』シリーズ含め、これからのサッカーゲームはどのように進化し、どのようなものが求められていくとお考えでしょうか?
益田ひと言で語るのは難しいのですが、やはり基本的に“サッカーで楽しめることがゲーム上で再現されていて、同じように楽しめること”がすべてだと思いますし、それはずっと意識して作ってきました。とはいえ、「これで完成、やりきった!」と思えたことは1回もありませんし、やりたいこと、やらなければいけないことは毎作山積みです。ただ、サッカーがきちんとゲームになっていれば、ゲームを遊んだことがない人でも、ルールを教えなくても、ボタン操作だけ覚えれば誰でもすぐに楽しめるのが、サッカーゲームのすばらしいところなんですよね。これからも、そんなゲームを目指していきたいですね。

サッカー界隈が盛り上がっているので『ウイニングイレブン』の話を聞いてきました!_03

[2018年7月3日午後2時30分]一部ソフトの発売日が誤って記載されておりましたが、正しくは8月30日発売となります。関係者各位にはお詫びして訂正します。