『ICEY』は美少女のアンドロイド“ICEY(アイシー)”を操って、立ちはだかる敵マシンを倒しながら“ユダ”に支配された世界を救うのが目的の横スクロールアクションゲーム。PCやスマートフォンなどではすでに配信済みだったが、ついにNintendo Switchでも2018年5月31日から配信開始となった。

 本作最大の特徴は、何と言ってもメタ視点のナレーション。プレイヤーはゲームの中でゲームをプレイしている設定になっており、ナレーターはときに(というかプレイの仕方によっては頻繁に)プレイヤー自身に語りかけてくるのだが、これがもうネタ満載でじつにおもしろい。ゲーム自体は比較的硬派なアクションに仕上げているのに、ナレーションは想像もしていない方向から、これでもかとネタをブチ込んでくるという、そのギャップが最高なのだ。

 そんなわけで今回の記事では、メタ的なネタの素晴らしさを含めた『ICEY』の魅力的なポイントを語らせていただきたい。

メタネタこそ本作の醍醐味

 Nintendo Switch版『ICEY』では、声優の下野紘さんがナレーションを担当してくれている。どうやら他機種版は日本語音声でしゃべっていなかったらしく、Switch版の配信で初めて実装された模様。アニメでおなじみのあの声でしゃべり倒してくれるので、下野紘ファンならもうこの時点で即買いしても問題ないだろう。ファンでない筆者から見てもベストな配役だと思うし、もはやこの声なしでは『ICEY』は成り立たないかもしれない、と思うくらいに気に入っている。

 では、本作最大の見どころでもあるメタ視点のナレーションがどういったものなのか簡単に説明しておこう。

 『ICEY』では、新たな場面に移るとナレーターが状況を解説したり、進むべきルートを提示してくれたりする。たとえば分岐点のある道では「ICEYはまず街で探索することに決め、矢印に従って進んだ」のように、ある程度行動を決め付けたナレーションが入る。指示の通り進めば何事もなく進展するのだが、もし「進んだって何だよ、俺はまだどうするか決めてないよ!」と思うのであれば、指示を無視して進んでもいい。いやむしろ、無視して進んだときこそが本作の本領発揮と言っても過言ではない。

 するとナレーションは「ICEYは矢印の方向に進もとうせず、あらぬ方向へ向かって進んだ」といった具合に言い直してくるのだ。さらに進むと「ICEYはまだ気づいていない。街の中心にいる敵“トール”を倒さないとゲートが開かないことに……」のように、ナレーターはどんどん引き止めに掛かってきたりして笑える。「行くなよ、絶対行くなよ!」というフリが隠し部屋へのヒントになっていたりすることも相まって、遊んでいるとすぐに指示に反した行動を取りたくなってくる。

スタイリッシュアクション『ICEY』インプレッション、これはもはや下野紘を困らせるゲーム!? メタ視点ナレーションがおもしろすぎる_01
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 ほかには、ゲーム開始時に任意のボタンを押してICEYを起動させるのだが、無視して起動させないでいると「ユダを倒す使命はどうしたのだろうか」とか、「起きてくださーい!(怒)」のように徐々にナレーションのツッコミが過激にエスカレートしていったりもする。感覚的には“指示に背いて下野紘を狼狽えさせる”ゲームなんじゃないかとさえ錯覚してしまうほどだった(笑)。だって、ナレーターが怒り出したり、呆れて急に歌いだしたり、ゲーム作りは難しいと力説しだしたりするゲームはなかなかないだろうからね。

 もちろん、ナレーターのメタ的なリアクションだけでなくて、『ICEY』開発の歴史が見られたり、作りかけのステージに迷い込んじゃったり、ほかのゲームの宣伝が始まったり、最終的にはほかのゲームが始まっちゃったりと、おもしろネタのオンパレード。よくもまあ、これだけのバリエーションのネタを仕込んだなと、そのボリュームに感心しきり。ネタバレになるのであまり多くは語れない(語ってる)のだが、あの手この手で、手を変え品を変え楽しませてくれるのは本当にすごいと思う。

 しかも、そうやっておバカなやり取りを楽しんでいくうちに、自分自身とナレーターが掛け替えのない相棒のような間柄にさえ思えてくるから不思議。たとえるなら、昨日たまたま見た『ダイ・ハード』のジョン・マクレーンとアル・パウエル巡査部長の関係のような感じかも……? もしかしたら『ICEY』は良質のバディものと言ってもいいのかもしれない。

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究極的にはダッシュで空も飛べる

 ナレーションのメタ発言などのネタが見どころなのは間違いないが、本作は横スクロールアクションゲームとしてもしっかりした魅力を持っている。

 ICEYはYボタンが弱攻撃、Xボタンが強攻撃、Bボタンがジャンプに設定されていて、ポンポンと適当に押していくことだけでもスタイリッシュな連続攻撃をくり出すことができる。加えて、スティックやLボタンと組み合わせることでも多彩な技を発動可能となっている。浮かせ技からの空中コンボやHPを消費しての強力な攻撃などもあり、コンビネーションのバリエーションは無数にあると言っていい。

 これらの技を組み合わせていくだけでも気持ちよくバトルを楽しめるのだが、敵にダメージを与えて怯ませたときだけ発動できる特殊技があり、この技の存在がバトルの展開に変化を与えるいいアクセントになっている。特殊技の発動は、チャンスがきたときに敵に大きく“A”と表示されるので近づいてボタン押すだけでオーケー。強力な攻撃を繰り出すとともに体力も回復してくれるため実用性も非常に高い。さらに攻撃後は敵から結晶体が飛び出し、これをYボタンを長押しして吸収することでエネルギー波を放つ全体攻撃へと繋がっていく。うまくすればエネルギー波で再び敵が怯み、さらに攻撃を叩き込めるという寸法だ。この留まることを知らない怒涛の攻撃ラッシュが本当に気持ちいい。また、ストーリーを進めて分身攻撃を覚えればLボタンでも攻撃が可能になり、爽快感もますますヒートアップしていく。

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 Rボタンはダッシュに割り当られている。残像を残すほどのスピードなので当然ながら敵の攻撃を回避することも可能。それだけでなく、敵の攻撃に合わせて使えばカウンターとなってわずかなあいだだけスローモーションで展開。このときにAボタンを押すと、カウンター技が発動して大ダメージを与えられるのだ。

 さらに言うとこのダッシュは、スティックを入れた方向へ高速移動する。上方向にスティックを入れておけばジャンプの代わりにもなり、落下死を防ぐなんてことも可能。というか、途中からほぼ連続してくり出せるようになるため、本来のジャンプをまるで使わなくなるくらい使い勝手がいい。便利過ぎて「いいの?」と思ってしまうほどだ。もはや空中も自在に移動可能で、それを見越したマップ上のギミックや隠し部屋なんかも大量にある。

 2段ジャンプの意味は……などと理屈っぽいことを考えて最初はちょっと戸惑ってしまったが、気持ちよくICEYを操作できるのだから気にしてはいけない。

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もちろん成長要素もアリ

 マップ上に点在するセーブポイントの端末にアクセスし、ICEYをパワーアップさせることも可能。敵の撃破や宝箱から入手するお金を使って、新たな技を覚えさせたり、技の威力を強化させたりできる。17種類の攻撃技に加え、装甲やバリア、リカバリー機能といった能力があるので、マップ攻略を進めつつ並行して能力も必ず強化しておきたい。

 なぜかと言えば、本作ではザコ敵が大量に出現する場面が多々あるからだ。しかも、序盤でのボスが道中のザコとして登場するだけでなく、それがわんさか出てくるのだから相当ヤバイ。強化を怠っているとすぐにジリ貧になり、バトルが全然気持ちよくなくなってしまう恐れがあるので注意されたし。強化すればキツかったザコ戦が思いの外スムーズに突破できるようになるので、成長も実感できること請け合い。

 また、本作は基本的にスコアを競うゲームではないのだが、とあるエリアにおいてはスコアアタック的な要素も存在。イベントとしてボスラッシュみたいなバトルも用意されているので、これらをクリアーするためにもぜひともICEYをフルパワーアップしてみてほしいところだ。

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さまざまな結末を見る楽しみ

 本作がマルチエンディングのゲームと言っていいのかはわからないが、バッドエンド的なルートはいくつもあり、それらを回収していくのもなかなか楽しい。メタ的なネタのバリエーションのひとつとして存在するわけだが、結末と言って差し支えない展開だと思うので具体例は出しにくいのだが、まあ……冒頭で例に出したICEYが起動しないまま終わったりだとか、誰かが死んでしまったりして続行不能になったりだとか、そういった類の内容だ。「いつものおふざけかと思ったら、何だかシリアスになってきた!」的な、ゾクゾクする驚きがあるのもおもしろい。

 ちなみにバッドエンドと言ってもゲームがそこで終わるわけではなく、強制的にメニュー画面に戻されたとしても、すぐにエリアを選択して再開できるので安心していい。なお、筆者はエンデイングまで見ているが、どうやらトゥルーエンド的なものも存在するらしいと風の便りに聞いた。まだ行っていないエリアもありそうなので、もう一度マップをくまなく探索してみたい。

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声の力は偉大

 やはり『ICEY』はメタ視点のナレーションがおもしろい。それを声優、下野紘さんの吹き替えで楽しめるのだから、この上ないローカライズなんじゃないだろうか。字幕で見るよりも楽しさは格段にアップしていると思う。

 こういったネタは好き嫌いがわかれるかもしれないが、マンガなどで見られる登場キャラが読者に語りかけるようなギャグが問題ないならオールオッケー。筆者の場合はむしろ大好物なので、すんなりというか何の疑問も浮かばずに受け入れて堪能することができた。メタネタに拒否反応がない人は本作を体験してみてはいかがだろうか。ここまでネタをブチ込んでいる作品は数少ないと思うので、ぜひ。