ドワンゴの“ニコニコ書籍”とブックウォーカーの“BOOK☆WALKER”は、上海アリス幻樂団が制作する『東方Project』シリーズの二次創作作品の公認プラットフォームとして、“ニコニコ超会議2018”開催同日となる2018年4月28日0時より、電子書籍25作品を配信する。

 これにより、二次創作作品の作者は通常の一次創作作品と同様に各種ブラウザから申請することで、個別に上海アリス幻樂団に許諾を得る必要なく作品を電子書籍で頒布できるほか、『東方Project』ファンも二次創作作品を簡単に購入できるようになる。

 この取り組みに関して、4月24日にニコニコ生放送“【超会議特番】超ZUNビール試飲&命名会”にて発表されたが、その直前に『東方Project』の生みの親であるZUN氏、そしてドワンゴの伴 龍一郎氏にお話しを伺うことができたので、その模様をお届けしよう。

※【超会議特番】超ZUNビール試飲&命名会~GWの東方Projectはこれでバッチリ!!~

『東方Project』の二次創作作品が電子書籍として“ニコニコ書籍”と“BOOK☆WALKER”より流通、ことの経緯をZUN氏に聞く_02

ゲームと同じように電子書籍もプラットフォームのひとつとして

『東方Project』の二次創作作品が電子書籍として“ニコニコ書籍”と“BOOK☆WALKER”より流通、ことの経緯をZUN氏に聞く_01
ドワンゴの伴氏(左)とZUN氏(右)。

――まず今回、電子書籍で『東方Project』の二次創作物の流通が実現することになりましたが、その経緯を教えてください。

 もともと同人誌として、紙媒体ではZUNさんからOKが出ていて、皆さんが自由に二次創作作品を出版されていましたが、電子書籍に関しては、明示的に許諾していたことはなかったんですよね?

ZUN ガイドラインには、“公式の作品が出ている流通で”という話だったんです。

 それで言うと、ZUNさん原案のコミックなどは電子書籍として流通しているんですよね。今回の経緯としては、2~3年ぐらい前から、ZUNさんに(二次創作物は)「ダメなの? ダメなの?」ってずっと聞いていたんですよ。

ZUN ちょっと慎重になっているところがありまして。たとえば、紙でも二次創作の同人誌を許可しているといっても、ふつうの本屋に並んでいるわけではないので……。電子書籍は普通の本屋と変わらないわけですから……。“ここはどうなのかな?”と慎重になっていたわけです。

 紙での二次創作物の出版も、一般流通ではなく、同人流通ならOKという話だったんですよね。今回、“ニコニコ書籍”と“BOOK☆WALKER”って、どちらも同人誌の取り扱いはあるんですけれども、もちろんふつうに商業誌も売っているので……。

ZUN どんな同人誌を扱われているんですか?

 それは一次創作物ですね。

ZUN オリジナルなんですね。同人誌だけど。

――伴さんのほうからはそういう形でZUNさんにお話は前からされていて、それが具体的になったのはどうしてなんでしょうか? 何かきっかけがあったんでしょうか?

ZUN それは伴さんががんばって……(笑)。

 明示的な何かがあったわけじゃないと思うんですよ。ただ、「そろそろじゃない?」、「そうだね」という感じですね。

ZUN どちらかというと周りの雰囲気ですよね。“そんなに電子書籍で出ても悪くなさそうな雰囲気なのかな”と。同人誌自体を電子書籍で読むのもふつうになってきたのかなと。違和感もないのかなと。

――今回の取り扱い開始にあたって、『東方Project』の二次創作作品に関して“ニコニコ書籍”と“BOOK☆WALKER”の方で仕切る、という形ではないということですよね? あくまでプラットフォームとして取り扱うと。

 そうです。ですので“ニコニコ書籍”と“BOOK☆WALKER”でいっしょにという形でやります。“BOOK☆WALKER”のほうがシステムがよくできているんです。クリエイターに還元する部分とか、仕組みがちゃんとしているので。ですので、“ニコニコ書籍”と“BOOK☆WALKER”が独占するという意識は別段なくて……。ほかの電子書籍プラットフォーマーの方が取り扱いたいということであれば、たぶんZUNさんに話をすれば……言ってほしくないけれど(笑)。

ZUN 1ヵ所こういうことをいうと、ほかもやらなきゃいけなくなるから(笑)。

――今回、わかりやすい形でひとつ流通プラットフォームがつながったと。

 せっかくなんで、健全なというか、美しい二次創作……原作者が「いいよ」って言っていて、ちゃんとお金の流れとか、「こんなのが売れていますよ」って話もできたりね。そういうのが美しいかなと思っていて。僕が作家さんを口説くときに、ほかの作品でも営業できるかもしれませんしね。

ZUN そんなに儲からないんじゃないかな(笑)。

――『東方Project』の二次創作物ってものすごい数があると思うんですが、そういう意味ではいろんなものを想定されてこの話が実現したんじゃないかと思うのですか?

 それがですね、想定していないんですね(笑)。

ZUN これが発表されてから、作家さんたちがみなさん、やるかやらないかという話ですね。

 作家さんが皆さんこの話に乗ってくるかどうかわからないので。もちろんそこそこインパクトはあるだろうなと思うんです。ただ、「じゃあ、いくら売り上げが立つんで」という話はしてないですね。

ZUN けっこう実験的なところも多いです。でも、電子書籍なんで、在庫のリスクもないですし、試してみてもいいと思うんですよね。

 そこがいいと思うんですよね。いま、紙の印刷だと最小ロットが何部からかわからないんですが……電子書籍なら1部しか売れなくても在庫は発生しないので。

――お店に持ち込んだり営業したりといったあたりは軽減されるメリットがありますね。

 即売会に申し込まなくても出版できますからね。

ZUN ただまあ、電子書籍で出たからといっても何もしないと気付いてもらえないでしょうから、ネットで営業はしなきゃいけないでしょうけれど。
 日本の法律では著作権があって、二次創作っていうのは割とグレーな話なのですが、ここに関してはちょっと“挑戦していく”、“公認のパロディを許す”というのを試してみたいなと思うんです。いままでもなんとなく、許すといってもほかの同人と同じスタイルで……というやりかただったんですけれども、電子書籍になるとちょっと変わってくるのかなと。ゲームでも“SteamはOK”という形にしているので、今回はその漫画版という形ですよね。ほかのプラットフォームといっしょでもいいのかなと。

――そのあたりの感覚は今回の電子書籍でも変わらないと。

 ファミ通.com寄りの話になりましたね(笑)。

――ありがとうございます(笑)。

ZUN 実際、ゲームの方が先だったので。流通を変えていったのは。

――今回、この取り組みを記念しての対象書籍に対するコイン還元25%のキャンペーン(BOOK☆WALKER)や、“ニコニコ超会議2018”の物販コーナーでのキービジュアルのクリアファイルプレゼントなども行われるんですよね?

ZUN 電子書籍なのにクリアファイルプレゼントってどういうことなんだって話もありますが(笑)。

 そうなんです(笑)。“ニコニコ超会議2018”があるので、リアルでもちょっとなにかやりたいなと思って。

――クリアファイルがもらえるのはお客さんもうれしいんじゃないかと思うんですよね。

 僕も欲しいなって思います。

――電子書籍を買ったらリアルにもらえるのはいいんじゃないかなと。そこにプラスアルファがあると。

 電子書籍を買われる方がリアルイベントに行かないわけじゃないと思うので。

――そうですね。変な質問かもしれませんが、今回のこのタイミングでの発表は、“ニコニコ超会議2018”があったからなんでしょうか?

 何となく話がついたのが、今年の年明けぐらいだったんです。ですので、諸々準備して、この時期ぐらいが現実的なんじゃないかなというので、“ニコニコ超会議2018”がちょうどよかった感じですかね。でも、プロモーションの観点からは、「“ニコニコ超会議2018”で発表すると埋もれるから、早めに言ったほうがいいよ」っていわれて、「ああなるほど!」っていうことで、4日前の発表になりました(笑)。

ZUN 今回、読者の方もそうですが、アピールすべきは二次創作の作家さんもそうですよね?

 もちろん。作家さんには、“例大祭”でも机の上にチラシを……(笑)。

申し込みの仕組みはシンプル。ZUN氏「気軽に始めてみたらいいのでは」

『東方Project』の二次創作作品が電子書籍として“ニコニコ書籍”と“BOOK☆WALKER”より流通、ことの経緯をZUN氏に聞く_03

――これからどれだけ二次創作作家の方々が参加してくれるのか、というあたりがカギになりそうですね。

 その中から、さらなる作家さんが出てきてくれるといいですね。

――広がってくれるといいですね。紙の世界とはまた別に、「電子書籍でやろう」という作家さんが出てくるとおもしろいですね。

ZUN 最初のうちは両方出すんじゃないですかね?

 多分、過去作がいっぱい出てくると思うんですよね。古い同人誌って、いろんな事情で増刷しにくいと思うんですよね。

ZUN 「過去のものを読みたい」ってリクエストにも一部から応えられますしね。

 そっちのニーズがまず強いんじゃないかと思いますね。

――現状だと在庫がはけてしまうと、後から欲しくなってもなかなか買えないですよね。そういったニーズには向いているのかもしれません。

 倉庫もいりませんし。

ZUN いっぱいリクエストが来て刷ってみたら売れなかった、というリスクは回避できますしね。

――そういった意味でも、今回の取り組みでは作家さんにもこの仕組みを使っていただきたいというところですかね?

 そうですね。もちろん、読みたい、という方にも。4月28日の段階で25冊を集めたのですが、そこが本当にスタートなので、どんどん広げていきたいですね。作家さんも、ブラウザで申し込みをしていただくだけで、あとはデータを送付していただけばオーケーという流れになっているので。契約書とか面倒な手続きは一切なく、誰でもやれるという形にしています。

――そのあたりはかなりシンプルな形になっているんですね。

 e-pubだとか電子書籍用のデータを作れる方は作っていただきたいんですけれども、“BOOK☆WALKER”では、いまなら、紙の本を郵送すると電子書籍化してくれるサービスもやっています。そういう仕組みもあるので、電子書籍に関してわからないという作家さんでも大丈夫です。

ZUN 多くの作家さんはデジタルで描いていそうですしね。

 そうですね。ですので、印刷屋さんに入稿しているデータをお渡しいただければ、電子書籍化はしやすいと思うんです。

――最後に、作家さんにアピールなどありましたらぜひ。

ZUN 電子書籍にすることにはそれほどリスクはなさそうですし。人気が出て広まったらいろいろな出版社から声がかかるかもしれませんし。気軽に始めてみたらいいのではないかと思っています。

 リスクが少ないのがポイントですよね。

――ちなみに、電子書籍の値付けなどはどうなっているんですか?

 作家さんが自由に付けられます。

――なるほど。お話ありがとうございました。

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“ニコニコ超会議2018”と併催される『東方Project』関連ブースで販売されるZUN氏とひろゆき氏がプロデュースするビールのサンプル。ZUN氏はコーヒー(右)、ひろゆき氏はほうじ茶とはっさくを使ったもの(左)。

以下は、メーカーリリースを引用して掲載

電子書籍ストア「ニコニコ書籍」と「BOOK☆WALKER」
『東方Project』シリーズ初の二次創作公認流通プラットフォームとして電子書籍4/28配信開始

 株式会社ドワンゴ(本社:東京都中央区、代表取締役社長:荒木隆司)が運営する「ニコニコ書籍」と株式会社ブックウォーカー(本社:東京都千代田区 代表取締役社長:安本洋一)が運営する「BOOK☆WALKER」は、上海アリス幻樂団が制作する『東方Project』シリーズ(以下「東方Project」)の二次創作作品の公認流通プラットフォームとして、「ニコニコ超会議2018」開催同日2018年4月28日(土) 午前0時より、第一弾として25作品の電子書籍の配信を開始します。

 これまでも「ニコニコ書籍」と「BOOK☆WALKER」は同人誌などを作者が自由に配信できるプラットフォームとして様々な作品を扱ってきましたが、二次創作作品については著作権の処理が困難なため配信していませんでした。

 今回の取り組みでは、上海アリス幻樂団から『東方Project』の二次創作作品に関して初めて、「ニコニコ書籍」と「BOOK☆WALKER」が電子書籍プラットフォームとして包括的に流通させる許諾を得ました。これにより、二次創作作品の作者は通常の一次創作作品と同様に各種ブラウザから申請することで、個別に上海アリス幻樂団に許諾を得る必要無く作品を電子書籍で頒布できるようになりました。また、『東方Project』ファンの方々も二次創作作品を簡単に購入できるようになりました。

 「BOOK☆WALKER」では、本取り組みを記念して2018年4月28日(土)0時から5月6日(日)23時59分までに、対象書籍に対してコイン還元25%のキャンペーンを開催します。

 なお、「ニコニコ超会議2018」では、併催イベントとして『東方Project』関連ブースを展開しています。『東方Project』の生みの親・ZUN氏と、「2ちゃんねる」の生みの親・ひろゆき氏がプロデュースしたビールを販売する「超ZUNビール」や、二次創作音楽サークルによる「超東方LIVEステージ2018」、『東方Project』原作の試遊や立体工作ワークショップなどを行う「博麗神社例大祭 超濃縮版」も併催します。

 「超東方LIVEステージ2018」の物販コーナーでは本取り組みを記念して、購入者に本取り組みのキービジュアル(イラスト:大沖)のクリアファイルをプレゼントします。

<ZUN氏のコメント>
電子書籍で同人誌を売るのも一般的になってきたのでそろそろいいんじゃないかなと。
また、ドワンゴさんからは「無断転載で広告収入を得るサービスも目立ってきたため、正規流通を整備することで抑止に繋がる」なんて説明もされて、なるほどと。これで印刷のロットなんかを気にせず、古いものや実験作なんかも自由に出せるようになるので、同人の世界が広がるといいですね。

<『東方Project』二次創作物の公認流通プラットフォーム>
【販売サイトURL】※サイトは4月28日(土)よりオープンします。
・「ニコニコ書籍」:https://nicoebook.jp/collections/1120/
・「BOOK☆WALKER」:https://bookwalker.jp/tag/2090/
■『東方Project』二次創作作品の一般受付開始は、2018年5月9日(水)13時を予定しています。
「ニコニコ書籍」と「BOOK☆WALKER」で作品の配信を希望する方は
こちらのサイトにアクセスの上申請ください。https://author.bookwalker.jp/

<「BOOK☆WALKER」キャンペーン概要>
【実施期間】 2018年4月28日(土) 00:00~5月6日(日) 23:59
【詳細URL】 https://bookwalker.jp/tag/2090/ ※サイトは4月28日(土)よりオープンします。

<ニコニコ超会議2018 概要>
「ニコニコ超会議」は「ニコニコのすべて(だいたい)を地上に再現する」をコンセプトに2012年より開催している超巨大イベントで、今年で7回目を迎えます。会場では、ニコニコ動画やニコニコ生放送で親しまれているコンテンツをブースとして展開し、ネットの世界を実際に体験共有できる場を提供します。昨年は会場来場者数15万4,601人、ネット視聴者数505万9,967人を動員しました。
【開催日時】 2018年4月28日(土)10:00~18:00、29日(日)10:00~17:00
【主催】 ニコニコ超会議 実行委員会
【会場】 幕張メッセ国際展示場1~11ホール、イベントホール
【公式サイト】 http://www.chokaigi.jp