Valveが運営するPCゲーム配信プラットフォーム、Steam。そこで販売されている膨大な数のタイトルそれぞれのユーザー数やプレイ時間を確認できるツールとして各社マーケティング担当などに重宝されているのが、第三者による外部データベース“SteamSpy”だ。

 現在サンフランシスコで開催中のGDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)で、SteamSpy創設者であるSergey Galyonkin氏による講演が行われた。お題は2017年のまとめ。なお現在同氏はエピック・ゲームズに所属し、東ヨーロッパ地域のパブリッシング業務を統括しているという。

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SteamSpyのデータの統計学的算出方法

 ここでまず注記しておきたいのが、SteamSpyはあくまで外部データベースであるため、Valveが持っている直接のセールスデータではないということ。あくまでSteamの公開プロフィールをサンプリングして得た推測値であり、例えばSteamSpyで特定のゲームの所有者数などを調べると、その脇には必ずプラスマイナスの誤差が書かれている。

 サンプリングは毎日80万の公開ユーザープロファイルを対象に実施され、推測値の算出は3日間のサンプルを使って行われる。Steamの公開プロフィールは全体の99.9%を占めるそうだが、DLCなどはそこから探れないため反映できない。

 というわけで使っている手法上、発売直後の新作やセールス3万本以下のタイトルは実態から乖離する可能性が高く、また大きな動きがあった場合なども十分に反映されるまで最低でも4日間のラグがあるとのこと。同サイトを利用する場合は、このことを頭の隅に置いておくといいだろう(ちなみに複数のパブリッシャー関係者から「結構実態に近い数字」と聞いたことがある)。

 なお今回の発表では通常の3日間ではなく10日間のデータを使用しているという。プレイヤーの居住地などはユーザー申告をそのまま反映する形となる。

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本記事執筆中のある時点での例。トレンドチャートのトップに発売されたばかりの『二ノ国II レヴァナントキングダム』PC版が来ているが、推測値(5718人所有)に対してプラマイ誤差(プラスマイナス4233人)が大きすぎるガバガバな数字。コレが数日かけてもうちょっとマシな精度へと収束していく。

より多くのゲーム、セールス、新規ユーザー

 さて、2017年はValveにとって、より多くのゲームが出て、より多くのセールスをあげ、より多くのゲーマーがやってきた非常に良い年であったとGalyonkin氏。

 有料ゲームのセールス(※)は43億ドル(約4531億円)という規模に達し、これは同じ算出方法で昨年度の35億ドルと比較するだけでも20%以上の伸びだ。(※前述の通りDLCや課金アイテムなどは含まない)

 そしてユーザー数は2億9100万ユーザーで、なんとそのうち22%にあたる6300万が2017年に作成された新規ユーザーアカウントだという。一年間の新規ユーザー数の伸び自体は鈍化傾向にあるが、それでも優れた数字であることに違いはない。

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毎年の新規ユーザー数の伸び自体は鈍化傾向に。

 リテンション(継続性)の数字も良く、5700万ユーザーが過去2週間以内にSteamを利用しており、31%のアクティブユーザーは2017年からの新規ユーザー。リテンションの率自体は下がってきているが、年々人が膨れ上がるID取得が無料なサービスであり、F2Pゲームのそれと比較すれば悪くない。

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 一方で、気になる数字もちらほら増えてくる。オフィシャルなら微妙なので伏せておきそうな、サードパーティーだからこそ出せる分析もガンガン出してしまうのがSteamSpyのユニークな所だ。

 まずは「新規ユーザーはそんなにゲームを買ってない」。所有するゲームの全体の中央値は約2本で、平均値は10.8本。それに対して新規ユーザーでは中央値が1本で、平均値は3.9本となっているという。年ごとに中央値はどんどん下がってきている。

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トップは『PUBG』。圧倒的に上位が牽引する構造

 リリースされたゲームについては、調査時点でSteamで配信されたゲーム21406タイトルのうち、7696タイトルが2017年にリリースされたもの。これは実に全体の39%にもあたる。

 売上ベースで行くと、全体の0.5%に過ぎないトップ100タイトルが50%を稼いでいるという、圧倒的に上位が牽引する形。トップは『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS』(PUBG)が2779万5000本で6億ドル(約628億円)を稼いだのではないかと推定している。

 続くタイトルはFPS『Counter-Strike: Global Offensive』、オープンワールドアクション『グランド・セフト・オートV』、FPS『コール オブ デューティ ワールドウォーII』、ストラテジー『シヴィライゼーション VI』と、「いつもの顔触れ」な超大作シリーズものだらけ。トップ20は2200万ドル以上で、これは2016年と状況は変わっていない。

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日本からは『NieR: Automata』(66万8000本/2900万ドルで12位)、『バイオハザード7 レジデント イービル』(54万5000本/2400万ドルで16位)、『ダークソウル3』(102万3000本/2400万ドルで17位)といった所がランクイン。

 これは定価別にタイトルを分けたグラフでよりはっきりしてくる。もっとも数が多いのは9.99ドルのタイトルだが、今度は価格帯別に全体の収入の割合を計算してみると、収入が多いのは29.99ドルで、次いで19.99ドルと59.99ドルだ。そして29.99ドルのゲームと言えば……『PUBG』である。

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単にゲームを定価別に並べたもの。9.99ドルが一番多い。
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収入を定価別に分けたもの。29.99ドルが最大だが、実は……。

 「それで、29.99ドルであるPUBGを抜いてみたグラフがこちらです」と見てみると、トップは僅かな差で19.99ドルのタイトル群で、続いてタイトル数で言えば一番少ない59.99ドルのタイトル群が2位。「大作が売れてたくさん稼ぐ」というのは、大概売れるから大作になってるわけで自明のように思えるが(Galyonkin氏もセルフツッコミを入れていた)、あらためてデータで認識するのは悪くない。

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『PUBG』を除いてみると、19.99ドルと59.99ドルの2トップとなり「やっぱ定価59.99ドルの超大作は稼いでるんですね」というすごく当たり前の話に。

インディーにとっては懸念すべき点も

 ここまでで察しのいい人は気が付いたと思うが、インディーゲームにとっては懸念すべき点がいくつかある。

 まずSteam上の全ゲームの所有者の中央値は9500人で、インディー全体の場合は5000人。これが2017年に出たインディーだけだと1500人に落ちる。とはいえセールを使いこなして長期的に売る戦略もあるわけだし、これ自体はいいとしよう。

 もうひとつの数字は価格だ。全体の中央値だと5.99ドルで、インディー全体が3.99ドル。2017年に出たインディーだと2.99ドルとなって、「低価格帯での競争になっている一方でそんなに売れてもいない」という見立てが浮かび上がってくる。

 ただしこれは「超大作でなければ死亡」という極端な話ではなく、トップ2000入りに必要な売上で見ると、2016年は16万ドルだったのに対し、2017年は15万ドルでそんなに変わっていない。またインディーファン自体は現在でも多く、全体の22%にあたる6500万ユーザーが最低でも1本の有料インディーゲームを所有していて、2400万ユーザーは5本以上所有している。

 問題はタイトルが増えすぎていて、トップ10000外でのマイナーなタイトルでの生存競争が厳しくなっており、ユーザーとの適切な出会いが難しくなってきていているというのがGalyonkin氏の見立て。2015年にはインディーゲームは2149タイトルだったのが、2018年時点では13264本に膨れ上がっている。

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 もちろんこれはインディーが配信権を得やすくなったSteam Greenlightの伸びや、2017年について言えばその後継プログラムとして門戸開放したSteam Directの導入と関係がある。

 Steam Directの導入後、例えば2017年9月は864本がリリースされており、これは平均すると毎時間1.2本の新作が出ていたことになる。誰もまともに追いきれない数だ(ただし比率の点で言えば、Direct解禁はGreenlight解禁ほどのインパクトではないとのこと)。

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 Galyonkin氏の話から少し脱線するが、GDCの講演には“よりよいトレイラーの作り方”、“Reddit(掲示板)の活用法”、“間違ったプレス向けメール事例”なんてものもあるし、会場や周辺のパーティー会場では、「どこどこのインディーパブリッシャーは固定客をちゃんと持っている」、「このインディーPR会社が良かった」、「逆にこのプラットフォームで先に出しちゃうのがいい」なんて話が交わされているのを耳にすることもしばしば。モバイルだけでなくPCでも、いかに埋もれないかは死活問題なのだ。

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中国プレイヤーの伸びの実態はネットカフェの『PUBG』用アカウント?

 さて話を戻そう。Steamでは“Steam ハードウェア & ソフトウェア 調査”として、ユーザーの使用環境などの集計データを公開している。その中で、中国語プレイヤーの数の爆発的な増加を見聞きしたことがある人もいるのではないだろうか。

 なんと全体の約64%は簡体字中国語を選んでおり、英語は2位ではあるものの約18%に過ぎない。昨年末にもコミュニティ機能が遮断されるなど、中国から公式に認められているとはいえない状況であるにも関わらずである。

 Galyonkin氏は、これが中国での『PUBG』人気によるものであり、さらに個人ユーザーが増えているというより、ネットカフェのPCに『PUBG』を入れるための需要が大きく作用しているのではないかと見る。

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リリースと同時に、というわけではないのだが、『PUBG』の盛り上がりと連動していると見ているようだ。
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 例えばアメリカのユーザーは、アクティブプレイヤーの全体の13.9%を占めているのに対し、ゲームの所有本数では全体の23.3%を占める。これと比較して、中国語ユーザーはアクティブプレイヤーの19.5%を占めるものの、ゲームの所有本数では5.4%でしかない。そして平均的なアメリカのユーザーは、平均的な中国ユーザーの6倍ゲームを所有しているというのだ。

 これがこと『PUBG』となると、アメリカのプレイヤーは1週間あたり平均して7時間遊ぶのに対し、中国プレイヤーは16時間。“ネットカフェの業務用用途”という見立てがどこまで正しいかわからないが、少なくとも『PUBG』熱が牽引しているのは間違いないだろうし、(数の大きさの割に)それ以外のゲーム所有本数が限られているというのも現時点では事実だ。

 そして、自分のアカウントじゃないならチートツール使用者が多いとされるのもわからないではない……。Galyonkin氏は、“1.ネットカフェがSteamを入れて『PUBG』をインストールして時間貸しする”、“2.客が遊び、たまにチートする客がバン(アカウント停止)される”、“3.ネットカフェがIDを取り直し、ゲームも買い直すが、元は取れているので大体オーケー”というサイクルを紹介していた。

 ちなみにテンセントが『PUBG』の中国での展開権を手に入れたことで、今後これらの環境がテンセントベースのものにシフトしていき、アメリカなどから見えるチーターの数は減少していくのではないかとの予測も示していた(テンセントは同氏が所属するエピック・ゲームズの親会社でもあるため、いろいろ聞いているのかもしれない)。

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 インディーの話に戻すと、「中国語対応はインディーゲームの収益拡大に効果があるのではないか」という論を聞いたことがあるが、実際にプレイヤー数で言えば中国は2位。新たなゲームに飢えている人の数は多いので、中国語ローカライズは投資価値があるだろうとのことだった。一方でインディーゲームへの投資は9位となっているので、価格が重要そうだ(ロシアも同様に金額ベースでは順位を落としている)。

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