セガのサターン時代を代表する人気作『パンツァードラグーン』シリーズ。その中の1作『AZEL -パンツァードラグーンRPG-』(以下、『AZEL』)は、ほかがシューティングゲームなのに対してこのタイトルのみRPGということもあり、とくに人気の高い1作となっている。そんな『AZEL』が今年で発売20周年を迎えることを記念して、『Resurrection: AZEL-パンツァードラグーンRPG- 20th Anniversary Arrangement』というアレンジアルバムが発売される(CDの発売は2018年3月10日、アナログアルバム盤の発売は2018年4月10日)。本作は、オリジナル作曲者である小林早織氏自身がアレンジを手掛けており、非常に聴き応えのあるアルバムになっている。
 ということで、本アルバムの関係者に集まっていただき、発売までの経緯やアレンジの聞きどころ、そしてサターン版『AZEL』の開発秘話などをじっくりとうかがった。

『AZEL』アレンジアルバムは生で一発録りの曲も! 『Resurrection: AZEL-パンツァードラグーンRPG- 20th Anniversary Arrangement』インタビュー_01

左から……

セガゲームス サウンドディレクター
澤田朋伯氏(文中は澤田)

小林早織氏(文中は小林)

ブレイブウェーブプロダクション 代表
アニエル・アレクサンダー氏(文中はアレックス)

オリジナルアルバムの反響から『AZEL』アレンジ発売へ

――サターンで発売された『AZEL』が20周年を迎え、アレンジアルバムが発売されました。その経緯を教えてください。

アレックス ブレイブウェーブプロダクションではオリジナルアルバムやゲームのサントラアルバムを作っているのですが、『AZEL』の音楽を担当していた小林さんとここ数年いっしょに仕事をしていました。オリジナルアルバムを2枚ほど発売させていただいたのですが、民族音楽と電子音を織り交ぜたスタイルで、ちょっと『パンツァードラグーン』テイストなアルバムなんです。そして、これがとても好評だったんですよ。
 こうして小林さんといっしょにお仕事をさせていただいている以上、やはり『AZEL』のサントラも出したいという気持ちがありまして、セガさんに相談しました。

小林 海外で『AZEL』の曲をライブでやったりすると、思った以上に反応がよかったんです。とくにヨーロッパでは『AZEL』ファンが多い印象でした。これならアレンジアルバムも受け入れてもらえるんじゃないかと思って、話がきたときは即答で「やる!」と(笑)。

アレックス ですので、じつは20周年というタイミングは偶然だったのですが、むしろ話題にもなってよかったと思っています。

――今回のアレンジアルバムの話がセガさんにきたとき、澤田さんどのような感想を持たれましたか。

澤田 小林さんはずっと音楽活動されていますし、20年まえにやったものをいまの小林さんがやるとどんな感じになるのかな、というのはすごく楽しみでしたね。それで上がってきたものを聴かせていただいて「これはおもしろいな!」となりました。

小林 当時の私はこういうタイプの音楽を作るのが初めてたったので、いま聴くと必死さが伝わってきますね。いま「ゲームのBGMを作ってください」と言われたら、これとは全然違うものになるだろうなと思います。当時の必死さがよいなというところもありますね。

アレンジはカルテットによる生演奏一発録りにもチャレンジ

――アレンジの実作業はいつごろスタートしたのでしょうか?

『AZEL』アレンジアルバムは生で一発録りの曲も! 『Resurrection: AZEL-パンツァードラグーンRPG- 20th Anniversary Arrangement』インタビュー_04

小林 正式にアレンジアルバムを出せるという話を昨年の夏ごろいただきまして、そこから作り始めました。『AZEL』は全部で60曲近くあるんですが、RPGなのでサウンドロゴ的な短い曲も多いんです。そのため、曲としてもちゃんとできていてアレンジもしやすいっていうタイプを選んでいきました。

アレックス そして、我々はアナログ版も作りたかったんです。12インチのフルサイズのレコードには片面17~18分、両面で36分程度しか入りません。もちろん枚数を増やすこともできますが、そのぶんコストもかかって値段が上がるので、2枚で60分程度に収まるように選曲してもらいました。
 ここ数年、海外ではアナログレコードが流行っているんです。一時期は完全になくなったとも言われていたのですが、5年ほど前から復活してきました。ゲームのサントラは2015年からアナログ盤も積極的にリリースされています。海外ではCDはそれほど売れなくなっているのですが、アナログレコードはパッケージが綺麗で大きくてコレクション性も高く、見直されています。

――CDよりも売れているんですね。

『AZEL』アレンジアルバムは生で一発録りの曲も! 『Resurrection: AZEL-パンツァードラグーンRPG- 20th Anniversary Arrangement』インタビュー_02

アレックス CDだと売上もほとんど見込めないですね。海外ではアナログレコードとネット配信が主流です。日本だとまだCDが主流なので、この『AZEL』アレンジアルバムはCDも作りました。アナログ版は海外向けの商品という位置付けです。もちろん日本のお客様にも届けたいので、ライナーノーツには日本語表記も入れたり、日本語と英語の両方に対応しています。
 アナログ盤は実際に聴ける環境がない場合もあって、あくまでコレクションとして購入されるお客様もいます。また、外出中もポーダブルオーディオ等で聴きたいという方もいるので、アナログ盤にはダウンロードコードも付いています。

――今回アレンジをされて、個人的に気に入った曲などありますでしょうか。

小林 “放浪”ですね。完全に生音の一発録りなんです、生楽器のアレンジも初めてだったし、カルテットとフルートと私のピアノ、計6人で「せーの!」で録音したんですよ。『パンツァードラグーン』シリーズの音楽性が電子楽器と生楽器を織り交ぜたようなものだったので、どうせだったら本当に生の楽器でやってみよう、と。実際にやってみたら、すごく気に入りました。

アレックス しかもニューヨークで収録したんですよ!

小林 そう聞くと凄いんですけどね。ニューヨークにミュージシャンがいただけという話なんですけどね(笑)。

――アレンジは方向性を決めて作られたのでしょうか。20年前のテイストを再現するとか現代風にするとかそういう案もあったと思うのですが。

小林 言われたとおりの悩みを持っていて、まったく同じものを違う音源で鳴らしてもアレンジになるし、アレンジというんだからまったく違う形に変えてやるというのもアレンジだし、どっちがよいのかなというのは凄く悩みながら作りました。できるだけ原曲のイメージは失わないように……というつもりでアレンジしたのですが、澤田さんいかがでしょう?

澤田 原曲に関してですが、ムービーシーンはレコーディングした曲もあるんですけど、ほとんどがサターンの内蔵音源で鳴らしていた曲でした。それだとどうしても制限があるじゃないですか。今回、こういう風に生演奏で録音したり、いまどきのシンセを使って新たに作ったり、いろんな方向性で聴くことができたので、とてもおもしろかったですね。新鮮な感じのものもあるし、懐かしい感じもあります。「この曲がこんな風になったのか」というものもありましたし。

――とくに驚きがあった曲などはありましたか。

澤田 テーマ曲でもある“Sona mi areru ec sancitu(其は聖なる御使いなりや)”ですね。オリジナルはオーケストラを使っていた曲なんですけど、このアレンジアルバムではジャズっぽい感じでアレンジされていているんです。「こんな方向性があるのか」と思いましたね。

小林 これは賭けだったんですよ。果たしてここまで崩してファンの方はどう思うかなって。でも20年も経っているから、「こんなことがあったね」とか懐かしんで貰えるようなアレンジにしたいなと思って……。

――ジャズっぽいアレンジにしたのはキッカケがあるのでしょうか。

小林 海外に行ったとき、ほとんど遊びでファンの方とセッションしたんです。そのときピアノの伴奏とサックスでやってみたら、これが結構受けがよくて。じゃあ、今回のアレンジアルバムでやってみようかな、と。

――澤田さんはサターン版『AZEL』のサウンドディレクターでしたが、アレンジアルバムではどのような立場で関わられたのでしょうか。

澤田 当時のサウンドスタッフでセガに残っているのは僕だけなので、アレンジに関しては完全に小林さんおまかせでやっていただきまいた。小林さんのやることなので全部オーケーという感じで。

名曲“アトルムドラゴン”はザコ戦の曲だった!?

――せっかくなので、『AZEL』開発当時のお話も聞かせてください。90年代中盤だったと思いますが、どういう状況だったんでしょう?

小林 サターンタイトルでも、かなり最後のほうでしたよね。その中でできるかぎりのことをやろうと……とにかくみんな必死でした。『AZEL』に関してはRPGなので、モチーフごとにテーマ曲を作ろうと決めたんです。いろんなシチュエーションのテーマを3~4つ作って、そのメロディが各場面にちょくちょく出てくると、プレイヤーも映画っぽい体験ができるんじゃないか、と。そのあたりを目指してました。

『AZEL』アレンジアルバムは生で一発録りの曲も! 『Resurrection: AZEL-パンツァードラグーンRPG- 20th Anniversary Arrangement』インタビュー_03

澤田 ゲーム自体もいままでにないものを作ろうとしていたので、それに合わせるサウンドって「どんな感じでやればいいのかな?」と模索しながらやっていました。ゲームのほうはそれまでの伝統的なRPGではやってないことに、たくさんチャレンジしていたと思うんですよ。
 そういう中で、サウンド面の演出としてどう盛り上げていくのがいいのか、それまでのゲームとは違うやりかたはどうしたらいいのか、とにかくいろいろ考えてやってましたね。
 たとえば街があって、戦闘があって、また街があってというときでも、シーンの流れとして全体的に緊張しているようなところであれば、そのあいだはずっと緊張感のある曲を流したり。サウンド面でもそういった演出面には気をつけました。

――小林さんは『AZEL』からの参加ですけど、それまでの『パンツァードラグーン』シリーズの楽曲に関してはどのように咀嚼し、新作に反映されたのでしょうか。

小林 『パンツァードラグーン ツヴァイ』と『AZEL』は同時に開発が始まったんです。実際には1996年に『ツヴァイ』が出て、1998年に『AZEL』が出るという順番になりましたけど、企画は同時でした。『ツヴァイ』はシューティングで、『AZEL』はRPGにするぞって。

澤田 立ち上がりが同じころというだけで、実際には『ツヴァイ』のほうが忙しかったときはスタッフ総出で協力して、それが終わったら『AZEL』に合流、という流れでしたね。

――小林さんは『ツヴァイ』の音楽をある程度意識しながら作曲されたのでしょうか。

小林 はい、せっかく『ツヴァイ』まで作り上げた雰囲気があったので、なんとか踏襲しようとしていました。でもゲームのスタイルが違うので、シューティングみたいな曲にせず、もう少しフワッとできるかな、と。『パンツァードラグーン』らしい音楽って、あまりほかにない民族チックな音楽で、そこに電子的な音も入って、さらにはオーケストラ的な音も入って……っていう。『ツヴァイ』もそういう方向でしたよね?

澤田 そうですね。1作目『パンツァードラグーン』の音楽をお願いした東祥高さんがシンセ奏者で、民族音楽っぽいテイストも取り入れながら曲を作っていた方だったんです。それもあって、この方向性に決まりました。

――澤田さんは当時、小林さんが作ってくる曲を聴いてどのような印象を?

澤田 わりと一発オーケーというか、リテイクとかイメージが違うということもほとんどなかったですね。

小林 むしろ曲をしっかり聞き込んでいただいて、私が「これはザコ戦の曲です」って提出したら、「ボスの曲にしましょう!」とか言ってきたり(笑)。“アトルムドラゴン”をあそこまで引き上げたのは澤田さんなんです。

澤田 上がってきたら「これをザコにあてるのはもったいない!」という曲だったんです。これはボスに持ってきたほうがいいんじゃないかと。

小林 澤田さんがあそこで言ってなかったら、“アトルムドラゴン”はザコ戦の曲になっていました。

――作曲するにあたり、ゲーム本編のディレクターである二木幸生さんからは何か指示はあったのでしょうか。

小林 「こんな感じはどうかな」、と参考用にフランスの“ディープフォレスト”という音楽ユニットのCDをいただきました。そういうジャンルの曲は初めて聴いたので、「こんなのがあるんだ! おもしろい!」と、ここからイメージを膨らませていきました。

――できあがった『AZEL』の音楽は、ファンからの評価も非常に高いものになりました。

アレックス 海外人気も高いですね。ヨーロッパでもアメリカでも! ただ、当時発売されたサントラCDは日本国内だけで、海外のファンは手に入れるのが困難でした。それもあって、今回のアレンジアルバムは海外向けにもしっかりやりたいと思っていました。

――20年のときを経て、いまなお世界中のファンに愛されている『AZEL』の楽曲ですが、そこまで支持されている理由は何でしょう?

澤田 ゲームのサウンドというものが、それこそ昔のファミコンとかのチップチューン的なものから変わっていって、ちょうどサターンのころはいろんなことができる時代でした。ゲーム的にも音楽的にもいろんなことに挑戦した最初の時代だったと思うんです。その中で『AZEL』がすごく新しいものだったから、ユーザーのゲームの体験と合わせて音楽も支持されているのかな、と。エポックメイクングというか、ゲーム音楽として新しいものを提示できた時代だったかなと思いますね。
 オリジナル音源も聴きたいという方もいらっしゃると思いますが、2月14日から『パンツァードラグーン』シリーズ全4作品のサントラをiTunes、Amazonデジタルミュージックストア、Google Playで配信を開始しました。アレンジアルバムとともに、こちらもぜひ聴いてみてください。

『AZEL』アレンジアルバムは生で一発録りの曲も! 『Resurrection: AZEL-パンツァードラグーンRPG- 20th Anniversary Arrangement』インタビュー_05