まさに、“映画の世界に入り込んだかのような”

 プレイステーション VRやHTC Vive、Oculus Riftなど、VRデバイスがリリースされた2016年の、いわゆる“VR元年”からはや2年。いまやすっかり定着した感のあるVR(バーチャル・リアリティ)だが、昨今とくに元気に見えるのが、アミューズメント施設用のVRデバイスだ(ロケーションベースVRとも称されている)。バンダイナムコエンターテインメントが新宿歌舞伎町に展開するVR ZONE SHINJUKU、渋谷で展開されているVR SPACEやVR PARK TOKYOなど、VRとアトラクションの相性のよさゆえか、VR用のプレイスポットが複数設置。さらに、コーエーテクモゲームスのVRセンスや、クラウドクリエイティブスタジオのV-REVOLUTIONなど、アミューズメント施設用途のVRシステムも登場してきている。

 そんな中、2017年年末に新たなVRシステムがサービスを開始した。台湾に本社を構えるStarVR Corporationが開発した StarVRだ。現状アミューズメント施設用のVRデバイスは、HTC Viveが大きなシェアを持っているが、StarVRで注目すべきは、同社独自のヘッドマウントディスプレイを採用しているところだろう。同デバイスの特徴は、210度の広視野角で、最高解像度5Kという業界最高水準のハイスペックを実現している点。ハリウッド映画のCG撮影で使用されている“ハイスピード・オプティカル・トラッキングシステム”を採用することで、VR酔いの原因である素早い動作をする際の映像の乱れを抑制しているという。台湾と言えば、ご存じの通りVR大国だが、このStarVRはそんなVRのノウハウを集結したかのような、“ハイエンドVRヘッドマウントディスプレイ”となっているのだ。ガジェット好きの方のために、メーカーから提供された製品仕様を掲載すると以下の通り。

Star VRはVRの新時代を開くのか? StarVR Corporationキーパーソンへの取材を交え、その魅力と可能性に迫る_02
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 このStarVRは、セガ 新宿歌舞伎町内に2017年12月22日にグランドオープンしたSEGA VR AREA SHINJUKUに設置されており、気軽に遊ぶことができる。現時点で楽しめるコンテンツは、『John Wick Chronicles』と『The Mummy Prodigium Strike』のふたつ。『John Wick Chronicles』は、キアヌ・リーヴス主演の映画『ジョン・ウィック』をモチーフにしたシューティングアクションゲームだ。2017年には『ジョン・ウィック:チャプター2』も公開されていることから、ご存じの方も多いのではと思われるが、原作自体は、凄腕の暗殺者を演じるキアヌが魅力の熱心なファンを持つ1作。一方の『The Mummy Prodigium Strike』は、こちらも2017年にトム・クルーズ主演により劇場公開された『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』をベースにしたVRコンテンツ。奇しくも両作ともハリウッド映画のIPのとなっているのは、ハリウッドと関係が密接な、StarVR Corporationの親会社であるStarbreeze Studiosとの兼ね合いかとも思われる。いずれにせよ、 “ハイエンドVRヘッドマウントディスプレイ”とハリウッド映画IPの相性は、ばっちりと言うべきだろう。

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 そんなわけで、記者はセガ 新宿歌舞伎町のSEGA VR AREA SHINJUKUに設置されている『John Wick Chronicles』と『The Mummy Prodigium Strike』を体験してみた。映画をご覧になった方ならおわかりかと思うが、『ジョン・ウィック』は、殺し屋のジョン・ウィックを主人公にした、派手な銃撃戦が特徴のシリーズ。映画ではジョン・ウィックが複数の敵を相手にとにかく撃ちまくるといったシーンも多く、「あんな感じの銃撃戦が楽しめるのかなあ~」とワクワクしていたのだが、その期待は裏切られることがなく、映画顔負けの爽快なアクションが堪能できた。

 『John Wick Chronicles』に用意されているのは“昼間”と“夜間”のふたつのステージ。昼はビルの屋上で、夜はクルーズ船が舞台となる。オペレーションの方に聞いてみると、夜のステージのほうがプレイ時間が長く、敵を見つけるのに若干苦労するということもあり(周囲が暗いため)、難易度が高めだという。「初めての方は、昼がおすすめです」とのことなので、記者はためらうことなく“昼間”のステージを選択。高層ビルの屋上で、迫り来る暗殺者たちと対峙することとなった。”360度から襲い掛かってくる敵に相対する”という映画ばりのシチュエーションを実現した『John Wick Chronicles』では、プレイヤーは目の前から迫ってくる敵を倒しつつ、隣のビルから狙ってくる殺し屋への対応を迫られることになる。

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『John Wick Chronicles』は殺し屋ジョン・ウィックとなって迫りくる敵と戦う。敵は360度から襲い掛かってくる。

 もう1本の『The Mummy Prodigium Strike』は、ゾンビに襲われている救急車を救うというミッション。まずプレイヤーは、地上にわんさか溢れているゾンビをヘリコプターで移動しつつ殲滅。後半のパートでは、地上に降りてゾンビの攻撃から味方を守ることになる。『John Wick Chronicles』と違ってステージはひとつだが、倒したゾンビの数によってエンディングが異なってくる。ゲームプレイ自体は、ヘリコプターに乗っているときはベンチに腰掛けて射撃し、着陸したら立ち上がって攻撃するという“動き”があるのもアミューズメント施設向けコンテンツならではの魅力と言えるだろう。ちなみに、『John Wick Chronicles』は銃の弾数に制限があり、リロードする場合は銃を下に降ろすアクションが必要になるが、『The Mummy Prodigium Strike』では弾数に制限がない。“とにかくゾンビを倒してほしい”という、より爽快なゲームプレイを重視した仕様にしたゆえではないかと思われる。

 さて、『John Wick Chronicles』にしても『The Mummy Prodigium Strike』にしても、その没入感たるや相当なもの。“映画の世界に入り込んだかのような”と書くと、いかにもありきたりな表現だが、周囲を忘れて楽しんでしまったことは事実。とくにびっくりさせられたのが、背景の緻密な描写。たとえば、『The Mummy Prodigium Strike』では先述の通り、ヘリコプターで移動して、地上を走るゾンビを撃つことになるのだが、これだけの緻密な描写があるからこそ、没入感がより深まるのだと思われる。まさに、“映画の世界に入り込んだかのような”気分になれるのだ。

 『John Wick Chronicles』、『The Mummy Prodigium Strike』ともに、ワンプレイ1200円[税込]となっている。

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前半はヘリコプターから地上を掃討、後半は地上に降りてゾンビを撃ちまくる。

StarVR Corporationのキーパーソンに聞く、「とにかく没入感を求めて」

 正式に日本上陸を果たし、注目も集まるStar VR。いったいどのような経緯でStar VRが展開されるにいたったのか気になるところだが、ここでは、同デバイスを展開するStarVR Corporation マーケティングディレクター ジェーン・スー氏に、電話取材に応じてもらうことができた。そのやり取りを以下に紹介しよう。

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ジェーン・スー氏(右からふたりめ)。

――まずは、Star VRを開発するにいたった経緯を教えてください。

ジェーン StarVR Corporation自体は、2016年設立と新しい会社なのですが、VR自体の技術研究は、2011年からスタートしています。創業者が2011年にInfinite Eyeという会社を設立して、VRの研究に取り組み始めました。当初から最重要視していたのは“没入感”ですね。レンズの厚さやデバイスの重さなど、当初からさまざまな課題を抱えていました。没入感を高めるために、最新技術を求めてどんどん改善されていきました。

――けっこう長くVRの研究に取り組んできたのですね。

ジェーン はい。いくつかプロトタイプを作っていて、IMAXと提携して、世界の映画館にVRデバイスを設定したりもしてきました。その後、2015年にInfinite Eyeは、Starbreeze Studios傘下となります。Starbreeze Studiosでは、VRの可能性に着目して、Infinite Eyeの技術力を評価してくれたんですね。VRに関しては、エイサーもStarbreeze Studiosと同じように大きな可能性を感じていて、そこで両社が投資のうえ2016年10月に設立されたのが、StarVR Corporationというわけです。そして今回、満を持してロケーションベースVRとして、Star VRを展開することにしたんです。

――近年VRデバイスが多数リリースされていますが、Star VRならではの魅力は何になりますか?

ジェーン それは、創業者が設立当初からこだわっていた“没入感”であり、こだわっているのは視野角ですね。Star VRでは、できるだけ人間に近い視野角を実現したいということで、いまは95%くらいがカバーできる感じになっています。

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――確かに臨場感は半端なかったです。5KもStar VRの大きな特徴ですが、これもはやり没入感を高めるために?

ジェーン 最先端の技術を追い求めた結果ですね。ただ、私たちの研究では、人に自然と同じような感覚で映像を提供しようと思ったら、左右それぞれの目で16K相当が必要だとの結果がでています。さすがにまだそこまでは来ていないですね。

――16K! どれだけ未来の話になるのだろう……。

ジェーン ひとくちに5Kと言っても、明るさや色味などのバランスの調整が必要です。パネルの業者さんとは、それこそ何度もやり取りしましたし、それを言ったら、ハードウェアだけではなくて、ソフトウェアとの連携も大切になります。VRの場合は、キレイなディスプレイの映像を座って見ているだけでオーケーというわけにはいきません。頭や体の動きに合わせて、レスポンス早く映像を処理する必要があります。しかも人間に近い広い視野角の範囲で……です。ハードウェア、ソフトウェアなど、とにかくいろいろな要素のバランス調整はたいへんでした。

――“ハイスピード・オプティカル・トラッキングシステム”を採用しているそうですね。

ジェーン VRのためには、“ハイスピード・オプティカル・トラッキングシステム”はかなり重要です。とくに“精度”にはこだわっています。『John Wick Chronicles』のようなゲームだと、早いアクションへの対応が求められますので。

――なぜ、ハリウッドのIPをゲーム化することにしたのですか?

ジェーン 親会社のStarbreeze Studiosが、過去にハリウッドIPのゲーム化に実績がありまして、ハリウッドとは良好な関係を築いているんです。今回、Star VR向けのコンテンツを制作するにあたって、「最適では」との判断になりました。

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――今後、コンテンツはどのようなペースで追加されていくのですか? やはりハリウッド映画のゲーム化がメインとなりますか?

ジェーン ハリウッド映画IPのゲーム化は、今後も当然考えています。とはいえ、それだけというわけではありません。お客様からのフィードバックや要望をいただいて、ハリウッド映画以外のゲームを作る計画もあります。複数人で遊ぶゲームとか……。実際のところ、Star VRはワールドワイドでの展開を想定していますので、その地域に見合ったコンテンツなども予定しています。

――日本の開発スタジオが、Star VRに参入する可能性はありますか?

ジェーン はい。当然のこと、日本のメーカーさんと提携することを考えています。StarVR Corporationでは、Infinite Eyeの代からコンテンツはずっと自社で展開してきたのですが、“VRビジネスの拡大”を目標に、2017年5月から開発キット(SDK)をソフトハウスに提供するようになりました。さらには、今年の夏にはさらに進化した開発キットを幅広く提供する予定でいます。ゲームスタジオに対して、すぐれた開発環境を提供するというのは、Star VRの大きなテーマになっています。Star VRは、BtoBの業務がメインとなりますので、“開発者のサポート”をつねに念頭においています。日本の開発者さんとも提携は考えておりまして、しかるべき時期が来ましたら、発表させていただきます。

――今回、Star VRがセガ新宿歌舞伎町店に導入されることになりましたが、その経緯をお教えください。

ジェーン さきほどもお話したとおり、Star VRはグローバルでの展開を考えています。私たちは、アーケード市場をグローバルで……と考えたときに、日本は非常に重要な市場だと考えています。VRの経験やエンターテインメントに対して、日本市場は世界的にも影響力がありますし、ここ(日本)で展開することに大きな価値がある。セガさんとごいっしょさせていただくことにしたのは、アーケード市場に対して深いノウハウをお持ちだからです。日本で展開するパートナーとして、セガさんが最適との判断になりました。

――今後は、2018年3月までに3店舗への導入、2018年末までには計10店舗以上で開設することを目標としているとのことですが、具体的にはどのような感じになりそうですか?

ジェーン 今後のことに関しては、現時点ではお話できないのですが、正式に決定次第アナウンスさせていただきます。2018年末までに10店舗という目標は当初から変わっていません。セガさんと準備しています。

――Star VRの日本以外の地域での普及状況を教えてください。

ジェーン Star VRは、ふたつの方向性で展開しています。ひとつはゲームに代表されるエンターテインメント。最後にユーザーの皆さんに体験していただいて、楽しんでいただく領域です。エンターテインメントの領域に関して言えば、日本以外でいま言えるのはドバイですね。彼の地にてStar VRの運営が近々スタートする予定になっていまして、新しいコンテンツも投入されます。
 もうひとつが業務用の用途です。軍や医療業界、クルマ産業など……。この方面では欧米の複数の企業とパートナー関係にあります。たとえばクルマの展示。オーダーメイドのクルマを作るときに、模型だとそのよしあしが判断しづらいんですね。そんなときは、VRで判断していただく。Star VRのコンテンツは解像度が高いので、満足していただけるわけです。

――なるほど……。高い技術力でエンターテインメントと業務用ともにニーズがあるというわけですね。ところで、地元の台湾ではStar VR用のアミューズメント施設はあるのですか?

ジェーン アミューズメント施設での展開のプラン自体は、もともと台湾のほうが先に進んでいたんですよ。ただ、日本でのセガさんとのお話がトントン拍子に進んでいってしまったもので……。もちろん、今後台湾でも展開する予定でいますよ。