ソニー・ミュージックエンタテインメントが展開するゲームパブリッシングレーベル“UNTIES(アンティーズ)”が“Play,Doujin!”にパートナーとして参入。『東方Project』のファンゲームをリリースすることを発表した。

 Play,Doujin!とは、『東方Project』のファンゲームを中心に、さまざまな同人ゲームを家庭用ゲーム機向けに展開することを目的としたプロジェクト。2014年にメディアスケープ主導によりスタートし、これまでにリリースされたタイトルは15本を数える。2017年11月30日に行われた“PlayStation Awards 2017”では、AQUA STYLE開発による『不思議の幻想郷TOD -RELOADED』が“インディーズ&デベロッパー賞”を受賞して注目を集めたばかり。

 ここでは、UNTIESの伊東章成氏、メディアスケープの小山田文雄氏、AQUA STYLEのJYUNYA氏、そして『東方Project』の産みの親である上海アリス幻樂団のZUN氏に、お話をうかがった。

UNTIESが“Play,Doujin!”に参入! さらに広がる『東方Project』の世界への手応えをZUN氏ら当事者たちが語る_06

メディアスケープ 取締役
小山田文雄氏(文中は小山田)一列目左端

ZUN氏(文中はZUN)一列目ふたり目

AQUASTYLE 代表
JYUNYA氏(文中はJYUNYA)一列目右端

UNTIES
伊東章成氏(文中は伊東)二列目

Play,Doujin!という、これだけのおもしろいことは続けていきたい

――UNTIESがPlay,Doujin!に参加されるということで、まずはその経緯から教えてください。

UNTIESが“Play,Doujin!”に参入! さらに広がる『東方Project』の世界への手応えをZUN氏ら当事者たちが語る_01
UNTIES 伊東章成氏

伊東 Play,Doujin!の自体は、プロジェクトの立ち上げ以降、ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジア在籍時から僕がいっしょになって企画し、立ち上げを行ったのですが、UNTIESを立ち上げるときから、引き続き応援したいと考えていたんですね。そこでZUNさんにその意志をお伝えしたところ、「知らん!」と(笑)。

――ネタみたいな冷たい反応だったと。仲がいいですね(笑)。

伊東 ZUNさんや小山田さんとは、いっしょにやってきた“同志”みたいな意識はあります。まあ、 Play,Doujin!には立ち上げからいっしょにやらせていただいているのですが、「これだけのおもしろいことは続けていきたい」というのが本音ですね。

小山田 そもそもPlay,Doujin!は、“同人ゲームをより多くの環境でリリースしたい”という思いからスタートしたプロジェクトです。“しがらみのないところで、とにかくおもしろいモノを作る”というのが、同人ゲームの姿勢なのですが、伊東さんには引き続き、おもしろいモノを作っていくために手伝っていただけるということで、UNTIESさんに参加していただくのは、極めてスムーズな流れでした。

――UNTIESがPlay,Doujin!に参加されるとのことですが、基本はパブリッシャーとしての立ち位置で関わるということですよね?

小山田 これまでPlay,Doujin!では、国内ではメディアスケープを始め数社のパブリッシャーがいまして、それにUNTIESさんが加わることになります。各開発チームの皆さんは、「相性のいいパブリッシャーを、自分たちで選んでください」というスタンスになるかと思います。

――Play,Doujin!には開発チームとパブリッシャーのグループがあって、「マッチングはお互いが好きにしなさい」ということですか?

小山田 そうですね。今回のUNTIESさんの参入に関して言えば、これまでメディアスケープががんばっていたところに、UNTIESさんが上澄みをさらいにきたという状況だとも言えるわけです。

一同 (爆笑)。

――はっきりと言いますね(笑)。

小山田 まあ、事実です(笑)。とはいえ、開発チームの視点で言えば、選択肢が広がることは間違いないです。資金的なサポートも含めて、大々的に展開してみたいということであれば、UNTIESさんからのパブリッシングを希望したほうが可能性は広がるかと思います。おそらくUNTIESさんと組むときは、商業ベースに近い考えかたになるのではないかと。それに対してメディアスケープのほうは、よりチャンレンジングにやってみたいという、比較的コンパクトなプロジェクト向きかもしれません。我々も、より開発者に近い立ち位置で関わっていくことになるかと。

――とはいえ、メディアスケープとUNTIESは、ある種の競合ではあるわけですよね? お互いが「このタイトルをやりたい」ということで、競うこともある。

小山田 それはあると思います。

伊東 ゼロではないですよね。

小山田 ゼロではないと思いますけど、メディアスケープとしては開発者の考えを最優先するというのが前提としてあるので、そこは開発者の希望を聞きつつ、UNTIESがいいのか、メディアスケープがいいのか、あるいは大きな開発チームだったらセルフパブリッシングを勧めたり……といったふうに、適宜アドバイスしていくことになるかと思います。メディアスケープには、Play,Doujin!の相談役としてのスタンスもありますので。

――Play,Doujin!というプロジェクトの中で、お互いを活かしあうということですね。

小山田 さらに言えば、Play,Doujin!という名前で大々的に海外展示するという話になれば、UNTIESさんとメディアスケープで資金協力して出展するといったことも考えられます。弊社としても 、“競合”というわけではなくて、協力できるところは全面的に協力していくような関係になるかと。

――Play,Doujin!の今後を考えたら、UNTIESに加わってもらったほうが、プロジェクトにより広がりが出るということですね?

小山田 そうですね。UNTIESさんの母体であるソニー・ミュージックエンタテインメントさんのスケールメリットは魅力的ですね。

伊東 まあ、UNTIESとメディアスケープはサポート関係になるということですね。

ZUN UNTIESで別のレーベルを始めたら、Play,Doujin!が消えちゃうかもしれないからね。

――(笑)。

JYUNYA 僕は制作者サイドの人間なのですが、単純に小さいプロジェクトがメディアスケープで、大きいのがUNTIESという区分けでは考えていないです。僕は、Play,Doujin!が立ち上げられたときの最初のリリース組の中にいるのですが、メディアスケープさんには、規模の大小に関わらず、制作者がやりたいことをやらせてくれるんです。僕らなんて、パッケージの制作から流通まで、あらゆることをやらせてくれましたからね。小さいことから大きなことまで、やる気があればなんでもできるという、懐の深さがメディアスケープさんにはあるんです。そして、UNTIESさんには、「いっしょに組んだから何か別の新しいことがやれるのかな?」と考えもあって、今回Nintendo Switch版『不思議の幻想郷TOD -RELOADED』でごいっしょさせていただいていろいろ試してみたいと思っています。

――試しですか(笑)。

JYUNYA そういうものなんですよ。制作者というのは。本当に気まぐれというか、「この人といっしょにやったらどうなるのかな?」というような、ある意味でギャンブルみたいなところがあって。おもしろそうだなと。

――今回、パブリッシャーにUNTIESを選んだのは、「おもしろそうだから」という試しで?

JYUNYA 9割以上はそれですね。

――9割以上ですか!?

JYUNYA メディアスケープさんとは3、4年いっしょにやっているので、初めてコンシューマー用ゲームを開発させてもらった感謝があります。パッケージも作らせていただいて、“PlayStation Awards 2017”で“インディーズ&デベロッパー賞”を取らせていただいたりと、すべてを体験させてくれました。ものすごく貴重な経験ができてよかったです。

ZUN 文句も言っていたよね(笑)。

JYUNYA あはは(笑)。それもいいところなんですよ! メディアスケープさんもクリエイターの集団なので……。クリエイターどうしはケンカできるんです。作り手のことをわかってくれるから、「俺たちはこうやりたいんだから、やらせてよ!」ということも堂々と言えるし、彼らも作り手だから、「その手には乗らんぞ!」みたいなことも言ってくる。

――ちなみに文句ってどんなことを?

JYUNYA いろいろあります。たとえば、「いますぐにパッチとかを出したい」と思っても、「気持ちはわかるけど、プレイステーションは段取りを踏まないとだめだよ」と言われたりとか。

――ふ、ふつうのことじゃないですか……。

JYUNYA でも、僕たちにはそれがわからないんですよ。ふつうのことが。いままでパソコン向けのゲームを作っていたので、やろうと思ったらすぐにパッチを作って配信して終わりだったんですけど、コンシューマーにはちゃんとした段取りがあるという。「なるほど、こういうルールがあるんだ」ということを教えてくれるんです。彼らも同人ソフトのことは知り尽くしているので、「気持ちはわかるよ」と理解してくれる。「でも、コンシューマーはこうだから、こういうふうにやろう」というのをどんどん導いてくれるわけです。凄まじくやりやすかったです。距離が近い分ケンカしやすかった(笑)。

伊東 そういうやり取りが多かったというのはあるかもしれません。

JYUNYA すごく楽しかったですよ。

『東方Project』という強力なIPがあってこそ生じるアライアンス(協力関係)

――今回のメディアスケープとの提携ですが、具体的に言うと、メディアスケープのパブリッシングタイトルをUNTIESがサポートするということですか?

伊東 そうですね。細かく決めていないところもたくさんあるのですが、そういうお手伝いもできるようにしています。Play,Doujin!ば、デベロッパーさんどうしでつながって、情報を共有したりリソースを共有できる“互助会”みたいな機能を持っていて、同じような感じでパブリッシャーどうしがカバーし合える関係性になれればと期待しています。

――Play,Doujin!という枠組みがあって、デベロッパーさんは相互につながっているのですね?

伊東 デベロッパーさんどうしは、相当つながっています。

――それと合わせて、パブリッシャーも相互に連携して、Play,Doujin!を大きく盛り上げていきたいということですね?

伊東 せっかく立ち上がったPlay,Doujin!なので、同人とか個人が、より入りやすい状態にはしておきたいですね。

――なかなかに前例のない取り組みだけに興味深いですね。

JYUNYA 現に博麗神社例大祭(『東方Project』作品だけを扱った同人誌即売会)なんかは、すごくキレイな相互関係にありますよね。僕らは個人に近い人たちなので、たとえイベントと言っても大きなブースとか建てられないのですが、UNTIESさんが仕切ってくれることで、巨大なタペストリーが展示されていたり、立派な試遊台が設置されたりとか、ああいうのが協力関係としてとても魅力的な部分だと思います。あとは、制作者が自分の都合のいいところと組めばいいだけの話であって。

ZUN もともとPlay,Doujin!自体が、「とにかくコンシューマーゲーム機で作りたい」という二次創作を作っている人の圧力で生まれてきたものです。そんな中で、「パブリッシングもインディーゲームみたいにやりたい」という流れが生まれてきて、いまに至っています。デベロッパーとパブリッシャーも横並びで、インディーという扱いかなと思っています。

――『東方Project』という強力なIPに連なることで、強力なアライアンス(協力関係)も成立し得る可能性があるということかもしれませんね。

JYUNYA そうですね。Play,Doujin!が始まってから4年くらい経ちますね。

伊東 いろいろとケンカしながらも、思ったよりもうまく続いている状態ではありますね。

――思ったよりも(笑)。

ZUN 僕もプロジェクトが始動したときは、最初に発表されたタイトルがリリースされたら終わりだなと思っていましたから(笑)。

一同 (爆笑)。

伊東 続けていくために、小山田さんも僕もがんばったという側面はありますね。

――続けられたということは、デベロッパーの方にとっても居心地がよかったんでしょうね。

伊東 皆さん個人個人クリエイターなので、自己主張がしっかりしていて、正直もめることも多いのですが、みんなの関わりを増やすために、定例会や会合を実施することで、互助会っぽくはできているのかなとは思っています。

JYUNYA まあ、個人クリエイターって、みんなわがままなんですよ。できるだけ居心地のいい場所で自己主張したい。それを許してくれるのが、メディアスケープさんだったりUNTIESさんだったりするんです。居心地のいい土俵を作ろうとしている。

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メディアスケープ 取締役 小山田文雄氏

小山田 私もメディアスケープに参画する前は、開発者でもあったので、個人の開発者さんが「これをやりたい」となったときに、その問い合わせにすぐに対応できるノウハウがあったというのはあります。新しい方たちがPlay,Doujin!に入ったときにも、発売に向けての手順もある程度説明できるし、技術的な面でも細かいアドバイスができる環境を整えてきました。できるだけデベロッパーの皆さんに負担がかからないように……ということをここ2~3年ずっと取り組んできたので、その点は評価していただけたのかなと。これにUNTIESさんが入ってくることで、より大きなことができるようになると期待しています。

伊東 そこが参加の意図ですしね。がんばります。そして技術面に関しては、メディアスケープさんのチームは得意とするところではありますね。相互得意分野もあってそこはクリエイターの方も相当心強いのではと思ってます。

――今後メディアスケープとしては、Nintendo Switchに対する技術的な対応もしていくわけですよね?

小山田 そうですね。いまもすでに行っていますし、Nintendo Switchだけではなくて、Steamも視野に入っています。サークルさんへの技術的なサポートに関しては、ある程度統一されたインタフェースと言うか、フォームで問い合わせも全部行っていけるような形にしていければなと、将来的には考えています。

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