好評発売中のセガゲームスの『ソニックフォース』。ソニックチームが4年ぶりに手掛けるハイスピードアクションということで期待を集める本作は、どのように作られていったのか。その秘密を解き明かすべく、開発のキーパーソンである、『ソニックフォース』プロデューサーの中村 俊氏、同ディレクターの岸本守央氏、サウンドディレクターの大谷智哉氏にじっくりとお話を伺ってみた。随所にこめられたこだわりの数々を、感じ取っていただきたい。

『ソニックフォース』完成記念インタビュー 中村Pらに聞く“王道ハイスピードアクション”を求めての道のり_10

左から……
ディレクター岸本守央
プロデューサー中村俊
サウンドディレクター大谷智哉

ソニックらしさを求めてアバターの遊びをバッサリ作り直し

――まずは完成した手応えをお聞かせいただけますか?

『ソニックフォース』完成記念インタビュー 中村Pらに聞く“王道ハイスピードアクション”を求めての道のり_07

中村 ソニックチーム久しぶりの3D『ソニック』ということで、シリアスなストーリーを全体で追いながら、直球のハイスピードアクションにも挑んで、なおかつアバターという新しい要素もあるので、幅広い方に楽しんでいただけるタイトルになったのではないかなと思います。

――『ソニック』ファンは待ち焦がれていたと思います。

中村 わざと出していなかったわけではないんです。開発をスタートしたのは4年前なんですけど、新たに“Hedgehog Engine2”エンジンに切り替えることでの研究が必要でした。また、海外ではこれからアニメを含めた『ソニックトゥーン』の世界を盛り上げていくぞ、という時期だったので、25周年のうちに発売すべきかなど、いろいろとタイミングを検討していました。

――ある種、溜めの期間だった。

中村 そうですね。チームの中でも「大きくなっているファンの期待に応えなければ」という意識は高かったです。

――『ソニックトゥーン』が展開している裏では、ずっとつぎの『ソニック』をどうするかを“こねて”いたわけですね。

中村 はい。プロジェクトが始動したのは4年前で、まずは新技術や新エンジンの基礎研究を進めました。そこから1年後に小さなチームを結成し、ようやく昨年くらいから本格的な制作がスタートしました。今回はいつにも増して長かったですね。

――本作の目玉ともいえるアバターについてお伺いします。以前お聞きしたところでは、アバターを採用した理由は「自分の考えたソニックのキャラクターで遊んでほしかった」とのことでしたが。

中村 はい。岸本は「単純にソニックじゃない新しいキャラクターを用意しただけでは、ファンの方には満足していただけないだろう」と強く言っていまして。ブーストがなく飛び道具を持つ、という違いがありつつも、「これは『ソニック』の遊びだね!」という昇華の仕方になるまでは、ずいぶんと試行錯誤しました。

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――試行錯誤ですか。

中村 ええ。じつは当初ウィスポンには飛び道具としての機能しかなかったんだよね。

岸本 そうなんです。最初は「このウィスポンはここが長所で、ここが短所」みたいにもっと駆け引きがハッキリしたバランスだったんです。ただそれだと、どうにもお行儀がよすぎたんですね。チーム内でも「『ソニック』ってこういうゲームじゃないよね?」という声が上がったし、自覚もしていました。『ソニック』らしさって、ある種状況を力でねじ伏せて前へ前へと進んでいくところにあります。なので、それを一度バッサリと捨てました。

――なんと!

岸本 それ以降は、もっとカタルシスが得られるようなアッパーな調整に舵を切りました。どのウィスポンを使っても、敵を倒すタメの細かい駆け引きは意図的に排除していって、爽快感を重視したというところがありますね。日本のゲームらしくないアプローチなので不安はありますが、『ソニック』としての正解はこちらですと、バッサリ作り直しています。

中村 極論をいうと「『ソニック』って右を入力しているとゴールしちゃうよね」みたいなノリ。それにアクションゲームとしておもしろくするために特殊移動の能力も加えて、という2ステップがありましたね。最終的にはウィスポンを使うことで“オラオラ”な感じが出せてよくなったと思っています。

――ウィスポンにはたくさんの種類があるとのことですが、皆さんオススメのウィスポンはなんでしょう?

岸本 私は“ドリル”がお気に入りですね。パッと触っただけだと弱く感じるんですけど、それは見せかけで。というのも、格闘ゲームみたいに、アクションをキャンセルして、つぎの行動を出すことができるんです。その分テクニックは必要なのですが、使いこなせば最強クラスになります。あくまでマニアックなウィスポンなので、初心者の方はバーストから始めてもらえれば。

中村 私は“ライトニング”ですね。オーソドックスに使いやすくて、気持ちよさが非常に強い。特殊移動が、連なっているリングに沿って移動できるというものなのですが、誰でもわかりやすく爽快感を味わってもらえます。自分がプレイするときも、事故が起きづらいので愛用しています(笑)。

大谷 効果音的には“キューブ”が好きですね。攻撃タイプとしては、地上にいる敵だけをキューブにするという広範囲殲滅型。キューブも特殊移動でいろんなことができるみたいなので、試してみてください。

中村 ウィスポンが変わるとゲームの攻略法がガラリと変わるので、いろいろと試して自分のスタイルを見つけていただけたらと思います。

――アバターのことばかり聞いてしまいましたが、ソニックはちゃんと活躍しますよね?

中村 はい。どうしても新しい要素のアバターに注目が集まりがちですけど、ゲームの主役はモダンソニックであると意識して、“王道のソニック”を作っています。

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アバターの心情を綴ったボーカル曲はゲームに寄り添ったものに

――それでは、サウンドの話をお聞かせください。大谷さんがサウンドを手掛けるにあたって最初に言われたことは?

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大谷 中村からは「悔いのないようにやり切ってくれ」と言われました(笑)。

中村 ここで『ソニック』に対していい印象が得られなければシリーズとしての継続が厳しいよねという意識もあったので、そのような言いかたをしました。

大谷 おかげさまで『ソニック』シリーズの音楽ってどれも評判がいいんですけど、最近は「安定のよさだよね」と言われることが多かったんです。それはもちろん悪いことではないんですが、僕の中ではその“安定”を超えるモノを作らないとダメだなという気持ちが高まっていて。

――先ほど岸本さんが言った“お行儀のよさ”を一回ぶっ壊してと重なる意識が。

大谷 はい。その意味では、サプライズのたくさんある音楽プランを仕込んでいきたいというのが、スタート時点での動機でした。

――その結果がロックからEDMもの、オーケストラと幅広いジャンルのBGMということでしょうか?

大谷 それは一要素ですね。とにかく「ここがすごいよ!」って言われるトピックを何個も作りたかったんです。そうした中でアメリカ側から「音楽を先行して公開していきましょう」というプロモーションプランが上がってきたので、それとうまく絡めたことで、ゲームの発売までファンの皆さんの期待をさらに高めていけた手応えはあります。

――野暮な話ですが、予算もかなりかかったのでは。

中村 そこはうまくメリハリを付けたということで(笑)。

――プレイスタイルごとに音楽の方向性が異なるとのことですが、色分けとその理由をお聞かせください。

大谷 『ソニック』の音楽って器が大きいといいますか「こういうジャンルじゃないとダメ」という制約はないと思っているんです。そこで、同じハイスピードアクションでもプレイヤーキャラクターごとに音楽性を変えていこうと決めました。モダンソニックは定番となる、ギターを使ったロック系サウンド、クラシックソニックはメガドライブの音源を使ったチップチューンとしました。残るアバターをどうしようかというときに、岸本のアイデアメモの中に“シャレオツ”というキーワードがあったんですね。

――シャレオツ!

大谷 それはアバターのコスチュームに関するメモだったのですけど、だったら音楽もそれに合わせてシャレオツにしようと、モダンソニックのバンドサウンドとは対極にあるダンスミュージックにして。なおかつアバターは会話をしないので、であればBGMの中で戦場に赴く気持ちみたいなことを歌にのせてもいいのかなと、解釈しました。そのため、ステージを追うごとに、シナリオに合わせて歌詞内の心情の描写もちょっとずつ変化していっています。

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――ボーカル曲に対する反対意見はなかったのでしょうか?

大谷 じつはボーカル曲が入るということは岸本にはナイショにしていて、アバターのステージがゲームの状態で動きます、となったときに実装をして、どんな反応が返ってくるかを待っていたのですが。

岸本 「いいね!」って(笑)。

中村 プロデューサー的には海外チームからのネガティブな反応が心配だったんです。『ソニック』は海外で絶大な人気のあるタイトルなので、カルチャー的な違いもあって音楽面は毎回けっこう揉めるんですよ(苦笑)。それで、ボーカル曲を事前の相談ナシでやることは心配だったのですが、結果いきなり気に入ってくれて安心しました。いい着地点に持っていけたかなと思っています。

岸本 いまだから話せますけど『ソニックロストワールド』のときは海外から“ボーカル曲禁止”っていう制約があったので、そのうっぷんもあったというか……。

一同 (笑)。

大谷 せっかくボーカル曲をやることになったので、であればたくさんやってしまおうと(笑)。

――ガンガン行こうと。

大谷 ええ。これも以前から岸本と話していたことなんですけど、やはり主題歌を作るのであれば、単にオープニングやトレーラーで使われるだけではなくて、「ゲーム中の演出にもガッツリ入り込んだものにしたい」という想いがありました。それを思い出しながら曲の構想を練っているときに、シナリオにあった“フィスト・バンプ”というキーワードが目に止まったんです。今回はソニックとアバターが力を合わせて進むダブルブーストというアクションがあるんですけど、そうしたテーマも歌とリンクさせることで、ゲームの演出に取り込めるのではないかと思いました。

――実際、ダブルブースト時に主題歌のサビが流れるという熱い演出に昇華されていますよね。曲名も大谷さん考案なのでしょうか?

大谷 そうですね。ふだんはシンガーの方に候補をあげてもらうことが多いんですけど、今回は決め打ちで。完成した歌詞も、ゲームに寄り添った内容になっています。

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――歌詞はどのように決めていったのでしょう。

大谷 作詞をしたのは、アメリカのロックバンド・Hoobastank(フーバスタンク)のシンガーであるダグラス・ロブです。デモ曲やシナリオなどの資料を渡して、盛り込みたいキーワードやメッセージを伝えたのですが、上がってきたものは一発オーケーでしたね。

――曲調もそうですけど、歌詞はかなり熱い内容となっています。

大谷 そうですね。いつも以上にゲームに寄り添った歌詞になっていると思います。過去作では、ゲームを知らなくても共感できるような、ポジティブなメッセージソングに仕上げることが多かったのですが、今回は曲名も歌詞も、ゲームとのリンクを強く意識しました。

――ところで、オーケストラ曲はどんなシーンで使われるのでしょうか?

大谷 ワールドマップやメニュー画面、それとカットシーンでの重要な場面などの世界観やストーリーに関わる部分に取り入れています。

――フルオーケストラの収録はいかがでしたか?

大谷 初めてのロンドン収録ということもあって、時間内に収録が終わるかといった不安もあったのですが、現場に入ってみたらすべての行程がプロフェッショナルで不安が消し飛びました。今回演奏をお願いしたロンドン交響楽団は、ハリウッド映画でもおなじみの名門なのですが、演奏はもちろん、収録の行程も含めて素晴らしい仕事をしてくれました。

シナリオに沿った展開や“攻める2D”に込められたこだわりの数々

――プレイスタイルが3つありますが、ステージ構成はどのように決めたのでしょうか。

岸本 今回はシナリオありきです。『ソニック』を含むほとんどのアクションゲームがそうだと思うのですが、ステージを進んで最後にいるボスを倒してつぎのステージへ……というのが一般的です。ですが『ソニックフォース』では、ステージの概念は存在しているんですけど、展開はシナリオありきなんです。たとえば、捕まったソニックを救出するためにアバターが基地に潜入するというステージがあったら、そのつぎはソニックといっしょに基地からの脱出を試みるステージになるといった具合に、シナリオに沿っていろんな場所を転戦していって、シナリオの盛り上がりどころでボス戦になるんです。ステージの合間にはデモシーンが入ったり、ステージの途中で仲間からの通信が入ったりするので、ひとつのドラマを体験する中でステージを進めていくという構造になっています。

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――やりこみ要素はあるのでしょうか?

中村 アバターのパーツ集めはかなりのボリュームとなっています。パーツはステージクリアー以外にも“ミッション”というゲーム内条件を達成することでも入手できるのですが、それをデイリーの条件を含めて大量に用意してあります。従来の『ソニック』ってタイムアタックやSランクの獲得といったストイックなやり込みになりがちだったのですが、今回は少しずつでも毎日遊んでもらえれば、何かしらのフィードバックが感じられるようにしています。アクションゲームなのでパラメーターが成長するとかではありませんが。

――メニュー画面のデザインも従来の『ソニック』とは違って、かなりスタイリッシュな印象です。

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岸本 そうですね。ゲームとしては王道の『ソニック』という明確な着地点があるのですけど、それだけだとおもしろみに欠けているなと思い、“攻める2D”にチャレンジしてみました。

――攻める2D?

岸本 はい。これまでの『ソニック』シリーズのUI(ユーザーインターフェース)は機能美を優先していたのですが、『ソニックフォース』ではUI自体が前へ主張してくる。たとえば、メニューが横からシュパッと表示されたり、つねにどこかしらがアニメーションしていたり、といったところで攻めています。もちろんゲームの進行を阻害しては意味がないので、シャレオツ感は保ちつつ、ボタン入力には即座に反応するようになっています。

中村 メインメニューにはソニックたちが暮らす星が表示されているんですけど、これもあえてモノクロにしています。そういった部分やシリアスなシナリオを含めて、大人のゲーマーでも十分に楽しんでもらえるような仕上がりになったと思っています。

――タッグステージの遊びについて解説をお願いします。

岸本 モダンソニックのステージではブーストをどう使ってゴールを目指すか、アバターのステージではウィスポンで敵を倒すカタルシスを楽しんでもらうようにしているのですが、その“疾走感”と“爽快感”の両方を同時に楽しんでもらうため、ふたりをひとりで操作する欲張りな手段としてまとめていきました。『ソニックヒーローズ』などでもキャラクター切り替えはありましたが、切り替え操作のワンクッションがどうしても『ソニック』らしさにとってのノイズになっていたんです。そこで今回は、ボタンにブーストとウィスポンをダイレクトにアサインして、使いたい操作をしたときに自動でキャラクターが切り替わるようにしました。つまり、どちらのキャラクターを使っているかをプレイヤーが意識せずに済むということですね。タッグステージは、モダン、アバター、クラシックと、ひととおりのスタイルをプレイし終えた後に登場します。

――ネットワーク要素はどのようなものがあるのでしょう?

中村 全世界のユーザーのクリアータイムが集計されるランキングボード以外に、“レンタルアバター”という機能があります。ネットワークに繋いでいると、ほかのユーザーが作ったアバターをレンタルすることができる機能です。レンタルしたアバターはステージ中いつでも切り替えが可能なので、実質ふたつのウィスポンを使えることになります。タッグステージだとモダンソニックも加わるので、攻撃方法が3種類になります。

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――遊びの幅がさらに広がりそうです。

中村 それ以外にもほかのプレイヤーのアバターが見られることで、「世界にはこんなカスタマイズをしている人がいるんだ」という参考になってもらえれば。世界観的にも、アバターはレジスタンスの一員なので、世界中の『ソニックフォース』のプレイヤーが戦っているんだということを感じてもらえるようになっています。

――最後に読者へのメッセージをお願いします。

岸本 今回は、ほんとに多くの人に『ソニック』らしい疾走感あるゲームプレイを味わえるように作ってあります。久々の王道の『ソニック』でありますし、難易度は抑え気味なので、ストーリーを楽しみながら皆さんがエンディングまで走り抜けてもらえると思います。上級者の方には歯応えのあるチャレンジステージも用意してありますので、ぜひ挑戦してみてください。

大谷 今回は制作期間が長く、レコーディングでも東京、ロサンゼルス、ロンドンと飛び回ったので、『ソニック』にふさわしいインターナショナルなサウンドを仕込むことができたと思います。僕は毎回“みんなのお気に入りの一作”を更新したいと思って作っているんですけど、今回はサウンド面でもそれを塗り替えられるような仕込みをしてきたので、そう感じていただけたらうれしいです。

中村 プランナー的な仕事としてはシナリオ面にけっこう関わっているのですが、ライターとのやり取りの中で、ゲームとシナリオが融合したすごくいいものができあがりました。これまでの『ソニック』シリーズの中でも、もっとも融合した出来になったと思っているので、ソニックというキャラクターのカッコよさとゲームの楽しさを一度に味わってもらえるタイトルになったと思っています。アバターを作るところから感情移入していって、ソニックの相棒としてゲームの世界に浸ってもらい、改めて『ソニック』を好きになってもらえたらと思います。