角川ゲームスが放つ、タクティクスRPGの魅力を分析

 プレイステーション Vita、プレイステーション4用ソフトとして、角川ゲームスより発売中の『GOD WARS(ゴッドウォーズ) ~時をこえて~』。タクティクスRPGファンから支持され、発売から5日で全世界の累計販売本数が10万本を突破した本作は、いったいどのようにしてユーザーの心をつかんだのだろうか。本作の柱となる要素を紹介しつつ、その魅力に迫っていこう。

古代日本で展開される、現代へとつながる物語

 本作の舞台となるのは“瑞穂国(みずほのくに)”。現代からはるか昔、稲作や製鉄の技術が伝わったころの古代日本だ。ちなみに、日本に稲作・製鉄技術が伝わったとされているのは弥生時代。日本最古の歴史書、『古事記』に登場する神々が活躍した時代とも言われている。本作では、そんな『古事記』の世界と、誰もが知っているおとぎ話の世界を融合させた、独自の世界観で物語が展開される。

 主人公カグヤは、強大な霊力を秘めた巫女。母・ツクヨミの言いつけで、富士山の噴火を鎮めるための生贄として幽閉されていたカグヤは、その真意を問うべく、キンタロウ、クマとともに、失踪した母の姿を追う。その旅の道中、スサノオの息子で、美男子だが女癖の悪いオオクニヌシ(ちなみに、神話ではいろいろな女神と結ばれている)や、アマテラスの第一子で、文武両道に優れたモモタロウ、そんなモモタロウに劣等感を抱く第二子ウラシマなど、さまざまなキャラクターたちと出会い、その考えに触れながら成長していく。

『GOD WARS ~時をこえて~』“王道な感じ”の中に光る独自性がやみつきに。和風タクティクスRPGの魅力を紹介_01

 主人公であるカグヤはもちろんのこと、複数の国家が独立している瑞穂国で、中央集権的な国家を理想として野心に燃えるモモタロウなど、各キャラクターに、もとになった物語での設定に加えて、しっかりとした個性付けがなされている。そのため、非常に多くのキャラクターが登場するにも関わらず、それぞれの関係性を覚えやすい。

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 また、カグヤの行く手に、文化の発展によって自然が破壊されたことに怒り、“御魂(あらみたま)”に憑りつかれてしまった祟り神が立ちはだかるなど、現代に生きる我々にも通じる主題が扱われているため、物語の内容も容易に理解できる。

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 さらに、“大事に育てた娘がじつは月の住人だった”という物語『かぐや姫』がモチーフのキャラクター・カグヤが、『古事記』における月を神格化した存在で、夜を司る神・ツクヨミを母に持っていたりと、キャラクターどうしの関係性に注目するのもまた一興。ゲームをプレイして、このように「もしかするとそんな関係だったのかも」と、古代の日本や、昔話に思いを馳せるという体験は、本作以外ではまずない。

 余談だが、筆者がもっとも気に入っているキャラクターはモモタロウ。というのも、このモモタロウ、先述した通り、“古代日本にあって中央集権を目指す”という、言ってみれば、我が国初の中央集権を実現した大和朝廷の神武天皇のような立ち位置で描かれており、本作におけるもうひとりの主人公とも言える存在なのだ(モモタロウの出身地は、神武天皇と同じく九州・日向国)。そんなモモタロウと、『古事記』では国作りを完成させたオオクニヌシがライバル関係にあるのも、日本神話が好きな筆者はたいへんおもしろく感じた。本作はまさに、現代の日本で角川ゲームスが紡ぐ、壮大な神話であると言えるだろう。

“けがれ”を管理するユニークな戦闘システム

 本作における戦闘システムは、数あるタクティクスRPGの中でもじつに独特。とりわけ特徴的なのが、“けがれ”という概念と“職業”のシステムだ。まずは、けがれについて説明していこう。

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▲こちらが戦闘画面。戦闘中は敵、味方ともに、“俊敏力”というパラメーターの高い順に行動する。

 敵を攻撃したり、味方を回復したりすると、敵からの攻撃が集まりやすくなる、いわゆる“ヘイト”(敵対心)と呼ばれるシステムを導入しているゲームは多い。本作もその中のひとつだが、敵からの狙われやすさをけがれという数値で可視化している点で、ほかの作品とは毛色が大きく異なる。

 敵は、攻撃範囲にいるキャラクターの中から、けがれがもっとも高いキャラクターを攻撃してくるため、けがれの管理が勝敗を左右すると言っても過言ではない。けがれを一時的に上昇させたり、減少させたりするスキルも用意されているので、“打たれ強いキャラクターのけがれを上げて、攻撃を集中させる”など、パーティー内の役割分担がカギを握る、戦略性の高い戦闘が楽しめる。

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▲なお、スキルを習得するには、経験値といっしょに獲得できる“JP”というポイントが必要になる。
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▲おとりとなるユニットを召喚するという独特なスキルも。けがれの値は毎ターン変化するため、使用するタイミングは見極めなければならない。

 そして、けがれを管理するうえで、重要な地位を占めるのが、職業のシステムだ。各キャラクターは、“主職業”と“副職業”を自由に決められる。職業によって、発動できるスキルが異なるほか、主職業は、キャラクターのパラメーター成長率にも影響を及ぼす。職業システムはキャラクターのパーティーでの役割を決めるにあたって、大きなファクターとなるのだ。

 ちなみに、タクティクスRPGでは遠距離攻撃をメインに使う戦法を取ることが多い筆者は、本作でも、遠距離攻撃を得意とする職業“又鬼”を愛用。パーティーを構成する職業によって戦いかたが大きく変化するため、パーティーを編成しているときは非常に悩ましく、楽しい。

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▲主職業、副職業のほかに、キャラクターごとに異なる“固有職業”もある。固有職業では、そのキャラクター独自のユニークなスキルを習得できる。
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▲攻撃や妨害、回復など、じつに多種多様な効果のスキルが用意されている。

 キャラクターに職業を設定し、戦いをくり返すうちに、職業のレベルが上昇していく。レベルが特定の値に達すると、上位の職業が新たに開放。職業は上位のものになるほど、パラメーターにかかる補正が大きくなるほか、習得できるスキルも、より強力な効果のものに。それにより、戦いかたの幅も広がっていき、さらに深みのある戦術を立てられるようになる。そのため、現状よりもさらに上位の職業を開放するために、自然と戦地へと赴いてしまう。

 本作では、以上のふたつの要素が互いに絡み合い、戦闘のおもしろさを高い次元へとシフトさせることに成功している。

 なお、“敵よりも高い場所から攻撃すると与えるダメージが大きくなる”、“敵の背後からの攻撃は威力と命中率が上がる”など、オーソドックスなタクティクスRPGのシステムも取り入れた内容になっているため、往年のタクティクスRPGファンも、すんなりとゲームに入り込めるはずだ。

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▲戦闘の基本は、ゲームの最初にしっかりと説明してくれる。ふだんあまりタクティクスRPGをプレイしない人にも安心。

今後の展開からも目が離せない!

 日本神話も、タクティクスRPGも、こよなく愛する筆者としては、大満足の出来栄えだった本作。しかし、それゆえに、仲間になるキャラクターの中に、使いたいキャラクターが多すぎて、「育成が追いつかない!」、「パーティーの出撃枠が足りない!」といったうれしい悲鳴も……。また、スキルをすべて習得した職業でも、JPが溜まっていくのがもったいなく感じるため、何か別のものに変換できるしくみがあると、なおいいかもしれない。7月7日からは追加シナリオ“日向の未来”と“新たなる敵”も配信開始となり、さらに活気付いている本作だが、個人的には、レベル上限の開放や、新たな上位職業も欲しいところ。さらなる進化への期待は高まるばかりだ。