ゲームだけではないグローバルな歴史保存活動

 Wargamingがサービス中のオンラインタンクバトル『World of Tanks』。2017年7月に、本作の開発の拠点となっているベラルーシ・ミンスクのオフィスを訪れる機会を得た。本稿では、Wargamingのグローバル・スペシャルプロジェクト・ヘッドのAlexander Bobko氏に話を伺い、Wargamingが進める“スペシャルプロジェクト”の活動を紹介する。

戦車の修復からVR展示、映画や音楽とのコラボまで――Wargamingが進める“スペシャルプロジェクト”の活動とは?【WoTミンスク取材 その3】_01
▲Wargaming グローバル・スペシャルプロジェクト・ヘッドのAlexander Bobko氏。

 まずは、“スペシャルプロジェクトの概要について。Wargamingでは、博物館と協力した歴史保存(戦車の修復や資料保存、企画展示など)をはじめ、映画や音楽とのコラボレーションなど、ゲーム以外の部分で、幅広い人を対象に興味を持ってもらえるよう、さまざまな活動をしており、それを“スペシャルプロジェクト”と呼んでいる。

 今回の取材では、ベラルーシ・ミンスクにある軍事博物館“スターリンライン・ミュージアム”の見学もツアープログラムに組み込まれていた。このスターリンライン博物館では、戦車の修復のための資金援助を行っており、実際に修復された戦車や修理の様子も見ることができた。

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▲Wargamingの協力の元、発見・修復されたT-34-76。すべてがオリジナルのパーツではなく、7両の車輌のパーツを組み合わせて再現されたという。
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▲砲塔には被弾した痕が生々しく残っている。
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▲こちらもWargamingが協力してレストアした車輌、KV-1。

 ここにあるT34とKV1は、スターリンラインの職員と、Wargamingのスタッフが協力してレストアしたもの。T34は、2013年に発見されたもので、KV1は2016年から修復作業をが行われている。KV1は、コロバノフ軍曹という軍人の名前を取った車輌で、『World of Tanks』のゲーム内にもコロバノフ勲章というものがある。コロバノフ勲章は、ゲーム内でさまざまな功績を残したプレイヤーに与えられる非常に高いランクの勲章となっている。

 イギリスのボービントン戦車博物館では、シュトルムティーガーのARプロジェクトを実施している。本プロジェクトでは、Microsoft Hololensを通して、シュトルムティーガー戦車の動きや、分解、砲塔からの射撃、そしてタンク内部の様子を体験可能。

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 Wargamingでは、VRやAR技術の研究をしており、それらを使ったゲームモードのテストをしているものの、実際にゲームへ導入することは現在予定していない。今後のVR機器の普及や、モバイルデバイスの成長次第では、視野に入れていきたいとのことだ。

 また最近では、映画『ダンケルク』やスウェーデンのウォー・メタル・バンド“サバトン”とコラボレーションなどのエンターテイメント分野での活動も精力的に行っている。

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 SABATON(サバトン)の楽曲には歴史に関連したものが多く、ライブパフォーマンスでは戦車をステージに設置するほどの戦車マニアであり、Wargamingとしては非常にシナジーを感じていたという。今回のコラボ実施の経緯としては、Wargamingが協賛したロンドンの音楽フェスティバル“Golden God”にて、SABATONがアワードを受賞したという理由もあるようだ。また、スウェーデンの技術ツリーが追加時にアンバサダーを決める際に、多くのファンからSABATONを熱望する声があったという(実際には俳優のドルフ・ラングレンがアンバサダーに就任)。なお、SABATONとのコラボレーションの具体的な内容は今後公開される予定となっている。「ゲームとはまったく違った視点からのプロジェクトとなるので、今後の展開に注目してほしい」とAlexander氏は語った。

 ほかにも、戦争被害にあった子どもたちを支援するチャリティプログラム“ウォー・チャイルド”へのサポートも記憶に新しい。こちらは、ヨーロッパのスペシャルプロジェクト・チームが担当しており、そのメンバーにはWargamingのミリタリーアドバイザーを務めるリチャード・カットランド氏もいる。彼は"チャレンジャー"と呼ばれている元・戦車兵。プロジェクトの中には彼が主導するプロジェクトも存在しており、戦災孤児以外にも退役軍人を対象としたものや、ミリタリー関係のサポート、募金など、多くのプロジェクトに取り組んでいる。

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 最後に、こういった一連の活動“スペシャルプロジェクト”が目的としているのは何か? そして目指すところはどこなのか? Alexander氏に伺った。

 スペシャルプロジェクトの目的は、ゲーム本編だけではなく、戦車やそれが持つ歴史、映像、音楽を含む、さまざまなエンターテイメントを通じて、Wargamingに興味を持ってほしいということ。また、プレイヤーに対しては、コラボなどを楽しんでもらいながらも、歴史を知ってほしいという、エデュケーション的アプローチとしての意味合いもあるとのこと。

 スペシャルプロジェクトでは、ひとつ先のトレンドを提案したり、本来ゲームでは考えられてないようなことを先取りして進めるプロジェクトが多いという。戦車の修復や、資料の保存によって歴史を知ってもらうことも重要だが、そこに新しい技術を取り入れて、プレイヤーや歴史ファンとのつながりを作っていきたいとの考え。VRやARなどを使用した展示にはそういった側面もあり、より多くの方に素晴らしい体験を伝えていきたい、と意気込みを語った。

 そして、「日本のプレイヤーコミュニティ向けのスペシャルプロジェクトもぜひ実施したいと考えています。どういった形のプロジェクトになるかはわかりませんが、そのときはぜひ日本のファンに楽しんでいただきたい」と、Alexander氏は日本ファンに向けた企画についても意欲的な姿勢を見せた。

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