ふたり目の教え子の存在感

 2017年6月23日に配信がスタートした『サマーレッスン アリソン・スノウ』。宮本ひかりに続き、ふたり目の“教え子”となるアリソン。アメリカ・ロサンゼルスで開催されたゲーム見本市、E3 2015のタイミングにて公開されたこちらの動画を視聴した人の中には、アリソンに会える日を心待ちにしていた方が多かったことだろう。

■Summer Lesson - VR Tech Demo - E3 2015

 待ちに待ったアリソンとの出会いだが、レビューを伝える前に『サマーレッスン』の立ち位置について私見を述べておきたい。“VR元年”と言われた2016年。競うようにVRが取り扱われていたこの年に、プレイステーションVRの認知拡大と普及を牽引したのが『サマーレッスン』である。発表からこれまで、数多あるVRコンテンツの中で『サマーレッスン』は独自の方向性を示唆し続けてきた。『サマーレッスン』シリーズのプロデューサー兼ディレクターを務めるバンダイナムコエンターテインメントの玉置絢氏の言葉がそれを端的に表しているだろう。

 「ゲームとしてちゃんと作らなければならない、という方向に偏りすぎてしまうと、VRのキャラクター体験としては「どうなんだこれ?」となってしまう危険があって。落とし穴というか、“VR体験とゲーム体験”のバランスの崖っぷちをずっと歩いているけなんです。しかもその崖からわりと落ちやすい。それは我々がふだんゲームを作ることに慣れているからなんです。でも、『サマーレッスン』では、ゲームがやりたいから買ってもらうのではなくて、宮本ひかりちゃんがこんなに近くにいてドキドキする、ということを第一にしたかった」。

 『サマーレッスン』は、コミュニケーションに特化したVRコンテンツだ。世の中に溢れる、さまざまなVRコンテンツの中に、これほどコミュニケーションに特化したものはない。誤解を恐れずに言えば、『サマーレッスン』はゲームではない。ゲーム独自の文化とVRを融合させた、バンダイナムコエンターテインメントだからこそ生み出せたVR体験である。

 そのほか、玉置氏は「家庭用ゲームにVRが根付いていくには、チャレンジしなければいけない、というのが頭にあった」と語っている。つまり、『サマーレッスン』はほかの人が登ろうとしない険しい山道を切り拓こうとしているのだ。このスピリッツを僕は全面的に支持する。前置きが長くなったが、それを踏まえてのレビューと思っていただきたい。

 さて、アリソンである。簡潔に感想を述べると下の4文字となる。

 かわいい。

 これだけ前振りをしておいてこの感想か、と批判されるかもしれないが、これが飾らない正直な感想である。形容する言葉が見つからないほど、アリソンはかわいらしい。レッスン開始前に受けたアリソンの説明は「海外のアーティストがマネージャーに無断でお忍び来日」という設定であったため、「現実味がない」と若干冷めた方もいただろう。ただ、アリソンと初めて出会うシーンでは誰もが衝撃を受けるはずだ。屋外というシチューエションが成し得た、目の前に立つ日の光をあびた金髪碧眼の美少女。こちらの動きを止めるほどの存在感。それほどアリソンの存在感は際立っている。加えて、振り向きざまの仕草、居眠りから起きたときの表情、こちらの体調を気遣うやさしさなど、動きのいずれもが丁寧に作られており、もっとコミュニケーションを取りたくなる。正直なことを言えば、アリソンが話す片言の日本語は現実味に欠ける。だが、だからこそアリソンの表情の豊かさと自然な仕草、素朴で繊細な受け答えから目が離せなくなる。ちなみに、アリソンが歌う主題歌“Here I Am”も、何度も聴きたくなるすばらしい楽曲だ。

“VR2年目”に現れた『サマーレッスン:アリソン・スノウ』プレイインプレッション_01
“VR2年目”に現れた『サマーレッスン:アリソン・スノウ』プレイインプレッション_02

 ここからは冷静に、『サマーレッスン:宮本ひかり』と比べて気づいた点をお伝えしていく。

■気づいた変更点

・選択の難度が低くなった。
・解答後に正解が表示される。
・ガッツが下がりにくくなっている。
・視線追従に範囲が設けられており、範囲を超えるとこちらを目で追わなくなる。

 もっともうれしい変更は、選択の難度が低くなったことだろう。この変更によってアリソンとのコミュニケーションに集中できるようになっている。また、ガッツが下がりにくくなっている点やレッスン後の映像が短くなっていることもうれしい変更点だ。 ただし、不満点がいくつかあるのも事実。VR空間のグラフィックを通常のゲームと比べるのは筋違いかもしれないが、没入感に関わる部分であるため、あえて述べさせていただく。どうしても周囲にあるオブジェクトのグラフィックに悪い意味で目がいってしまう。アリソンのクオリティーが高いぶん、人物以外のオブジェクトに違和感を感じてしまうのだ。頭上には青い空。眼前に海が広がる日本的な庭。その場所にいる時間が長くなれば長くなるほど、どうしても周囲にある物を記憶してしまう。風鈴の動き方にパターンがあること、漢字知識の練習時には特定の文字が並ぶことをプレイヤーは覚えてしまう。繰り返しプレイを行う本作の宿命なのかもしれないが、次回作があるのであればこの点は改善されることを望みたい。そのほか、ゲームシステム的に気になったのはレッスン後に同じセリフを何度も繰り返し聞くことになってしまうこと。周回プレイを楽しめる要素が何かしらあれば……というのが正直な感想だ。たとえば、トークアプリにてアリソンの意外な一面を知ることができるように、周回ごとにアリソンの知られざる面がわかるなど、プレイヤーがよろこぶ要素がほしかったところ。そうそう、トークアプリと言えば、アリソンとは別の意味でかわいかったのが“本社”の鵜飼さん。鵜飼さんのセリフは多く、さりげなく新たな生徒の情報も……。「次回作では鵜飼さんを」という要望もチラホラ見られることから、鵜飼さん人気も高まっていることを感じた。

 また、これは特別にバンダイナムコエンターテインメントで体験させていただいたのだが、追加コンテンツ『サマーレッスン:アリソン・スノウ エクストラシーン 応援編(衣装&シチュエーション)』でのチア衣装によるシチュエーションの破壊力がすさまじい! 配信前であるため詳細は述べられないが、このシチュエーションが体験できるというだけでプレイステーションVRを購入した甲斐があったと感じたほど。追加コンテンツが配信された暁には毎日チアシチュエーションを体験するだろうという確信めいた予感を感じた。“ふたり目の教え子”として強烈な存在感を示したアリソン。アリソンと過ごした日々は、“VR2年目”の夏の記憶として、長く語り継がれるはずだ。

“VR2年目”に現れた『サマーレッスン:アリソン・スノウ』プレイインプレッション_03

■「サマーレッスン:アリソン・スノウ 」第2弾PV