物語はアラミゴと東方地域の2本立て的な作り

 『FFXIV』の次期拡張パッケージ『紅蓮のリベレーター』は、バトルシステムの部分に関しては全貌が見えてきた。その一方でシナリオについては、アラミゴとドマの解放を目指すというゲームの目的は明らかになったものの、それ以外の部分はいまだ謎のベールに包まれたままだ。そこで、本作でシナリオをご担当されている、世界設定/メインシナリオライターの織田万里氏と、メインシナリオライターの石川夏子氏に登場いただき、『紅蓮のリベレーター』の物語の見どころを聞いてみた。

──おふたりは、『FFXIV』のシナリオ全般を手掛けてらっしゃるのですか?

石川夏子氏(以下、石川) 私たちの部署自体は、シナリオがメインの業務というわけではありません。『FFXIV』のクエストを作成する部署がありまして、その中でシナリオ業務にも携わる形になっています。私は、おもにパッチ3.2以降のメインシナリオと、『紅蓮のリベレーター』のメインシナリオを、それぞれ織田と半分ずつ担当しています。

──具体的に、どのあたりの物語を担当されてきたのですか?

石川 『新生エオルゼア』でいうと、クルザス中央高地編(オルシュファンの物語)や双剣士のクラスクエストなどです。『蒼天のイシュガルド』では、暗黒騎士のジョブクエストなどを担当しました。

──すべて心に残るお話でした(笑)。

石川 ありがとうございます(笑)。

──双剣士だけでなく、忍者のジョブクエストもよかったです。カラスがいい味を出していて(笑)。

石川 申し訳ないんですが、私は双剣士までの担当で、忍者は別のスタッフが書きました。「忍者の人」と呼んでいただけることがあるのですが、そのたびに心苦しい気持ちになって……(苦笑)。

──そこまで細かく担当を分けると、シナリオ全体の整合性を取るのが難しそうです。

石川 リリースの速度や必要なテキスト量にあわせて、私たちの中では担当の入れ替えが結構頻繁に行われるので、お互いの(シナリオを)読んで対応しています。チェック体制も、スタッフの入れ替えを念頭に置いたものになっていますので、とくに問題ありません。

──根幹となるシナリオがすでに決まっているから、どの担当の方が描いても物語がブレないのでしょうか?

石川 そうですね。その根幹部分さえ守ってくれれば、後はそれぞれ好きにしてくれてもいいよ、みたいなところがすごく大きいです。書式はチーム内でテンプレートみたいなものがあるので、担当替えが行われてもスムーズに業務が進むようになっています。

──シナリオの制作は、積み上げていくタイプの仕事かと思うんですが、その部分につらさを感じたりしますか?

石川 私は、「やりすぎた」とか「受け入れられないのでは」という思いと常に戦いながら書いているので……自分自身との戦いです。

──織田さんはいかがでしょう?

織田万里氏(以下、織田) 石川と同じイベント班という部署のほかに、世界設定班という謎のグループがありまして、こちらにも併せて所属しています。いままで携わってきたシナリオでいうと、学者のジョブクエストは継続的に担当してきました。ほかにも『蒼天のイシュガルド』のメインシナリオと、パッチ3.1以降に追加された、いわゆる“奇数アップデート”のメインシナリオも担当しています。

──学者のクエストもよかったです。海洋都市ニームの成り立ちみたいなところが、謎の奇病を通じてひと通りわかる内容でした。

織田 ありがとうございます。

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▲かつてマハやアムダプールと覇を競った、海洋都市ニーム。この都市国家を襲った未曽有の危機が、学者のジョブクエストで語られる。

──『新生エオルゼア』や『蒼天のイシュガルド』当時と比較して、『紅蓮のリベレーター』の制作で何か違いはありましたか?

織田 『蒼天のイシュガルド』との違いでいうと、メインシナリオを(石川氏と)ふたりで分けて担当しているのがいちばん大きいところです。いわゆる3.Xシリーズ制作の途中からそういう体制になったのですが、そこがひとつのポイントかなと。

──なるほど。

織田 『蒼天のイシュガルド』当時は、イシュガルド(が舞台)という1本の大きな柱がありましたが、今回はアラミゴと東方地域という2本の柱があります。そこも以前と比較して、若干違うところなのかなという気がしています。

石川 物量的な面もあって、『蒼天のイシュガルド』もひとりでシナリオを書いていたわけではありませんが、今回はざっくりというと、西側のアラミゴと東方側という、わかりやすい(担当の)区分けになっています。私たちの気持ちとしては、2本立ての物語みたいなイメージです。

織田 そうですね。

石川 もちろん1本のお話にまとまって最後は帰結はするんですが、3.Xシリーズで行ってきた“交互に担当”を、ひとつのパッケージで実行した感じです。

──プレイヤーとしても、ある意味2本立てに近い感覚でストーリーが楽しめると。

石川 そうですね。一方で、『蒼天のイシュガルド』当時は、イシュガルド周りにすべてのリソースを投入できたんですが、今回は前回以上にたくさんの文化圏があるのでたいへんでした……。

──ベースとなる設定が単純に倍になっている感じですか?

石川 そうなんです。例えば箱を用意するにしても、前回はイシュガルド向けにひとつ準備すればよかったんですが、今回はギラバニアやアジムステップなど、さまざまな箱を用意する必要が出てきました。たくさんの文化圏のやりくりをどうしたらいいのか……リソースの分配は、すごく悩んだところです。

──ドマとクガネも、文化圏が似ているようで違いますよね。

石川 どこまでの設定を共通にして、あるいは(双方の)違いをどこまで出すべきか……といったところもたいへんでした。

吉田氏を交えた“合宿”で原案を作成

──今回は、石川さんや織田さん側から、“こういうふうな設定にしよう”みたいな感じで物語の原案が広がっていったのですか?

石川 『紅蓮のリベレーター』のメインシナリオの作りかたとして、今回は吉田(吉田直樹氏。プロデューサー兼ディレクター)から「アラミゴ奪還が目標となるストーリーのほかに、東方もやりたい」という話をもらいました。それを受けて、キーワードを世界設定班で協議し、新たに登場するフィールドの感じと、それらを訪れるざっくりとした順番を提案しました。

──吉田さんから、プロットが提示されてたわけではないんですね。

石川 そうです。ですので、吉田と織田と私の3人でシナリオ合宿をしました。

──お三方で合宿されたのですか!

石川 何しろ吉田は多忙のためなかなか時間が取れないので、合宿という体裁で時間だけ押さえてもらいました。やっていることは、たんなる打ち合わせです。都内の貸し会議室を確保して、朝から晩まで……(笑)。その日は「お疲れさまでした」と言ってふつうに帰宅して、また翌日に会議室にこもる日々です。

──それだけ長時間、吉田さんの時間を拘束するのはまさに合宿レベルです(笑)。

織田 あまりないですね(笑)。

石川 何日も合宿を重ねて、「こういう順番で(地域を回ろう)」みたいなところを決めました。おかげで、すごく詳細までネタが決まった部分もあったのですが……。

──決まらない部分も出てくるわけですね。

石川 “何かやる、以上”みたいな2行程度のコメントで終わった項目もありました(笑)。

──その合宿で大まかなプロットが決まったと。

織田 そこで仕上げたラフなプロットをもとに、地域ごとの担当者を決定。その後で、地域内で展開される物語の順番や、そこに登場するキャラクターといった詳細なプロットを組み上げていきました。それが完成したら、もう一度吉田にチェックしてもらう形です。

──吉田さんから、何かテーマを提示されたりしましたか?

織田 今回は泳げるようになるので、水中の要素は欲しいという意見はありました。とはいえ、“水推し”かと言われればそれほどでもないので……さほど強いテーマはなかったです。

石川 基本的に『FFXIV』は遊びやフィールドを決めたうえで、それを含めたシナリオを描くところがあります。もちろん今回もアラミゴの解放というテーマがあって、その中でたとえば「あまりきれいごとにしないでね」といった注文を受けたりはしました。ですがそれよりも、「これくらいのタイミングで泳げるようにしてね」といった部分のほうが重要度が高かった気がします。

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▲物語に沿ってフィールドが作られるのではなく、世界設定に根差したエリアを決めたうえで、それに関係するシナリオが構築されていくのだ。

──それが吉田さん流のゲーム作りなんですね。

織田 “ゲームプレイ重視”という部分は、吉田や前廣(前廣和豊氏。シナリオセクション:マネージャー)は徹底していると思います。

──合宿を終えた後、吉田さんと何かすり合わせのようなものは行わたのですか?

織田 細かいシーン構成に関して、石川の見えないところで吉田とガチガチやっていました。「うるさいやつだな」と思われたかもしれません(笑)。

──見えないところでバトルがくり広げられていたんですね。

織田 吉田はこちら側の意図を真正面から受け止めてくれたうえで、自身の考えを伝えてきます。そこをやらせてくれるのが、『FFXIV』チームのいいところなんだなと思っています。最終的に、「これで行こう」と決まってよかったです。念のため申しておくと、べつにケンカをしているわけではないですよ(笑)。

──それにしても、合宿とお聞きした瞬間、京都の別荘や河口湖畔のロッジを連想しました(笑)。

織田 優雅な感じで(笑)。

石川 でも実際は、都内の貸し会議室という(笑)。

織田 3人でラーメンをすすって……(苦笑)。

石川 オフィス街の周辺だったせいか、ラーメン屋さんが混んでいて。3人で並んで座って、急いで食べて帰るみたいな感じでした(笑)。

──あまり会話もなく……?

石川 はい(笑)。でも吉田は北海道出身のせいか、ラーメンにうるさいんですよ。吉田のラーメン評を聞きながら食べていました。

──ちなみに『蒼天のイシュガルド』のときは、どうたったんですか?

織田 あのときは「イシュガルドをやろう」という話が(吉田氏から)ありました。もともとイシュガルドはドラゴン族と1000年間戦争をしている国という設定があったので、おのずとその戦いを描くことになりました。そこから、世界設定班からフィールドの原案を出していった感じです。

──フィールドが、それほど物語に影響を及ぼしているとは思いませんでした。

織田 当時はフライングマウントが実装されることもあり、空をテーマにしたフィールドが欲しいというオーダーを受けていました。それを受けて雲海をはじめとする設定を盛り込んだうえで、“フィールド先行”という考えかたのもとで、冒険者が訪れる順番とストーリーを決めました。『蒼天のイシュガルド』では合宿みたいなことはせず、こちら側から提案したプロットをチェックしてもらった感じです。