プレイヤー間のコミュニケーションを誘発する細かな設計に唸らされた

 恒例のE3前の各社のカンファレンスも続々と行われた6月12日(日本時間)、エレクトロニック・アーツは引き続き独自イベント“EA Play”の2日目を開催した。前日のプレスカンファレンスで発表されたばかりの3Dアドベンチャー『A Way Out』のプレゼンを受けつつ、1ミッションを触らせてもらったので、その内容をお伝えしよう。

 まず簡単におさらいしておくと、本作は世界的大パブリッシャーであるエレクトロニック・アーツの中でインディーパブリッシング的な性格を持つ“EA Originals”レーベルの第3弾タイトル。開発は、小規模タイトルながら世界的に高い評価を受けた『ブラザーズ 2人の息子の物語』(日本ではスパイク・チュンソフトから発売)のメインクリエイターであるJosef Fares氏の新スタジオHazelightが行う。プラットフォームはプレイステーション4/Xbox One/PCで、海外では2018年の早い時期の発売を予定している。

完全Co-op限定の3Dアドベンチャー『A Way Out』をプレイ。生身の人間と協力して遊ぶうちに、チンピラオッサン2名の逃避行が段々沁みてくる【E3 2017】_01

 『ブラザーズ 2人の息子の物語』では、“ふたりのキャラクターをひとりで操作する”というゲームプレイを特徴としていたが、今回の『A Way Out』では完全に2人Co-op(協力)プレイオンリーで、ほぼ常時スプリットスクリーン(画面分割)されているという、思い切った仕様を敢行。オンライン経由での協力プレイも可能だが、基本はソファーに隣り合って遊ぶというスタイルを推奨している。
 ちなみに、インディーゲーム賞IGFの今年度ファイナリストを全作紹介した際にも触れたが、ローカルマルチプレイ/カウチマルチプレイは、昨今のインディーゲーム界隈で人気のテーマだ。

 今回触らせてもらったミッションは、レオ(細長い方)とビンセント(やや太い方)という本作の二人のオッサン主人公が、ガソリンスタンドで強盗するという内容。海外の他メディアの記者とプレイしたのだが、このゲーム、とにかくプレイヤー間のコミュニケーションを誘発しようと仕込まれているのが面白い。

 というのも、ゲーム開始する時点ですら、どっちのプレイヤーがどちらのキャラを使うか、ちゃんと分かれた状態で一緒に□ボタン(デモはPS4版)を押さないといけない。隣り合って遊んでいれば、自然と「どっち使いたい?」「じゃあ俺ビンセント行くわ」ぐらいの会話が始まるというわけだ。

 そして、ガススタンドの駐車場でのカットシーンでどっちが銃を持つかの会話になり、選択肢が表示されると、これもまた「これは俺持ってみたいな」「任せたぜ」と協力して決めることになる。こうなってくると、レジ前でとっととおっ始めるか選択肢が表示された頃には、もう協力で決める形式でないのに「これやっちゃっていいかな兄弟?」「おう始めちゃってくれ」と喋っているんだから(実話)、まさに狙い通りという奴である。

完全Co-op限定の3Dアドベンチャー『A Way Out』をプレイ。生身の人間と協力して遊ぶうちに、チンピラオッサン2名の逃避行が段々沁みてくる【E3 2017】_02
▲自らプレゼンしてくれたJosef Fares監督(本作のディレクターであり、本当に映画監督でもある)。ちなみにレオ(背景の右側のキャラ)を演じる俳優Fares Faresは監督の兄弟。「これは公開していないんだけどね」と、兄弟で「ベシッ」「ドカッ」と声を出しながらモーションキャプチャーをしている様子も見せてくれた。

 ちなみに、操作は非常にシンプルで、スティックでキャラを動かす以外は、今回のデモで使ったのはほぼ□オンリー。一方で色々と細かなネタが仕込まれていて、“店頭のガムを勝手に食ってみるとビンセントはマズがるが、レオは「お、ミントじゃん」とリアクションする”、“レオは店内のビールを勝手に飲めるが、ビンセントは棚から物を取って食える”といった具合に、ミッションの本筋ではない部分に性格の違いがそれとなく示されていたりする。こうしてふたりのプレイヤーとキャラクターが重なり合いながら、奇妙な関係が生まれていくのだ。
 シンプルな操作で映画的な深い描写の体験を見せることに特化しているという点では、『HEAVY RAIN -心の軋むとき-』や『BEYOND: Two Souls』で知られるQuantic Dreamの作風に結構近い部分もあると思う(ちなみにQuantic Dreamは映画的な表現という文脈で語られることが多いが、Josef Fares氏は実際に海外映画誌などに注目された新進気鋭の映画監督だった)。

 一方でゲーム的な分岐もちゃんとあって、ちゃんとうまく協力しないと、金庫を見に行っているあいだにレジ係が銃を持ち出したり、あらかじめ通信手段を断っておかないと通報されたり、誰も監視していない隙に客の一人が逃げ出して警察を呼びに行くといったイベントが発生する。記者の場合は出口付近の客に逃げられたパターンだった。
 完璧なプレイをしたいなら、恐らく「片方が金庫に行き、片方がその間の面倒を引き受ける」といった形でなんとかなるんだろうが、本作においてはハプニングに対するリアクションも楽しい部分のひとつ。画面が突然三分割になって警察が急行中なのが示され、「やべぇずらかるぞ!」「金庫から金は取った!」(これも実際にした会話)とドタバタとクルマに向かってキャラを走らせるふたりのプレイヤーの姿はもう、もうひとつのレオとビンセント、凸凹相棒コンビなのだ。

 プレスカンファレンスでの発表では海外ドラマ「プリズン・ブレイク」風の脱獄部分がクローズアップされていたが、Josef Fares氏いわく「もっといろんなシチュエーション、毎回のように違う協力の形がある」とのこと。別に見せてくれた先の場面のプレイ映像では、あえて画面分割なしでレオとビンセントが建物内を別々に逃げる姿が交互に示されるなんてというシーンもあった。果たしてこのコンビの明日なき逃走に出口(Way Out)はあるのか? まずは一緒に遊ぶ相手を探さなきゃなぁ、と思った次第である。