コジマプロダクションとタッグを組むゲリラゲームズとは?

 ゲリラゲームズは、『KILLZONE(キルゾーン)』シリーズや『Horizon Zero Dawn(ホライゾン ゼロ・ドーン)』を手掛けた開発スタジオ。小島秀夫監督率いるコジマプロダクションにも技術供与し、コラボレーションを行っている。今回は、ゲリラゲームズのマネージング・ディレクターであるハーマン・ハルスト氏の来日に合わせ、小島監督とともに話を聞いた。
(聞き手:ファミ通グループ代表 浜村弘一)

小島監督とゲリラゲームズのハーマン・ハルスト氏へインタビュー。ともに高みを目指すゲーム創りに迫る_01
▲左からゲリラゲームズ マネージング・ディレクターのハーマン・ハルスト氏(文中はハーマン)、コジマプロダクション ゲームクリエイターの小島秀夫氏(文中は小島)。

デス・ストランディング』とDECIMAエンジン

 コジマプロダクションが開発を進めているプレイステーション4用ソフト『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』は、ゲリラゲームズのDECIMA(デシマ)エンジンを採用。アメリカ・アナハイムで行われた“PlayStation Experience 2016”に合わせて公開されたトレーラーは、プレイステーション4 Proのリアルタイム4K映像で構成され、その実力を大いにアピールした。エンジンはゲリラゲームズとコジマプロダクション共同でブラッシュアップが続けられている。

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小島監督の絶対条件を満たすパートナー

浜村 小島監督は、現在制作中の最新作である『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』のゲームエンジンを探しに世界中を飛び回っていましたよね。その旅の結果、ゲリラゲームズのDECIMA(デシマ)エンジンを採用することになったわけですが、それはすんなり決まったのですか?

小島 パートナーを選ぶうえで絶対条件にしていたのが、“テクノロジー”と“人”のふたつです。この両方が合致していないといいものは作れないので、スタジオ回りに出た時点ではここまでしか考えていなかったんです。テクノロジーとひと口に言っても、グラフィックだけいいというようなエンジンはいっぱいあるんですよ。重要なのは、自分たちがそのエンジンを使って高みに上がれるかどうかです

浜村 そういう意味では、ゲリラゲームズの技術が群を抜いているのは『ホライゾン ゼロ・ドーン』を見れば一目瞭然ですね。

小島 そうですね。『ホライゾン ゼロ・ドーン』はオープンワールドタイプのゲームで、映像の密度もすごい。キャラクターはもちろん、環境の変化などもリアルタイムで制御されていて、そのテクノロジーの高さは世界中のスタジオを回った中でもナンバーワンでした。僕たちが目指しているものにいちばん近いなと。

浜村 あとは“人”の部分になりますが。

小島 長い付き合いになるので、作っている人たちと気が合うかどうか、情熱を共有できるかですね。僕は偏屈なので、相手も同じように偏屈じゃないとダメなんですよ(笑)。

浜村 ゲリラゲームズはテクノロジー的には文句なしで、人の部分でもピンとくるものがあったわけですか?

小島 ええ。最初、僕らはゲリラゲームズさんにゲームエンジンだけを提供してもらうものとばかり思っていたのですが、彼らはそれではイヤだと言ってきたんです。

ハーマン 「いっしょに作りましょう」と小島さんに言いました。ゲームエンジンは私たちゲリラゲームズが作ったものですが、ここから先はお互いにやり取りをしながら、ステップを上っていきましょうと。

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小島 そんな提案をしてきたのは、ゲリラゲームズさんだけですよ。その後、まだ契約も交わしていないのに「これに全部入っています。使ってください」とゲームエンジンのソースコードが入ったメモリーを手渡してきたんです。彼らの10年ぶんの血と汗が詰まった、まさに命のようなものをですよ

ハーマン 「箱」に入れてね(笑)。あれはまだ持っていますか?

小島 もちろんです。帰りの飛行機はドキドキでしたよ。守秘義務とかそういうレベルじゃない。僕らは自分たちのことをけっこうふつうじゃないと思っていましたが、この人たちもふつうじゃないなと(笑)。

浜村 胸が熱くなりますね(笑)。

ハーマン 我々とコジマプロダクションがコラボレーションして、ゲームエンジン自体も進化させるという目標を作ったのです。

小島 でも、問題はここからです。僕たちとしては、DECIMAエンジンを使いたいという気持ちはあるものの、本当に使えるかどうかという精査を3〜4ヵ月かけて行いました。最終的にエンジンを決めるにあたって、いっしょにエンジン探しの旅に出たマーク・サーニー(プレイステーション4のリード・システムアーキテクト)と話し合い、自分たちなりの条件を設けていたのです。

浜村 超えなくてはならないハードルがまだ残っていると。

小島 それは、エンジンの提供元が作っている主力商品と似たようなものしか作れないようでは相手に迷惑がかかってしまうので、そこは見極めようということです。

浜村 ゲリラゲームズのタイトルで言えば、『キルゾーン』や『ホライゾン ゼロ・ドーン』ということになりますか。

小島 そうですね。たとえば、FPS向けのゲームエンジンならFPSを作るのがいいですし、ツールも共通だと絵の雰囲気も似てきます。当然ですよね。僕らは、ゲリラゲームズさんのエンジンを使いつつ、自分たちのゲームを作らないといけない。正直、最初はできるかどうか不安だったのですが、検証を重ねていくうちに「これならいける」と。

浜村 そうして両者の協業が始まるわけですね。エンジンをいっしょに作るというのは、具体的にはどんなやり取りをされているのですか?

小島 同じエンジンを使うとはいえ、僕たちとゲリラゲームズさんとでやりたいことはちょっと違います。『ホライゾン ゼロ・ドーン』はカラフルでアートな世界。僕らが目指すのはフォトリアル。だから、フォトリアルに適したエンジンやツールにするために、いろいろと改良を加えていきます。僕らが彼らに質問して直接手を入れることもありますし、要望を伝えて直してもらったりもします。僕はカットシーンが得意ですが、DECIMAエンジンは僕が使いたいようなツールにはまだなっていません。彼らと協力してそうした部分を作っていくわけですが、こちらからもノウハウを提供することで、彼らも同時にそのツールが使えるようになるのです。

浜村 すばらしい協業の形ですね。

ハーマン コジマプロダクションのエンジニアの方からいただく質問は非常にレベルが高く、かつ彼らの書くコード(プログラム)はとても美しい。DECIMAエンジンをともに進化させていくのにふさわしいパートナーだと思いますね。

浜村 小島監督のあまりのこだわりに、面を食らったりはしませんでしたか?(笑)

ハーマン コジマプロダクションの方たちは、ディテールへのこだわりが尋常ではありません。たとえば、アニメーションのリグ(自然な動きにするための機構)の微細な不備に気づき、「計算が違う」と指摘してきます。こちらは「え、本当に?」と調べてみるまでわからないほどで。そのきめ細かさにもリスペクトしています。

浜村 お互いの尊敬と信頼を感じますね。僕個人としても、小島監督を応援してくれて本当にうれしく思っているんです。

ハーマン (無言で拳を出す)

浜村 (無言で拳をぶつける)

一同 (笑)。

ハーマン 伝説的なゲームクリエイターとして小島さんを尊敬しています。今回の協業は、いきなり知らない人がゲリラゲームズにやって来て「エンジン使わせてくれ」というのとはわけが違うのです。コジマプロダクションとコラボレーションできることは非常に光栄ですし、テクノロジーや学んだことをシェアするというのは、ゲリラゲームズのカルチャーでもあります。『ホライゾン ゼロ・ドーン』を送り出したいま、今度はコジマプロダクションが改良したコードを共有させてもらって、DECIMAエンジンをよくしていきたいですね。

小島 DECIMAエンジンの“デシマ”には「出島(でじま)」という意味も含まれているのですが、僕たちが船出しようとしたら、逆にDECIMAがオランダから来たという感じです。

ハーマン まさしくそうです。DECIMAエンジンをコジマプロダクションとともに磨き上げ、今後もすばらしいゲームを作ることができる。これはお互いにとって、最高の環境と言えるでしょう。

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