『鈴木爆発』は本気で100万本売ろうと思って作っていた

 2017年5月20日、21日に京都勧業館 みやこめっせにてインディーゲームの一大祭典“A 5th of BitSummit”が開催。21日のメインステージには、ゲームディレクターの四井浩一氏とゲームプロデューサーの安藤武博氏(シシララ代表取締役)が登壇。“『鈴木爆発』『ストライダー飛竜』通好みのゲームはどのようにつくられるのか?”というテーマでトークをくり広げた。

「本気で100万本売る気だった」シシララ安藤氏と『ストライダー飛竜』の四井氏が『鈴木爆発』を語る【A 5th of BitSummit】_01
▲四井浩一氏(写真左)と安藤武博氏(同右)。

 対談は、ふたりでゲームを手掛けたこともあるという四井・安藤コンビが、過去の作品を振り返りながら進んでいった。まずは1989年、カプコンのプランナーだった四井氏のデビュー作であるアーケードゲーム『ストライダー飛竜』。当時はプランナーがなんでもやる時代で、タイトルロゴもイラストも四井氏が「はい、自分で描きました」。安藤氏は「海外にも熱狂的なファンがいる作品。当時のアクションゲームとしては自由度が高い動きをするところがユニーク」と解説した。

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 つぎに、時は流れて2000年。安藤氏と四井氏が出会い、いっしょに作ったのが、当時のエニックスからプレイステーション向けにリリースされた『鈴木爆発』だった。実写の写真で進んでいくゲームで、日本人の鈴木さんという女性が、つぎつぎと変わった形の爆弾に出会ってしまい、解除に挑戦するという内容だ。「初代プレイステーションのころは、大手もあまり売ることを考えずに自由にゲーム作りができた。ちょうど、いまの“BitSummit”の雰囲気に似てるのかな」と安藤氏。四井氏は「従来までの固まっているシステムのものを作るのはつまらないので、新しいジャンルを作りたいと思っていた」と語った。

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 しかし、当時は「本気で100万本売るつもりで作っていた」(安藤氏)のだそうだ。というのも、ちょうど『パラッパラッパー』や『俺の料理』などのユニークなゲームが数多くリリースされ、100万本を超えるタイトルもあった時代で、ユニークなゲームを作れば売れると思っていたのだとか。また、映画や音楽のようなポップカルチャーとして、ゲーム好き以外にも楽しんでもらうため、裾野を広げようと実写などを採り入れた結果、なぜか“通好み”と言われてしまう結果となった。それでも10万本は売れ、商業的にはOKだったという。

 ちなみに、安藤氏は当時エニックスで「同じものを作るな」と上司から言われていたことを明かした。あの『ドラゴンクエスト』だって、当時の日本でほかには見当たらないオリジナルゲームだったということで、とにかく新しいものを作っていこうというムードがエニックスにはあったのだそう。その結果、『せがれいじり』や『アストロノーカ』など、“通好み”なゲームがエニックスから登場することになったとのこと。

ハンドルとアクセルとブレーキを使わないレースゲームはお蔵入りに

 ところで、四井・安藤コンビの携わった企画には、開発中止となったタイトルも。プレイステーション2用の『マッドスティック』という作品で、ハンドルとアクセルとブレーキを使わないレースゲームを作ったらどうかという試みだった。すると、カメラを自由に置けるようになり、まるでハリウッド映画のカースタントのような映像を撮ることができたという。では、どのように操作するのかというと、右のアナログスティックを激しく回すと危険な運転をし、左のアナログスティックを激しく回すと安全運転をする設定だったらしい。

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 四井氏にはこのほかにも、ホットパンツ姿の女の子が汗だくになりながら蚊を叩くゲームなど、没になった企画がいくつかあったということだ。また、安藤氏はその後もけっこうヘンな“通好み”のゲームをリリースしていった。たとえば、2008年にiPodがまだクリックホイールの時代に『ソングサマナー』という音楽と連動するRPGを作ったり、2010年、まだスマートフォンでは誰も本気でゲームを遊ばない時代に、iPhone向け本格派RPG『ケイオスリングス』を作ったり。しかし、“通好み”でもうまくいくこともあり、後者は100万ダウンロードを達成している。

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 そして、ふたりは2011年、『ムーンダイバー』というアクションゲームで再びタッグを組んだ。安藤氏的には「『ストライダー飛竜』をプロデュースさせてくれ」という感覚だったそうだ。当時、安藤氏は『ストライダー飛竜』に影響を受けたであろう『キャッスルクラッシャーズ』というインディーゲームを見て、奮起したのだとか。

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 さて、安藤氏は「ゲームは飛行機にたとえると、ここまで飛ぶだろうという予想がぜんぜんできないもの。ライト兄弟のライトフライヤー号も、最初は数10メートルしか飛ばなかったと思うが、ライト兄弟の頭の中では大西洋も太平洋も超える気だったと思う。でも、実際は飛ばないときもあるし、数100メートル飛んで終わりということも」といい、クリエイターが最初から“通好み”を狙っているわけではないことを説明した。そして、「つぎは“通好み”にならないように、みなさんにたくさんダウンロードしてもらえるようなゲームを作っていきたい」とトークを締めくくった。