自分の作りたいゲームを作る苦労とは

 2017年5月20日、21日に京都勧業館 みやこめっせにてインディーゲームの一大祭典“A 5th of BitSummit”が開催。同イベントにて、アーケード専用ゲーム『Killer Queen』を手掛ける、BumbleBear Games CEO/ゲームデザイナーのNikita Mikros氏によるセッションが行われた。その内容をお届けする。

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▲BumbleBear Games CEO/ゲームデザイナー
Nikita Mikros氏

 「インディーのゲームはいくつか作っているが、“インディーゲームを作りたい”訳ではなく、“人が遊びたいと思えるゲーム”を作っている」と語り始めるMikros氏。趣味としては1982年からゲームを制作しており、仕事として作り始めたのは1997年。2005年にはTinymantisというスタジオを立ち上げている。Tinymantis在籍時は、外注で企業のPR活動の一部として、ゲームを制作していた。
 Tinymantisでは7年ほどこういったゲームを50個は作ったそうで、「中には良いゲーム、悪いゲームもあったが、小さいプロジェクトのゲームを時間内に安く作り上げる能力が鍛えられた」とのこと。金銭的にも問題はなかったが、制作したゲームをより素晴らしいものにする時間と余裕はなかったと、苦労を明かした。

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 当時は、自社ライセンスを使ったゲームを作り上げ、売り上げで開発資金を得て自分たちの作りたいゲームをまた作る……という流れを想定していた。しかし、時間が経つにつれて自分が作りたいと思えないゲームを、「自分や部下の給料を払うために仕方がなくやっている」という状況に陥ってしまったという。まさに、“自分の生活を支えるためだけに仕事をしていた”とのこと。
 そんな生活をくり返していると当然、「自分はなにをしているのか? こんな人生でいいのか?」と考え始めるようになる。そこで、オリジナルゲーム『Propaganda Lander』を制作してみたが、評価のわりにはあまり収益は見込めず……。『Propaganda Lander』を開発・リリースしたことにより、いままで以上に委託業務を受け入れていかなければいけない状況を作ってしまったのだ。さらに、その頃には東ヨーロッパや南米のスタジオに委託するほうが安いこともあり、仕事が安いスタジオに流れていったり、仕事を委託されても安い外注に再委託することが多くなったそうだ。

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▲『Propaganda Lander』

 そんな辛い人生を歩んでいる中、Joshua DeBonis氏と出会ったMikros氏。同じような業界で働くJoshua氏と意気投合したそうで、ビデオゲーム業界で働くMikros氏とボードゲーム制作を行ってきたJoshua氏はお互い勉強になることがとても多かったと言う。そこで、身体を動かして遊ぶアナログゲーム『Pigeon Piñatas』や、ATARIへのオマージュとなる、ターザンロープを使って遊ぶ『Pitfall! Live at the Tank』と、ふたりの知識を融合させたゲームを開発していった。

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 3つ目のプロジェクトとして制作したのが『Killer Queen』のもととなった『Killer Queen Field』。こちらも身体を使ったゲームシステムで、数人によるマルチプレイ対決を採用。この3作目にして、「自分たちの“やりたい・作りたいゲームへの思想”ができあがってきた」と語る。以上の3作品はアナログゲームに部類されるもので、プログラム技術は不要で、ゲームデザインだけに集中できたことがとてもよかったとMikros氏。また、いい意味でたがが外れた物を作ることができたので、「自分の先入観をぶち壊して、視野が広まった」そうだ。

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▲『KillerQueen Field』は、5人対5人のチームに分かれて対決するフィールド向けゲーム。詳しいルールは説明されなかったが、勝利条件は3つあり、(1)相手の女王蜂を3回殺すと軍事的勝利(2)食料を相手チームより多く手に入れると経済的勝利(3)そしてカタツムリに乗ってをゴールに入れるとカタツムリ勝利となる。

 そこでつぎは、身体を使った遊びとして高く評価された『Killer Queen Field』を、ビデオゲーム化することにしたふたり。ダウンロード専売ではなくアーケード専用にし、サウンド、プログラム、デザイン、さらにアーケードの筐体も自分たちで作るこだわりっぷりだ。
 そうしてできあがった『Killer Queen』は瞬く間に人気を博し、アーケード筐体を販売してほしいとたくさんの声をもらうまでに注目を浴びる。Mikros氏は自身の会社とJoshua氏の会社を合併させた“BumbleBear Games”を設立し、『Killer Queen』を量産していくことになった。

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 いまやハードコアなファンも増え、全米大会を開催するといった人気を確立するまでに。ファンからは「引っ越しをして寂しい思いをしていたが、『Killer Queen』友だちができた」、さらには「『Killer Queen』でパートナーと出会い、結婚した」という報告があると紹介する。「『Killer Queen』を遊んでくださっているファンが、優しい心をもってゲームに取り組んでくれていることがともてうれしい」と、Mikros氏はファンに向けて感謝を述べた。

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 また、『Killer Queen』はTシャツといったグッズ展開も行っており、グッズの売り上げで得た利益を使って、大会に足を運ぶようにしているのだとか。グッズ制作はファンもおこなってよい仕組みを取り入れており、「自分たちもゲームをDIYのような感じで作った」というMikros氏は、「ファンもグッズをつくるときはDIY感覚で取り組んでほしいため、無料でアセットを提供している」という寛大な対応ぶりだ(収益の配分方法などは不明)。現在Tシャツ以外に変わったものだと、“Killer Queen DIPA Craft Beer”と呼ばれるビールが展開されており、「美味しいですよ」とMikros氏も太鼓判を押していた。

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 最後にMikros氏は、「自分たちはお金持ちかといわれると、そうでもない」と語りかける。開発者としてやっていくのは、どんな規模・状況でも難しいことであるとし、自分のクリエイティブな精神を失わずにいることがとても重要であると強調する。「『Killer Queen』を作り上げることができたこと、コミュニティを作り上げることができて、とても光栄に思っている」と感謝を述べ、セッションは終了した。

 今回の話は、ゲーム開発を「本業」とした人に向けてのものであり、「作りたいものを追求するか」、それとも「インディーゲームファンや世間的なニーズをどれだけ取り込むか」という考えの違いによっては、参考にしづらいものかもしれない。生き方なんて人ぞれぞれだし……と思う方もいるかもしれないが、Mikros氏は辛い状況の中でも腐らずに、理想を追い求めて努力していくことの大切さを教えてくれたように思える。

 なお、『Killer Queen』は日本展開も狙っているそうで、現在パートナーを募集中とのこと。ぜひよいパートナーを見つけて、日本上陸を果たしてほしい。

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▲Bitsummit会場にて