「大丈夫だ、問題ない」から6周年を迎えて

 2011年4月28日に発売され話題を集めた『El Shaddai: Ascension of the Metatron(エルシャダイ アセンション オブ ザ メタトロン)』(以下、『エルシャダイ』)が今年で発売から6周年を迎える。それを記念し、5月16日まで、新宿・ギャラリーエルシャダイにて“エルシャダイ6周年記念展”が開催中だ。本記事ではその模様をリポートするとともに、仕掛け人たちへのインタビューをお届けする。

『エルシャダイ』6周年記念展リポート&竹安佐和記氏に聞く「ギャラリーを作って、ファンの方々とより密接になれた」_02

 新宿・ギャラリーエルシャダイはギャラリーでありながらも、500円でフリードリンク制でWi-Fiや電源が使いたい放題の、ネットカフェのようなスポット。『エルシャダイ』に関するイラストも楽しむもよし、ゆったりとくつろぐのもよしと、居心地のいいギャラリーとなっている。

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 今回の記念展では、『エルシャダイ』イベントディレクター・永田太氏によるゲストイラストと、コミックや小説の新刊表紙に加えて、『エルシャダイ』のゲーム中のモデリングをレンダリングしたイラストが新たに展示されている。

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 また、6周年を記念し、『エルシャダイ』のレリーフが描かれた紅茶缶セットも限定販売されている。中には紅茶の葉と、クッキーが入っているそうだ。ちなみにこちらは、なんとファンの方々がデザインしたという。

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10年続く、神話構想を――

 今回のイベントを迎えて、『エルシャダイ』のディレクター&キャラクターデザインを務めた竹安佐和記氏と、外伝的小説『天使に絵を描きたかった男』の著者・富永民紀氏を交えてインタビュー。当時のお話や未来の構想などをお聞きした。

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――まずは、今回の記念展を開催された経緯を教えてください。

竹安 『エルシャダイ』は本当に不思議なコンテンツでして、6年前にゲームを出してからファンの方々に支えられて、6年も続けることができました。僕や漫画家さんが漫画を描いたり、小説を出したりしたおかげで、ファンの方々の栄養になったのかなとは思っていますが、6年も支えてくださっているファンのみなさんの熱意が、続けられた理由のすべてだと思います。みなさんへの感謝の気持ちも込めて、今回の記念展を開催しました。

――なるほど。個人的にですが、『エルシャダイ』のファン層は女性が多いイメージがあります。

竹安 そうなんですよ。90%以上、個展やギャラリーに来られるのは女性ですね。ゲームの購入者も半数以上は女性だとお聞きしていて、ゲーム業界のいろんな方面から珍しいと驚かれました。本当に変わったコンテンツです(笑)。

――そこまで多かったとは、改めて驚きました(笑)。「そんな装備で大丈夫か?」というセリフが2010年のネット流行語大賞にまでなったトレーラーですが、ここまで続けられるとは予想していたのでしょうか?

竹安 あの時点で、10年は続けようと考えていましたよ。どんなゲームを作る際も思っていますが、『エルシャダイ』は本当に2度とできないと思っていましたね。その後はいろんな派生作品を出すこともできましたし、自分のライフワークの一部になっています。

富永 おお、『エルシャダイ』は人生というわけですね。

竹安 そこまでではないですね。10年経ったらやめますよ(笑)。

富永 ええっ! 続けましょうよ!

――そうですよ!

竹安 それは冗談として、続けられるのであれば、これまでは僕がお話を提供してきました。『エルシャダイ』はもともと神話構想をテーマに作品を作り上げていったので、そのテーマをもとに、みなさんが新たなお話を作ってくれるような環境になるといいなと思っています。富永さんの書いた小説が、まさにそうですね。さすがにパブリックドメインとまではいかないですが、“クトゥルフ神話”のような感じで、設定をもとにいろんな人がストーリーを作ってくれるといいですね。

――今後もいろんな方々が書かれる予定はあるのでしょうか?

竹安 ええ、ありますよ。現在進行している小説もありますし、ほかにもいろいろと予定しています。まだまだみんなで、神話構想を使って遊んでいきたいですね。

富永 僕以外の作家さんもいろいろと進行中ですので、ぜひ楽しみにしていてください。

――お待ちしております! 6周年を記念して販売される紅茶缶も、竹安さんがデザインされたのですか?

竹安 じつはこれ、ファンの方々がデザインしてくださったんですよ。しかもありがたいことに、限定数個なのに、もうすでに店頭には10個ぐらいしか在庫がないほどインターネットを通じて売れています。もしかしたら、この記事が掲載されるころにはなくなってるかもしれませんね。

――ファンの方々が! とても熱心なファンの方々に囲まれているわけですね。

竹安 自分でも驚いていますが、いまだに海外から来てくださるファンの方々もいらっしゃいますし、本当にありがたいですね。

富永 ギャラリーの内装とかも、ファンの方々が手伝ってくださったりしたんですよ。

――ギャラリーを開かれたのは、そういったファンの方々への恩返しの面もあったのでしょうか?

竹安 そう思って、自分でギャラリーを開いたんです。あと、ほかのところでギャラリーを作ると、正直お金が掛かってしまいますよね。場所代や、絵の搬入だったりと、手間や工賃もかかります。だったら自分で開いて、模様替えも自分でさくっとやってしまえばいいと考えたんですよ。あとは、今回の記念展が終了したら別の方の個展を開こうと考えていまして、今後はいろいろと変わり映えもしていくと思いますよ。

――基本はギャラリーエルシャダイですが、ギャラリー○○になることもあると。

竹安 はい。これはぜひ書いてほしいのですが、いつでも個展を開きたい作家さんを募集しています。基本的にはすべて無料で開催しますが、条件は『エルシャダイ』のイラストを1枚描いていただくことです。

――なるほど。では、デザインについてお聞きしたいのですが、『エルシャダイ』のキャラクターデザインはいま見ても新しさを感じるのですが、そういったことは意識されていましたか?

竹安 『エルシャダイ』に関わるときに、これは絶対一生できない仕事だなって思ったので、絶対に誰にもオーダーされない物を作ろうと考えたんですよ。たとえばルシフェルのデザインなんて、上にチェックに出したら見た目がふつうすぎて通りにくいんですよ。イヤリングがあるとか、髪型が特徴的だとか、キャッチーな何かを欲しがられるんですよね。それらを全部無視して、やりたいキャラクターデザインにしたんですよ。

――たしかにルシフェルはカッコイイキャラクターですが、デザインとしてみるとふつうのお兄さんですよね。

竹安 ルシフェルのよさって、その漂う雰囲気と、セリフに声を担当されている竹内良太さんのボイスが乗っかった組み合わせだと考えています。そこを魅力にしてキャラクターを出していくのは、なかなかできないことなんですよ。あとは、イーノックの鎧のデザインも、ちゃんと分かる人じゃないとチェックができないんです。趣味趣向の世界で、形やラインだとかって形容しにくくて、パーツごとに説明が難しいんです。ルシフェルならシャツだとかベルトだとか言えますが。

――改めてイーノックの鎧を見ると、西洋や東洋、SF系のアーマーともまったく違いますね。

竹安 答えがないものをデザインしていたので、あえて形容しにくいデザインにしたんです。鎧の色を白にしたのも、描いている途中に見えたり、シルエットが完璧じゃないと難しいのですが、そこをあえて狙って、高度なデザインにしたつもりです。だからこそ、いま見ても新しさを感じるのだと思います。それに、もう2度とこういう物は出てこないと思いますからね。作家の才能というよりも、世の中の流行などがもう許してくれないので。そのチャンスをしっかり活かせたのがよかったですね。

――個人的には、イーノックやルシフェルは本当に唯一無二の存在に感じています。

竹安 ありがとうございます。唯一無二を、本当に当時目指していましたから。ファンの方々がイラストを書かれる際によく「イーノックを描くのが難しい」っておっしゃるのですが、内心「でしょ!」と、ドヤ顔をしています(笑)。『エルシャダイ』は、いろんなデザイナーさんを集めてデザインをしていましたが、イーノックだけは誰も口出ししなかったです。何も足せないし、何も引けないというような。ルシフェルも、ふつうの見た目なので似せるのが難しいって言われていますね。

――『エルシャダイ』といえば、武器のデザインも唯一無二ですし、イーノックの鎧にもしっくりきますよね。

竹安 大久保淳二さんにデザインしていただいたのですが、本当にいい仕事ができたなと感じますし、改めて大久保さんを尊敬しますね。アーチ、ガーレ、ベイルも、イーノックの鎧と同じように形容しがたいもの目指したわけです。剣、盾、弓などの武器ではないけれども、そこに並ぶような武器って発明に近いレベルですから。

――武器にもそれぞれ、トレーラーが用意されていて、それらも話題を集めていましたね。

竹安 まったく新しい武器ですから「武器をただ映すだけでいい」と指示したんです(笑)。クルマのCMとかを参考しながら、武器をぐるりと撮影した映像にしました。一種の遊びなのですが、そういったこともいまでは絶対できないことだと思います。そこがみなさんにも受け入れていただけましたが、本当は「それを狙いました」と言いたいですが、本当にたまたまヒットしただけなんです(笑)。

――ルシフェルの語りなども、当時見ていて、笑っていいのかマジメに見るべきなのか戸惑った記憶があります。

竹安 喜怒哀楽の感情を越えた、まったく新しい感情に訴えかけたかったんですよね。ほかの作品と違って、会うファンの方々それぞれが、いろんな感情の感想をいただきました。泣いたという人もいれば、燃えた、笑ったという人もいましたね。

――それでは、最後に読者の方々と、ファンの方々に向けてメッセージをお願いいたします。

富永 いっしょに物語などを作る仲間を募集してます!(笑)。小説のプロットなども、すべてギャラリーにいながら作ったものです。ファンの方々は、そんな制作風景を覗きにくるのもいいのではないでしょうか?

竹安 ギャラリーを作って、ファンの方々と密接に関われるようになりました。スタッフさんも、じつはもともとファンの方々なんです。神話構想をみんなで集まって作っていきたいですね。ぜひファンの方々や、作家さんにギャラリーにお越しいただいて、みなさんで『エルシャダイ』のストーリーを作っていきたいです。