『LoL』学生大会をスポーツ観戦好きおっさん視点で見る

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 学生ががんばっていると応援したくなる。

「野球のことはよくわからないけど春夏の甲子園は好き」という人は多い。野球少年のひたむきな姿勢は人の心を動かす。この心理はゲームにおいても同様に働くと思う。

 2017年3月20日、PC用オンライン対戦ゲーム『League of Legends』(以下、LoL)の学生日本一を決める大会“LeagueU Grand Tournament 2016”決勝戦が開催。

 ミス・ユースケ37歳。もうおじさんなので若者の懸命な姿を見るだけで涙がこみ上げてくる。感情移入して泣く気まんまんで観戦に行った。

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活き活きとしたプレイで会場を沸かせて、僕を泣かす

 この大会は、『LoL』を運営するライアットゲームズがGameBankと協力して進めてきた学生応援プロジェクト“e-Sports×U”の集大成だ。

『LoL』にはプロリーグもあるが、ゲーム全体を盛り上げるにはコミュニティーの活性化が不可欠。そこで、行動力のある学生をサポートし、プレイヤーたちが自主的に楽しむ環境作りも行ってきたのである。

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▲ライアットゲームズCEOの小宮山真司氏が試合への期待を語る。
▲“バクステ外神田一丁目”の堀内華央理さんがMCを務めた。

 e-Sports×Uは18歳以上の学生が対象なので大学生の参加者が多い。となると、この大会はプロ野球に対する大学野球みたいな位置付けだろうか。

 大学コミュニティーは母校への帰属意識が強い。ゲームに詳しくないOBたちも、後輩が出るとなれば注目してくれるかもしれない。この、よくわからないけど身内を応援したくなる仕組みの最上位モデルが“早慶戦”なんだと思う。

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▲試合の実況はeyes氏(奥)、解説はrevol氏(手前)が担当。日本プロリーグ“LJL”と同じ布陣だ。

 本大会のオンライン予選には25チーム・総勢200人以上の学生が参加。激闘を勝ち抜いた“東京アニメ・声優専門学校LoLサークル(TSA)”と“広島大学+(HUP)”が、会場のe-sports SQUARE AKIHABARAで激突した。

 TSAはメンバーの大半がプロを目指しており、ひとりはプロeスポーツチーム・DetonatioN Gamingに所属していたこともある。オンライン予選では一度HUPに負けているが、敗者復活枠から勝ち上がるだけの底力を秘めている。まぁ、強い。

 対するHUPは無敗で決勝進出を決めたものの、ここしばらくは忙しくて練習ができなかったそうだ。強いのは間違いないが、正直なところ読めない。この子ら強いのか、どうなんだ(すでに甲子園球児を応援するおっさんみたいな気持ちになっている)。

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▲青いユニフォームが広島大学+(HUP)で、赤が東京アニメ・声優専門学校LoLサークル。

 試合は3ゲーム制で、2本先取したほうの勝ちとなる。1チームにつき最大9人までプレイヤーとして登録でき、ゲームごとに出場選手を入れ替えてもオーケー。

 肝心の試合はというと、ふだん取材するプロとは展開が異なり、妙に引き付けられてしまった。レベルが高いとか低いとかそういうことではなく、考えかたそのものが違うんだろうなと思う。

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 第1ゲームでは試合開始から5~6分ほどで5対5の集団戦が発生した。解説のrevol氏が思わず「うわ!」と驚きを口に出してしまうほどのスピード感。いきなり大盛り上がりである。

 プロシーンでは、そこまで早いタイミングで集団戦になることはあまりない。“負けない”という意識が強いからか、静かな立ち上がりを見せることが多いのだ。将棋で言えば、最善手を研究し尽くした両者が定跡どおりに指すような様式美がある。

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 だが、学生たちは少し違った。リスクを恐れず、ぐいぐい行くのである。実況・解説の両氏もユニークな試合展開を楽しんでいるようだった。「そう来るか!」みたいな。

 第1ゲームはTSA優位に進んだ。中盤でHUPが盛り返すものの、TSAの勢いはそれを上回る。まずはTSAが1勝して優勝に王手をかけた。

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▲応援席に座っていた来場者にインタビュー。こういう演出、プロ野球の試合で見たことある。

 このままではまずいと思ったのか、HUPは大胆なメンバーチェンジを敢行。ただ控えメンバーを起用するだけでなく、変更内容はロール(ゲーム中の役割)にまで及ぶ。この判断が功を奏し、HUPが1ゲーム取り替えすことに成功した。

 運命の3ゲーム目でもHUPはメンバーを変更した。特定のロールに固執せず、変幻自在に戦えるのであれば、これはもはやチームカラーだ。相手から対策を練られにくくなるので有効な戦術とも言える。総合力が高く、器用な選手がいることが条件だが。

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▲広島大学+(HUP)が1ゲーム取り返し、1対1のイーブンに。
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▲ラスト1ゲームに向けて作戦会議。

 3ゲーム目の序盤はHUPが2連続でキルを取り、わずかながらに優位に立った。試合が動いたのは15分40秒頃。HUPが3つめのキルを取ったところでTSAの超遠距離攻撃が炸裂。この一撃をきっかけにTSAが3連続でキルを重ね、キル数では同点に。流れがTSAに傾く。

 そこからは徐々に差が開いていった。TSAが一歩また一歩と勝利に近づいていく。僕はこのとき少しHUPに感情移入していていたので心中穏やかじゃなかった。「安心しろ。おれはここにいるぞ」と心の中でつぶやく。いるのは事実なのだけど、何の役に立つかはわからない。

 HUPも必死に食い下がるが流れを引き戻すことはできなかった。TSAは安定した試合運びを見せ、ついに3ゲーム目をゲット。初代学生王者に輝いた。

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▲上を向いて目を押さえている。

 優勝した瞬間、感極まったTSAのひとりが涙をこらえているのが見えた。プレッシャーから解放されたのだろう。ここで感情移入ゲージがグッとTSA寄りになる。そして軽くもらい泣き。うんうん、よくやった。ずっと練習してきたもんな(想像)。僕が彼らの身内だったら間違いなく労をねぎらって焼き肉をおごっている。

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▲惜しくも敗れたHUPの面々は爽やかな笑顔で王者を祝福。

 HUPは結果に満足しているようで、みんな笑顔だった。後で話を聞いたら、優勝狙いはひとまず置いておいて、みんなで楽しく『LoL』をやろうという気持ちが強かったそうだ。だからこそ頻繁にメンバー変更をして、プレイヤー登録をしている8人全員が決勝戦の舞台に立つことにこだわった。

 頻繁なメンバー交代の裏にはそんな理由があったのか。全員で思い出を共有したいという気持ちを知って、また泣けてくる。何だよもう、きみたちいいやつだな!

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▲健闘を称え、実況・eyes氏がメダルを贈呈。
▲みんな楽しそうで、おじさんうれしいよ。

 勝利を何よりも重視するプロとは違い、学生たちはひとつの目標に向かうことで成長するのが大切だ。ゲームを通じて強まった仲間同士の結束は、きっと人生の糧になる。

 イベントの冒頭で、ライアットゲームズCEOの小宮山真司氏は「学生間の戦いを伝統的なものにしていく」とコメントしており、また「『LoL』を始めて間もない人も楽しめるイベント企画にも力を入れる」という。

 学生たちによる伝統的な戦い。つまりそれは大学野球みたいなものだろう。個人的には、周囲の人たちが応援したくなる要素もプラスしてほしい。実況・解説のおふたりは「地域対抗戦もいいですね」と盛り上がっていた。わかるわかるー。

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▲試合が終わればノーサイド。アフターパーティーで談笑する選手&来場者。

 同じ学校や地元の選手が大会に出ていれば親近感がわくだろうし、もともとスポーツ観戦が好きな人なら試合を楽しむために『LoL』そのものに興味を持つかもしれない。スポーツ観戦はルールを知るほどにおもしろくなるものだから。

 僕としてはゲーム(eスポーツ)も一般的なスポーツと同様に、観戦する文化が根付いてほしい。細かいルールを知るのは後回しでもいいと思っている。

 サッカーや野球にはすごく細かいルールがあるが、点の入り方だけ知っていればけっこうおもしろい。『LoL』だって同じだ。「相手のキャラを倒して建物を壊せばいい」くらいの知識でも十分楽しめる。それに加えて、「実況・解説の声が大きくなったらすごいことが起きている」と認識してもらえば大丈夫。試合観戦から入った人は、もっと深く知りたくなったときにプレイすればいいと思う。『LoL』は基本無料ですので。

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▲若者が真剣に、そして楽しそうに取り組んでいる様子はグッとくる。こういうのを素直に楽しめるから、おっさんになってよかったなーと思う。

 2年目の『LoL』学生支援プログラムはライアットゲームズが主動となり、すでに登録受付がスタートしている。学生たちにお願いがある。僕たちスポーツ観戦好きを熱狂させてくれ。