『グランブルーファンタジー』にとって雲は生命線“たかが雲、されど雲”

 2017年2月18日、大阪府立国際会議場(グランキューブ大阪)にて関西圏のゲームクリエイターを対象としたカンファレンス“GAME CREATORS CONFERENCE’17(GCC’17)”が開催された。ここでは、“『グランブルーファンタジー Project Re:LINK』におけるリアルタイム雲表現の研究と技術紹介!”の模様を紹介しよう。

『グランブルーファンタジー』の空と雲の表現について

 大阪で実施されたイベントということで、関西圏のゲームスタジオが多く参加したGCC’17。本セッションに登壇したのは、大阪サイゲームスの堀端彰氏、河端智治氏、森井大樹氏の3名。“やるからには徹底的にやる”をモットーに、2015年4月1日に設立された大阪サイゲームスは、ハイエンドゲームの開発を手掛けており、そのプロジェクトの1本がプラチナゲームズとの共同開発による『グランブルーファンタジー Project Re:LINK』(以下『Re:LINK』)。『Re:LINK』とは言うまでもなく、サイゲームスのスマートフォンアプリ『グランブルーファンタジー』をプレイステーション4向けに展開した1作だ。大阪サイゲームスは、おもに“絵作り”の部分で同作の開発に協力している。講演名から推察されるとおり、本セッションは、大阪サイゲームスが『Re:LINK』において、いかに理想とする空と雲を作り上げるに至ったかの苦労を語ったものだ。

 なお、本セッションのスライドが、サイゲームスの公式ブログ“Cygames Engineers' Blog”で公開されている。本稿と合わせてご覧になるといいかも。

[参考資料]【GCC’17 フォローアップ】グランブルーファンタジー『Project Re:LINK』におけるリアルタイム雲表現の研究と技術紹介!

『グランブルーファンタジー Project Re:LINK』の“雲”表現にかける並々ならぬこだわり【GCC’17】_63
▲大阪サイゲームスの堀端彰氏。

 なぜ、『Re:LINK』はそこまで空と雲の描写に並々ならぬ意欲を見せているのか? それはいうまでもなく、原作となる『グランブルーファンタジー』が空の上にある島を旅していくというゲームで、空と雲の描写はまさに “キモ”となるからだ。最初に登壇した堀端彰氏が提示してくれたのは、『Re:LINK』が理想とするところの、『グランブルーファンタジー』で実現している空と雲のコンセプト。それは“どこまでも広がる壮大かつ繊細で、気持ちのよい空の世界を表現する”というもので、つまりそれが『Re:LINK』の目標となる。

『グランブルーファンタジー Project Re:LINK』の“雲”表現にかける並々ならぬこだわり【GCC’17】_01

 『グランブルーファンタジー』の世界では、“ファンタジーらしく不思議な形から、誰もが理解できる入道雲などを組み合わせた”形が描かれている。なるほど、『グランブルーファンタジー』のビジュアルアートで描かれる雲にはユニークなものが多い。

 光や影の表現では、フォトリアルや空気遠近法を基本としつつ、手描きイラストらしい表現も加えている。肝心なのが「影の中にもしっかりと色表現を入れる」(堀端氏)こと。堀端氏に指摘されて気付かされるが、たしかに『グランブルーファンタジー』で描かれる雲は色彩感が豊かだ。

 一方で、表現は空と雲だけで完結しているというわけではない。「空と雲だけの処理で考えるのではなくて、同じ環境にある物として見えるようにする」(堀端氏)というのだ。つまり、雲と環境(たとえば建造物)の境界があいまいになるといった描写だ。

 果たして、これだけ緻密な空と雲を3Dで描くことができるのだろうか?

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▲フォトリアルな空気遠近法を基本としつつ手描きイラストらしい表現も加える。さらに影の中にもしっかりと色表現を入れるなどの方向性が取られた。
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▲空と雲だけの処理で考えるのではなくて、同じ環境にある物として見えるようにするなどの方法も。
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『Project Re:LINK』における雲表現の研究紹介

『グランブルーファンタジー Project Re:LINK』の“雲”表現にかける並々ならぬこだわり【GCC’17】_64
▲大阪サイゲームスの河端智治氏。

 堀端氏からバトンを受ける形で登壇したのが、現在『Re:LINK』で雲の研究をしているという、河端智治氏。河端氏は『グランブルーファンタジー』で描かれる空と雲を表現するためには「眼下にどこまでも広がる雲の表現が必要である」と結論づける。そして、この“どこまでも広がる雲”を表現するための方法論のひとつとして、“無限平面”を用いることにしたのだという。どこまでも広がる無限平面を用いて、無限平面下に雲を充填、こうして作り上げた雲をサイゲームスでは“平面雲”と名付けたという。なるほど、河端氏より紹介された“平面雲”は、いかにもふわふわとしていて雲っぽい。なお、“平面雲”では潜ることを前提として開発を進めているが、それは『グランブルーファンタジー』には騎空艇が存在し、『Re:LINK』でも騎空艇が潜ることが容易に想像されるからだ。

 ここで河端氏は、“平面雲”を形作るにあたっての必要な知識として、“そもそも雲とは?”、“平面雲を形作る方法”、“光学法則”、“レイマーチ“の4つを列挙。それぞれに対して解説をしてくれた。以下に紹介していこう。

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(1)そもそも雲とは?

 雲は気体ではなくて、液体もしくは固体。つまり水滴もしくは氷晶の集まりとなる。このことは、ライテイングにおいて重要なポイントになってくる。

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(2)平面雲を形作る方法

 雲を形作る方法はいくつか存在するそうだが、今回は“Volumetric Noise Texture(ボルメトリック ノイズ テクスチャ)”を用いた手続き型(プロシージャル)雲 生成法を研究したとのこと。“Volumetric Noise Texture”とは、記者もさっぱり聞き慣れない言葉だが、“通常のノイズテクスチャに奥行き(W軸)が増えたテクスチャ”とのことで、雲を作る際の基準となるテクスチャのようだ。

 ちなみに、この“Volumetric Noise Texture”を研究するうえで大いに参考になったのが、ゲリラゲームズが公開した資料“The Real-time Volumetric Cloudscapes of Horizon Zero Dawn”とのことで、『ホライゾン ゼロ・ドーン』の雲の表現が『Re:LINK』の参考になっているというのは興味深い。

[参考資料]“The Real-time Volumetric Cloudscapes of Horizon Zero Dawn”

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『グランブルーファンタジー Project Re:LINK』の“雲”表現にかける並々ならぬこだわり【GCC’17】_18

 おつぎに河端氏がレクチャーしてくれたのが、“モコモコとした模様を持つノイズテクスチャを、プロシージャルに生成するためのノイズ生成アルゴリズム”。と、書いても、記者にはいまひとつピンとこないが、なけなしの文系脳をフル稼動してなんとなく意訳すると、雲の表現にはモコモコとした模様を持つノイズテクスチャが不可欠で、そのノイズテクスチャを自動生成するための、アルゴリズム。といったところではないかと……。

 そのノイズ生成アルゴリズムにはいくつかあるらしい(このへんから俄然講義めいてきて、勉強大好きな記者は思わずわくわくしてしまったのだが……それは余談)。ひとつは“Perlin Noise”。こちららはケン・パーリン氏が開発したノイズで、綺麗な雲模様を生成することが可能。もうひとつが“Worley Noise”で、これはスティーブン・ウォーリー氏が開発したノイズ。水面がキラキラ反射しているような模様を生成できるアルゴリズムだ。階調を反転させることで、モコモコとした膨らみを持つ模様になるらしい。

 で、“Perlin Noise”と“Worley Noise”は、合成することで、モコモコとした膨らみを持つ雲模様を生成できるというのだ。これを“Perlin- Worley Noise”という。『Re:LINK』の“平面雲”も、この“Perlin- Worley Noise”で作られているらしい。つまり、“平面雲”は、“Perlin- Worley Volumetric Noise Texture”でできているというのだ(“ペンパイナッポーアッポーペン”みたいですが……)。

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(3)光学法則

 雲をさらにリアリティー溢れるものとするために必要なのがライティング。そもそも雲のライティングを行うには、光が雲を通過した際の事象をシミュレートする必要がある。講演では、ライティングのあるなしのビジュアルが公開されたが、一目瞭然でその違いがわかる。以下、河端氏は光学法則を紹介してくれた。

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★ランベルトの法則

 光が物質を通過する場合、吸光度は光路長に比例すること。言葉だけを聞いてもなんのことやらわかないが、光路長(液体に対して光が通過したときの距離)が長いほど、吸光度(光の減衰具合)が高くなる。数式にすると“吸光度=吸光係数*光路長”だ。吸光係数とは、物質固有の定数のことをさす。

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★ベールの法則

 光が物質を通過する場合、吸光度は物質のモル濃度に比例すること。“モル”とは濃度の単位のことで、モル濃度が濃いほど、吸光度が高くなる。数式では“吸光度=吸光係数*モル濃度”となる。

 ここで河端氏は、吸光係数とモル濃度の違いがわかりづらいかもしれない方のために、両者の違いをレクチャー。それによると、吸光係数は“物質固有の係数”で、モル濃度は“体積あたりの濃度”とのこと。たとえば、濃いジュースも薄いジュースも、同じジュースなので吸光係数は同じだが、モル濃度は違うというわけだ。

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★ランベルト・ベールの法則

 ランベルトの法則とベールの法則を組み合わせた法則で、吸光度は物質の光路長と濃度に比例するというもの。数式にすると“吸光度=吸光係数*濃度*光路長”となる。

 で、ここからが本題になるわけだが、雲をライティングするには雲密度(濃度)と雲の厚さ(光路長)が必要になるのだ。『Re:LINK』では、ランベルト・ベールの法則を用いて、雲のライティングを行っており、雲の密度と厚さから吸光度を求めてライティングをしているという。

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(4)レイマーチ

 レイマーチというのも聞き慣れない言葉だが、こちらは雲のライティングに必要な雲密度と雲の厚さを取得する方法のこと。これまで紹介した光学法則は、すべて濃度が一定の液体の場合だったが、実際の雲は違う。ひとつの雲を取ってみても、濃いところもあり薄いところもあり……と、その濃度は一定ではないのだ。そこで、レイマーチによる雲濃度の測定を行う必要が生じるわけだ。

 ここで河端氏は改めてレイマーチについて解説。レイマーチとは、レイトレースの一種で、光線を少しずつ追跡してオブジェクト表面の色や輝度を計算する処理のこと。講演では、衝突判定を一例として、レイマーチが紹介されたが、光線の移動にしたがって反復処理をすることをレイマーチと呼ぶ。さらに、反復処理の内の1回の処理を“ステップ”、反復処理自体を“マーチングループ”、マーチングループで行ったステップの回数を“ステップ回数”と呼んでいる。

 『Re:LINK』の“平面雲”では、レイマーチを用いて雲密度の測定が行われている。レイマーチで測定すると、“雲の形が決定する”、“雲のライティングが決定する”などのメリットがあると河端氏。

 そんなわけで、極めて使い勝手のいいレイマーチだが、負荷の高い処理というネックがある。そのために高速化が必要となるのだ。その対処方法としては、“レイマーチの省略”、“ステップの早期終了”、“ステップ回数の削減”などがあると河端氏は言う。

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 と、ここまでの講演を聞いてきて、万能の強さを見せるかに思えた “平面雲”だが、じつは弱点があるという。何と、入道雲が表現できないというのだ。最初に堀端氏も言及していたとおり、『グランブルーファンタジー』には入道雲の表現が欠かせないのだが、「入道雲は形に個性があって、機械的に生成される“Volumetric Noise Texture”では生成することが難しいんです」(河端氏)という。そこで『Re:LINK』では、“任意形状雲”の研究が別途必要になったという。

 “任意形状雲”とは……。講演のバトンは森井大樹氏に引き継がれた。

任意形状雲

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▲大阪サイゲームスの森井大樹氏。

 バトンを受け、森井氏は冒頭で「入社まもない自分に、重要な雲の研究を任せてもらっている。 “最高の雲”を表現したい。」と興奮気味に語っていた。誰もが活躍し挑戦できる環境があるようだ。

 まず森井氏は、“任意形状雲”に関して、「ボリュームのある雲も表現できて、形は簡単に変更可能。さらに“平面雲”同様カメラが雲の中に入ることができます」と説明。先ほど言及したとおり、“平面雲”では表現の難しい入道雲を作ることができるのだ。

 なお、森井氏の講演をリポートするにあたって、「“任意形状雲”は“平面雲”同様、現在研究真っ最中で、本講演は“いま試している方法のご紹介”です」というコメントをあらかじめご紹介しておこう。

 任意に形が作れる雲=任意形状雲だが、その作成手法は、球体をいくつもくっつける形で作っているとのこと。球体にした理由は、「当たり判定の処理が単純かつ高速で行えて、立方体などに比べて角がないので雲としての形を作りやすかったからです」(森井氏)とのこと。とはいえ、本音のところでは、「結合したときになんとなく雲っぽい」というのが理由のようだ。

 もちろん、雲の研究を始めたときに、森井氏は最初からいまの形にすんなりとたどり着いたわけではない。最初は、3Dテクスチャにあらかじめ雲としての形状を格納しておいて、そこをレイマーチして描画したらしいが、“平面雲と見た目に差異が出る”ことや“拡縮などに弱い”などの理由から不採用に。そのへんのネックをクリアーしたのが、現在研究を進めている雲となる。

 では、どのような描画方法を採用したのか? 単体の場合は、空間に見えない雲を充満させ→雲を表示したい場所に球体を定義→その球体内のみレイマーチを行って雲を描画、というプロセスを取っているという。「簡単に言うと、“平面雲”を球体でマスクして、そこだけ描画しているイメージ」(森井氏)というのだ。ノイズの雲をマスクして描画するという方式なので、マスクの球体をいくら拡縮したとしても雲が引き伸ばされて荒くなる……ということはないわけだ。さらに、ライティングは“平面雲”と同じ処理で行うことで、見た目にも違いがでないのだ。

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 複数の雲を描画する場合は、単体のときと違い視線方向に複数の雲が重なることや、雲どうしで影を落とすことを考慮する必要がある。森井氏によると、単体は比較的簡単に実装できると思いますが、複数となると情報が少ないこともあり、さまざまな工夫が必要になるという。以下、森井氏は、現在使用している“さまざまな工夫”の一端を紹介してくれた。

 まずは、視線方向に複数の雲が重なるので、ピクセル単位でレイと球体の当たり判定を行って、描画する雲をリストアップ。また、当たり判定時にレイが球体を突き抜ける前面側と後面側の座標を保存しておいて、後の処理で使用するという。ちなみに、視線方向に複数の雲が重なると、レイマーチの途中で不透明になる場合があるという。不透明になるとそれより奥の雲は見えないので描画する必要はない。そのため、リストアップした雲を視点に対して近い順にソートするという。ソートは、さきほど保存しておいた、球体の前面の座標と視点との距離で行う。

 他の雲も考慮しないといけないライティングでは、視線方向へのレイマーチ中にライト方向へ、ライトの光を遮る雲をリストアップ。リストアップした雲をレイマーチで密度を収集して、その場所の陰影の値を決定するという。ただし、このレイマーチの処理は非常に重くなるため、現在はレイマーチを行わない擬似的な陰影手法も検討している最中なのだとか。

 結果、動的に結合してもきれいに表示される“任意形状雲”が表現可能になった。ときに、雲が形を変えて移動しているように見えるが、それはノイズした雲をマスクして描画しているので、マスクした場所が変わると形も変わるとのこと。そのため、形を保ったまま移動できる設定も用意している。“任意形状雲”では、結合方法を変えることで、さまざまな形状を表現できるのだ。

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 ついで森井氏は、“平面雲”と“任意形状雲”を同時に表示させた動画を紹介してくれた。ちなみに、森井氏の注釈によると、 “任意形状雲”の形はアーティストではなくて、エンジニアである森井氏が作成しており、「アーティストが作成した場合は、もっとよいものが作れると思います」とのこと。いずれ、魅力的な雲の動きを表現する“雲アーティスト”とかも出てきそうだ。

 最後に森井氏は、今後の雲の表現の課題として、“高速化”に言及。さらには「いまの雲は『グランブルーファンタジー』の絵にはまだまだ遠いと思っています。ライティングの処理などの調整を行い、もっともっと近づけていく必要があります」というのだ。さらには、雲だけではなくて、ほかの物体のことも考え、全体を調和させていく必要もあるという。

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 “平面雲”と“任意形状雲“の研究は、まだまだ始まったばかり。「私たちは(イラストのような)『グランブルーファンタジー』の美しい世界を何としても再現したいと思っています」と森井氏。森井氏によると、今回講演で取り上げられた手法は最終的には採用されないかもしれないという。ただし、「“最高のコンテンツを作る会社”というサイゲームスのビジョンを掲げて、ファンの皆さんに喜んでいただけるような最高の雲を作り上げ、『Re:LINK』が最高のゲームになるようにがんばっていきます」と力強く語り、講演を締めくくった。

 業界の片隅に身を置く記者としても、ゲーム開発にあたっては、細部にいたるまで深いこだわりを持っているのは、少しは理解しているつもりではいた。そんな記者でも『Re:LINK』の“空と雲”の表現にかける情熱は驚きだ。何事に対してもないがしろにしない、ハイエンド向けゲームにかける、サイゲームスの並々ならぬ意欲がうかがえたセッションだった。

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