Nintendo Switchの機能を存分に活かしたローンチタイトル

 2017年3月3日に発売されるNintendo Switchのローンチタイトルとして、先日の“Nintendo Switch プレゼンテーション2017”で発表された『1-2-Switch(ワンツースイッチ)』。HD振動や、モーションIRカメラなどの本体機能を存分に使いながらも、どこか笑えるゲームを多数収録している、一風変わったゲームだ。本作の誕生秘話や特徴について、河本浩一プロデューサーにうかがった。※本インタビューは、2017年1月14日に行われたものです。

知ってはいるけれど、やったことはないものばかり。『1-2-Switch(ワンツースイッチ)』開発者インタビュー【Nintendo Switchインタビュー特集】_01
知ってはいるけれど、やったことはないものばかり。『1-2-Switch(ワンツースイッチ)』開発者インタビュー【Nintendo Switchインタビュー特集】_02

■プロフィール
●『1-2-Switch(ワンツースイッチ)』
プロデューサー
河本浩一氏
(文中は河本)

 『脳を鍛える大人のDSトレーニング』シリーズでディレクターを、『Miitopia』でプロデューサーを担当。Nintendo Switchの総合ディレクターも担当している。

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新ハードに向けた……けど、画面はあまり使わない!?

――河本さんは、『1-2-Switch』のプロデューサーでもありながら、Nintendo Switch自体の総合ディレクターも担当していらっしゃるとのことですが、どういったことをされたのでしょうか?
河本 総合プロデューサーの小泉(小泉歓晃氏。『スーパーマリオオデッセイ』などのプロデューサーを担当)といっしょに、Nintendo Switchをどのようなゲーム機にしようかと考えたり、あるいは社内でいろいろと出たアイデアから、どれを選ぶかという取捨選択をしたりと、ハードやシステムの方向性を決めていく担当をしていました。

――なるほど。昨年末に発売された『Miitopia』も担当されていましたよね?
河本 はい。『Miitopia』はプロデューサーで、メインで開発をしていたのは伊藤というディレクターなんですが、『Miitopia』を「どういう方向にしていこうか?」と話しながら見守っていく立場でした。

――『Miitopia』を担当しながら、Nintendo Switchの総合ディレクターもして、『1-2-Switch』のプロデューサーも……。
河本 大変でした(苦笑)。でも、ようやくそれぞれ世の中に出せるようになりました!

――そんな、“Nintendo Switchプレゼンテーション 2017”で発表された『1-2-Switch』ですが、開発のきっかけからおうかがいできますでしょうか。
河本 先にできたのは、Nintendo Switch本体の仕様でした。「Nintendo Switchはこういうゲーム機にしよう」というのが決まって、それから「Nintendo Switchを活かしたゲームを考えよう」ということになったんです。Nintendo Switchにはいろいろな特徴がありますが、その中でもまず「Joy-Conをおすそ分けして遊んでほしい」という想いがあって。それで、いろいろとおすそ分けをして遊ぶゲームを考えたんですが、『マリオカート』だったりと、どれもすでに発売されているゲームに近いものになってしまう。でも、似たのを作ってもしょうがないと、これまでにないものを求めて、いろいろと試作を重ねていく中で、ひとつ“画面を見ないで見つめ合って遊ぶ”というものがあったんです。私自身もおもしろくなりそうだなと思いましたし、ほかのスタッフからも「これは、変わっていていいね」という反応があったので、「これを突き詰めていこう」ということで開発がスタートしました。

――なるほど。ハードを活かすゲームを作るうえで、画面をほぼ使わないものを選ぶというのは、思い切った判断ですよね?
河本 自分でも「おかしいなあ……」と思うことはありました(苦笑)。「本体に大きめの画面をつけて、持ち出して使えるようにしましょう」と提案したのは僕らですから、「せっかく付けた大きな画面を、なんであまり使わないの?」と思われるかもしれないなあ、と。

――(笑)。でも、画面をサポート的に使うだけだからこそ、できるゲーム性になっていると。
河本 コントローラーがふたつあって、ふたりで画面を見て遊ぶゲームは、何十年も前からありますが。『1-2-Switch』は、画面はほとんど見ずに、お互いを見つめるからこそ生まれる駆け引きなどが楽しめるようになっています。

――各ゲームでは、プレイヤーのあいだにあるゲーム画面が、ナビゲーションや審判などの、ゲームマスターのような役割を果たしてくれるんですね。
河本 はい。審判や司会者、ゲームを引っ張る役目を担います。ゲーム側は、指示やスタートの合図をするのですが、音声で指示を出してくれるので、ゲームが始まる前から相手と見つめ合って、ゲームに集中できるようになっています。ゲームの後は、結果が表示されて、勝敗が決まりますね。

――なるほど。収録されているものの中で、最初に生まれたゲームはどれになるのでしょうか?
河本 きっかけになった試作は、“ピンポン”でした。画面を見ずに、音だけでボールの状況を把握してJoy-Conを振るというシステムもおもしろかったのですが、何より相手と向かい合いながらラケットのようにJoy-Conを持って、ふたりのあいだに、実際の得点板のようにNintendo Switchが置かれて得点を映し出すという、この位置関係がおもしろいと思って、『1-2-Switch』の開発を本格的にスタートさせたんです。

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――これまでのゲームとはおもしろさの基準が違うというか、収録するゲームの判断基準が難しいように感じますが、やはり数多くの試作を用意したのでしょうか。
河本 いろいろなアイデアが出ましたね。おすそ分けして遊ぶというスタイルをコンセプトにしていますが、おすそ分けされたほうの方が『1-2-Switch』をご存知ないことも多いでしょうし、そもそもNintendo SwitchやJoy-Conをご存知ないということもあると思います。そういった、ゲームにあまりなじみのない方でも、「ちょっとやってみようか」と思っていただけるような、簡単で、かつわかりやすいネタをチョイスして入れています。“ガンマン”というタイトルで、「早く撃てばいいですよ」と言われたら、だいたいの方にルールはわかっていただけるかなと。あと、「やってみたい」とすんなり興味を持っていただけるということも大事にしています。たとえば“ミルク”という、乳しぼりを題材にしたものがありまして……。

――初めて見たとき、本当に驚きました(笑)。
河本 牛の乳しぼりのことは多くの方がご存知だと思いますし、楽しい体験と思うのですが、みんながやったことあるわけではないですよね。やったことない方にも「乳しぼり、してみません?」と誘えば、「楽しそう」という気になっていただけるのではないかと。そういう感覚で選んだゲームが入っていますね。

――なるほど。“想像はしやすいけど、やったことはない”といったものが入っていたりするわけですね。体験会などで見ていると、“ミルク”は、うまい人は本当にすごい勢いで牛乳を出していますよね。
河本 そうですね。本物の牛の乳しぼりがうまい人は、ゲームでもいいスコアを出せるようです。

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――本物の経験が活かせるんですね(笑)。お話がちょっと逸れますが、こういったゲームを作る場合、社内で上司の方々にプレゼンをされると思うのですが、『1-2-Switch』も実際に上司の方々の前で、真剣にプレイをされるのでしょうか?
河本 任天堂のプレゼンの場合、僕らがおもしろそうにプレイをしても、“おもしろそうに演じている”と思われるのか、プレゼン相手の人たちが実際にプレイをするケースが多いんです。ですから、今回もいろいろな人が『1-2-Switch』をプレイしたんですが、普段は堅いイメージの人たちがノリノリで笑いながらプレイをしていたので、「ああ、これなら大丈夫かな」と、ちょっと安心しました(笑)。

――ああ、それはいいモデルケースですね! この『1-2-Switch』は、ターゲットや遊ぶ場所として、家族や友だちどうしはもちろん、たとえば結婚式の2次会や飲み会といったものも想定していらっしゃるのでしょうか。
河本 はい、身近な人やパーティだけでなく、いろいろな場面を想像しながら作っています。一例を挙げますと、年末年始やお盆のタイミングになると、実家に帰る方が多いですよね。そこで、親戚が大勢集まって、宴会をしていたり、テレビをぼーっと見たりしているときに、ホイっと出して遊んでもらえるようなソフトにできたらなあということも考えました。

――共通の目的があるので、初対面の人とも遊べるかもしれませんね。
河本 かもしれません。それだけでなくて、社内でいろいろな方でモニターをしたんですが、相手のダンスをマネして踊る“コピーダンス”というゲームでは、「あの人が、こんなにキレッキレな踊りをするなんて!」という意見があって(笑)。意外な一面を見られたりするというのも、このゲームの特徴だと思います。また、「久しぶりにこんなに相手の目を見た」とか、「よく知る相手なのに、ちゃんと目をジッと見たのは初めて」といった意見がありましたね。

――確かに、ここまで相手の目を見ることはないかもしれません。ふだんあまり接点がない人や、壁を感じる人と近づくきっかけになる可能性もありそうですね。
河本 そういうイメージで作っています。たとえば、Nintendo Switchを買われた方が、家で『ゼルダの伝説』をプレイしていたときに友だちが来て、「それ、Nintendo Switch?」と聞かれたら、そのまま『ゼルダ』を渡すのもいいと思うんですが、自分でプレイしたいダンジョンの攻略の最中とかだったら渡すのをちょっと躊躇したりしますよね。そんなときに、『1-2-Switch』だったらすぐにふたりで遊べますし、Nintendo Switch自体を紹介しやすいんじゃないかと思っています。

――“HD振動”などの特徴も見せやすいですしね。
河本 はい。そういう側面も考えて、HD振動やモーションIRカメラを活かしたゲームも入れています。

――先日の“Nintendo Switchプレゼンテーション 2017”の発表内容では、ゲームファンから、とくにHD振動への関心が高かったように感じます。“ミルク”や、箱の中に入っているボールを数える“カウントボール”などで使っていますが、そのほかにもHD振動を活かしたゲームはあるのでしょうか?
河本 あとは、金庫のダイヤルをカリカリと回転させて、わずかな振動を感じながら少しだけクリック感が違うところを見つけていく“金庫破り”とか、Joy-Conを電気ヒゲ剃りに見立ててヒゲを剃っていく“ひげそり”といったゲームもありますね。

――“ひげそり”ですか? ヒゲを剃るんですか?
河本 自分の顔いっぱいにヒゲが生えたとして、どこにヒゲが残っているかを想像しながら剃るんですが、ジョリジョリジョリという剃っている感覚や、ヒゲ剃りらしいブーンというリアルな振動を感じられるという……。

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――技術のムダ使いすぎる!(笑)。女性がプレイをすると、初めてヒゲを剃る感覚がわかるかもしれませんね。
河本 ぜひ、ヒゲがない方にも遊んでいただきたいです。あと、なぜか“相手に見せつけろ!”という指示が出るので、相手の目を見ながらヒゲを剃るんです。

――(笑)。人を見ながらヒゲを剃ったりしないですよね。
河本 少なくとも私はないです(笑)。だからなのか、遊んでるとおたがい笑っちゃうんです。そういうヘンな笑いが出るところも『1-2-Switch』の特徴です。

――収録されているゲームは、まだまだあるということですよね。
河本 はい。向かい合って遊ぶゲームや新しい体験ができるゲームが合計28種類入っています。

――系統としては、向かい合って遊ぶものが多いのでしょうか?
河本 基本的にはそうですね。でも、たとえば“金庫破り”は新しい体験が中心で、目を閉じて振動を探ったほうが、実はより集中できて当てやすいです(笑)。また、ほとんどが1体1で対戦するゲームなのですが、ひとりずつ交替で遊ぶゲームもあります。たとえば、“大食いコンテスト”というゲームは、Joy-Conをサンドイッチに見立てて、口をパクパクさせて遊ぶゲームでなので、これはひとりずつ交替で遊びます。

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――遊んでいる見た目が、とてもシュールですよね……。
河本 はい。「アホなことを考えるなあ……」と、スタッフたちの考えにちょっと驚きました。

――(笑)。あれは、モーションIRカメラを使っているということですが、口を感知しているのでしょうか?
河本 モーションIRカメラは、いろいろなものの位置や動きを認識できる機能があるので、Nintendo Switchの仕様を決めたとき、「これをどう使ってくれるんだろう?」と楽しみにしていたんですね。そうしたら、「口の開け閉めを感知するのに使います」と言われて……、「最初に使うゲームが、それ!?」と(笑)。まあ、おもしろいからいいかなと。

――(笑)。もっといろいろ使えるのに、そういうところに使うというのは、なんとも任天堂らしい気もします。
河本 おもしろいから、というのももちろんですが、“口で操作するゲームはあまりなかったんじゃないか”というアイデアからスタートしていますね。

――公式サイトでは、基本的に実写の映像を混ぜて紹介していますが、本当になかなか伝えづらいゲームだと思うんですよね。Web媒体であれば動画が使えますが、ゲーム雑誌で画面だけだと、何だかわからない……(苦笑)。
河本 そうなんですよね。ゲーム画面だけだと意味がわからないんです。遊んでいる人自身がゲームのキャラクターなので、画面と遊んでいる人の両方を映したほうがいい、とか、工夫しています。

――やはり伝える苦労は、作り手側からもあると。
河本 そうですね。ただ、知り合いが遊んでいる姿を見れば楽しさが伝わるゲームだと思っていますので、発売後は、買っていただいた人におすそ分けでいろいろな人とプレイしていただくことが、そのまま伝える力になると考えています。

――体験会では、外国人の方がインストラクターになって、すごいハイテンションで対戦してくださっていましたが、あのテンションに釣られて遊んでいると、どんどん楽しくなりますよね。『1-2-Switch』を初めて見たとき、いわゆる『はじめてのWii』のような、機能紹介を兼ねたミニゲーム集かと思ったんですが、実際にプレイをしてみると、そういった機能紹介をしながら、言葉は悪いですが、ちょっとおかしいゲームが多い、『メイドインワリオ』のようなものに感じました。
河本 やはりなりきったほうがおもしろいというのは、どんなゲームもあると思いますし、おすそ分けされる側も、テンションが高いほうが楽しく遊んでくれると思いますので、あえて、ちょっとヘンなイメージを入れているところはありますね。もちろん、社内でもいろいろな意見がありましたが、機能紹介だけではなく、テンション高くちょっとヘンなゲームで対戦する、という方向で突き詰めて作りました。

――なるほど。コアなゲーマーに、このゲームを手に取ってもらおうとすると、なかなかのハードルがあるように思いますが、コアゲーマーにはどういった部分をアピールしたいですか?
河本 やはり、Nintendo Switchの機能を活用している部分ですね。とくにHD振動をいろいろと活かしていますので、興味がある方には触っていただきたいです。ローンチでは、Joy-Conの性能をいちばん感じられるタイトルだと思います。

――ちなみに、本作が完成するまでに、いろいろとボツになったアイデアがものすごくあるでしょうし、おもしろかったけど見送ったストックなどもあると思うのですが?
河本 そうですね。後でちゃんと磨いて使うかもしれませんので詳細は言えませんが、いろいろとあります。今後作っていくゲームにご期待ください!

――では最後に、本作を楽しみにしている読者にメッセージをお願いします。
河本 『1-2-Switch』は、目と目を合わせて、友だちが多い人どうしで遊んだり、気になる人と親密になるきっかけにしたり、パーティーに持って行ったりしてほしいですし、そう作りました。ただ、スタッフには友だちが多い人もいるんですが、プロデューサーの私は、そんなに友だちが多いほうではなくて……。

――ああ、ええっと、いや、きっとそんなことは……。
河本 いえ……本当にあまりいないんです(苦笑)。ですので、そんな私にも楽しめるよう、ちょっとした知り合いとか、家族とかと、2~3人でも遊べるようにも作っています。「チームマッチ」というモードを、2人だけで遊ぶのも楽しいです。ですので、大人数の友だちと楽しむだけではなく、普段あまり会わない人の新しい一面を見たり、ちょっと距離がある家族と話すきっかけにしたり、新生活の新しい知り合いと心理的な壁をなくしたりと、いろいろな場面で使ってもらえると嬉しいです。

――ありがとうございました!