和xシンフォニーxエレキが生み出すサウンドとは?

 2016年7月28日にコーエーテクモゲームスより発売となった和風ハンティングアクション『討鬼伝2』。和と洋との音色が融合した独特の曲風で知られる『討鬼伝』シリーズではあるが、本作ではそこにエレキベースという新たな血潮が加わった。本稿では、シリーズで作曲を担当する坂本英城氏と、オープニング曲『鬼ノ手』&イベントボス曲『烈火』に参加したベーシスト・KenKenさんによるサウンド対談をお届けする。本来は異なるものどうしがリスペクトし合うことで生まれる、新たなサウンドがどのようにして生まれてきたのか。お互いをリスペクトする両者だから成し得た、その秘密に耳を傾けてみよう。
※本記事は、週刊ファミ通2016年8月11日号に掲載された記事に加筆・修正をしたものです。

あの音楽はこうして生まれた KenKen×坂本英城『討鬼伝2』サウンド対談【完全版】_01
▲ベーシストとして演奏に加わったKenKenさん(左)と、『討鬼伝2』作曲担当の坂本英城氏(右)。

『討鬼伝2』オープニングムービー(楽曲:『鬼ノ手』)

ふたりの音楽家による化学反応

――本日はよろしくお願いします。まず『討鬼伝2』の楽曲に、KenKenさんが参加されることになったきっかけというのは?

坂本英城(以下、坂本) 『討鬼伝』シリーズでサウンドディレクターを務めているコーエーテクモゲームスの梅村祐玄(うめむら ゆうげん)さんが「つぎはなにかおもしろいことをやりたいので、KenKenさんを起用しては」と言ったのがきっかけです。当然、スーパーベーシストであるKenKenのことは知っていたので、即オーケーしました。

KenKen ありがとうございます。事務所に話を聞いた時は「ついにゲームの仕事が来た!」って興奮しましたよ(笑)。これまでは僕が参加しているバンドの曲がゲームのテーマ曲として使われることはあった(編注:RIZEの『MUPPET』が『クロヒョウ 龍が如く新章』に使用された)んですけど、いわゆるゲームミュージックに参加させてもらうのは初めてで。夢がひとつ叶いました。

――KenKenさんのゲーム好きは有名なだけに、初めてというのは意外です。ファミ通本誌では長く連載コラムを書いてくれていたのに。

KenKen そうなんですよ。7年間も連載をやっていたので、ロック系ではゲームに寄ってきたつもりだったんですけどね。だから今回は本当に光栄な……コーエーテクモな話で(笑)。しかも『討鬼伝』も『極』も遊んでいたので、余計にうれしかったですよね。ただ、楽曲が“和”のイメージなんで、どうなるかは実際に会ってお話しさせてもらうまでは、ぜんぜん想像がつかなかったですね。

坂本 信じられないくらいゲームを遊んでますよ。家庭用ゲーム機を全機種持ってるんでしょ?

KenKen 持ってますよ。いまだに3DOも動きますよ。3DOでいちばん好きななのは『ドクターハウザー』かな。

――渋い! 『アローン・イン・ザ・ダーク』的なポリゴンアドベンチャーですね。ところで、具体的なレコーディング方法は?

KenKen スタジオに入っていろいろ試しながらですね。映像を見ながら「このシーンでは主人公の手が伸びているから、ここはグリス(弦に指を置いたまま滑らす奏法)だ!」とか「ここは走っているスピード感を出したいからスラップ(弦を弾いて音を鳴らす奏法)で」とか。坂本さんとふたりで、最終的にはひとつひとつの音までこだわって調整していきました。自分というキャラクターを出しつつもゲームの世界観を壊さず、ヘンに安っぽくもならずに……とか、いろいろなことを考えながらね。あとは僕、『討鬼伝』では“手甲”使いなんで、あの連打の感じを出したいなと。

――坂本さんの和楽器を取り入れたシンフォニックな曲調と、KenKenさんのエレキベースがコラボすると聞いたときは不安もあったのですが、できあがった曲はお互いのいいところがブレンドされて、かっこいい仕上がりになってますね。

坂本 KenKenがゲームのことをわかってくれていたから、本当にやりやすかったですね。レコーディングもKenKenがベースを弾いている横に僕が座って意思疎通をしていました。通常、歌のレコーディングでは歌っている人とガラスを隔てているんですけど、まさにこの対談みたいなオープンな雰囲気で進めていきました。

KenKen 途中で「ちょっとベース弾いてみる?」なんつったりしてね(笑)。

坂本 うちのスタッフが空き時間でちょっとベースを教わったんだけど、KenKenがうますぎるので、逆に自信をなくしていました(笑)。

あの音楽はこうして生まれた KenKen×坂本英城『討鬼伝2』サウンド対談【完全版】_02

――収録にはどれくらいの時間が?

KenKen けっこうみっちりやってましたよ。1曲4時間で合計8時間くらい。最初は「どこまでやっちゃっていいんだろう」というのがお互いわからなくて試行錯誤しましたが、そこから抜けて、ひとつ目の曲ができてからは早かったですね。

坂本 途中でベースの弦を変えたりしてたよね。

KenKen そうですね。スラップの音は弦によって変わるんです。なので、変えた音でもう一度録ろうとかね。いろいろと試しましたよ。

――そういう判断が自分でできるというのは、KenKenさんが自分で楽曲をプロデュースされていることもあるんでしょうね。

KenKen ゲーム音楽を作っている方にものすごいリスペクトを抱いているので、そこに参加させていただくっていう気持ちなので、自分のエゴにならずどこまでできるのかは意識しました。自分にない発想もどんどん出てきたので、それは自分の進化にも繋がるのですごくいい経験でしたね。

――KenKenさんご自身がゲーム音楽から影響を受けた部分というのは?

KenKen 山ほどありますよ! ゲーム音楽って無意識に頭の中に入ってくるモノだし。ゲーム中にずーっと鳴ってても大丈夫なループ感が独特で、ある種バンドマンには絶対に作れない発想であったりとか。サントラを聴きながら歩くのが好きなんですが、ゲーム音楽はリフだったり印象的なフレーズが繰り返されるので、音源を聴いていないときでも頭のなかで無限ループしてくるんですよね。だから、僕らみたいな普通のバンドの人間が曲を作るときっと合わないんですよ。もしふつうの音楽の手法で作ったら、ループしているうちにうるさくなって、きっとBGMを消しちゃう(笑)。

──ゲーム音楽は、ある種独特なところがありますものね。坂本さんは今回、KenKenさんに演奏してもらううえで、何か準備などはなさいましたか?

坂本 準備は、あえてしませんでした。コーエーテクモさんが作家に現場を任せてくれるので、今回も僕がやらせてもらったんですが、今回のKenKenとのコラボでは、事前にあえて資料を用意しなかったんです。譜面はもちろんないし、コード譜はその場で書いて渡すような。そういったものがあるせいで、彼に縮こまってほしくなかったんですよね。自由にやってもらって、「ちょっと違うかな?」というところだけ方向修正していく。だから収録はすごく楽しかったですね。いままでいろいろなミュージシャンを見てきましたけど、KenKenの演奏は格別。収録に参加したみんなが釘付けになっていました。

KenKen ずっと手もとを見られて恥ずかしかった(笑)。今回は、自分が大好きなゲームのBGMというところに意識とリスペクトを持って取り組んだので、いままでの自分とは違った何かが出せたかなと思います。最初にやったゲームの仕事が、坂本さんチームとでよかったですよ。

――作曲家としてゲーム音楽に精通されている坂本さん、プレイヤーとしてゲームをよく知っているKenKenさんという組み合わせであったからとも言えそうですね。

KenKen 坂本さんは音楽へのリスペクトがとても高い方なので、ふたりの音楽家として何ができるかは一生懸命考えました。僕もベーシストである以前に音楽家だと思ってやっているので。しかも、坂本さんは僕には絶対作れないタイプの曲を作るから、ものすごく刺激的なんですよ。「こんな発想は1ミリも思いつかないよ!」という人とやることが、いちばん自分の成長になる。だから人とやるのって楽しいし、いっしょにやりたい人はいっぱいいる。けっきょく音楽に正解ってないですから、お互いが持っている正解を出し合って、それをどこまで大きくしていくかということだと思います。それに、レコーディングが終わってから、坂本さんは僕のライブをたくさん見に来てくれて、それがうれしいんですよ。

坂本 完全にファンになってしまいましたね。

KenKen そういう意味ではお互いに現場主義ですよね。仕事だから音源だけをメールでやり取りするようなこともあるけど、それだとどこまで気持ちが伝わっているのかがわからない。こうやって面と向かって何かを話し合えるというのは、世界的に薄れてきている大事なところだと思う。

坂本 理想的な作りかたでしたよね。

KenKen そうだと思います。

坂本 これはよく言っていることなんすけど、作曲作業って音は出ないんですよ。僕は譜面を書くけど、音を出すのは演奏家の方なんですね。それが誰かというのは非常に重要。でも、あまりカッチリと決めすぎて奏者の方を枠にはめてしまうのは嫌いなんです。楽器は問わず、お願いした瞬間に僕の仕事はおしまい。

KenKen 曲が頭の中で鳴るんだからすごいよなぁ。俺は、まずは自由に弾いてみて、自分にその旋律が響くかどうかを確認する、みたいな作りかただから(笑)。

オープンワールドの“広さ”を意識。プレイヤーが飽きない曲作りを

――本作の楽曲を制作するにあたって、もっとも意識された点はどこでしょう?

坂本 前作までのエリア制とちがって、『討鬼伝2』はオープンワールドでずっとフィールドがつながっています。そこでいちばん変えたのは、リバーブ(音の響き)の掛けかた。

KenKen 広さだ!

坂本 そう。残響の長さや深さによって、場所の広さやカメラの位置を表現したんです。あと、リバーブによって感情を表現する、という使いかたもしています。たとえば、物思いにふけっているときに流れる曲では、思いっきり深く長いリバーブを掛けたり。

――和風ハンティングアクションならではの和楽器についてはいかがでしょう。

坂本 尺八や篠笛、三味線や鼓(つづみ)など、これまでのシリーズで使っている楽器とほぼ同じですね。変えたところと言えば、シリーズでずっとお願いしている尺八奏者の渡辺峨山(わたなべがざん)さんにはとくにお世話になっているので、尺八の出番を増やしたくらいです(笑)。(編注:関連記事 ゲームにおける和楽器の取り入れかたとは? 尺八による生演奏もあった“和楽器推進委員会!”【CEDEC 2014】)

――またまた(笑)。楽曲そのものについてはどんな変化が?

坂本 これまでのシリーズ作もそうだったんですが、プレイヤーがいちばん長く聞くことになる里の曲『マホロバ -栄-』は、“聴きやすくもあり飽きがこず、でも耳に残る”ということを目指して作りました。今回は「幕末の混沌とした雰囲気を表現してほしい」という発注があったのですが、結果的にはあまり意識しすぎずに自分を通してしまいましたね(苦笑)。あとは、今回はゲームに時間経過があるので、昼と夜でアレンジを変えています。

KenKen いままでの里の曲は、安堵感がよかったもんね。そのまま寝落ちしちゃうことがあった(笑)。今回は何曲書いたんですか?

坂本 35曲。発注リストには「激しい戦闘」や「みんなが悲しみに暮れるシーン」、「●●のイベントで流れる曲」といったように、使われる場所と曲のイメージが書いてあって。

KenKen 映画のサントラに近いんですね。

バトル曲だけで約30曲を用意。KenKen装備の登場も!?

――とくに聴いてほしい楽曲は?

坂本 やっぱりKenKenといっしょに作ったイベントボス曲『烈火』ですね。彼にせっかく弾いていただいたし、ライブでもやりたいと思っているんですよ。それもオーケストラの前で。

KenKen おおっ、やりたい!

坂本 苦労したという意味では、バトル曲ですね。これは“ゲーム作曲家あるある”なんですけど、バトル曲って、作っていくうちにバリエーションがなくなってくるんですよ。とくに『討鬼伝』シリーズの場合、ボス一体ごとにバトル曲が用意されているので、30曲とか、かなりの数になってしまって。

KenKen ぜんぜん違う感じのものを30曲なら楽勝だろうけど、バトル曲っていう縛りがあると、つらそうだなあ。

坂本 ゲームとして仕上がってから曲を作るわけではないので、コーエーテクモさんに、「この敵はどのくらいの大きさなんですか?」、「飛ぶんですか? 潜るんですか?」、「どのくらいの速度で走るんですか?」って必死に質問をして、そのイメージに合わせて曲を作っていくんです。大きくて鈍重な敵だったら重めの遅いテンポ、ヒノマガトリみたいに跳びはねるやつだと、バイオリン奏者が本気でいやがるような、速い旋律にしたり(笑)。

KenKen 今日みたいな話ができると刺激になりますね。僕らの仕事は音楽を作ることだけど、坂本さんたちの仕事って絵やイメージありきが当たり前。ゲームって映像や音とかすべてのエンターテインメント要素が入っているジャンルだから、そこでの音楽の立ち位置ってデカイと思う。基本的に音楽のないゲームはないし、単なるBGMとも違うし。

――KenKenさんが感じる、『討鬼伝』シリーズの音楽の印象というのは?

KenKen みんなが思うだろうけど、和の音が鳴っているなって(笑)。っていうのは冗談だけど、和風でありながら曲調はビックリするくらい現代的なので、そういう意味で、ユーザーとゲームの世界観の間を取り持つ音楽だと思います。「うまいこと作るな~」と。いちばん好きなのは、鬼を討伐したときに流れる曲ですね。なんていうか、坂本さんの曲って“身を委ねられる”んですよ。ヘンに抜けていくわけでもなく、重くもなくて、存在感もある。後から気づいたんですけど、俺は坂本さんが音楽を手がけたほとんどのゲームをプレイしていて、音楽も覚えているんですよ。『討鬼伝』と『無限回廊』の曲を作った人が同じだと知ったときは驚いたなぁ。

坂本 『AQUANAUT'S HOLIDAY(アクアノーツ ホリデイ) ~隠された記録~』をプレイしていると聞いてビックリしました。

KenKen あれはすっごい大好きで。ぜひプレイステーション VRで出してほしいです。

坂本 KenKenが『AQUANAUT'S HOLIDAY(アクアノーツ ホリデイ) ~隠された記録~』を遊んでいるイメージがまったく沸かないじゃないですか(笑)。そのギャップがまたおもしろい。

KenKen 海感はゼロですよね(笑)。

坂本 それはさておき(笑)。曲に和の要素を感じてもらえるのはすごくうれしいですね。じつは作曲中は“人間は何をもって和を感じるのか”みたいな、ちょっと哲学的な思考に入り込んじゃったことがあって。『荒城の月』を聴いた人は誰もが「和っぽい」と思うじゃないですか。それは和楽器もそうだし、スケール(音階)といったテクニカルな部分にもあるんです。一時期はそんなふうに“和の音階”にチャレンジしようとしたけど、まず自分に向いていない。僕の作曲手法はもともと、バリバリの西洋音楽なので、最終的には自分の得意な作りかたをしたうえで、そこに和楽器をふんわりと乗せるようにしているんです。

KenKen 和と洋のいいとこ取りなんですね。日本の古典的な音楽って、拍(はく=リズム)がないからね。だから、四拍子になった瞬間にそれはもう洋風になっちゃうわけで。

坂本 ただ、和楽器ならではの作法というのもあるんですよね。たとえば能管が「ピー」と鳴ったら最後は「ピロロ~」で終わらないといけないというような邦楽のルールがある。曲中でそういう決まりごとは守っているので、和楽に詳しい人が聴いても問題ないはずです。

――“エセ和風”ではないわけですね。

KenKen それって大事ですよね。聴く人が聴いたらわかるってのはいっぱいあって、僕らも簡単に手を出しちゃいけないジャンルがたくさんある。それを極めてご飯を食べている人がいる限りはさ、あんまり踏み込み過ぎるとね。そういうところに音楽家としてのリスペクトを持ったのが坂本さんなので、すばらしいことだと思います。

――では最後に、ユーザーへのメッセージをお願いします!

KenKen 曲を聴いてユーザーの方がどう思ってくれるかがすごく楽しみですね。あとはぜひ、ダウンロードコンテンツでKenKen装備を作ってほしいですね。ベースを振り回して「オラーッ!」って殴るみたいなヤツ。弦を使って弓を打つのもいいな!

あの音楽はこうして生まれた KenKen×坂本英城『討鬼伝2』サウンド対談【完全版】_03

坂本 おー、いいね(笑)。どうせだったら本人のモーションがいいですね。僕は、やっぱりKenKenと『討鬼伝2』の曲をライブで演奏したいですね。

KenKen 1曲が2分くらいだから、長めにアレンジをしてもらわないとですね。

坂本 ですから、ぜひ『討鬼伝2』をプレイして、楽曲を聴いていただいて。ライブが開かれたら、ぜひ来てくださるとうれしいです!

あの音楽はこうして生まれた KenKen×坂本英城『討鬼伝2』サウンド対談【完全版】_04
あの音楽はこうして生まれた KenKen×坂本英城『討鬼伝2』サウンド対談【完全版】_05
KenKen(けんけん)。ベーシスト/ミュージシャン。ファミコンと同じ1985年生まれ。幼少期から楽器に慣れ親しみ、若くしてプロミュージシャンの道へ。現在は、RIZEやDragon Ash、LIFE IS GROOVEのベーシストとして活躍中。“唯一にして最大の趣味”と語るほどのゲーム好き。
坂本英城(さかもとひでき)。作曲家。1972年生まれ。作曲家、ゲーム音楽制作会社ノイジークロークの代表取締役。代表作は『討鬼伝』シリーズや、Webアニメ『モンスターストライク』ほか多数。ゲーム音楽コンサートの主催や、自身がリーダーを務めるバンド“TEKARU”など、ゲーム音楽普及のためにも積極的に活動中。