ライブの力強さを残しつつも聴きやすく

 2015年5月の発売から1年以上経過してもなお、“イカ旋風”を巻き起こし続けているWii U用ソフト『Splatoon(スプラトゥーン)』(以下、『スプラトゥーン』)。2015年10月に発売された、本作のサウンドトラック『Splatoon ORIGINAL SOUNDTRACK -Splatune-』に続き、2016年7月13日には、本作のアイドル“シオカラーズ”による“闘会議2016”、“ニコニコ超会議2016”のライブ音源を収録した、ライブアルバム『SPLATOON LIVE IN MAKUHARI -シオカライブ-』が発売される。今回、そのライブアルバムのミキシング(音響バランスを調整する作業)現場に潜入! ミキシングの様子と合わせて、『スプラトゥーン』の楽曲を手掛けた任天堂のサウンドスタッフと、シオカラーズのライブ用に楽曲アレンジを手掛けた大山徹也氏のインタビューも行った。また、記事の最後には、『SPLATOON LIVE IN MAKUHARI -シオカライブ-』のトラックリストも初公開! こちらも合わせてチェックしてほしい。

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『スプラトゥーン』シオカラーズのライブCDミキシング現場を直撃! サウンドスタッフ、アレンジ担当大山氏のインタビュー&トラックリスト公開!_01

■CDデータ
SPLATOON LIVE IN MAKUHARI -シオカライブ-
アーティスト:シオカラーズ
定価:2500円+税 / 税込2700円
発売日:2016年7月13日(水)
発売元:KADOKAWA

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▲都内某所のスタジオ。こちらで作業が行われていた。
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▲サウンドをチェックしているときは真剣な表情だったが、初めて見るというブックレットを手にしたときは笑みがこぼれていた。
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▲辻さんが持っているのはCDの盤面。なんと、ゲームディスクを思わせる、近いデザイン!
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▲左がゲームディスク、右がCDの盤面。
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▲ブックレットをチラリ。すべて『スプラトゥーン』チームによる豪華デザインだ。

 各楽曲をひとつずつチェックし、細かく指示を出していくサウンドスタッフの面々。ときに大山氏に相談しながら、アオリとホタルの声を少し下げる、ギターをもう少し際立たせるなど、かなり細かい調整を行っていた。闘会議2016とニコニコ超会議2016のふたつのライブではセットリストが多少異なるが、同じ楽曲でもライブによって空気感が違っているのが、音を聴いているだけでも伝わってくる。ライブならではの熱量を損なわないようにしながらも、何度も聴くことを想定して聴きやすいように調整が行われていた。そんな、プロフェッショナルなミキシング作業の合間に、サウンドスタッフと、楽曲のライブアレンジを手掛けた大山氏にインタビューを行った。

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▲おなじみ、“イカ、よろしく~”のポーズで!

■プロフィール
写真中央右:任天堂 サウンドディレクター/コンポーザー 峰岸 透氏(文中は峰岸
写真右:任天堂 サウンドデザイン/プログラム 辻 勇旗氏(文中は
写真中央左:任天堂 サウンドコンポーザー 藤井 志帆氏(文中は藤井
写真左:アレンジャー 大山 徹也氏(文中は大山

アレンジの方向性は最初から共通だった

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――5月28日で『スプラトゥーン』が1周年を迎えましたが、サウンドチームにとってどんな1年だったかを教えていただけますか?

藤井 『スプラトゥーン』の発売前は、こんなにサウンドのことを取り上げていただける機会があるとは思ってもいませんでした。とくにシオカラーズに関しては、加工された声でイカ語の歌を歌う人間ではないアイドルが、皆さんに受けて入れていただけるのか、不安でした。それが1年経ってみて、いまではリアルでライブをやるような、ゲームの枠を飛び出て活躍する存在になるとはまったく想像していなかったので、驚きつつも感動でいっぱいです。シオカラーズがさまざまな場面で活躍することで、私自身もこれまでにない貴重な体験ができた1年でした。
 『スプラトゥーン』のゲーム自体が新しいことにいろいろとチャレンジしたタイトルだったので、開発中も新鮮なことがたくさんありましたが、リリース後の1年間も、アップデートやサウンドトラックの発売、ライブなど、新しい体験をさせていただけて、発売前も後も、とにかく新しいこと尽くしでした。シオカラーズは主人公ではなく、ショップの店員やアタリメ司令、ジャッジくんなど、それぞれ等しく大切に作られてきた、たくさんのキャラクターたちの一部です。でも、その中でアオリとホタルのふたりがこんなにスクスクと育ってくれて……(笑)。もう既に我々の手を離れて、お客さんに見守られながら成長している姿を見ると、感無量です。

――親心のような感じですね(笑)。

 ユーザーの皆さんの中には、ふたりに対して親心を持ってライブを観てくださっている人も多かったと思うんですが、私も同じような気持ちで不思議な感覚ですね。
峰岸 私は発売当初、「いつの日か、『シオカラ節』で終わるライブができたらいいな~」と妄想していたのを思い出して……感無量です(笑)。
(編注:峰岸氏は、2015年6月に掲載したインタビューで、『スプラトゥーン』のライブについて「アンコールで『シオカラ節』をやったら盛り上がるだろうな」と答えている。記事は→コチラ

――そんな感無量のライブは、開発の方にとっても大きなイベントだったと思いますが、ライブを見た率直な感想はいかがでしたか?

藤井 歓声を浴びているシオカラーズを目の前にして、目頭が熱くなりました。アオリとホタルが踊っている姿はゲームの中で何回も見ていましたが、会場で観ると“実際にそこにいる”という感覚がとても強く感じられて、夢中でサイリウムを振っていました(笑)。
峰岸 ライブ前日まではてんてこまいでしたが、当日はいち観客として飛び跳ねていましたね。ただ、もちろん感動はしたんですが、それと同時に、これだけ多くの方々に愛されている世界観を大事に育てていかなければいけないな……と思うと身が引き締まり、武者震いもしていました。

――なるほど。ある種の使命感のような。では、自分たちが作った原曲のライブアレンジ版を聴いたときの印象はいかがでしたか?

藤井 まず、ライブを生バンドでやると決まったとき、原曲がテクノポップ系で、バンドの音はいっさい使っていないような曲なので、どういうアレンジになるのか不安だったんです。バリバリのロックになったらどうしよう……と。ですが、大山さんのアレンジは、原曲の素材を活かしてポップさを残しつつ、バンドらしいかっこよさもプラスされたものになっていて、こちらが漠然と思っていた理想を形にしていただけたような感動がありました。とてもステキなアレンジにしていただいたと思います。

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――ちょうどいいフリになりましたが(笑)、大山さんがライブアレンジにする際に、明確なコンセプトはあったのでしょうか?

大山 今回のアレンジのお話をいただいたとき、最初の打ち合わせでお伝えしたんですが、僕は職業アレンジャーとしての立ち位置でやりたかったので、“原曲にリスペクトを受けた状態から何ができるか”というところを表現できればと思っていました。いま藤井さんもおっしゃっていましたが、原曲にバンド感をプラスしてカッコいいものってなんだろうと考えながらアレンジをして。アレンジのイメージはあったんですが、ただ、怖さも感じていました。『スプラトゥーン』という人気のゲームで、さらに大人気の楽曲ですから、アレンジしたものをライブで初めてお客さんに聴いてもらったときに、ファンの方がいままで聴いていたものとの差異がいいほうに出ないと意味がない。そういう意味では、できるだけ原盤(元の楽曲)を崩さないように、原盤のシンセの音を使わせてもらったりしつつ、バンドらしさを出すことに気を遣いましたね。最初から、原盤とのコンビネーションがうまくできたらいいなと思っていたんですが、その方向性が任天堂さんと合致していたので、アレンジはスムーズに進みました。

――バンドアレンジにするにあたって、ドラムを生でやるというのは最初から決めていたのでしょうか?

大山 もともとニコニコ超パーティーでボーカロイド曲や歌い手さんたちの曲の取りまとめをさせていただいていまして、そのときにも意識するんですが、“生ドラムと機械のドラム音とのバランスでどう聴かせるか”というのをよく考えています。ですので、今回のアレンジの中でも、生ドラムが強いものと、原盤のエレクトリカルなドラム音が強いものがあるんですね。曲によって、スネア音は原盤で、キック(バスドラム)は生といったケースもあります。ギターとドラムの音色が曲のジャンルになる気がするので、音のバランスの出し引きはけっこう気にしていますね。

――そういう意味では、1曲目の『キミ色に染めて』は、かなりパワフルなイメージになっていますね。

大山 僕の中でロックバンド寄りにしたいと思ってアレンジした曲ですね。でも、今日のミキシングで、藤井さんが「もっとギターを強調したい」と言っていて、藤井さんもそっち(ロック)寄りなんだと(笑)。
藤井 じつは、『キミ色に染めて』はもともとロックをイメージして作っているんですよね。音色はテクノっぽい感じにしていますが。今回大山さんにロック寄りのアレンジにしていただけたので、ついその部分をさらに強調したくなってしまって……(笑)。
大山 僕が提示したアレンジに対して、それの延長線上となる意見を藤井さんが言ってくださっているので、いいミックスアップになったんじゃないかなと思います。

――提案という形でアレンジを行って、そのフィードバックをもらって……という形で詰めていくのでしょうか?

大山 そうですね。でも、おかげさまでアレンジの根本がズレていることは一度もありませんでした。細かい部分の調整は何度もやりましたけど、こういう仕事では根本的な部分でズレがあるケースもあるので……。

――原曲の作者として、できあがったアレンジに対して「もっとこうしてほしい」といった要望はなかったのですか?

藤井 大山さんがおっしゃる通り、細かい部分は何度か修正していただきましたが、根本的に違うところはひとつもなかったですね。
大山 細かい部分はそこそこありましたね(笑)。超会議のときは、デモのやり取りを、合計で10往復くらいやったかな。大きな直しではなくて、ちょっとした指摘に対してサっと修正して「こうしました」という感じで、細かくやりとりをしていましたので。

――大山さんにアレンジの依頼が来たときは、どのように思われましたか?

大山 最初は『スプラトゥーン』というタイトルは言われずに、ゲームミュージックをアレンジするというお話だけを聞いていました。ですから、僕の中で、ゲームミュージックのアレンジと聞いて、「もっとハイテクなロックアレンジをやるのかも?」と思っていたんですが、お話を聞くと、そうではないものにしたいということで、僕がやりたいこととイメージが近く、楽しくできましたね。

――ちなみに、大山さんは今回のお話を受ける前に『スプラトゥーン』はご存じでしたか?

大山 ニコニコ動画やYouTubeにもたくさん動画があったので、存在は知っていました。ただ、お話を受けた当時はWii Uを持っていませんでした(笑)。その後、「これは実際にプレイして、ゲーム内で楽曲を聴かないと世界感を把握しきれない」と思って、本体ごと購入しました。

――そこでイカの世界へ入ったわけですね(笑)。初めて『スプラトゥーン』の楽曲を聴いたときのイメージは?

大山 サントラのジャケットもそうなんですが、ドンピシャで好きなタイプでした。ちょっと前のいい時代のレコード屋とか雑貨屋のような感じで、そういやこういうCDをジャケ買いしてたなーと(笑)。音楽自体も打ち込みのカッコいい部分を使ったポップなものが多いですし、歌詞がイカ語なのでずっと聴いていると、洋楽を聴いているような感覚になれるんです。

――確かに! 歌詞がわからないですからね。

大山 そうですそうです。音楽としてのよさに集中できるというか。歌詞がパッとわからないだけに、ボーカルも楽器の一部のように聴こえる、洋楽の感覚に近くてすごく好きでした。

――そういった部分は、計算して楽曲を作られていたのでしょうか?

峰岸 そうですね……歌詞やボーカル以外の要素も含めて、どこの国の人にとっても“異国の音楽”であるかのように聴こえたらおもしろいな、とは思っていました。

――海外の人の中には、イカ語が日本語と思っている人もいそうですよね。

峰岸 確かに、曲によってはかなり日本語っぽい発音の部分もあるので、そう思っている方がいらっしゃるかもしれません。

――イカ語と言えば、闘会議2016でのファーストライブのときに、最初のアオリとホタルが話す部分は、字幕がなくてもみんな盛り上がっていましたよね。

峰岸 来日した洋楽アーティストに対するリアクションに近いですね(笑)。
 とくに、闘会議の最初は、シオカラーズが目の前に出てきたこと自体に衝撃を受けていた人も多いでしょうし、何をしゃべっていてもとりあえず叫ぶ、というのはライブそのものでしたね(笑)。

――ちなみに、ライブのMC部分は毎回ボイスを収録し直しているのでしょうか?

 いえ、MC部分はすべて私がエディットしています。

――えっ!? そうなんですか?

 作業の流れとしては、最初に台本が決まって、しゃべる内容に合わせた各セリフの秒数がだいたい決まります。そこに振り付けがついて、並行して音声をつけるという順番で、手もとの“イカ語データ”の中から、“こういうイントネーションでしゃべっていそうだな”というものを選んで、手作業でエディットしています。おかげで、日本語を見るだけで脳内でイカ語に変換できるくらいになりました(笑)。

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――それはすごい!(笑)

 そもそもアオリとホタルの音声収録は、『スプラトゥーン』が発売されるかなり前に一度だけしか行っておりません。収録当時は、我々も、声を担当していただいたkeity.popさん(アオリ役)と、菊間まりさん(ホタル役)のおふたりに、ライブのMCをしゃべってもらうことになるとは予想しておらず、当初の役割である、ゲーム中のニュース番組のトークという体裁で収録していたんです。しかし、一般的なニュースは基本的に平坦な発声で、ライブのMCに使用するにはテンションが低すぎると思うんですが、『スプラトゥーン』のニュースは感情の起伏が比較的大きく、驚いたりゲッソリしたりするシチュエーションもあるので、おふたりにもいろいろな感情で声を演じてもらっていまして、それがライブMCに活きていますね。

――何がどう活きるかわからないものですね。

 『スプラトゥーン』の音声収録もかなりチャレンジングでした。ふだんは歌のお仕事をされているおふたりですから、キャラクターを演じることは本業ではないんですよね。しかも架空の言語を演じるわけで、「この単語を読んでください」という従来のやりかたでもなく、収録スタイルから書式から何もかも違っていたこともあり、制作側も収録しているおふたりも、最初は戸惑い、手さぐりの収録だったのを覚えています。ですが、収録の終盤には「イカ語だとこんな感じだよね」という共通意識も生まれまして、今回、ライブアルバムで音声だけを聞いても「たぶんこんなことをしゃべっているんだろうな」というのが、皆さんに感じていただけるような会話のリズムが生まれていると思います。

――確かに、なんとなく伝わります。辻さんはSEも担当されていますが、SEを作るときも、イカ語のように世界のユーザーが共通したイメージを持てるように意識されているのでしょうか? それとも、音楽に合わせてSEを作るのでしょうか?

 SEも音楽も、お互いに未完成な状態で作っていくので、もちろんリファレンス(参考)として聴きながら、お互いの音のぶつかりなどは気にして作っていますが、基本的にはインクとシューターの世界、その質感や世界観を重視しています。イカ世界の若者たちが本当に遊んでいるような没入感を出したくて、あまり抽象的な音にはせずに、“本当にイカがインクで撃ち合ったら、こんな音の中で戦っているだろうな”という、ウソだけどリアルに感じられる生々しい音を意識しています。イカ語も、この年齢のイカが人に変身したらこんな音色、発音で発声しそうというイメージから、台本や加工のプロセスなどを決定しています。

ライブでは生演奏があってこそ

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――ライブアレンジを仕上げる中で、指針のようなものはあったのでしょうか?

大山 僕は最初から理屈で作るタイプではないので、質問に答えるとすると“ない”という答えになってしまいますね。もちろん、バンドでやる以上、フルコーラスでやりたいという話はしていたので、ギターソロを入れたりイントロを足したいという話はありました。ただ、原曲を膨らませる流れで作りたかったので、コンセプトというものはなく、「この曲ならこういうイントロがついたらカッコいい」とか、「こういう間奏が盛り上がるだろう」という、あくまで自然な流れで足しています。曲の流れも原盤そのままですし、曲を作るときは、キーボードを弾きながら「にゅふぁらふぇに~♪」みたいにイカ語風に歌いながら膨らませて、そのときに浮かんできたコード進行でアレンジをしていたので(笑)。

――アレンジ中の姿を取材してみたいです(笑)。では、そうやって浮かんだコード進行を、PC上で作り上げていくのでしょうか?

大山 そうですね。もとのデータや新しく足したギターなど、すべての音源をミクスチャーした状態で、デモをフルで作っています。

――ギターもご自身で弾かれるのですね。

大山 はい。僕が弾いているものと、ギタリストに頼んだものが混在していますが、デモの段階で本番とほぼ同じものを作っておいて、すべて完成したものをバンドに渡して「これをやります」と伝えます。そうじゃないと、バンドの人も歌の解釈が難しいと思うので。

――バンドの人に音源を渡して、ライブに向けて練習をしてもらうのでしょうか?

大山 マスターのコード譜と、デモ音源をお渡ししてコピーしてもらっています。それから、バンドリハーサルに入ったときに、細かいところの意思疎通で調整しますね。

――リハーサルの現場にいてディレクションされるのでしょうか?

大山 僕の場合は、同期データの整理をしていることが多いですね。演奏中にもいろいろなデータを流しているので。たとえば、ギターの音だけでも、同期データで流している音と生演奏でユニゾンするかどうかといった、音の出し引きがいろいろとあるんです。

――なるほど。ちなみに、ライブ中に聴こえている音のうち、同期データの音源の割合はどのくらいあるのでしょうか?

大山 半々くらいです。ただ、生バンドとしてドラム、ベース、ギター、キーボードがいるので、メインは生演奏で同期データはあくまで上物ですが、単純なトラック数の割合でいうと半々ですね。

――バンドのディレクションというよりも、全体の音を調整しているわけですね。

大山 そうです。ただ、バンドの皆さんも『スプラトゥーン』は知っていても、イカ語という経験したことがないボーカルを聴くことになるので(笑)、何が正解なのか判断しづらいと思うんです。ですから、バンドディレクションと言うか、曲ごとに“何を目指しているのか”という話はしましたね。あとは、「こっちのギターの同期データを流すので、生演奏はこっちを弾いてください」といった調整をしています。シオカライブの演奏に参加される皆さんは、スタジオミュージシャンと呼ばれるようなプロの方々ですので、「そこ音がよれてるよ!」というような指摘はいっさいありません(笑)。

――なるほど。今回のライブアルバムで聴いてほしい部分を挙げるとすると、いちばんはどこでしょうか?

大山 闘会議2016とニコニコ超会議2016のライブで「何が違うのか?」という、差を聴き比べるのはおもしろいと思います。同じ曲を演奏していても、細かい部分で違いがあったりするので。基本的に同じボーカルで同じトラックでやっているのに、違うものに聴こえるのがライブのおもしろさなので、それが出ていていい感じのライブアルバムになっていると思います。

――観客のレスポンスも違いますよね。ニコニコ超会議2016のときはセカンドライブだったので、合いの手も大きいんですが、闘会議2016のときはわりと静かだったり。皆さんは、どちらのライブが好きですか?

藤井 個人的には、初ライブの感動という意味で、闘会議版は思い入れが強いですね。ただ、演奏もアレンジもそれぞれのバージョンごとのよさがあるので、本当に甲乙つけがたいです!

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――ですよね(笑)。どちらも最高でした。ちなみに、ニコニコ超会議2016では新曲が発表されましたが、アオリの『トキメキ☆ボムラッシュ』はテンポのいいかわいい曲に対し、ホタルの『スミソアエの夜』はミディアムチューンで、これまでにない雰囲気の曲になっています。こうしようと決めた理由はありますか?

藤井 ゲーム中のシオカラーズの曲は、基本的には“ゲームの場面に合わせたBGM”として作ったものなんです。ですので、ゲームのテンポに合わせたアップテンポなものが多いんですよね。今回、アオリとホタルのソロ曲を追加で作るということで、ゲームでは使いにくい曲調に挑戦できるなというのと、ソロらしく、シオカラーズのふたりそれぞれの特色を出したいということを考えていました。ホタルはビブラートをきかせて大人っぽく歌いあげてほしいな、アオリはさらに元気いっぱい、かわいさ全開で歌ってほしいな、という風にイメージを膨らませて曲を作っていったら、ホタルの曲のほうはだいぶしっとりした雰囲気になりました。

――シオカラーズのふたりのキャラクター作りはどのように行われたのでしょうか? 声は加工されるわけですよね。

藤井 もともと、ゲーム中のふたりの性格の設定などから、アオリの声は元気でかわいらしいイメージ、ホタルの声は落ち着いていて少し気だるい雰囲気というはっきりとしたイメージがありまして。声を担当したおふたりには、それぞれのキャラクターのイメージをお伝えして、加工するということは意識せずに歌っていただきました。
峰岸 でも考えてみると、設定を踏まえたオーディションを行って、ボーカルがおふたりに決まった時点で、もうある程度狙いは達成されていましたね。
 無理にキャラクターに寄せて歌ってもらうということはなかったです。

――それでは、ボーナストラックについても聞かせてください。ボーナストラックとして『ハイカラシンカ』のデモ版が収録されていますが、これはどういったものなんでしょうか?

峰岸 シオカラーズのプロデューサー“Shy-Ho-Shy”がこの曲を作ったとき、ふたりに「これを歌ってもらうわよ」と渡したデモの音源なんです。ですので、よく聞くとシオカラーズではない別の人がひとりで歌っているんですが、それがShy-Ho-Shyというわけです。

――声の主はShy-Ho-Shyで、女性だったんですね! そういう細かい設定を聞くと、音源を聴くときの楽しみが増えそうです。イカ世界では、このデモ収録の後に、本収録が行われたというわけですね。

峰岸 はい。たぶん、シオカラーズのふたりが歌を練習しているあいだに、Shy-Ho-Shy本人がアレンジを詰めて、レコーディングに臨んだのだと思います。

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――PVのBGMとして流れたアレンジ曲も収録されていますが、PVを作る際は映像先行で音をつけるのでしょうか? 曲が先なのでしょうか?

峰岸 『スプラトゥーン』では、ほぼ曲が先ですね。「だいたいこんなものをこんな順序で見せるPVにするよ」という連絡が来たら、あまり細部は気にせず曲を作ります。その後で、リズムに合わせて映像をうまく当ててもらうという流れですね。今回収録してあるPVの音源も、窮屈な思いをして絵に合わせたものではないので、音だけを聴いてもお楽しみいただけると思います。

――シオカラーズのライブが続きましたが、Squid SquadやABXYといったイカ世界のバンドもライブをやってほしいという声も多いと思います。今後、こういった展開は……?

峰岸 彼らもイカ世界ではライブをやっていると思うので、私も観たいんですが、現在のところスケジュールが合わないみたいです(笑)。あったらいいんですけどね、シオカラーズと彼らが共演する“スプラトゥーンライブ”とか。
 対バンみたいな感じで(笑)。

――いいですね! いつの日か実現するのを楽しみにしています。それでは最後に、ライブCDを待っているファンに向けてひと言お願いします。

大山 僕は、音楽とアレンジを通して『スプラトゥーン』とシオカラーズを好きになったファンです。音楽から入ったライトな層なんですが、いまでは『スプラトゥーン』もシオカラーズも大好きです。このCDを通して楽曲のよさ、そしてライブの熱を感じてもらって、もっと『スプラトゥーン』ファンになっていただきたいと思います。
藤井 シオカライブは、ニコニコ動画やYouTubeで動画が観られますが、今回CDになるにあたって新たにミックスをしたことにより、それぞれの楽器の音がより鮮明に聴きとれるようになっています。「こんなにカッコいいフレーズを弾いてたんだ!」といった発見もあると思うので、闘会議版と超会議版で聴き比べて楽しんでもらえればと思います。
 『Splatoon ORIGINAL SOUNDTRACK -Splatune-』のときと同じく、今回もまた無理を言って、SEとしてシオカラーズのボイスを少しだけ入れさせていただきました。今回はアオリとホタルのボイスを4種類ずつ入れてあります。どの声をチョイスするかもまた悩みに悩み抜いたんですが、アオリ、ホタルの性格がとくに表れているものを中心に選びました。ぜひ、ライブの合間にそちらもお楽しみいただければと思います。
峰岸 Twitterなどで今回のライブにいらした方々の感想を拝見していると、「生まれて初めてライブというものを体験した」なんて声もあって驚きましたが、それに恥じないライブだったんじゃないかとも思っています。会場にいた皆さん、来られなかった皆さん、そしてこの際、『スプラトゥーン』をやったことがない皆さんにも、その魅力を存分に封じ込めたこのCDをぜひ聴いてもらいていただきたいと思います!

――ありがとうございました!