「ユーザーファーストを貫きつつ“新しいチャレンジ”に取り組む」

 泉水敬氏がマーベラスの代表取締役副社長に就任した。泉水敬氏と言えば、2002年にマイクロソフト(当時)に入社以降、13年以上にわたってXboxプラットフォームを取りまとめてきた、いわば日本における“Xboxの顔”にあたる存在。2015年7月に日本マイクロソフトを退職した後、今年2月にマーベラスの顧問に着任。この度、6月21日付けをもって副社長の任に就くことになった。泉水氏がマーベラスで思い描く戦略とは? 就任直後の泉水氏に直撃取材を敢行した。

※本記事は、週刊ファミ通2016年7月7日号(2016年6月23日発売)に掲載したインタビューに加筆したものです。

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泉水 敬氏
マーベラス
代表取締役副社長

幅広く豊富なコンテンツがマーベラスに入社する決め手に

――まずは、泉水さんがマーベラスの副社長に就任するにいたった経緯を教えてください。

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泉水 今年に入ってからお声をかけていただき、2月に顧問として入りました。そこで社内の状況などに触れ、マーベラスが合併などを経て、順調に業績を拡大していく中で、「つぎのステージに躍進するうえでお役に立てるのではないか」ということで、この度代表取締役副社長に就任することになったんです。

――泉水さんとしては、マーベラスのどの点にとくに可能性を感じたのですか?

泉水 コンテンツの豊富さですね。ゲームにしても、家庭用ゲーム機からアーケード、PCブラウザゲーム、スマートフォンまで幅広いですし、アニメや舞台なども手掛けている。さまざまなビジネスの取り組みができる点はとても魅力に感じました。実際のところ、日本マイクロソフトを退職して、いろいろな業界を見させていただいたのですが、その過程で私はエンターテインメント業界のビジネスが好きだということに改めて気付かされたんです。そして、ここならば幅広いエンターテインメントビジネスに関われるということが、マーベラスにお世話になることを決めた最大の理由でもあります。

――マーベラスに入社することによって、泉水さんの知名度と海外人脈に期待する声も聞きますが、“泉水さんだからこそ果たせる役割”について、どう考えていますか?

泉水 当面は、マーベラスの海外事業を中心にビジネスの拡大に注力していきます。たしかに、ゲーム業界の中での知り合いも多いですし、海外も含めていろいろなつながりがあるので、そこは役に立つとは思っています。今回、私がマーベラスに入社することは海外でも報道されたようで、その記事をご覧になった海外のゲーム関係者の方から連絡があったのは、うれしいことでした。そういった中から、新しいつながりが出てくるかもしれません。ただ、私にとってマーベラスへの入社は、どちらかというと“新しいチャンレンジ”という意味合いが強いです。なにしろ、日本の企業に勤務するのは20年ぶりくらいになりますので(笑)。これからの新しいチャレンジを楽しみにしています。

――では、具体的にどんなチャレンジをしていきたいですか?

泉水 それはこれからの課題になりますね。ただ、これはすでにマーベラスでも実現されていることだとは思いますが、私がXboxのビジネスを通して大切にしていたのは、“ユーザーの皆さんとのコミュニケーションを密に取らせていただく”ということでした。Xboxの事業に携わっていたときは、場合によってはイベントなどで直接お客様にお話しかけさせていただいたりしましたし、比較的ユーザーの皆さんに近い立場にいるつもりでした。それはマーベラスでも実践していきたいです。

――ユーザー目線に立つということですね。

泉水 はい。ユーザーの皆さんと距離の近さによるダイレクトな反応が、まさにエンターテインメント業界の醍醐味だと私は思っています。とはいえ、主役はあくまでもコンテンツを作っているクリエイターです。私はクリエイターの皆さんが気持よく仕事ができて、彼らが作り上げたコンテンツを最大化できるようにお手伝いするのが、マーベラスでの役割だと考えています。そういった意味では、Xboxのときとは、少しスタンスが変わるのかなと。もちろん、これまで10数年間、ゲーム業界の方にお世話になりましたし、ユーザーの皆さんにも助けていただいたので、お世話になったゲーム業界の皆さんに恩返しをしたいですし、何らかの貢献をしたいという思いは強いです。その思いを実現していくうえで、ユーザーの皆さんがお求めになるような、楽しくかつ感動を与えられるような体験を提供していきたいですね。

――2月に顧問に就任されて、マーベラスという会社に接してみての気づきなどはありますか?

泉水 中に入ってマーベラスで実感したのは、「会社としてきちんと運営されているな」ということでした。土台は非常にしっかりしているというのが第一印象です。それに私のこれまでの経験を踏まえたうえでのやりかたやモノの見かたを加えることで、新しい展開をもたらすことができるのではないか……とは思いました。

――どのような方向性を目指すつもりですか?

泉水 さきほどもお話したとおり、マーベラスでは幅広い事業を展開しています。ゲームひとつとっても、家庭用ゲーム機向けからPCオンラインゲーム、スマートフォンアプリ、アーケードゲームなどバラエティーに富んでいます。さらには、アニメや舞台、音楽なども手掛けています。ひとつ言えるのは、つぎのステージに向けては、こういったものをうまく組み合わせて、会社を挙げて、さまざまなプロジェクトに取り組むことで、さらに大きな展開ができるのではないか……ということですね。まあ、“つぎのステージ”というのは、私が勝手に言っているだけですが(笑)。

――質量ともに、つぎなるステージに登る感じですか?

泉水 規模的に大きくなるというだけではなくて、ひとつのコンテンツをユーザーの皆さんに提供するにあたって、さまざまな形態で展開していけるということです。いろいろな体験の仕方を提供できるということで、ユーザーの皆さんにとっては選択肢の幅が増えるのではないかと。

――それは、ゲームやアニメ、舞台とはさらに違った領域に取り組むということですか?

泉水 もう少しわかりやすくお伝えすると、会社もゲーム事業や音楽映像事業などに分かれているわけですが、私が“ハブ”になって、今後事業部間のコミュニケーションを密に取りつつ、ビジネス展開のひとつにしていけたらと思っています。

――社内におけるメディアミックスの流れが円滑になるといった感じでしょうか?

泉水 そうですね。もっと言えば、私はクリエイティブサイドの人間ではないので、実際にコンテンツの制作に関わることはないのですが、ゲームクリエイターさんだったり、舞台のプロデューサーさんだったりの橋渡しをする役割はできるのではないかと。

――それは、IPのイメージを守る役割ということですか?

泉水 それも含めてですね。会社としてのフランチャイズをきちんと維持したり、そのフランチャイズを展開するうえでの戦略を立てることはできると思います。

対象ユーザーに喜んでもらうべく最大限に努力するのがマーベラス

――ゲームコンテンツに関して言うと、泉水さんはマーベラスのタイトルをどのように分析していますか?

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泉水 見ていて思うのは、コンテンツのターゲットとなるユーザーの皆さんのことをよく考えていて、その方たちに喜んでいただけるようなコンテンツを、それぞれのタイトルで最大限に実現すべく努力しているということです。対象となるユーザー層も幅広くて、ちょうど6月23日に発売されたファミリー層向けの『牧場物語 3つの里の大切な友だち』から男性ファンに楽しんでいただける『閃乱カグラ』シリーズまで、豊富なコンテンツが揃っているというのが、私の印象です。ちょっとこぼれ話になりますが、じつは『牧場物語』シリーズは、私がXboxプラットフォームで出したいとずっと思っていたタイトルのひとつでもあります。

――それだけ思い入れが深いのですね?

泉水 もうひとつXboxプラットフォームで出したいと熱望していたタイトルに『ドラゴンクエスト』シリーズがあります。じつは、6月23日はマーベラスが開発を担当するアミューズメントマシン『ドラゴンクエスト モンスターバトルスキャナー』の稼動開始日でもありまして、マーベラスに入社したことで、かつて熱望していたコンテンツに奇しくも関わることができたというのは、少し感慨深いです(笑)。

――昨今、スマートフォン向けゲームなどが人気ですが、そんな実情を踏まえて、マーベラスではどのような戦略を考えていますか?

泉水 スマートフォン向けゲームの台頭によって、ゲームの遊ばれかたは確実に変わったとは思います。同時にユーザーの皆さんがゲームを遊ぶ目的というのも、時と場所に応じて使い分けられ始めていることは間違いないです。通勤途中にスマートフォンゲームで遊ぶのと、家庭用ゲーム機を自宅で大画面で楽しむのとでは、ゲームをすることの目的は明確に違ってきています。つまり、遊ばれかたの選択肢が増えているというのが実感ですね。たしかに、家庭用ゲーム機の市場規模は下がっていますが、ゲームユーザー層自体は増えていますし、要はコンテンツ次第です。ユーザーの皆さんに興味を持っていただけるコンテンツが提供できれば、おのずとユーザーさんはついてくださると思っています。マーベラスとしても、家庭用ゲーム機での取り組みは今後も継続して強化していきたいです。

――Xboxプラットフォームでの実績なども踏まえ、泉水さんに期待しているコアなゲームファンも多いかと思います。

泉水 ありがとうございます。それこそ、Xboxのビジネスに関わり始めたころから話していることになるのですが、私はゲームの世界と映像コンテンツの世界は比較的よく似ていると思っています。かつて映画が主流だった映像コンテンツという分野に、テレビという存在が出てきたときに、映像コンテンツの消費のされかたが変わってきた。より多くの方がテレビを見るようになって、手軽に映像コンテンツが楽しめるようになったときに、それで映画が衰退したかというとそんなことはありませんでした。ビデオやDVDなどの映像パッケージソフトが、映像ビジネスの流れを変えたんです。同じことがゲーム産業にも言えます。スマートフォン向けゲームが台頭したことによって気軽に遊べるゲームが増える一方で、より没入感の高い家庭用ゲーム機もちゃんと残っていくのではないでしょうか。

――没入感というと、今年は“VR元年”とも言われていますが、VRに関してはどのように考えていますか?

泉水 VR体験そのものは、将来的に大きな可能性を持っていると思っています。実際のところ、まだまだ課題は多いとは思いますが、VR自体はふつうの画面で体験するよりは圧倒的に没入感が高いので、今後コンテンツ提供はどんどん進んでいくのではないでしょうか。エンターテインメントコンテンツとしては非常に魅力的です。当然マーベラスでもVRの研究は進めておりまして、VRの特性をしっかりと活かしたコンテンツができるのであれば、タイムリーに出していきたいです。

――VRはゲームのみならず、映像分野でも注目されているので、マーベラスとしては活用範囲が広そうですね。

泉水 そうですね。先ほども述べたとおり、マーベラスはさまざまなコンテンツを持っていますので、VRに合ったコンテンツを、そのコンテンツに見合ったデバイスを通して、提供していくことになると思います。

――家庭用ゲーム機のプラットフォーム戦略に関しては、どう考えていますか?

泉水 コンテンツというのは、その内容や提供するマーケットなども踏まえて、いちばん適したプラットフォームで選択されるべきだと思っています。ユーザーの皆さんがいちばん遊びやすい、消費しやすい環境を選ぶことが大切だという認識ですね。そういったことを考慮しながらプラットフォームを選択していきたいです。

――つまり、ユーザー目線に立ったプラットフォームを選択するということですね?

泉水 はい。とにもかくにも、マーベラスのコンテンツに接して楽しんでいただいているユーザーの皆さんの顔を見ることが、私の何よりの目標です。これからのマーベラスの展開にぜひともご期待ください。

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