2005年12月に誕生したセガゲームスの『龍が如く』。大人向けのエンターテインメント作品として確固たる地位を築き、いまや国内のみならず、海外でもファンを増やしている同シリーズは、昨年、10周年という節目を迎えた。

 セガを代表するIPとして確立した『龍が如く』が、今後目指すものとは。同シリーズの総合監督を務める名越稔洋氏にお話をうかがった。

※本インタビューは、週刊ファミ通2016年3月24日号(2016年3月10日発売)に掲載されたものに、加筆・修正を施した完全版です。

『龍が如く』10周年の先へ―― 名越稔洋氏に訊く、変わっていくものと変わらないもの_06
セガゲームス
名越稔洋氏
(文中は名越)

『龍が如く』というIPのセガにおける役割

――『龍が如く』第1作が2005年12月に発売されてから10年が経ちましたが、この10年を振り返ってみて、いかがですか?
名越 日によって感じかたが違いますね。短かったなと思う日もあれば、長かったと感じる日もあり。とは言え、「ああ、長い道のりだった……」としみじみ思うことは少ないので、自分にとってはきっと短かったと思います。

――ほぼ“1年に1タイトル”というペースで出し続けているからこそ、そう感じられるのでしょうか。
名越 そうなんだと思います。1年に1作というのは、最初から狙っていたわけではなく、振り返ればそうなったというだけなのですが。

――10年続けてきた中で、どんなことに対して、「これは、やったな」と手応えを感じましたか?
名越 じつは毎回、「やったな」と感じてはいるんです。ナンバリングタイトルは、“50万本を超えなければいけない”というプレッシャーがあるのですが、実際に50万本を超えられたときは「やった」と思います。1月に発売した『龍が如く 極』も、アジア版と合わせて現在38万本ほど出荷していて、それも「やった」と思っています。毎回目指す数字があり、それに近い結果を作ってこれたという意味で、つねに手応えはあります。加えて『龍が如く』がゲーム事業を支えたことによって、セガのほかのIP(知的財産)が育ったということに対しても達成感はありますね。あくまで、延長線上の達成感ですが。

――『龍が如く』は、いまではセガのコンシューマーゲームの看板タイトルですからね。
名越 10年とちょっと前は、IPが枯渇して、セガのブランドというものが失われかけていた時期があったと思います。『龍が如く』は、そのような辛い場面を耐え忍びながら、『ファンタシースター』や、スマートフォン用ゲームなどが育つ土台を作ってきました。「コンシューマー事業をやめるか」などという声が上がったこともありましたが、やめていたら、たいへんなことになっていたと思います。何かの事業がしんどいときは、新しいコンテンツや事業が生まれて、会社を支えていく。永遠に繁栄する事業もなければ、永遠にへこんでいる事業もない。それが会社というものだ、と実感しながらの10年でした。業績がちょっとずつ回復してきている現状を見ると、『龍が如く』はセガの中でひとつの役割を果たすことができたと感じます。

10年で変わったこと、変わらないこと

『龍が如く』10周年の先へ―― 名越稔洋氏に訊く、変わっていくものと変わらないもの_04

――この10年で、『龍が如く』シリーズのユーザー層は、どのように変わりましたか?
名越 もともとは30代のユーザーが多かったのですが、『龍が如く 維新!』(2014年発売)で、20代の新規のユーザーが増えたんです。ユーザーが若返るというのは、ちょっとおもしろいですよね。最近プレイを始めた方に、『龍が如く0』や『極』に触れていただけるというのは、本当にありがたいと思っています。

――10年やってきて、当初の想定と異なることはありましたか? そもそも『龍が如く』は、第1作からCERO D(17歳以上対象)というチャレンジ作でしたが、ここまで広く受け入れられると予想していたのでしょうか?
名越 インパクトのある作品ですので、ついてきてくれる人はきっとついてきてくれる、と思っていました。同時に、ほかにはないものですので、ついてきてくれた方は早い段階でコアなファンになってくれるだろうと予測はしていました。その傾向は、いまでもあまり変わりませんね。予想外だったのは、シリーズを重ねることで、女性ユーザーが増えていったことでしょうか。現在も、2割くらいは女性ユーザーです。そのことをうれしく思う反面、『龍が如く』は男性のために作っているものですので、女性ユーザーを意識しすぎて作りたいものがブレることがないよう、自分たちを戒めています。最近で言うと、アジアのユーザーが増えたことも、そうですね。アジアにアピールしなければいけないけれど、意識しすぎてはいけない。

――『龍が如く』と言えば、多彩なタイアップや、バラエティ豊かな出演陣も特徴ですが、タイアップや出演者の方に関し、この10年で何か変化はありましたか?
名越 最初の打ち合わせで資料をお渡ししたとき、“『龍が如く』とは何か”というページを飛ばしてもらえるようになりました。最初の4~5年は、「名前は聞いたことがあるけど、詳しくは知らない」という方が多かったのですが。説明する必要が減っていくことで、認知が進んでいることを肌で感じられました。かといって、アプローチがラクになったかというと、そんなことはありません。そこは初心忘るべからずで、どうしてお願いしたいのかを、きちんと説明して理解してもらうようにしています。これだけやってきて、他社やキャストの方と大きなトラブルがなかったのは誇らしいことです。ひとりひとりのスタッフが、『龍が如く』が背負っているものをしっかり理解して、ていねいにアプローチしているからだと思います。

――先ほど、“ブレないように”というお話がありましたが、10年の中で、守り続けていることは、たとえばどんなことでしょうか。
名越 自分が嫌悪感を感じるものは入れないと決めています。たとえば、薬物がテーマの物語や、子どもが死ぬシーンは入れません。それから、外国の方が見たときに、文化の違いから“不可解”と思う演出があったとしても、そこは変えない、というところですね。