現実にあった『フォールアウト』な世界を振り返る博物館

 今月初めにネバダ州ラスベガスで行われた家電ショー“CES”(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)。その取材をするついでに、ラスベガスにあるNational Atomic Testing Museum(核実験博物館)を訪ねてきた。

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 この施設は、ラスベガスの北西100キロメートル以上先にあるネバダ核実験場の歴史を残すために運営されている博物館だ。冷戦時代の核開発競争に重なるように、当地では1951年から1990年代初めにかけて900回以上の核実験を実施。地上核実験をやっていた時代にはキノコ雲がラスベガスの街の背景として見えるのが珍しくなかったというのだから、頭がクラクラしてくる。
 核戦争後の世界を舞台にしたベセスダ・ソフトワークスのフォールアウトシリーズの中でも、ラスベガス付近を舞台にしたオープンワールドRPG『フォールアウト: ニューベガス』さながらのブラックな光景がそこにあったのだ。

行き方&料金:中心街から外れているのでUberやLyft推奨

 核実験博物館は、ほぼすべての観光客が利用するだろうラスベガスの玄関・マッカラン国際空港の少し北に存在する。ラスベガス大通りのシーザーズ・パレスやベラージオといったカジノホテルがある辺りから強引に歩いて行くこともできるのだが、3キロメートル強の道中は他に立ち寄るような観光スポットも特にないので、UberやLyftといった配車サービスを利用して行くのをオススメしたい。

 というのも、宿泊するホテルからタクシーで行くことも当然できるが、博物館の周囲にタクシー乗り場があるような大きいホテルがないし、流しのタクシーなんかいないので、どっちみち帰りの足に困るのだ。
 その点、配車サービスならスマートフォンアプリから任意の場所にクルマを呼べるので、博物館の玄関まで配車してもらってホテルに帰ったり、マッカランに戻ったりするのも楽。英語が苦手でも、行き先は配車希望時にアプリで指定しているので、ほとんど会話の必要はない(空港に戻る場合だけ、航空会社を聞かれるのを覚えておこう)。

 入場料は、常設展とテーマ展合わせて22ドル。常設展のみならもう少し安くなるが、テーマ展もココに来るような人ならいい感じにクラクラ来る内容なので(現在はネバダ州のもうひとつの伝説“Area 51”についてのウルトラ怪しい展示)、せっかくなら両方チェックするといいだろう。

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▲Area51展は撮影禁止! 謎のエージェントに連れ去られたくなければ従おう。

元ネタいろいろ発見! 1950年代の脳天気なノリに注目

 核実験博物館は、ネバダ州での核実験の歴史を功罪両面で後世に遺すことを目的とした真面目な博物館なのだが、フォールアウトファンとして注目したいのは、特に初期の時代の、まだその負の側面がよくわかっていなかったからこその脳天気さを伝える資料の数々。そこを恥として変に隠したり言い訳せずに、あえて丸出しで行くのがこの館のスタイルなので、常設展の入り口からいきなりラスベガスの看板のバックにキノコ雲が浮かぶ“Atomic Vegas”のオブジェがお出迎え。ブラック過ぎて真面目な人は卒倒モノだと思うが、初期の文化的影響はその通りだったんだからしょうがない。

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▲Atomic Vegas!! こういった昔の脳天気なノリのオマージュと真面目な歴史的展示が同じ空間に並列で存在するのが核実験博物館の特徴。右の柱に見える女性は“ミス原爆”(Miss Atomic Bomb)ことLee Merlinさん(おみやげのTシャツデザインとしても活躍)。

 中でもヤバいのが当時の「原子力ブーム」に乗った商品などを集めた一角で、ゲーム中のアイテムの元ネタになってそうなブツを多数収蔵。当時考案されたシナモン味のキャンディ“アトミック・ファイアボール”(核の火の玉)なんて、もう完全にフォールアウトの世界ではないか……。直接的なオマージュ以外にも、こういった当時の雑なノリが『フォールアウト』シリーズのブラックジョーク的な味付けに影響を与えているだろうことは疑いない。

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▲『フォールアウト』シリーズにヌカコーラなどの核ネタ・原子力ネタのアイテムが出てくるのは、実際に昔あったブームを踏まえてのことなのである。ちなみにアトミック・ファイアボール、誕生から60年以上経った2016年でも現役で売られている定番キャンディだったりする。
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▲注目は中央上の灰色の缶。このデザインは完全に……。『フォールアウト』プレイヤーなら思わず拾いたくなるだろう。
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▲『フォールアウト4』の“きれいな水”(Purified Water)。実は実際にあった非常用飲料水のデザインを完コピしていたのだ。

 もちろんそういった昔のネタ商品以外に、核シェルターの場所を示す有名な“Fallout Shelter”の看板や、効果測定のために実験用家屋に配置したりするマネキン群なんかがあって、いろいろ発見するたびに「うぉっ」と声が出ること間違いナシ。そんな感じにゲームからの興味本位で見に行っても、荒野の半ば崩れた家屋の中に簡素な家具や焼けたマネキンが転がるフォールアウトおなじみの光景の原型が、ネバダ核実験場にあるのがわかるだろう。

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▲シェルターの場所を示す“Fallout Shelter”のサイン。以前は金属製のレプリカも売っていたのだが、現在は品切れ(売店のおねえさんいわく、補充予定はあるそう)。
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▲効果測定用のマネキン。実験の際にはマネキンやクルマを屋外に置いたり、試験用の家屋と組み合わせたりして、その影響を測定していた。

日本人意外とウェルカム

 本誌がゲームメディアとはいえ、日本のメディアとしてこれは触れておかなければいけないと思うのだが、ネバダ核実験場の開設は太平洋戦争終戦後で直接関係ないとはいえ、日本はアメリカの核兵器による被爆国である。ではそんな背景を持つ我々日本人が訪問して周囲が微妙な空気になったりするかというと、これまで3回訪問してそういったことはただの一度もない。いたってオープンで、館内の外国語補助サービスにスペイン語やフランス語などと並んで日本語サービスもちゃんとあるぐらい。

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 というか館の性格自体、そういった核開発史の暗部について特に隠したりはしておらず、むしろそれはしっかりと一部になっている。展示は実験場開設前の前史として人類最初の核実験であるトリニティ実験および、その発展形である広島と長崎への核爆弾投下について触れることから始まっているし(「本土決戦を避けるためには仕方がなかった」というお決まりの公式見解付きだが)、その後のパートでも第五福竜丸事件についてのビデオが用意されていたり、日本側で調査を行った西脇安氏の手紙が展示されていたりもする(過去には長崎についてのテーマ展などもやっているようだ)。

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▲記者の父親は戦後間もない長崎で育った。何か運命が違えばこの光景の下に祖父たちがいたのかもしれないと思うと、気が引き締まる。
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▲西脇氏からアメリカ原子力委員会の代表に宛てられた直筆の書簡。毎日新聞静岡支局の便箋を使って書かれている。

 日本に関する部分以外でも、初期のずさんな実験による関係者や周辺住民の被爆や環境汚染についての展示、そして先祖代々の土地を実験場に変えられてしまったアメリカ先住民についてのコーナーなどがちゃんとある。
 国立博物館として、それぞれあくまで公式見解に沿った範囲の展示なので「これこれの扱いが少ない」といった批判は現地でも当然あるのだが、アリバイレベルではない、最低限のバランスを取るための配慮はしているという印象だ。だから変に気負ったり警戒して行かないで大丈夫だし、自分が見たい物を見て、感じるままに感じればいい。恩讐の彼方で自分で物を考えられるのは、21世紀に生きている我々の特権だ。

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▲アメリカ先住民についてのコーナー。「ここは代々私達の家だった」というシンプルな言葉が重い。
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▲地下水を通じた汚染や実験で出た廃棄物の処理についての展示も当然ある。

インタラクティブな展示も多数。おみやげコーナーも注目

 さて本題に戻ろう。フォールアウト脳になってしまった人なら当時のオフィスを再現したスペースに置いてあるタイプライターにすら燃えると思うのだが、核爆弾の模型はもちろん、大小の計測機器、証明書や許可証の類に至るまでさまざまな物が収蔵されているので、昔の機械好き、廃墟好き、現代史好きなんかの属性がある人なら楽しめると思う(けしからん、不謹慎だ、という人は来なければいいだけ。歴史の保存は必要なことだ)。

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▲『Fallout 4』プレイヤーならタイプライター見て「ネジ取れるな」って思いますよね。あとダクトテープ取りたくなる。
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▲フォールアウト脳なら「このヘルメットはもしかして特殊効果つき?」と思うかもしれない。もちろんそんなことはない。
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▲セリフに出てきたり、ゲーム中ゲームのタイトルにもなっている“レッド・メナス”とは、共産勢力の脅威を示す言葉だった。
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▲工事などのたびに労働者のために発行されていた証明書のコレクション。イラストが小松崎茂風。
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▲日常では目にしたくないが、だからこそ惹かれる何かもある。
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▲地下実験用の計測装置。燃えるフォルム!

 また館内にはインタラクティブな展示も多い。目玉のひとつ“Ground Zero Theater”は、当時核実験を地上で観察していた人たちと同じような体験をしてもらおうというシアター形式の展示。サイレンが鳴り、カウントダウンが終わるとスクリーンに閃光が走り、一瞬遅れて振動と衝撃波がやってくると、(見てはいけないものを目撃しているようなちょっとばかりの罪悪感とともに)なかなかの迫力を感じることができる。

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▲核実験の観察者になれるGround Zero Theater。映像の後半はその後の核実験反対運動なども踏まえて、当時の関係者たちが「若い者にめちゃくちゃ悪く言われたけど、ワシらは国を守ろうと思ってやってただけなんじゃ……」とこぼす複雑な内容。

 そのほかにも、当時のニュース映像をはじめとする記録映像はもちろん、ディズニー制作の啓蒙ビデオを見ることができたり、爆発で家屋が吹き飛ぶ様子をコマ送りで再生できる展示があったりと映像資料も多数。決して大きな博物館ではないし、このためだけにラスベガスに来るほどのことではないのだが、この手のテーマに興味がある人なら、入場料分は満足できるだろう。

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▲教育・啓蒙ビデオ視聴コーナー。ウォルト・ディズニーが健在だった頃に作られた映像なども見られる。
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▲もちろん歴史的な記録映像の数々も。海洋実験の流れで第五福竜丸についても触れられている。
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▲下のダイアルでコマ送りできる。
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▲チョイチョイ核実験とは関係ない展示もある。一年前に亡くなったロバート・キノシタ氏を偲んで同氏がデザインした映画「禁断の惑星」のロビーが飾られていたり、アメリカ同時多発テロ事件で亡くなった消防士らの遺族への募金を募るスペースも。

 展示の最後にあるおみやげコーナーも見逃せない。なんせ館内で一番マッドなテイストに振っているのがココなのである。Tシャツやピンバッジといった定番アイテムはもちろん、コーヒー、スノードームといったものまですべてキノコ雲やらハザードマークがついている有様。まぁでも、こんなものを作ったり買ったりできるのも、現実がフォールアウトな世界になっていないからこそ。平和を噛み締めつつ買ったりドン引きしてみたりするといいんじゃないだろうか。

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▲なぜか悪趣味方面に極振りしてしまったおみやげコーナー。毒にも薬にもならないつまらないグッズよりはウェルカム!
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▲キノコ雲コーヒーや核の灰スノードームもあるぞ。オンラインショップもあります。
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▲記者が買った自分へのおみやげ。ミス原爆Tシャツ、キノコ雲キャップ、キノコ雲ネクタイ、当時の記録映像や教育映画のDVD。どこに着ていくんだとか考えてはいけない。