有野さんと日下さんによるスペシャル対談をお届け

 ニコニコ静画内のWeb漫画ページ“水曜日のシリウス”にて連載中の8bitファンタジー漫画 『Final Re:Quest -ファイナルリクエスト-』。2015年11月9日の単行本第2巻発売を記念して、作品の読者のひとりであり、単行本の帯コメントを担当したお笑いタレント・有野晋哉氏と、作者の日下一郎氏のスペシャル対談が実現した。ゲーム好きの両者ならではの濃厚なトークが展開した。

有野晋哉さんが『Final Re:Quest -ファイナルリクエスト-』を大いに語る 第2巻発売記念・日下一郎氏とのスペシャル対談をお届け!_03

有野晋哉 ありの しんや
お笑いコンビ“よゐこ”のボケ担当。『ゲームセンターCX』(フジテレビ)のメインパーソナリティー“有野課長“として、数々のテレビゲームをプレイ、クリアーしてきた。1972年生まれ。

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日下一郎 くさか いちろう
Final Re:Quest -ファイナルリクエスト-』の作者。ライトノベル『群馬県から来た少女』(スマッシュ文庫)の著者でもあり、株式会社ヒューガ協力のもと、同名のゲームアプリをリリース予定。

ファミコン風ドット絵のこだわりが届いていなかった!?

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有野 へー、これが2巻の表紙ですか。

日下 これはデザイナーの方にかっこよくデザインしてもらって、それに沿って私がドット絵を並べました。

有野 手前のこのキャラとこのキャラのドットをわざと粗くしているのは?

日下 もともとこの解像度で書いたデータを拡大して、そのまま置いているだけです。全部これでやるかと思ったら、奥のキャラは、ファミコンでいうところの決めシーン用の絵をもってきているんですね。リッチな絵を奥にして、しょぼい絵を手前に置いている。ふつう逆ですよね。

有野 逆ですねぇ。

日下 でもおもしろいと思ったから、そのままでいいかと。

有野 先ほどファミコンておっしゃってたんですけど、このドット絵全部、ファミコンのレギュレーションで書いてるってことですか?

日下 そうです、そうです。使っている色はファミコンのカラーパレットにあるものだけですし……たとえばこのシーン(※第1巻13ページ下段コマ)は、ファミコンだとこんなにスプライトキャラが横に並ばないじゃないですか。

有野 並ばないですね。チラチラしたり消えたりしますね。

日下 周りが黒いキャラは、背景グラフィックとして書いているんです。もちろん、ファミコンで本当に書いているわけじゃないですから、あくまでもそういう設定なんですけど、見る人が見たら、そのあたりはわかるように作っています。

有野 「いまこの素材でファミコンのソフトを作ってくれ」って言われたら、十分できますよって書き方をしてると?

日下 ぶっちゃけキツいけど、できないことはないかもくらいですね。

有野 それもうちょっと言った方がいいですよ!(笑) 全然こっちに届いてないです。僕、スーファミ(※スーパーファミコン)クラスやと思ってました。

日下 「スーファミにしてはしょぼい絵だな」と思われていたとしたら、それこそ心外で、ファミコンでちゃんと出るよというところを守ってドットをひとつひとつ打っているのが、この漫画の特徴なんです。

有野 いまの人は、そういうルールに則っているってところまでは見ないじゃないですか?

日下 みんなわかってくれているっていう淡い期待があったのですが……。

有野 みんながみんな、そんな真剣に読まないですよ。

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ゲーム供養としての『ファイナルリクエスト』

日下 それくらい私は、当時のファミコンRPG……ずばり言うと『ドラゴンクエスト』(当時:エニックス。現:スクウェア・エニックス)に、いろんなものをもらいました。私、もともとゲームより本を読むほうが好きだったんですけど、『ドラゴンクエスト』って、最初に自分の名前入れますよね? するとゲームの登場人物が「勇者◎◎よ」って呼んでくれる。本当にそこに自分がいて、これは俺の物語なんだと実感できたんです。

有野 「◎◎よ、死んでしまうとは何事だ」とかですね。

日下 そうです。こんなことをすぱっと言ってくれた本はありませんでした。にもかかわらず、みんなわりとそれをギャグとして流しちゃう。私、彼らが不憫でしょうがなくてね。
私もいろんなゲームをプレイして、ずいぶん放ったらかしてきましたけど、『ファイナルリクエスト』第1話の、エンディングを迎えてモノクロになったキャラに色がついて動き出すシーンを作っているときに、泣いてしまいました。「勇者よ、助けてくれてありがとう」と言ってくれたのに、忘れ去られ捨てられた彼らのことを、こういう形で外に出すことができたよって思ったんです。

有野 なんか、お坊さん話みたいですね。

日下 でも、みんなそんな感じだと思いますよ。大抵の人は、自分が本当に願っていた職業につけてないと思いますが、それ(自分が望む職業に就くこと)がゲームの筋道だとしたら、僕らはプレイ途中でソフトを売って、終わらせちゃっているんです。それはおそらく、山ほど見てきて「捨てるわな、これ」と判断してきた世界で、私もこれまでに、そういう世界を山ほど捨ててきましたけど、せめて、こいつらの運命だけはちゃんと見てあげられたらなぁという気持ちがあります。さらに言えば、僕らはゲームからあれだけもらったのに、何も返していないんです。ゲームにとってはクリアーすることなんでしょうけど、私はクリエイターなので、ほかの形で供養してやる方法はないかなと。

有野 だから自分で制限を作って、ドット絵漫画を描いているんですね。お遍路さんは乗り物乗らんと、歩かなあかん、みたいな。

日下 ドット絵の漫画なんて、別に誰でも書けます。でも、他に誰もやろうとはしない。
1本しかないドット絵漫画がヌルかったら、いやじゃないですか。いまはまだ製作途中なので好き放題言ってますけど、やるからには高みを目指したいですね。

有野 まだ他に言ってない自分ルールはあるんですか?

日下 ドット絵だけで終わってはつまらないから、たまに2世代くらい先のゲーム機のグラフィックを入れているんですけど……。

有野 ある、きれいな絵がたまに入る。

日下 登場人物たちは、壊れかけた世界から逃げようとしているんだけど、「世界ってこれで終わりか?」っていう話をだんだんと作ってやっているところです。ゲームの世界もファミコンだけじゃなくて、それ以外のゲーム機の世界も表現できればと(※作中のゲーム『ファイナルクエスト』は、ファミボーイカラーという架空のゲーム機用のソフト)。

有野 そこまで考えとったんですかー。帯、書き直していいですか?(笑)

勇者・タケルの登場はいつ?

──有野さんが『ファイナルリクエスト』を読んで、ぐっときた場面は?

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有野 やっぱり第1話ですね。目覚めた戦士のおじーちゃん(アソンテ)が、道進んでいったらバグになってて、「これ、忘れられているゲームやなー」ってなったところで、まだ出てこない勇者の自分がいつでるんやろう? とワクワクしましたね。で、読み進めるうちに「全然出てこんへんや俺、そろそろ出てきたれよ」ってなりました (笑)。あと、この太った商人、リカトク! 彼のエピソードも、ふつうのゲームやったら語られない話ですよね。こういうキャラクターの背景を想像して、それを描いてくれているところがおもしろいですね

日下 ありがとうございます。このあたりは、大人になってはじめて目が行くところかもしれませんね。

有野 改心したのかと思ったら、まだしてないのか!? みたいなところが、まだ彼は読めないですね。どっちなんだろう、どこで裏切るんやろうと期待しちゃいますね。

──有野さんから日下さんにききたいことは?

有野 ひとつは、勇者がいつ登場するか。もうひとつは、アソンテが、ゲームの中ではおじいちゃんじゃないですか。終わってる世界で動き出したら、時間が進んじゃうから、老衰こないのかなと。

日下 勇者はいずれ出ます。思いがけない形で。

有野 主人公は僕らで、僕らが出てこないところで物語がはじまっているんですよね。出ると聞いて安心しました。

日下 もうひとつについては、2巻でも少し触れますけど、彼らは年を取ることを知っていて、老人や子どもが存在することは知っているけど、これが世界の中で固定された存在だということに、だんだんと気づいていくんです。彼らは、自分がどうやって年をとったのか言えないんです。

有野 本当はやりたいサブストーリーなんてのもあるんですか?

日下 山ほどあります。3巻では、そのあたりをできたらいいなと。

有野 それはいろんなところをみたいですね。巻が進むごとにエリアが広がって、背景が増えていくから、話数が進むごとに(流用できるから)制作が楽になっていくんですよね?

日下 その予定です。ただ、物足りなくなって、キャラクターのひと回り、ふた回り大きいバリエーションを描いたりしているんです。

有野 けっきょく忙しいんだ。おもしろいな。

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まだ触れていない人は、単行本から先に読むべし

──有野さんにとって、『ファイナルリクエスト』はどのようなジャンルの漫画でしょうか。

有野 “あったら怖いRPG”じゃないですか? そうはならへんけど、みたいな。そういえば、うち帰ったら、小学校低学年の次女がこれ読んでて「おもしろいよ」と言ってましたよ。普通の漫画にくらべて字が全部ひらがなで読みやすいから、内容が入ってくるんでしょうね。

日下 ちょっと大人向けの内容なんですが、ありがたいですね。

有野 『GANTS』全巻読むコやから(笑)。そういう風に軽く読んでいる子向けって意味でも、先生のルール、どっかでいっこ、書いといた方がいいんじゃないですか?

日下 そうですね(笑)。いままでは、コアなゲームマニア向けの作品ばかり書いていたので、有野さんや、有野さんの娘さんにまでリーチする作品になったんだなぁと、感慨深いですね。

──まだ読んでいない人におススメするとしたら。

有野 先にマンガ読んでからニコニコ静画を見るほうが、いいんじゃないですかね。僕、先にマンガから読んだから、音楽鳴るのがびっくりしました。それを流しながらマンガめくるのもいいですね。

日下 たしかに、絵が動いて音が鳴るのはいているのはインパクトありますね。映像ソフト化の話も多少はあるんですけど、流れを見てって感じですね。

有野 「これをテレビアニメ化したいんだ!」って言われても、絶対無理やと思うんですよ。なんでいま、わざわざテレビでドット絵見なきゃあかんねんて。

日下 心の中ではかえって新しいんじゃないかって思っているんですけどね(笑)。ゲーム版は当初から予定しているので、何年後かにゲーム版も遊んでいただけると、これに過ぎたる幸せはないですね。

有野 ゲーム遊んだら、「マンガで言うとこっちでしょって進めると、あ、違うの?」ってなってたら、いいですね。あと、放ったらかしにしたら、アプリが勝手に起動しちゃって、電話鳴って取ったら、アソンテのおじーちゃんだったとか。「おお、勇者か?ずいぶん空いるけど、どうした?」 って。アソンテのおじーちゃんからかかってくるとか。

日下 (笑)。

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衣装協力/JELADE