F1好きをくすぐるリアル体験

 齢四十を超える筆者の様な昭和40年代男が始めて触れたレースゲームと言えば、画面はトップビュー、コースらしいコースもなく、無限に湧いて出てくる先行車を追い抜き続けながら、ちょっとでも他車に触れると自車が大爆発するといった理不尽かつダイナミックなものだった。そこからゲームマシンのグラフィック性能が疑似3D、本物3Dと進化していくなかで、レースゲームは自車が爆発しないリアルな方向性へと正しく進化。その“リアルな進化”をF1という世界最高峰のレースカテゴリーの再現に注力したのが、『F1 2015』だ。

『F1 2015』プレイインプレッション【第1回:ポルノ鈴木】――すべてのレースゲーム好きに一度は触れてほしい作品_04

 まず本作は、“世界唯一のF1公式ゲーム”ゆえにチームもドライバーもすべて実名で登場。細かなスポンサーデカールも完全再現されており、“世界最大の企業名出現ゲーム”の看板も背負えそうな勢いの一作に仕上がっている。そしてそれらのすべては現行ゲーム機用に刷新された新ゲームエンジンで精密に描写されており、F1マシンの排気熱の揺らぎから、テレビ放送にはあまり映らないマイナーなドライバーまで、とにかく“リアル”に描き出している。

 こうした現実世界のリアルなF1の再現だけでなく、本作は未来のF1までもプレイすることができる。そう、本作のタイトルは『F1 2015』であり、現在開催中の2015年シーズンのF1を、7月の時点でパッケージングしてゲーム化しているのである。つまりまだ未開催のF1を先取りでプレイできるわけだが、実際のF1が開催された後は、データアップデートで実レースデータをゲームに反映。こうした仕組みもあって、前作までは10月近辺に発売されていた『F1』シリーズが、7月に登場するというウルトラCが可能になったのだ。もし今後、突然小林可夢偉氏がスポット参戦したり、風吹裕矢という名前の日本人がゼロ戦007という日本製F1マシン(※身の回りの昭和40年代男にお尋ねください)で参戦しても、本作はバッチリアップデートで対応可能になるはずだ。なおかつ本作は2014年シーズンのデータも完全収録しているので、昨年のF1を丸々追体験することも可能になっている。年末にフジテレビが上手な編集で見せてくれる『F1総集編』を、コタツミカンビールアタリメでボンヤリ眺めるのもおもしろいが、本作の場合はF1ドライバーの誰かになって実体験できるので、そのインパクトは『総集編』とは別次元でF1好きをくすぐるリアル体験となるわけだ。

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 一方で、ゲームとしてリアルなF1にこだわると、問題になるのがマシンの挙動だ。現行のゲームマシンなら、F1マシンのすべてを数値化し、挙動を再現することは可能だろう。しかしハンドルとペダルで操縦するF1マシンを、コントローラのスティックとトリガーで動かしてもその操縦感覚は違うので、いくら物理的に正しい挙動を再現してもそれはリアルとは言い難い。そこでレースゲームなりの調整が必要になるのだが、『F1 2015』はその調整感が非常にしっくりときている。

 まず、ゲームとしてはコントローラでプレイするにせよとことんリアルな物として作り込んであり、そこから各種アシスト機能を追加してゲーム的な味付けも最大限施している。つまり各種アシストを全部オンにすればアーケードゲームよりのイージーな操作感となり、アシストを全オフすれば、慣れないとコース一周も難しいほどにマシンはじゃじゃ馬化する。この広い調整幅がゲームの間口を広げており、F1マニアも単純にレースゲームで遊びたいという人にも、本作は必ずマッチする内容になっている。またその調整幅はいちいち自分のレベルに合わせて細かくいじらなくても、単純にモードと難易度を選ぶだけでいい感じに調整されているので、予備知識は必要なく面倒くささもない。

『F1 2015』プレイインプレッション【第1回:ポルノ鈴木】――すべてのレースゲーム好きに一度は触れてほしい作品_07

 本作のメインモードとなるのは、F1の年間シーズンを戦う“チャンピオン・シーズン”だが、ここでもライバルレーサーのAIレベルを5段階から選択可能なほか、レース日程も実レース同様にこなすものから、かなり間引いたゲームよりのものまで3種用意されており、幅広いゲームプレイを可能にしている。たとえばAIレベルをイージーにすれば、昨年の覇者で現在もポイントランキングトップのルイス・ハミルトンをはるか後方に置き去りにし、鼻歌交じりでレッドブルを飲むことも可能だが、AIレベルを最大の“レジェンド”にすると、ハミルトン先輩はフィルムを早回しにしているB級映画ばりのスピードで視界の彼方へ消えて行ってしまう。

 また重度のF1マニアには、すべてのスケジュールを実レース同様にこなし、マシンのアシスト機能も全部オフになってしまう究極のスパルタモード、“プロシーズン”が用意されている。このモードが恐ろしいのは、ゲーム視点もコクピットビューに固定され、画面から一切のインフォメーションも消えてしまうことだ。だから走行ラインのアシストもなければ、ミニマップも表示されず、自分がいま何位を走行していていま何ラップめなのかもわからない。つまりこのモードは実際のF1ドライバーと同じ条件でレースをするのがコンセプトで、無線を聞いて状況を把握しないといけないのだ。マイクを使った“ボイスコマンド機能”もあり、マイクを使ってピットと通信できるそうなので、本気でこのゲームをプレイしたい人はもはやアライのヘルメットも必需品かもしれない。

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 最後に、本作でとくに強調しておきたい部分が、ライバルAIの優秀さだ。これはAIの難易度の話とは別で、コース上での動きが非常に良く出来ている。F1の醍醐味は何かと言えば、相手を抜き去るオーバーテイクの瞬間だ。しかしゲームの世界だと、細かいラインの差し合いやブレーキング合戦は、アホなAIで動くライバルに台無しにされがちだった。しかし本作は違う。ストレートでスリップに付き、コーナー手前でイン側へ移動。ブレーキを相手より少し送らせてスッと前へ出たまま相手をオーバーテイク、といった一連の流れが、非常にスムースに行える。これはライバルのAIが優秀なので、追い抜かれるとき、追い抜くときにまったく無理な動きをしないから可能な芸当で、『F1総集編』で観るようなイカしたオーバーテイクが自分のプレイでも体験できるのは、何ともたまらない部分だ。

 というわけで『F1 2015』は、F1好きに限らず、すべてのレースゲーム好きに一度は触れてほしい作品だ。マニアックなのに万人向け。万人向けなのにマニアック。世界最前線を行くレースゲームの姿に、ぜひ触れてみていただきたい。

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F1 2015
メーカー ユービーアイソフト
対応機種 PS4プレイステーション4 / XOneXbox One
発売日 2015年7月30日発売予定
価格 各7980円[税抜](各8618円[税込])
ジャンル レースゲーム / F1
備考 プレイステーション4版のダウンロード版は7100円[税抜](7668円[税込])