ヴァナ・ディール プロジェクトをおさらい

 2015年3月19日に行われた“ヴァナ・ディール プロジェクト”発表会にて、『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)の今後についての発表が行われた。

 現行の『FFXI』については、いままでの集大成となる新シナリオ『ヴァナ・ディールの星唄』を2015年5月、8月、11月に実装し、シナリオ完結後についてはメジャーバージョンアップを行わず、利便性向上や不具合修正などを基本としたバージョンアップを行いつつ運営していくこと、そしてプレイステーション2版(以下、PS2版)とXbox 360版のサービスを2016年3月を目処に終了し、以降はWindows版に注力したサービスを続けていくことが告知されたのだ。

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▲『ヴァナ・ディールの星唄』のキービジュアルがこちら。中央にいる薙刀を持った女性がメインヒロインだが、名前などの情報はまだ明かされていない。周囲にはこれまでの物語に登場したキャラクターたちが多数描かれている。

 また同時に、『FFXI』の物語の世界であるヴァナ・ディールを舞台としたスマートフォン向けの新作RPG『ファイナルファンタジーグランドマスターズ』と、MMM(Massive Multiplayer Mobile)をキーワードとするネイティブアプリプロジェクトの2作が発表されたのだ。

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 これらの発表を受け、14年目にして新展開を迎える『FFXI』について、プロデューサーの松井聡彦氏と、シナリオを担当するプランナーの齋藤富胤氏に事情を尋ねた。

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『FFXI』プロデューサー松井聡彦(まついあきひこ)氏
『FFXI』プランナー齋藤富胤(さいとうよしつぐ)氏

たくさん遊んでいただけているうちにエンディングを届けたいと思った

――ヴァナ・ディール プロジェクトの主旨を教えてください。

松井聡彦氏(以下、松井) 『FFXI』のよりいっそうの拡がりと発展を目指した新企画になります。こういうプロジェクトを展開しようとして始めたというよりは、現行の『FFXI』について今後の展開をプレイヤーの皆さんにお伝えしたかったのと、バラバラに動いていたスマートフォン向けの2タイトルについて、皆さんに発表できるタイミングが揃ったので、このような形になりました。現行の『FFXI』の物語は2015年内に最終章を迎え、来年3月を目処にPS2版とXbox 360版のサービスを終了し、その後はWindows版のみで運営するという決断をしたのですが、現役プレイヤーの皆さんにお伝えする方法を考えたとき、公式サイトのトップページでしれっと告知して終わり、などというようにはしたくないと思い、発表会を開き、僕の口からお話しさせていただきました。前任の田中弘道プロデューサーが現役だったころ、僕らスタッフに、「いつかは終わらせなきゃいけない、終わらなきゃいけない……なので君たちは、つねに終わりかたを考えておかないとダメだよ」と話していました。あまりそういう将来は考えたくなかったのですが(苦笑)。実際の数字を見ていて、このまま少しずつ縮小していくよりは、プレイヤーの皆さんにたくさん遊んでいただけているうちにエンディングをお届けしたい……というふうに、やっと僕の中でも踏ん切りがついたのです。「細々と長く続けるよりは、最後に盛り上がりを作ろう」と、自分自身が納得できるようになったのもあって決断しました。

――いよいよ来るべきときが来たという気がします。

松井 『FFXI』は今年の5月でサービス開始から14年目を迎え、プレイヤー人口も緩やかに減少が続いています。開発を続けるには、収入を増やすか支出を減らすか、究極的にはそのふたつしかなく、収入を増やすには新規のお客様を増やしたいわけですが、弊社のMMORPG(大規模多人数参加型オンラインロールプレイングゲーム)として『ファイナルファンタジーXIV』や『ドラゴンクエストX』も運営中ですし、他社の作品もライバルとして存在するなかで、MMORPGのトレンドを踏まえ若いプレイヤーの皆さんを『FFXI』に取り込もうとしたら大改造が必要になってしまいます。新規のMMORPGを1本作るぐらいのコストがかかってしまう。現行のプレイヤーの皆さんにとって、それがどのぐらいうれしい変化になるかを考えたときに、いまの『FFXI』を改造してまでやることではなく、新規タイトルを立ち上げたほうがいいのではないかと思ったのです。

――いつごろ決断されたのですか?

松井 2013年に拡張ディスク『アドゥリンの魔境』を発売し、しばらく運営してから、大改造するのではなく現在のヴァナ・ディールをなるべく長く続けて、利便性などを向上させる方向にしようと判断しました。ただ、運営的な面だけではなく、ほかにも問題がありまして……『FFXI』はPS2やXbox 360といった家庭用ゲーム機で遊べるというのが特徴ですが、プレイヤーの皆さんの本体を修理するための部品や、開発環境を維持するための機材がいよいよ枯渇しそうだという状況もあり、総合的に判断しました。

齋藤富胤氏(以下、齋藤) プレイヤーの皆さんから見たら「じゃあPS2の環境を切ればいいじゃん」と思われそうなのですが、『FFXI』は各ハードの環境が完全に一体化してすべて紐づいているので難しいところなのです。Windows版用の環境が独立しているわけではなくて。

――一体化しているというのはどういうことですか?

松井 開発ツールを最初に設計したときに、PS2の開発機材上で全部のリソースを制御できるような統合環境を作りました。グラフィックリソースや音楽などは、PS2を基準に作ってあって、そこからWindows版に移植した形なのです。

齋藤 心臓部分がPS2の環境なんですよ。ですので、そこを外すと動かなくなってしまう。言ってしまえば、そこをWindows版用に特化すればよかったのですが、なかなかそれができなかった。最初にPS2のタイトルとして発売したということもあり、PS2の環境が主軸でずっと動いていたのです。いまでもイベントシーンのカメラワークなどは、PS2の機材で製作しています。ですが機材もどんどん経年劣化し、また1台、また1台と……あともうこれしか残っていませんという状態になってしまいました。

――物理的な問題も大きいのですね。

松井 ちなみに、SCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)さんのDNSサーバーは、もう私たちしか使っていませんが、「『FFXI』が終わるまではうちでやりますよ」と言っていただけて、ずっと使わせてもらっています。先日、SCEの修理担当の方ともお話をする機会があったのですが、いまだにPS2を『FFXI』のために修理に持ち込まれるお客様もいらっしゃるそうで、SCEさんにとっても「『FFXI』のPS2ユーザーさんはロイヤルなお客様です」と言ってくださったのがすごくうれしかったですね。面倒くさいと言われるかなと思っていたので(笑)。

――ちなみに今回の発表された展開以外にも案はありましたか?

松井 もちろん、基本料金無料化なども考えましたし、いまの『FFXI』に、ゲーム内にリアルマネーでアイテムを買える仕組みを作り、追加で課金してもらう形も考えました。それも収入を増やす方法といえば方法なのですが、いまいるお客さまからより資金を調達するという施策であって、人を増やす方向ではないんです。そういう方向にするにしても、大きく改修する必要がありますし、できあがるものはいまの『FFXI』とは似つかないものになってしまうと思いました。

齋藤 可能性だけの部分で言えば、「PlayStation Vitaで動かせないだろうか」とか、いろいろ話はしていましたね。

松井 「ここを直すとこっちも直さないと……」と、玉突きのようにいろいろなところを直さなければならなくなってしまい、けっきょくすべて作り直しで、いろいろ見積もるとコストが膨大となってしまう。すべて作り直したときの計算もしてみたのですが、あまり現実的ではなかったのです。

――なるほど。今後、ヴァナ・ディール プロジェクトとして、さらなるタイトルが出てくる可能性はありますか?

松井 いま「スマートフォン向けに2タイトル出す」と言っているところに、さらにスマートフォン向けに手を挙げてくださるメーカーさんはいないだろうと思います(笑)。「オフラインゲームとしてできるのでは?」という話も出たことはあり、技術的にはできそうなのですが、『FFXI』で積み重ねてしまったデータがあまりに大きすぎるため、けっきょく諦めてしまいましたね。『FFXI』のキャラクターをそれっぽく動かしたり、マップを表示したりはできるのですが、そこからゲームになるところまで持っていくとなると内容が膨大すぎて、なかなか手を挙げていただけるところもなく、自分たちでやることになります。「やれたらいいな」とは思うのですが。

――手を挙げてくれるところがあれば、可能性はあるということですか?

齋藤 それだけお付き合いいただけるところがあれば……。

松井 あとは会社の判断ですね(笑)。

齋藤 ヴァナ・ディールが大好きで残っている人が多いチームなので、やれることはやりたいです。個人的には、RPGだけではなく、アクションゲームや別のジャンルのゲームになってもおもしろいと思うんですよね。

松井 藤戸くん(アソシエートディレクターの洋司氏)が、箱庭ゲームなどを作りそうですよね。僕らのモグハウスとか(笑)。

――ゆるい感じのですね(笑)。

齋藤 モグガーデンがまさに藤戸ワールドですからね(笑)。

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▲2013年から遊べるようになったモグガーデンは、モグハウス同様のプライベートエリア。仕掛け網での漁や、各種採集活動、モンスターの飼育などを行うことができ、冒険者には小遣い稼ぎや憩いの場として活用されている。