PS Vita版は『LA-MULANA(ラ・ムラーナ)』の“最終調整版”

 プレイステーション Vita用ソフト『LA-MULANA EX(ラ・ムラーナEX)』のPSNでのダウンロード販売開始を記念して、オリジナル版を開発したインディーデベロッパーNIGOROのメンバーと、移植を手掛けたピグミースタジオの代表・小清水史氏の特別ロングインタビューをお届けする。波乱万丈(?)の開発秘話を、しかと熟読あれ。まずは、気合を入れて撮影したお写真とともに、インタビューの参加者をご紹介!

【インタビュー参加者】

『LA-MULANA EX(ラ・ムラーナEX)』はこうしてできた! 波乱の開発秘話をクリエイター陣に直撃_18
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小清水史氏
ピグミースタジオ代表。愛称は“工場長”。
楢村匠氏
インディーゲーム開発チームNIGOROのディレクター。ディレクター業務のみならず、グラフィックデザイン、サウンド、宣伝も手掛ける。
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鮫島朋龍氏
NIGOROのプログラマー兼サウンドクリエイター。
蛯原隆行氏
NIGOROのプログラマー。
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仲村尚史氏
NIGOROのプロデューサー。開発にはタッチせず、おもに対外交渉を担当している。
伊東章成氏
SCEJAパブリッシャーリレーション部 ディベロッパーリレーション課 アカウントマネージャー。

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※『LA-MULANA EX(ラ・ムラーナ EX)』の配信日が2014年12月17日に決定 寺田克也氏によるイメージイラストも公開に

スマホゲーム主流の時代に、あえてガチンコアクションゲームを

──まずは『LA-MULANA EX(ラ・ムラーナEX)』の開発が始まった経緯を教えてください。

小清水 NIGOROチームの所属会社アスタリズムのプロデューサーの仲村さんと最初にPS Vitaでの展開の話しをしたのは、いつだったかな。ピグミースタジオのロビーでディレクターの楢村さんを紹介していただき、家庭用ゲーム機での発売対応に疲れ果てていた彼を見て、仲村さんにこう言いました。「NIGOROのスタッフには、新しいゲームに才能を活かしてもらい、リメイクや展開はうちのような会社にやらせればいいんじゃないですか」みたいなところからすべてが始まった気がします。

楢村 当時の僕たちはコンシューマ版(※Wiiウェア版『LA-MULANA(ラ・ムラーナ)』。2011年リリース)の開発に疲れきっていました。ゲーム開発をしながらメーカー審査の手続きをしつつ広報活動をしつつといったことを実質4人で4年間行っていたので、ほかのプロットフォームへのリリースは自分たちでは無理じゃないかと思っていたんです。だから、こういうケースで一度やってみてもいいんじゃないかと思い、お願いすることにしました。あのころはまだSCEさんもインディーゲームに寛容な時代ではなかったので。

伊東 (笑)。

小清水 じつは『LA-MULANA(ラ・ムラーナ)』のことは5年前、フリーゲーム(※Wiiウェア版の前身となるウィンドウズPC用ゲーム。現在は配信終了)の時代からなんとなく知っていました。ただ当時は、レトロゲームのちょっとしたリバイバルブームがあったり、新ハードの動向をうかがっていたこともあって、「(コンシューマー移植は)いまのタイミングではない」と見送っていました。その後プレイステーション Vitaがリリースされて、タッチ操作のスマートフォン用ゲームが主流になったときに、あえてアナログコントローラーで操作するガチンコな2Dアクションを出すのがおもしろいかなと思って、お話をさせていただきました。

楢村 フリーゲーム版はアマチュアとして完全に趣味で作っていて、外に広げる気はありませんでした。よく見つけたなと思います。

小清水 移植はウチがやるので、NIGOROさんはぜひ新しいゲームを作ってください……という話で始めたのですが、結果的にいろいろと手伝わせてしまいました。

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どの尖った部分を取るか残すか──オリジナル版開発者と移植スタッフの攻防

──NIGOROにとってピグミースタジオとの関係は理想的なマッチングのように思われますが、実際の開発はいかがだったのでしょうか?

小清水 こちらから、ゲーム内容の修正・変更内容を提案したところ、「それは丸すぎるんじゃないか」、「そこはもうちょっと尖らせた方がいい」といったやりとりが、現場で取っ組み合いの喧嘩になるレベルで行われました。

──ええっ、そこまで!?

小清水 あくまで、エクセルシートの提案書上でのやりとりの話ですが(笑)。開発当初は、『LA-MULANA(ラ・ムラーナ)』というゲームにたいするNIGOROさんのこだわりどころ、死守すべきところをしっかりと把握しきれていなくて、現場スタッフが一般的なゲームに合わせて提案してしまった面があります。最終的には、楢村さんがピグミースタジオに直接来て、最終の調整をかけていただくことになりました。

楢村 ふつう、小規模のスタジオは「どうぞお願いします」という形になると思うんですけど、僕たちは「ちょっと待て」と口を出すんです。口を出すわ手を出すわ。

仲村 小清水さんは大変だったと思います。こんなに言うこと聞かないデベロッパーを相手にして (笑)。僕の立場としてはそのくらいの感想ですが、ただ、ここで譲歩してしまうと残念な移植に終わるだろうなとは感じていました。

──移植とはいえ、単純にお任せするわけにはいかなかった……ということですね。

楢村 そうしようと思っていました。ベタ移植だったら、僕らも何も言うつもりはありませんでした。

──具体的には、どういった部分で揉めたのでしょうか。

楢村 イージー、ノーマルといった難易度別のゲームモードを用意したい、という提案です。たとえば、『LA-MULANA(ラ・ムラーナ)』は最初の数時間、お金を貯めるのがすごく大変なゲームなんですけど、スタート時からお金が簡単に増えるよう再調整してしまうと、貧乏状態を越えてパワーアップした瞬間の喜びの質が変わっちゃうんです。『LA-MULANA(ラ・ムラーナ)』はステージ数が多く長丁場になるゲームなので、あの手この手を使って起伏のあるゲームプレイを楽しんでもらえるように作り込んでいます。その一部分が崩れると後のゲームプレイにどれだけ影響が出るか想像つかないところがあるので、そこは何度言われても「NO!」と言い続けました。

鮫島 Vita版で初めて『LA-MULANA(ラ・ムラーナ)』をプレイする人用のモードではこう変更したい、という項目の一覧を見て「ふざけんな!」みたいなことになりまして(笑)。ここの壁が壊れることがわかりにくいから、最初からヒビを入れて……って、アホかと。途中からピグミースタジオの担当さんも「たしかにそうですよね」となって、いまの形にまとまりました。

小清水 ピグミースタジオとしては、開発をおこなう際に、移植するプラットフォームに最適なゲームとして届けたいので、そのまま出さずに「ここをこうしたい」と、こちらから提案するんです。ピグミースタジオのスタンスとして。『野犬のロデム』のときもそうだったんですけど、そこの折り合いをどうつけるかという問題は当然起こるんです。

──つまり、ゲーム制作のスタンスとして、両者は相容れない関係だった……ということでしょうか?

楢村 その可能性はあったかもしれません。僕らが今回、コンシューマー初挑戦だったら、勝手がわからないので全部お任せにしていたと思うんですけど、なまじWiiウェアで“突撃済み”だったので(笑)。フリーゲームのコンシューマー移植が不評で失敗すると、その文句がオリジナル版の作者にくる……という前例を知っているので、僕たちの今後の活動に関わるという意味でも、引けないところは引きませんでした。

小清水 パブリッシャーとしては、より多くの人に届けたいので、誰にも好かれるゲームに調整しようとしていたのですが、やっぱり角は取れなかった。それが『LA-MULANA(ラ・ムラーナ)』の個性だから。中途半端に、誰にでも好かれようと思うゲームは、じつは誰にも愛されないゲームかもしれない……と考えたとき、インディーゲームはコアな層に刺さらないとダメなんだなと、改めて思いました。

楢村 僕らも、自分たちが作ったもので完璧とは思っていません。「わかりにくい部分に誘導用のマークをつけたい」という指摘の意味するところも、よくわかっています。そこで直接的に矢印をつけるのではなく、もう少し違う形で誘導できる方法があれば……という形で改めて調整したのがVita版『LA-MULANA(ラ・ムラーナ)』であれば、わざわざモードをふたつ用意する意味はないですね、と。だから僕たちは決してわがまま言いたい放題の悪人というわけではありません(笑)。

伊東 そこは非常に大事な部分です。ピグミースタジオさんもコンシューマーハードのデベロッパーとして実績のあるチームなので、「一般ユーザーが困るだろうからここだけは……」という自論をお持ちです。こうした衝突は、今後のインディーゲームのコンシューマーハード展開において放っておいちゃいけないというか、ちゃんとやりとりを重ねて結論を出したほうが幸せな結果になると思います。

──蛯原さんは、Vita版のやりとりに関してはどのようなご意見を出されたのでしょうか。

蛯原 僕は住んでいるのが遠くだからというのもあるんですけど、Vita移植の話を知りませんでした。

仲村 彼には『LA-MULANA2』の開発に専念してもらおうと、あえて情報を遠ざけておいたフシがあります。

蛯原 後になって話を聞いて「これはピグミーさん相当大変だろうな」と思っていました。

──(笑)。ただ、その状況こそがまさに、ピグミースタジオが移植を行うことの本来のメリットですよね。

鮫島 楢村はピグミースタジオに行ったりイラストを描きおろしたりしたんですけど、Vita版で僕が直接関わったのはテストプレイくらいでした。プログラマーとしては、そこはとても助かりました。

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