“ひかりTVドリーム”は“発表の場”を提供するプラットフォーム

 NTTぷららが提供するひかりTVは、多種多様なコンテンツを光回線で楽しめるスマートTVサービスだ。3G,LTEを経由したモバイル端末への展開も行っている。2013年からは50作以上のゲームが楽しめるクラウドゲームサービス“ひかりTVゲーム”が展開されており、ゲームファンならご存じの方も多いだろう。

 そんなひかりTVが2014年1月から新しい取り組みを開始した。クラウドファンディングを活用したクリエイター応援プロジェクト“ひかりTVドリーム”だ。こちらは、まずはプロジェクトに対する出資者を募り、目標金額を達成するとめでたく開発がスタートするというもの。その第1弾として展開されたのが、学校法人・専門学校HALの学生さんたちによるゲームプロジェクトだ。プロジェクトは、まずは学生たちが制作したゲームを“ひかりTVゲーム”にて無料で提供。人気の作品については、次回作のための出資を募る(ファンド化する)。今回ファンドされたふたつのクリエイターチームの新作ゲーム『Relic:Alone(レリック: アローン)』と『UNION』ファンドの募集開始からわずか5日で目標金額の128万円(256口)を達成するという結果になった。

 このように好調なスタートを切った“ひかりTVドリーム”だが、同プロジェクトを立ち上げた経緯は? ここでは、NTTぷらら サービス本部 ビジネス戦略部 ビジネス企画担当の金夛陽彦氏と増島祐介氏に話を聞いた。

■クリエイターの卵たちに、作品を発表できる場を提供したかった

新しいクリエイターを輩出する場を作る“ひかりTVドリーム”とは? プロジェクトの内容とその可能性を紹介_01
▲NTTぷらら サービス本部 ビジネス戦略部 ビジネス企画担当 増島祐介氏。

――まずは、“ひかりTVドリーム”のプロジェクトを立ち上げたきっかけを教えてください。

増島 日ごろから「本や音楽などと比べて、ゲームを制作するクリエイターは世の中に出る機会が少ないのではないか」と感じていました。そこで「優秀なクリエイターを応援したい」「作品が世に出る場を作れないか」と考えたことが、“ひかりTVドリーム”を立ち上げたきっかけになっています。また、ゲームだけに限らず、ひかりTVサービスが、他社サービスとの差別化を図りたかったというのもプロジェクトを立ち上げた理由のひとつです。

――そこから、なぜ学生たちの作品を扱うことになったのでしょうか。

増島 まず、「ゲームクリエイターが作品を世に出す機会があるのか?」ということを2013年の東京ゲームショウに出展していた専門学校にヒアリングしました。そこで「ゲームを作ることはできるけど、“配信の場”が少ない」という現状を伺ったことがきっかけです。

――なぜ、クラウドファンディングという手段を選んだのですか?

増島 クラウドファンディングには、不特定多数のユーザーが「いいな」と思ったクリエイターに投資をするという、“ファンになって応援する”一体感があります。ひかりTVではコンテンツを継続して利用してくださるリピーターの方がとても多いので、クラウドファンディングに適しているのではないかと考えました。

──昨今はインディーゲームが盛んになってきていますが、 学生をはじめ、ゲームクリエイターの卵にとってまだまだ発表の場が少ないのですね。

増島 そうですね。国内ではインディーゲームのプラットフォームは片手で数えるほどしかないですし、学生さんにとっては日本のゲーム業界の主流である家庭用ゲーム機向けにソフトを開発することも敷居が高いようです。
また、学生さんが利用している開発プラットフォームとの親和性も必要になりますが、“ひかりTVゲーム”は親和性が高く移植がしやすかったようです。

──学生さんの需要と供給がマッチしていたのですね。学生たちはプロジェクトをどのように思われていたのでしょうか。

増島 じつは、プロジェクトに参加をした学生さんが4年生になるので、「来年僕らは就職してしまいます」「就職活動で忙しいです」という話もあり、タイミングが難しかったです。就職活動を優先してもらいつつ、スケジュールをうまく調整してもらい、やっていただくことになりました。
また、最初はゲームを有料で配信するということも学生さんにとって迷いがあったようです。

──ユーザーからお金をもらうということに、学生さんたちはプレッシャーを感じていたということですか。

金夛 はい。学生さんには「僕らのゲームへの対価としてお金をいただいてもいいのか」という不安と迷いがあったようです。そこは初めに無料でゲームを提供して、 評価が高ければ次回作をファンド化するという流れを丁寧に説明しました。いきなり有料でゲームを出すのではなく、 そうやって段階を踏むことで、学生さんの「チャレンジしたい」という思いを後押ししたのです。

──実際に学生がプロジェクトに取り組んだときの反応はどうでしたか。

金夛 プロジェクトに参加した学生さんたちは、今回のプロジェクトをつぎにつなげていきたい、知識や経験を積みたいという志の高い方ばかりで、忙しい中でも熱心にプロジェクトに取り組んでくれました。我々は心が洗われる思いでした。

■“ひかりTVドリーム”は、ファンに支えられているプロジェクトだった

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▲NTTぷらら サービス本部 ビジネス戦略部 ビジネス企画担当 マネージャーの金夛陽彦氏。

――第1弾のプロジェクトに対する手応えはいかがですか?

金夛 本当にこのプロジェクトでお金が集まるのかどうかが大変不安でしたが、無料で提供していた学生さんたちのゲームはとても人気がありましたし、ファンドも始めた瞬間からものすごい反響があって驚きました。

――その成功の理由はどのように分析されていますか?

増島 ファンド一口金額を5000円に設定したことが大きな理由でしょうか。この価格は他の掲載ファンドの価格に比べ低めの金額になります。また、今回のファンド販売、運営を実施するにあたりミュージックセキュリティーズと業務提携していますが、ミュージックセキュリティーズの利用者属性にゲームというコンテンツがマッチしたという印象もあります。

――先ほどの“ファンになって応援する”という点も大きかったのでしょうか。

増島 まさにその通りです。“ひかりTVドリーム”は、お客様が応援したいと思ったクリエイターにクラウドファンディングを活用して投資していただき、そのクリエイターの新作や続編をひかりTVサービス上で楽しむことでクリエイターの存在を身近に感じられるという魅力があります。ファンの方々の「応援したい」という気持ちに支えられているプロジェクトなのです。

――ちなみに、プロジェクトのために、プロモーション展開などは行ったのですか?

金夛 学生さんたちを映した動画を作り込みました。学生さんのゲーム制作への想いなどが語られていますので、ぜひ見てみてください。


■ひかりTVの今後の展開と目標とは

――今回のプロジェクトを通じて、わかったことなどはありますか。

増島 ファンドを立ち上げるには長い期間を要するということです。ミュージックセキュリテーズの会計士の方とのやりとりや専門学校および学生さんたちとの調整、更に事業計画作成やその他の手続きも含めると、3、4ヵ月くらいのリードタイムがありました。

――今後、“ひかりTVドリーム”はゲーム以外でも展開していくのですか。

増島 はい。ひかりTVでは多様なコンテンツを提供していますので、映像、マンガや音楽など、さまざまなジャンルで“ひかりTVドリーム”を展開していきたいですね。

――学生以外でもプロジェクトの参加はできますか。

増島 出来ます。学生を応援することはもちろんですが、インディーゲームを制作されているプロのクリエイターさん、ベンチャー企業にも積極的に参加をしてほしいです。プロジェクト自体も臨機応変に対応し、たとえばゲームの1ステージだけ作っていただき、人気があればファンドを立ち上げ、満額になればフルでゲーム制作に取りかかっていただく、ということも考えています。

――ほかに、“ひかりTVドリーム”ではどのような試みをされていますか。

増島 今回ひかりTVドリームの取り組みの一環として、当社の社員が専門学校で授業をさせていただきました。その内容は、学生がいくつかのチームを編成し、企画・制作をするという実践的なカリキュラムで、3ヵ月にわたり学校法人電子学園 日本電子専門学校で実施しました。

――今後も、そうした授業の取り組みは続けて行くのでしょうか。

金夛 はい。“ひかりTVドリーム”は学生さん、クリエイターたちを応援することで、エンターテインメント産業全体を盛り上げていきたい、ということが最終的な目的としてあり、プロジェクトの一貫として産学連携の取り組みは続けていきたいですね。

――エンターテインメント産業全体を盛り上げていく、というのは壮大かつ、とても志が高い目標ですね。ほかに“ひかりTVドリーム”で目指していることを教えてください。

金夛 “ひかりTVドリーム”は、投資をしていただくファンの方に支えられているプロジェクトですので、“ひかりTVドリーム”の認知を広げ、ファンの方をさらに増やすことも目標にしています。 “今秋を目途に第2弾を開始する予定ですが、ファンの方々にさらに興味を持っていただけるよう、その際には公式サイトでプロジェクトの進行具合を公開できるようにしたいと考えています。今後とも“ひかりTVドリーム”をよろしくお願いします。

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 “ひかりTVドリーム”により、クリエイターに作品配信、提供の場ができることは、ユーザーにとっても新しいエンターテインメントに触れる機会となる。しかも、“ひかりTV”はゲームだけでなく、映像や音楽なども提供する総合的なエンターテインメントサービスであるので、ゲームクリエイターだけでなく、さまざまな分野のクリエイターのチャンスが拡大していくであろう。“ひかりTVドリーム”は多くのクリエイターの“入り口”としてはもちろん、学生をはじめとした新しいクリエイターによる、クオリティーの高い作品を輩出する場として、これからの展開が期待できそうだ。

 ひかりTVに加入をしていれば、現在も、“ひかりTVドリーム”のプロジェクトの対象となった学生が制作した『TRANTH』と『モノクロルートクリエイター』の2つのゲームが無料で遊ぶことができる。さらに、プロジェクトにより制作が決定した『Relic:Alone(レリック: アローン)』と『UNION』の新作ゲームは10月に配信予定となっている。ぜひ楽しんでみてほしい。

 なお、“ひかりTVゲーム”では『ディズニーインフィニティ』『トイ・ストーリー3』をはじめとしたディズニー作品のゲームも提供しており、8月上旬には東京ディズニーリゾート内にあるショッピングモール“イクスピアリ”のブースに出展した。ディズニー作品のゲームをはじめ、“ひかりTV”関連サービスのデモンストレーションを行い好評だったようだ。

※ひかりTV ……オンデマンド型の有料コンテンツ配信サービス。映画やドラマなどの映像作品、ゲーム、書籍、音楽などさまざまなエンターテインメントが提供されている。テレビだけでなく、スマートフォンやタブレット、PCでも視聴可能。テレビでは放送サービスやカラオケも提供している。

※『ディズニーインフィニティ』……購入した実物のフィギュアに付属しているコードを入力することで、そのフィギュアのキャラクターがゲームの世界にも登場するという、新しい遊びかたができるゲーム。登場する世界は『パイレーツ・オブ・カリビアン』、『Mr.インクレディブル』、『モンスターズ・ユニバーシティ』など。自分の世界を自由に作って遊べることが魅力のひとつ。

※“ひかりTVドリーム”のクラウドファンディングの受付は、NTTぷららと業務提携を行っている ミュージックセキュリティーズ株式会社( 第二金融商品 取引業者関東財務局長(金商)第1791号)が実施しています。NTTぷららは、金融商品の勧誘、募集等の行為は一切行っておりません。

(取材・ 文:編集部/オスカー岡部)