きめ細かい配慮の行き届いた“メトロイドヴァニア”の作品

 2014年6月10日~12日(現地時間)、アメリカ・ロサンゼルスにて世界最大のゲーム見本市E3(エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ)2014が開催。開催最終日(6月12日)にステキなタイトルとの出会いがあった。出会いといってもすでに“Xbox E3 2014 Media Briefing”(⇒関連記事はこちら)で大々的に紹介されていたのだが……。そのタイトルの名前は『Ori and the Blind Forest』。どこか心温まるテイストのアクションゲームだ。


『Ori and the Blind Forest』開発陣に聞く 日本の影響を受けて開発された、どこか心が癒やされる1作【E3 2014】_01
▲左からマイクロソフトスタジオのゲームディレクター、トーマス・マーラー氏、同プロデューサーのダン・スミス氏。そして音楽担当のギャレス・コーカー氏。コーカー氏は3年間日本に住んでいたことがあるらしい。

 「こうやって日本人の方にこのゲームをプレゼンできるのは、本当に幸福です。なぜなら『Ori and the Blind Forest』は、日本の影響を受けて作ったタイトルだからです」と語ってくれたのは、マイクロソフトスタジオのディレクター、トーマス・マーラー氏。

 マーラー氏によると、本作は「“メトロイドヴァニア”のゲームを作ってほしい」というユーザーからのリクエストに応える形で制作されたものとのこと。ご存じの通り“メトロイドヴァニア”とは、『メトロイド』と『キャッスルヴァニア(悪魔城ドラキュラ)』を合わせた造語で、いわゆる2Dスクロールの探索型アクションゲームを指す言葉。それがなぜ、“メトロイドヴァニア”として、ファンのあいだで賞賛されるかというと、「レベルデザインが緻密で、細部に至るまできめ細かく作りこまれているからです」とマーラー氏は分析したという。何度も何度も練り上げてそのたびに磨きがかけられている。『Ori and the Blind Forest』では、それを新しいハードで蘇らせようと思ったのだとか。『Ori and the Blind Forest』がいかに緻密さを重視したかは、たとえば、「ビジュアルは精密に、ピクセル単位で調整しました」(マーラー氏)という言葉からだけでもうかがうことができる。

『Ori and the Blind Forest』開発陣に聞く 日本の影響を受けて開発された、どこか心が癒やされる1作【E3 2014】_07

 本作は、宮崎駿監督やスタジオジブリの影響を大いに受けているとのこと。ID@Xboxの『NERO』のクリエイターさんたちもスタジオジブリの作品が大好きだと言っていたが(⇒関連記事はこちら)、改めて宮崎監督の影響力の絶大さを実感したりもする。宮崎監督からとくにインスピレーションを得たのは、(1)本当に信じられる世界を作り出すということ、(2)魅力的なキャラクター、の2点。とくにキャラクターに関しては最大限に注力しているようだ。本作の主人公は“ori(オリ)”。“ori”は森の妖精で、彼に人間的な感情を付与することで、実際にゲームを遊ぶユーザーが、彼に感情移入して、この小さな生き物と接点を持ってくれるようになることを願ったという。

『Ori and the Blind Forest』開発陣に聞く 日本の影響を受けて開発された、どこか心が癒やされる1作【E3 2014】_05

 一方で、いかにゲームに対してきめ細かい配慮を施しているのかは、その一例としてロード時間をなくしたという点が挙げられる。マーラー氏はかねてよりロード時間に対してイライラしており、本作では技術的にがんばって、ロード時間の解消に努めたという。

 もうひとつ、Xbox Oneというハードのスペックを得てもたらされたきめ細かさもある。それはビジュアルで使い回しをなくしたことだ。以前だと、メモリの制約などから、ひとつのゲームで同じ素材を何度も使う必要があった(これを“タイリング”というらしい)。『Ori and the Blind Forest』に関しては、そんな“タイリング”の類は一切なく、「同じアートは10時間のゲームプレイ中に2度と出てきません。1ステージ1ステージ、すべてオリジナルのアートが展開されるのです」(マーラー氏)という。それだけ緻密な世界観が構築でき得ると言えそうだ。

『Ori and the Blind Forest』開発陣に聞く 日本の影響を受けて開発された、どこか心が癒やされる1作【E3 2014】_07

 さらにきめ細かい配慮の一環として、ゲームシステム面での“ソウルリンク”がある。その詳細に関しては、今後にとっておきたいのだが、プレイヤーはエネルギーを溜めることで、ステージ状の任意の地点で“ソウルリンク”を設定できるようになるようだ。“ソウルリンク”はいわゆる“リスポーン地点”として機能し、ゲームをさらに先に勧めていてライフが尽きたときに、“ソウルリンク”を設定した地点からゲームを再開することができる。「ゲームを進めていても、最初からプレイし直すことになるのでは、プレイヤーはイライラしがちになってしまいます。『Ori and the Blind Forest』ではそこを改善したいと思っていたんです」とマーラー氏。

 この“ソウルリンク”のアイデアはさらに膨らんでいき、RPG要素を取り込むことにも役立ったという。『悪魔城ドラキュラ』シリーズなどでもRPG要素は加味されており、そもそも『Ori and the Blind Forest』でも、成長要素を入れたかった模様。“ソウルリンク”は、ちょうどその方向性と合致するものとなったようだ。具体的には、“ソウルリンク”にいくと“スキルツリー”を操作できるようになるようだ。スキルツリーによって、溜まったポイントをどのような能力に割り振るかを自由に選ぶことができ、攻撃力や特性などを自分の好みにカスタマイズできるようになる。

 RPG要素ということでは、もうひとつレベルデザインにも配慮しているという。本作では、たとえばゲームを進めていて何か特殊なアイテムを獲得すると、それまで行けなかったところにも行けるようになる。そうやって能力が付与されることで、行ける世界がどんどん広がっていくのだという。ゲームを進めるにつれ、プレイヤーのできることの幅が広がっていく……その絶妙さが、本作の大きな魅力のひとつとなるようだ。

『Ori and the Blind Forest』開発陣に聞く 日本の影響を受けて開発された、どこか心が癒やされる1作【E3 2014】_09

 本作の開発を担当しているのはMoon Studio。このMoon Studioの興味深いところは、実際の開発オフィスを持ってないところ。開発者は、アメリカやカナダ、ドイツ、オーストラリアなど、世界各地に散らばっており、Skypeなどを駆使して情報共有をしながら開発を進めているのだという。「なぜこういう形態のスタジオを作ったのかといいますと、マイクロソフトスタジオで10年間仕事をしてきて、“適任者がいるのにスタジオの本拠地である場所に移動できない”というネックがけっこうあったんですね。それではもったいない。世界中の才能をうまく使っていきたいということで要望を出したところ、マイクロソフトはそれを可能にする環境と技術を持っていたというわけです」(マーラー氏)。スタッフは全部で8人なのだという。

 取材に同席してくれた、音楽担当のギャレス・コーカー氏もそのひとり。『Ori and the Blind Forest』のトレーラーをご覧いただけばわかるとおり、同作の音楽は日本人にとっても極めて耳に心地よいものになっている。コーカー氏によると、「音楽は久石譲さんからのインスピレーションを受けているんです。ディレクターであるトーマスさんのアイデアと音楽をうまく合わせられるようにしています。メロディとビジュアルの融合ですね。ゲームをプレイしながら感情を刺激していただけたらうれしいです」とのことだ。

 『Ori and the Blind Forest』は年内にも配信予定。日本的なきめ細かさに満ち溢れた本作は、きっと日本のユーザーにも受け入れてもらえるに違いない。国内配信は決まっていないが、ぜひとも期待したい1作。「東京ゲームショウ 2014でお会いしましょう!」と握手を交わして、記者は取材ルームを後にしたのでした。

『Ori and the Blind Forest』開発陣に聞く 日本の影響を受けて開発された、どこか心が癒やされる1作【E3 2014】_03
『Ori and the Blind Forest』開発陣に聞く 日本の影響を受けて開発された、どこか心が癒やされる1作【E3 2014】_04
『Ori and the Blind Forest』開発陣に聞く 日本の影響を受けて開発された、どこか心が癒やされる1作【E3 2014】_08
『Ori and the Blind Forest』開発陣に聞く 日本の影響を受けて開発された、どこか心が癒やされる1作【E3 2014】_10
『Ori and the Blind Forest』開発陣に聞く 日本の影響を受けて開発された、どこか心が癒やされる1作【E3 2014】_11

(取材・文 編集部/F)