『マリオカート8』スペシャルインタビュー

 週刊ファミ通2014年6月19日号にて、『マリオカート8』プロデューサー・紺野秀樹とディレクター・矢吹光佑氏のおふたりに開発秘話を語っていただいた。その完全版をお届けしよう。

『マリオカート8』スペシャルインタビュー完全版_01
▲プロデューサー・紺野秀樹氏(左)とディレクター・矢吹光佑氏(右)。

つねに新しい遊びを取り入れ、ファンに驚きを提供する

――改めて本作のコンセプトをお聞かせください。

紺野秀樹氏(以下、紺野) 『マリオカート8』は、シリーズ8作目になりますが、これまでふたり乗りになったり、空を飛んだりと、毎回新たな遊びを取り入れてきました。

矢吹光佑氏(以下、矢吹) 今回は、反重力はもちろんですが、オンライン要素、そしてMiiverseなど、Wii Uならではの要素を取り入れ、お客さんに驚いていただけるものを作るということをテーマに、開発がスタートしました。

――なるほど。『マリオカート8』は、どのような環境で作られたのでしょうか?

紺野 エンディングのスタッフクレジットを見ていただけばわかるのですが、今回『マリオカート8』では、バンダイナムコスタジオさんにデザイン制作のご協力をいただいているんです。『リッジレーサー』シリーズや『ゴーバケーション』などに関わられていた経験豊かな方々と、私たち任天堂のスタッフが、一体となって制作を進めていきました。

矢吹 『マリオカート』シリーズには、多彩なキャラクター、マシン、コースが登場します。アスファルト、土、草、砂漠、雪山、ジャングル、遺跡、宇宙にいたるまで、すべてが異なる素材でできています。あらゆる素材を精密に描き込んで、違和感なく調和させることは、大きな挑戦でした。その結果は、画面をご覧いただけばひと目でわかっていただけると思います。任天堂とバンダイナムコスタジオさんで協力し、従来のシリーズとは、まったく違うレベルのグラフィックスに仕上げることができました。

『マリオカート8』スペシャルインタビュー完全版_02

毎回ハードの特徴を活かすコンセプトでゲームを作る

――ニコニコ超会議3の“『マリオカート8』やってみた”は盛況でしたね。

紺野 ゲストでドリキンさん(元レーシングドライバー、土屋圭市氏の愛称)を始め、さまざまなジャンルの方に登壇していただいたので、見た目も楽しいイベントになりました。皆さん、これまでのシリーズ作もプレイされているということで、レースも白熱しましたし。また、発売前のタイミングで、プレイシーンをリアルタイムでファンの皆さんに見ていただく、いい機会だと思いましたね。

矢吹 『マリオカート』初となるHDを始め、反重力などWii Uならではの演出は、実際に見ていただくのがいちばん伝わりますから。

――そう言えば、『マリオカート』シリーズは作品ごとに毎回ハードが異なりますね。

紺野 はい。1作目はスーパーファミコン版で、それ以降はハードごとにひとつの『マリオカート』を開発していますが、それぞれハードの特徴を活かすことを重視しています。『マリオカート』シリーズの前に『F-ZERO』もありますが、じつはその『F-ZERO』の存在が、『スーパーマリオカート』開発のきっかけになりました。

『F-ZERO』から『マリオカート』へ

紺野 『F-ZERO』は、スーパーファミコンの回転・拡大縮小機能を活かしてスピード感のあるレースを演出していましたが、当時、これをマルチプレイで遊べるようにしたいという思いがあったんですよ。ただ、スーパーファミコンの性能上、マルチプレイを実現すると、どうしてもコースが小さくなってしまうんです。その小さなコースで小さなクルマが走り回るので、「これは『F-ZERO』というよりゴーカートだろう」という考えになり、1作目の『スーパーマリオカート』が生まれました。

――スーパーファミコンの機能を活かした作品が『F-ZERO』であり、『マリオカート』なんですね。そして『マリオカート8』では、Wii Uの機能を活かすものにしたと。

矢吹 はい。HDであることのほかに、オンライン機能やMiiverseなどを、しっかり活かそうという思いがありました。

――今回は、ハイライトシーンを鑑賞したり、YouTubeにアップできる機能が新鮮ですね。よくあるリプレイではなく、ハイライトにした理由は何でしょうか?

矢吹 マリオカートTVは、スポーツ中継やニュースなどのテレビ番組に近づけたかったんです。3分以上の映像を流されても、なかなか観られないですよね。ですが、その映像が30秒に編集されたものなら観たくなるのではないかと。

紺野 自分自身のプレイを観るのはともかく、自分以外の人のプレイを観ると、どうしても退屈な部分が出てきてしまいますからね。

――自動編集にも、かなりこだわりが?

紺野 開発チームに“ハイライトプログラマー”がひとりいまして、「どのようにしたら見栄えがよくなるか?」とか、「どうすればかっこよくなるか?」ということを、ずっと研究していました。いいシーンを見せないと、ハイライトのシステムが活きてきませんから。

――なるほど。YouTubeへのアップ機能は、任天堂タイトルでは初めてですよね?

紺野 初めての試みですので、企画段階で「本当にやるんですか?」というところから始まりましたね(笑)。社内でも賛否両論ありましたが、そこは「おもしろい機能なんです!」と、熱意を持って話をしました。

『マリオカート8』スペシャルインタビュー完全版_03

反重力コースに込められた工夫・苦労の数々

――苦労話が続きそうですが、コースを反重力にしたことで、苦労されたことは?

矢吹 物理法則に則ってプログラミングするだけでなく、遊びに支障が出ないように、細かい処理をたくさんしています。たとえば、バナナを天井や壁に置けるようにするとかですね。また、コースがねじれていると、ポリゴンをとても細かく作る必要があります。短いコースならともかく、大きなコースでこれを行うには、Wiiや3DSではできなかったと思います。

紺野 プレイ中は気にならないと思いますが、ハイライトで見ていただくと、壁や天井にバナナが置かれているのがよくわかりますよ。

――プレイ中にカメラアングルがひっくり返ったりしないのは、快適さを求めて……?

矢吹 そうですね。カートがひっくり返ると、天井を走っていることはわかりやすくなりますが、操作がとても難しくなってしまいます。かと言って、カートにピッタリ追従するようなアングルにしてしまうと、すごく画面の揺れが激しいゲームになってしまいます。そこで何度も調整を重ねて、ゆったりと追従する、いまのアングルになったんです。

――反重力の要素が加わったことで、コース設計はこれまでの作品と比べて難しくなりましたか?

矢吹 過去のシリーズではコース設計をする際、最初は紙の上で「こんな感じかな?」って描いてから、データとして起こしていく……という手順を踏んでいました。でも、『マリオカート8』の場合はそう簡単にはいきません。最初から立体をイメージして作れる環境を用意しないと、平面の延長にしかならないんですね。そこで、さまざまなツールを準備して、コースデータを作ったらすぐに走ってみました。スムーズに走れなかったり、気持ちよくない場合は作り直して……と、何回もくり返していくんです。

――あまりグニャグニャ曲がりすぎると、気持ちよくないと?

矢吹 そうですね。ある程度爽快感が得られる作りにしないと。

紺野 マリオサーキットの原型は、付箋を切ってつなげて、実際にメビウスの輪を作ってイメージしました。「これならコースの表と裏を両方走ることができるかな?」って。

――『8』だからメビウスの輪なのかと思っていました。

紺野 逆ですね。メビウスの輪を作っていたら、ちょうど『8』だったと(笑)。おそらく、今回が8作目じゃなかったとしても、マリオサーキットの形はメビウスの輪になっていたと思いますよ。

ピンクゴールドピーチの色にもこだわりが!

――反重力エリアではスピンターボが使えますが、活用するコツを教えてください。

矢吹 基本テクニックのひとつであるスピンターボは、「せっかく天井や壁を走れるのだったら、マシンの挙動も変えてみたい」という発想から生まれました。インターネット対戦で盛り上がりたい方は、アイテムに頼るだけでなく、ぜひ身につけていただきたいテクニックです。ほかのカートにぶつかればぶつかるほど速く走れますので、積極的に狙うといいと思います。慣れないうちは、ぶつかった後にあまり弾かれない、重量級のキャラクターを使うといいかもしれませんね。

――重量級ですか。では、新キャラクターのピンクゴールドピーチで練習してみます!

矢吹 ピンクゴールドピーチは、女性キャラクターで重量級の走りを楽しんでいただこうという発想から生まれました。ロゼッタも重量級ですが、あちらはカートも大きいので少しコンセプトが違いますね。

紺野 ちなみにピンクゴールドという色になるまで、いろいろと議論がありました。『マリオカート8』のスタッフには女性が多く、女性ならではの意見を集めたんですよ。それで、貴金属・アクセサリーとしてピンクゴールドはそこまでハイグレード感がないらしく……。プラチナやゴールドになる可能性もありました。

矢吹 ただ、ピンクゴールドを提案してきたのも女性スタッフなんですよね。

紺野 けっきょく、ピーチと相性がピッタリなピンクゴールドで決着しました。

――色ひとつ取っても、かなりこだわりがあるんですね。ほかには、クッパ7人衆やベビィロゼッタなども新キャラクターが登場しますが、それぞれ参戦の理由をお聞かせください。

矢吹 どのキャラクターを参入させるかという話になると、参入新規クッパ7人衆の名前はいつも挙がるんですよ。ラリーを入れたいとか、ウェンディを入れたいとか。でも、ひとりだけじゃちょっと……というわけで、全員入れることになりました。

――クッパ7人衆は、これまでの作品では敵キャラクターとして登場していたので、自分で使うと新鮮に感じました。いまでは、レミーとラリーの見分けもつきます(笑)。

矢吹 そうですね。最初は顔と名前が一致しないかもしれませんが、気が向いたときに使っていただくと、それぞれの個性が見えてくると思います。

紺野 それぞれのジャンプアクションにも注目してみてください。妙に格好つけたルドウィッグなんかも、すごく特徴的ですよ。

――今度観察してみます(笑)。ベビィロゼッタは、どのように生まれたのでしょうか?

矢吹 『マリオカート』は、幅広い年齢層の方にプレイしていただいているシリーズですから、小さなお子さんが「何を使ったらいいの?」と思ったときに選べる対象として入れています。ベビィピーチやベビィデイジー、キノピコなどもいますが、みんなテンションの高い子ばかりなので、もうちょっと落ち着いた子として参戦させようと。

――話は変わりますが、今回、シリーズ恒例のふうせんバトルが、専用のコースでなくなったのはなぜでしょうか?

矢吹 ふうせんバトルは、レース以外の遊びの定番でしたが、『マリオカート8』では遊びかたを変えてみようと思いました。通常のレースを遊んでコースを覚えきたら、ぜひCPU(コンピューターが操作するキャラクター)を入れて12人MAXで遊ぶことをオススメします。待ち伏せや逆走も自由なので、自分なりの戦術を考えるのも楽しいですよ。

紺野 Uターンを駆使するのもアリですね。

――なるほど~。ふうせんバトルは8コースが選べますが、オススメはどれでしょう?

矢吹 最初は、モーモーカントリーが短くて気軽に遊べるのでオススメですね。そのため、コース選択画面では、いちばん最初に選んでいただけるように配置しています。

――さっそく遊んでみます! あと、サウンドの話もお聞きしたいのですが……生演奏によるBGMがすばらしいですね。

紺野 サウンドはBGMもSEも含めて大事な要素だと思っていますので、力を入れました。本作では、初めて音を生で録ってみたいと盛り上がり、サウンドのスタッフも「ぜひ一度挑戦したい」と。サウンドのスタッフが譜面を全部作っていくんですけど、収録に立ち会って「すごいな」と思ったことがあります。ミュージシャンの方は楽譜を観て、その場で弾き出すんです。「忘れるのが仕事なんです」というくらい、目の前の譜面に集中し、正確かつ直感的に弾くんですね。もちろんご本人が気に入らないところや、うまくいかなかったところがあると、何度もリテイクはするのですが。

――その場の勢いでガンガン演奏していくわけですか。相当な実力がないとマネできませんね。

紺野 聞いたら、ミュージシャンの方々の中にも、『マリオカート』を遊んでいただいている方が多くて、イメージを伝えやすかったですね。たとえばクッパキャッスルだと、サウンド担当が「悪者のクッパが住むお城なので、チョイ悪な感じでやっちゃってください」と伝えて、ミュージシャンの方が「それなら、ギターをギュインギュイン言わせちゃいましょう」といったノリで。

――音作りひとつとっても、おもしろいですね。最後にファンへ向けてメッセージをお願いします。

矢吹 ひとつひとつの要素を積み重ねて完成させた、最高の『マリオカート』になったと思います。ひとりではもちろん、家族や友だちを誘って、世界中の人とも対戦して、どんどん遊びの幅を広げてください。

紺野 『マリオカートWii』以来、携帯機を除くと6年ぶりの『マリオカート』となりますので、大画面で家族や友だちとリビングで楽しんでください。通信機能もかなり強化していますから、熱いレースを楽しんでいただけると思います。

『マリオカート8』スペシャルインタビュー完全版_04

(C)2014 Nintendo