『新生FFXIV』大ヒットの裏に秘められたロンチ直後の苦渋の決断 吉田直樹氏インタビュー_01
▲プロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏。3年前に前任から開発を引き継ぎ、当時運営中だった『旧FFXIV』の改修を進めつつ、同時進行で今回の『新生FFXIV』を完成させた。

頻発したアクセス制限は相次ぐ設備増強により収束へ

──それではよろしくお願いします。
吉田直樹氏(以下、吉田) まず皆さまに御礼を言わせてください。『FFXIV』の開発を引き継いでもうすぐ3年になりますが、その間、プレイヤーの皆様とともにメディアの方々にも多大なご協力をいただきました。ふつうでは信じてもらえないほどリスクの高いチャレンジを行ってきたにも関わらず、公平な目で見守り続けてくれたと感謝しています。とくにファミ通コネクト!オンさんは、ビジネス的に割が合わないと思われる状況下で、毎号大量のページを割いていただきました。あの時期に支えてもらったからこそ、現在の『新生FFXIV』があると思っています。本当にありがとうございました。

──心温まるお言葉を頂戴して感激です。思わず目頭が熱くなってきてしまいました(笑)。
吉田 (笑)。おかげさまで8月27日にローンチを迎えられたのですが、あれほど多くのアクセス数になるとは予測できず、正直僕のミスだと思っています。『FFXI』の最大同時接続者数である19万7000人まではなんとかと思っていましたが、さすがにそれ以上は想定外でした。じつは、ローンチ前に接続者数が増えそうだということで8月上旬に追加予算を新たに投じて、多くのお客様を迎える準備をしていたのです。

──できうる限りの対策が行われていたのですね。
吉田 ですが接続者数がさらにそれを上回りました。企業経営の観点から、これ以上のを下準備をローンチ前から行うのは、さすがに困難で……。

──ゲームが始まっていないのに何を言うかと、社長さんなどから怒られそうです(笑)。
吉田 とはいえ、ログイン制限やパッケージ/ダウンロード版の出荷制限により皆様にご迷惑をお掛けしたことは事実なので、たいへん申し訳なく思っています。ですが、そのような状況下でも、全体のサービスだけは絶対に損なわれないように問題解決に注力してきました。まず9月4日の第1回目の増資に伴い実施した設備強化により、同時接続者数を合計でさらに6万人くらいまで引き上げることに成功。その後もドタバタしましたが、9月13日午前の緊急メンテナンスにより、(ログインが殺到しても)サーバーが想定どおり稼動するまでに回復しました。

──その結果、最大同時接続者数をどれくらいまで余分にカバーできるようになったのですか?
吉田 国内でさらに約5万人です。海外も合わせると、約10万人まで上限追加可能となりました。9月14日と15日のログイン状態を見たうえで、早ければ9月17日にダウンロード版の販売を再開。その週の終わりには、パッケージ版も再リリース予定です。
(編集部注:9月17日夜の時点で、ダウンロード版販売の再開や、その後のパッケージ版の順次出荷がアナウンスされている)

『新生FFXIV』大ヒットの裏に秘められたロンチ直後の苦渋の決断 吉田直樹氏インタビュー_02

ここまで来たら可能な限り攻める

──北米&欧州地域のワールドでも、プレイヤーの殺到に伴うログイン制限が実施されたのですか?
吉田 9月4日の時点で収容人数が100%の状態で回せているので、それ以降、ログイン制限はほぼ行れていません。ですがダウンロード販売を再開するとアクセス数が一気に増えると思うので、状況に応じて国内と海外で5ワールドずつ追加できる体制を敷いています。これらは、いわばバックアップ用です。

──アクセスが急増しても十分対応できそうです。
吉田 ワールドを随時増やすことが可能だと思っています。加えて10月中旬から下旬にかけて、さらに設備を増強予定です。そのために、全体の事業規模をもう一段引き上げるための投資も行っています。

──スケールがどんどん拡大しているわけですね。
吉田 PS4版の発売に備えるという意味合いも込めて、当初想定していた事業規模の最大レベルを引き上げます。ここまで来たら攻めていこうかと。

──最大接続者数はどれくらいまで増えた?
吉田 9月4日に、全ワールドの限界値まで接続者数を上げてみました。そのときが約32万5000アクセス。

──その状態でもログイン制限が行われましたよね。
吉田 全世界で恐らく約7~8万の方々がログインできない状況でした。実験的に、Carbuncleワールドで同時接続数を8000まで引き上げてみたのですが、人数の多いゾーンに掛かるサーバー負荷がかなりキツくて……。またそれだけアクセス数が多いと、そのぶんコンテンツへのリクエスト頻度も増加するので、専用サーバーへの負担も無視できないものになりました。

──コンテンツは専用のサーバーで処理している?
吉田 コンテンツファインダーでマッチングして入るエリアは、特定のワールドを間借りしているのではなく、コンテンツだけを管理している専用のワールドになります。4人のユーザーがマッチングされているのにコンテンツが始まらない状況が発生する場合、あれは、コンテンツ用のワールドの空席待ちをしている状態だったのです。

──たしかに私もその待機状態を体験しました。
吉田 その部分も今回の一連のメンテナンスで増強済みなので、現在は34万4000人の同時接続が記録されています。とはいえ、限界値に近づくといろんな部分に不具合が出る恐れがあるので、現在は少し抑え目ですけどね。一方で新規の接続者への対応については、先ほどお話したとおりワールドを随時増やせるので、国内/海外合わせて約10万人まで余分にカバーできるシフトが現在構築されています。

──これらの処置によって、冒険者をログアウトさせずに放置する必要はなくなりますね。
吉田 北米エリアでもそういう方が多く見られたのですが、こちらはすでに収束に向かっています。

──当初の発表では、ワールド数が最大で35まででしたが、9月13日現在ですでに61まで増えています。当初は、いくつまでワールドが増やせたのですか?
吉田 50です。そこから設備の増強を重ねたのですが、残念ながら増え続けるログイン者数をカバーするには至りませんでした。僕はグローバルタイトルと呼ばれるMMOがロンチを迎えるときは、参考までに人数とログイン率をチェックしてきました。それを踏まえると、製品を購入された方がその日のうちにログインする確率は高くても約70%。にもかかわらず『新生FFXIV』の初回ログイン率は80%台後半でした。このため、過去のデータが完全に活用できない状態になってしまいました。もうひとつ想定外だったのが、レガシーキャンペーンの権利をお持ちでない『旧FFXIV』プレイヤーの方々の復帰率の高さです。我々は当初からこの数字が予測できずにいたのですが、βテスト期間中の"復帰組"の皆さんのログイン率は約23%でした。これを見て、やはり『旧FFXIV』時代のダメージは深刻なのだなと反省しつつ、復帰率はゆるやかに上昇していくとだろうと考えていたら見事にハズれて……。『新生FFXIV』』に触れることのできる方の数は100万人にも上るので、予測を誤った際の揺れ幅が広いのです。

──混雑緩和の意味も込めて実施されたアーリーアクセスも、思ったほど効果が上がらなかった?
吉田 βテスト~アーリーアクセス~正式サービス開始と3段階を踏んでユーザーをお迎えしたので、人数がバラけてくれると思っていました。しかしアーリーアクセスからプレイしてくれた方々の多くがそのままログインを続ける状態だったのです。

──レベル帯はバラける効果はあったはずですよね。
吉田 はい。おかげでゾーンに掛かる負荷は抑えられたのですが、同時ログイン者数が延々と積み上がっていく状況になりまして……。その結果、皆様にご迷惑をおかけする事態に陥りました。

──でもそれは、ゲームの出来がすばらしいことの裏返しでもあるわけですよね。
吉田 止めどきが難しい作品として認識されている証でもあるので、開発としては喜んでいいのかなと。ゲームがつまらなかったり、挑む要素がなかったら、すぐにログアウトするはずですからね。

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本体の発売と同時にPS4版『新生FFXIV』のβテストを開始

──PS4版の運用試験の流れをお聞かせください。
吉田 本体が国内で発売される2014年2月22日に、PS4版のβテストを開始します。期間はおそらく1ヵ月。詳細は検討中ですが、PS4をお持ちのPS3版ユーザーの方は、基本的に全員テストに参加いただけるようにします。レベル1のキャラクターで専用のワールドにログインし、2週間くらい掛けてPS4版ならではの試験を実施。安定性が確認できた時点でPS3版で作成済みの冒険者をマージ(合併)して、一般ワールドでオープンβテスト的なものを行います。そしてそのまま正式サービスを迎えられればと。

──PS3版プレイヤーを"安心させる"施策とは?
吉田 SCEJさんと「何としてでも無料でいきたい」という話をしています。しかし実現には問題がありまして、日本の法律で、それができない可能性が高いのです。

──詳しく説明してもらえますか?
吉田 PS3版のパッケージ価格が税込み3300円で、それを買っていただくことでPS3で遊ぶ権利が発生します。これをそのままPS4でプレイできるようにすると、ふたつの価値がひとつの商品になってしまい、"抱き合わせ販売"とも取られてしまうのです。

──たとえばPSPのゲームをPS Vitaに移行させる際に1000円だけ支払う必要があるのも、これが原因?
吉田 はい。そうした支払いをなくすために、PS4版に移行される方は、やむなく現在お持ちのPS3版の権利が失われるようにしました。

──PS4版への片道の乗り換えということですか?
吉田 そのとおりです。乗り換えの際の手数料が無料になります。この場合、たとえばリビングルームでPS4版を遊んだ後、自室にあるPS3版でログインするようなときは、申し訳ありませんがPC版とコンソール版の関係と同じように、PS4版のログイン権をバインドしていただく必要があります。

──今後PS3版でログインしないという人は、PS4版へ無料で乗り換えればいいだけなのですね。
吉田 はい。ですので、基本は無料のメリットだけです。複数の環境でひとつのアカウントをプレイする場合、それぞれのソフトが必要になります、といういまの方針と変わらないことになります。

──PS4版のグラフィックス面における特徴は?
吉田 現在のハイエンドのPCと同等のグラフィックスとキャラクター表示数が実現できると思っていただいてかまいません。解像度が1920×1080pになるので、いよいよ本当の意味でフルHDの映像体験が家庭用ゲーム機で可能になります。またPS4版は、遊びの選択肢が多いという点も特徴になります。マウス&キーボードモードも選択可能になりますし、デュアルショック4の前面にあるタッチパネルをマウス代わりに操作することもできますからね。開発として、PS4はいいハードだと思っています。

──すでにゲームは実機で動いている?
吉田 はい。年末くらいには皆さんにお見せできると思います。ですが画面を見ても、PC版と区別がつかないと思いますけどね……。作っている側からすると、ちょっと切ない気分にもなりますが(笑)。

──PS Vitaのリモートプレイで遊ぶ感覚は?
吉田 PC版やPS4版と同じ感じでプレイできるはずです。とはいえキーボードが接続できないうえにチャットウインドーも小さく文字が見づらいので、採集や製作を楽しむ程度がベストかなと。画面サイズよりもむしろ、僕としてはPS Vitaはボタンの数が足りないほうに苦しさを感じます。本体背面のタッチパッドを活用して、どうにか解決しようと努力しています……が、極端なバトルに挑むのはさすがにシビアすぎるかなと。

──リモートプレイの職人が現れるかもしれません。
吉田 ほかのプレイヤーに迷惑を掛けない範囲で、PS Vitaのリモートプレイを楽しんでいただければ。

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過密ワールドを公開したうえでワールド移転を実施

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──ワールド移転サービスの詳細を教えてください。
吉田 ワールド移転に関しては、『旧FFXIV』時代に実施してきた併合や全体移転ではなく、1キャラクターもしくは1アカウント単位で申請を受け付けるシステムを考えています。皆さんのデータを個別に扱うことになるので、ご迷惑をお掛けしないために品質チェックを念入りに行っているところです。ですが現在は、サーバーに問題が発生しているため担当チームがその対処に追われている状況。9月13日から週末にかけての状況を見て、稼働中のサーバーの安定性を確認できた段階でワールド移転の準備作業を再開する予定です。当初は9月中に公開するつもりだったのですが、10月上旬にずれ込みそうです。9月下旬は最終チェックで大忙しになると思います。

──サービスの実施に先立って、ルールや手続き方法などの説明は行われるのでしょうか。
吉田 ワールドを移ることはメリットだけでなくデメリットもあるので、"そもそも移転とは?"という部分から時間を掛けて説明していきます。冒険者数の多いワールドに移動すると、やはりピークタイム時にログイン制限に遭遇する確率が高まります。そのあたりも含めて、いくつかのケースを例に挙げつつ皆さんにご説明する予定です。

──友だちのいるワールドに移りたいとか、お気に入りの名前がついたワールドに行きたい……そういうケースが例として挙がりそうです。
吉田 そうですね。何を最優先にすれば、そうした個別の希望が達成できるのかという部分を、とくに念入りにガイダンスしていくつもりです。逆にいえば、皆さんにそれを知っていただかないと、後で"こんなつもりじゃなかった!"という事態が起きてしまいますよね。ですので、できるだけこちら側から積極的に情報を発信し、過密ワールドの内訳も隠さず公表。そのうえで、プレイヤーの方々に最終決断を下してもらえればと考えています。

──過密ワールドはどんな形式で発表される?
吉田 たとえば4人で移転する場合は、このワールドが候補です、というイメージ。MMORPGでは、人数の多いワールドに人口が集中しがちです。通常は過密ワールドの名称を発表すると逆効果を生むのですが、それでもあえて、そこへ飛び込む際のメリットとデメリットを知っていただくために公開に踏み切ることにしました。とはいえ現状では、新規キャラクター作成制限が実施されたことで、ワールドごとの極端な人数差は生じていません。そのなかでもとくに人口の多いワールドをピックアップして、具体例をアナウンスさせていただきます。

──そういえば、新規キャラクター作成時のワールドの並び順が毎回違うような気がします。
吉田 ワールドのリストの並び順はリアルタイムで細かく調整しています。大半の方がリストの上のほうの名称を選ぶ傾向にあるので、人数に余裕のあるワールドをその周辺へ配置。状況を注視しつつ、15分おきに並び順を調整しています。

(2013年9月13日収録)
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