描写とシステムの絶妙な融合が、かってないカタルシスをもたらす!

 アークシステムワークスの新作アドベンチャーゲーム『エクスブレイズ コード:エンブリオ』(2013年7月25日発売)。大人気2D対戦格闘ゲーム『ブレイブルー』シリーズと世界観を共有することで話題となっている本作を、アドベンチャーゲームコレクターの浅葉たいががいち早くインプレッションする。

『エクスブレイズ コード:エンブリオ』の魅力と新しさに迫る!

 可憐な美少女ヒロインが目をひく本作は一見、ほのぼのとした異世界ファンタジーものに見えるが、その物語は非常にサスペンス色が強く、“戦い”と“過酷な運命”が次々と交差するものになっている。登場人物たちの中でも特に重要な4人のヒロインに個別のルートが用意されているが、これらは全て、よくある美少女ゲームの恋愛、青春モノとは一線を画しており、終盤ではプレイヤーを大きく揺さぶるカタルシスが用意されている。
 筆者はこの作品を、終盤のカタルシスに至るまで、ほとんど徹夜でプレイしてしまった。想像していたのとは全く違う方向に物語が飛躍していったことから、先が気になって仕方がなくなってしまったのもその理由のひとつだが、もうひとつ、大きな理由として、本作がアドベンチャーゲームとして非常に斬新で、挑戦的なシステムと表現法をとる作品であったがために、休みどころを逃してしまうほどに没頭してしまったのだ。本作のカタルシスを最大限に体感させるために作られたであろう、システムと表現法が、今までにない新しいプレイ感覚をもたらしてくれた。今回のレビューでは、このシステムと表現法の魅力を中心に語っていく。

【ネタバレなし】アドベンチャーゲームの新境地!『エクスブレイズ コード:エンブリオ』プレイインプレッション_01
【ネタバレなし】アドベンチャーゲームの新境地!『エクスブレイズ コード:エンブリオ』プレイインプレッション_02
ファンタジージャンルに分類される物語だが、その中には、さまざまな要素が詰め込まれている。”泣きゲー”ファンにもオススメの1本だ。アドベンチャーゲームには欠かせない(?)、”萌え”要素もふんだんに入っている。
【ネタバレなし】アドベンチャーゲームの新境地!『エクスブレイズ コード:エンブリオ』プレイインプレッション_03
伏線がさまざまに張り巡らされ、物語を追うに連れて思わぬ形で真実が明らかになっていく。終盤には、心揺さぶるカタルシスの連発が待っている。

物語を“分岐”させるTOiシステム

 アドベンチャーゲームの主流である“コマンド選択”は、遊びやすく、ゲーム自体の難度のバランスも取りやすいことから、未だ多くの作品で採用されている分岐システムだが、近年では5pb.の代表作である『シュタインズ・ゲート』のような、選択肢を使わずに物語を分岐させるシステムが脚光を浴びている。本作もまた、「TOiシステム」という独自の分岐システムを持っており、これは“若者の間で流行している情報収集アプリ”で、使用者の興味のある情報を自動で集めてくるというもの。プレイヤーは、自動で収集されてきた“情報”に対して、“読む”か“読まない”かを任意に決めることができ、どのような情報を集めたかによって、物語が分岐していくのだ。
 初プレイの際には、どのような選び方をすると物語が分岐しているかも想像することすら難しい、この「TOiシステム」だが、直感的に読みたい記事を選択していくと、どんどんとその仕組みが理解できていくはず。選択肢を使わずに物語を分岐させるアドベンチャーゲームには、選択肢というわかりやすいシステムを使わなかったことによって、テンポの悪い作品になってしまうというリスクもある。しかし本作の「TOiシステム」は、作品に慣れてくれば、快適で、爽快なスピード感でプレイヤーの頭を刺激してくれるものとなっている。この絶妙なさじ加減は、「プレイ中に選択肢が出てくると、それまでせっかくゲームに入り込んでいたのに、突然客観的になってしまうのでは」と考えたディレクター増澤寛晃氏のこだわりのたまものだろう。

【ネタバレなし】アドベンチャーゲームの新境地!『エクスブレイズ コード:エンブリオ』プレイインプレッション_04
【ネタバレなし】アドベンチャーゲームの新境地!『エクスブレイズ コード:エンブリオ』プレイインプレッション_05
TOiの情報をチェックしているのは、プレイヤーだけではない。他の登場人物たちも、興味を持った情報を読んで、時にはコメントを書き込んだりもしてくる。誰がどのような情報に興味を持っているか、今、必要なのはどのような情報なのかということをスムーズに考えられれば、物語の分岐のポイントもわかるはず。

地の文を取り除き、"絵"で見せる情景描写

 前述した「TOiシステム」に加えて、物語がキャラクターの台詞のみで構成されているという点も、本作の大きな特徴のひとつだろう。。アドベンチャーゲームというと、キャラクターの台詞のほかに、人物の心情や風景の描写などが地の文よして描かれているものがほとんどだが、本作の物語は、キャラクターの台詞のやりとりでテンポよく進んでいく。そして、心情や風景は、鮮やかなイベントグラフィックはもちろん、立ち絵のパターンを豊富に使用したシーンの連続で描かれている。イベントシーン以外でも、キャラクターを後ろから見た絵なども用意し、シーンに応じてこれらを組み合わせて表現していくという手法によって、絵の中でさまざまな情報が処理されているのだ。地の文を排除したことで生まれる、テンポのよい掛け合いは、物語への没入感をより高めてくれる。また、台詞送りを自動でこなしてくれるオートモードを活用すれば、他のアドベンチャーゲームにはない躍動感を体験できるだろう。
 そして、地の文を排除というと、アドベンチャーゲームを遊びなれた人には、物語の深みがないのではと心配してしまうかもしれないが、そうした深みは、先述した「TOiシステム」や用語解説「Tips」に詰め込まれている。「Tips」の文章は深く読み込まなくとも物語を楽しむことができるという作りになっているものの、読めば、意外な事実やつながりが明らかになることもある。プレイヤーの好みに応じて、得る情報の深さを選択できるというのも、本作の遊びごこちのよさを支える要素のひとつだ。

【ネタバレなし】アドベンチャーゲームの新境地!『エクスブレイズ コード:エンブリオ』プレイインプレッション_06
【ネタバレなし】アドベンチャーゲームの新境地!『エクスブレイズ コード:エンブリオ』プレイインプレッション_07
ドラマのような構図を意識したというグラフィックは、心情や風景を雄弁に物語ってくれる。イベントグラフィック以外のシーンも、プレイヤーの目を飽きさせない。
【ネタバレなし】アドベンチャーゲームの新境地!『エクスブレイズ コード:エンブリオ』プレイインプレッション_08
Tipsを読み込めば、物語への理解がより深まるはず。物語の進行とともに、閲覧できる項目が増えていくぞ。

2D対戦格闘ゲーム『ブレイブルー』とのリンク

 本作を遊ぶうえで、是非とも知ってもらいたいのが、2D対戦格闘ゲーム『ブレイブルー』シリーズだ。本作には、「ドライブ」、「イザヨイ」といった、『ブレイブルー』にも登場するキーワードが意味深に登場する。これらのキーワードは『ブレイブルー』とは少し違ったニュアンスで使われているものが多いが、2つの作品の仄かなリンクを感じさせてくれるはずだ。本作は一つの作品として完結しているが、『ブレイブルー』の世界と物語を知れば、また違った視点で物語を見ることができるようになっている。2013年10月24日発売予定の最新作『ブレイブルー クロノファンタズマ』を待つもよし、待ちきれないという人は、好評発売中の『ブレイブルー コンティニュアムシフト エクステンド』を遊んでみるといいだろう。
 筆者は格闘ゲームとして、『ブレイブルー』を楽しませてもらっていたため、序盤から登場する関連用語に興味をぐいぐいと引きこまれてしまった。先に本作をプレイした人が、『ブレイブルー』シリーズに触れたときも、同じような感覚を体感するはずだ。そして、二つの作品の繋がりを明確に知ったとき、それぞれの作品がより魅力的に感じるようになるという、見事な作りに驚いてもらいたい。

【ネタバレなし】アドベンチャーゲームの新境地!『エクスブレイズ コード:エンブリオ』プレイインプレッション_09
【ネタバレなし】アドベンチャーゲームの新境地!『エクスブレイズ コード:エンブリオ』プレイインプレッション_10
『ブレイブルー』シリーズを遊んでいる人なら、気になる単語やアイテムが数多く登場するはず。微かに感じていたつながりが、物語を進めるに連れてより確かなものへと変わっていくはずだ。

アークシステムワークスのアドベンチャーゲーム

 アークシステムワークスといえば、『ギルティギア』や『ブレイブルー』といった2D格闘ゲームをイメージする人が多いはずだが、1990年代には、『ウィザーズハーモニー』や『プリズマティカリゼーション』といった、アドベンチャーゲームをリリースしており、これらの作品もまた、特殊な物語分岐を持つ作品群として評価されていた。アークシステムワークスの作るアドベンチャーゲームは、1990年代において、アドベンチャーゲームの王道から敢えて外した、挑戦的な作品として存在感を放っていたのだ。筆者もまた、当時、アークシステムワークスのアドベンチャーゲームに心引かれたプレイヤーのひとりで、本作の製作陣がその挑戦的な姿勢を引き継ごうとしたのかどうかはわからないが、本作をプレイしたあとには、1990年代に感じていたアークシステムワークスらしい「挑戦」が、筆者の中に懐かしくよみがえってきて、うれしい気持ちでいっぱいになった。『プリズマティカリゼーション』では、くり返す時というテーマを、当時のアドベンチャーゲームとしては珍しいフラグ管理によって描ききっていたが、今作もまた、現代社会の中に突如巻き起こる非日常を、TOiというソーシャルネットワークの魅力を作品に落とし込んだような不思議なシステムで味付けし、没入感と共感を高めている。選択肢に慣れたアドベンチャーゲームユーザーに、そっぽを向かれかねないこの選択を、堂々と、鮮やかにこなしていくアークシステムワークスの、次の挑戦がいまから待ち遠しい。(浅葉たいが)


エクスブレイズ コード:エンブリオ
メーカー アークシステムワークス
対応機種 PS3プレイステーション3 / PSVPlayStation Vita
価格 各7140円[税込]
ジャンル アドベンチャー / ファンタジー
備考 PS Store ダウンロード版は各5800円[税込] プロデューサー:森利道、ディレクター:増澤寛晃、キャラクターデザイン:樋口このみ