『ピクミン3』を通じて語る、ゲームの本当のおもしろさ

 
 2013年7月13日に発売された、任天堂のWii U用ソフト『ピクミン3』。2004年に発売されたゲームキューブ用ソフト『ピクミン2』から、じつに9年振りとなるシリーズ最新作だ。週刊ファミ通2013年7月25日号では、『ピクミン』の生みの親であり、『ピクミン3』でジェネラルプロデューサーを務める、宮本茂氏のインタビューを掲載したものの、スペースの都合上、カットせざるを得ない部分もあった。そこで、今回は同インタビューの完全版をファミ通.comに掲載。満を持して発売された『ピクミン3』はもちろんのこと、宮本茂氏が関わる今後のWii Uソフトまで、さまざまなお話をうかがった。

宮本茂氏が語る、『ピクミン3』とWii Uのこれから_01
宮本茂氏が語る、『ピクミン3』とWii Uのこれから_02
▲『ピクミン3』のパッケージ。パッケージ版、ダウンロード版ともに、価格は5985円[税込]。
▲任天堂 専務取締役/情報開発本部長
宮本茂氏

『ピクミン3』を突き詰めると『F-ZERO』のタイムアタック!?

 
──前作から約9年ぶりとなる、『ピクミン3』がついに発売を迎えました。
宮本茂(以下、宮本) 本当にお待たせしました! やっと、できあがりました。

──当初は、2013年春発売予定でしたが、開発は難航したのでしょうか?
宮本 言い訳をしてしまいますと、Wii UはHD画質でシェーダーを使ったりと、Wiiまでの開発とかなり違う部分があって、想定以上に時間がかかってしまいました。最初は、Wii U本体の発売からそんなに間を空けないつもりだったのですが……。でも、時間をかけたこともあり、かなり長く遊べる、いい内容になったと思います。

──時間をかけた成果が出たわけですね。そもそも前作から9年空いた理由というのは?
宮本 うちは、少人数でチマチマと研究を兼ねて開発をしていることが多いのですが、『ピクミン』もWii Uで開発する前に、ゲームボーイアドバンスやニンテンドーDSでテストをして、方向性を探っていたんです。そのうえで、Wiiの『Wiiであそぶ』シリーズを作って操作を改良したりして。2年半ほど前かな。Wii Uでテストをしたときに、「これだ!」と手応えを感じたんです。

──Wii Uで感じた手応えとは、どのような部分でしたか?
宮本 100匹のピクミンを、全体のマップの中で1匹ずつしっかり動かすという、性能的な部分ですね。AI(人工知能)の向上もそうですが、カメラを引くとピクミンが群体でしか見えなくなってしまうという問題も、HD画質になったことで解消できそうでした。

──HDになって、ピクミンの1匹1匹の動きがハッキリと見えるようになりましたね。
宮本 今回は、Wiiモーションプラスに対応して、ポインターでかなり正確に操作できるので、1匹が大事なんですよ。ペレット草が3本生えていたら、3匹を1匹ずつ正確に投げられたときが、とても気持ちよくなる。これは、あまり体験したことのない遊びだと思います。『Wiiであそぶ』シリーズで発売した『ピクミン』よりも精度が上がっていますので、一度試してください。こればっかり言うと、「GamePad使えないの?」と言われたりしますが、もちろんGamePadでもいい感じに操作できますので、お好きなほうで遊んでください(笑)。

──Wiiモーションプラスの操作は、本当に気持ちいいですね。
宮本 正確な操作ができるようになったぶん、突き詰めるのがおもしろいんです。突き詰めると、最終的にスコアアタックになるので、『F-ZERO』のオーバルコースでタイムアタックをするようなものだと思ってください(笑)。インコースからちょっと離れただけでリセット、みたいな。

──ストイックですね(笑)。
宮本 ええ。それがアクションゲームとしておもしろいですし、そこにストラテジーの要素として、「ああ、こうしておけばよかった」と考えながらプレイする、……いわば後悔するゲームと言いますか(笑)。

──後悔するゲーム!
宮本 自分で遊んで、反省して、また遊ぶという(笑)。やっぱり、僕はそうやって自分で考えて遊ぶのが好きですね。

──宮本さんも後悔するプレイをされると。
宮本 はい(笑)。僕は「アルフをここにおいて、リーダーを切り換えて……」ってプレイになるんですけど、現場のスタッフはGPADですべての移動の指示を出しますね。もう「自分でプレイヤーを歩かせたら負け」という、「縁石踏んだらリセット」みたいな(苦笑)。

──完全に『F-ZERO』ですね(笑)。
宮本 そうなんです(笑)。でも、そこまでやらないと楽しめないわけじゃないですよ。そういう、クラシックなゲームの楽しみかたも詰まっているということです。前作までは、そういったスコアアタックをしようとすると、スコアが悪かったときに、ピクミンのAIや操作性を責めたくなったんですが、今回は素直に自分のミスだと認められると思います。だから、後悔するゲームなんです(笑)。

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これまでの理想に近い、RPGのようなアクションゲーム

 
──『3』には、新たに羽ピクミンと岩ピクミンが登場しますが、この2種類はどのように決まったのでしょうか?
宮本 僕も最初は知らなくて、羽ピクミンのプランのプレゼンを受けたときには、純粋に「いいな」と思いました。『ピクミン』はルートを開拓するゲームなので、ショートカットの概念は新しいなと。岩ピクミンは、ポインターで狙いやすくなったので、ボールのようにぶつける遊びが欲しいということで、入れることになりました。ただ、単なる岩だと、火に強くしないといけなくて、それだと赤ピクミンの長所がなくなってしまう。それで、石炭のように真っ赤に燃える岩にしました。当初は、ピクミンは植物なのに、岩でいいのかなと思いましたが、おもしろいからいいでしょう(笑)。

──(笑)。ストーリーモードだけでなく、チャレンジモードやビンゴバトルモードなどの、新モードも豊富ですね。
宮本 ほかのタイトルで考えると、ストーリーモードがメインで、ミッションモードやビンゴバトルがおまけとしてついてくるという構造が多いですよね。でも、できあがったものを遊んでみると、どれもメインと言えるくらいで、遊びかたによっては、ミッションモードや、ビンゴバトルのほうが長く遊ぶかもしれない。言ってしまえば、どれも単体で成立するくらいのゲームなんですよ。それが、なんと全部入ってこのお値段。お得でしょ(笑)。

──はい(笑)。チャレンジモードなどは、制限時間があって、短時間で楽しめるのも遊びやすくていいですね。
宮本 家に帰って少しだけ遊ぶというときにちょうどいいと思います。それで重要なのが、どのモードも基本ルールが同じということ。だから、遊んでいるときに、ふとコツに気づくんですよ。たとえばミッションモードで、壊せる壁に、苦しまぎれに1匹だけピクミンをつけていたら、戻ってきたときに意外と壁が壊れていたりして、「1匹でも効果がある!」と気づく。そうすると、ストーリーモードでも試してみたくなって、スコアが上がっていく。だから、たとえば『マリオ』のスーパープレイ動画は見て楽しいというものですけど、もし『ピクミン』で同じスーパープレイ動画を公開したら、見ただけでうまくなるので、役に立つと思いますよ。

──『マリオ』のスーパープレイはテクニックが必要な場合が多いですが、『ピクミン』の場合は、コツがわかれば真似ができそうですよね。
宮本 そうなんですよ。これまでずっとアクションゲームを作ってきて、よく“絶妙な難易度”と言われたりしますが、僕らにもその絶対的なバランスはわかっていないんです。多くの人が喜んでくれれば、絶妙な難易度なのかもしれませんが、それでも人によっては「難しい」とか「簡単だった」と感じるわけで、絶対に正しいという答えはありません。それは、アクションゲームを作るうえでの長年の課題でした。『ピクミン』は、ジャンルで言うと、一応アクションゲームなんですよ。移動も狙いもすべて操作しますし。ただ、今回の『ピクミン3』は、アクションが苦手でも最後までいけます。理論的にはコツコツやっていたらクリアーできる。これまで、コツコツやっていればクリアーできるというものの代名詞はRPGで、日本の市場はずっとRPGに支えられてきました。

──確かに日本人のライトユーザーは、「RPGならクリアーできる」と言う人が多いですね。
宮本 そう。皆さん、「RPGは最後までいける」とおっしゃって、僕が作るゲームでは「最後まで行けなかった」と言う人が多い(苦笑)。僕は、クリアーできなくてもおもしろいゲームを作ろうと思っていますし、何より「エンディングを見たから終わり」といったゲームがあまり好きじゃなくて。エンディングを見るだけが目的じゃなく、自分で目標を見つけて遊ぶのがゲームのおもしろさだと思うんですよね。ただ、そんなことを言っても、多くの人は“最後”まで行けるのが理想で。そういう意味では、『ピクミン3』は、誰でも“最後”まで遊べて、さらにその先に攻略の楽しさがあるという、これまでの理想に近い、RPGのようなアクションゲームができたなと思っています。

──コツコツ遊べば、誰でもクリアーできると。
宮本 『ピクミン』の1作目ではプレイ日数に制限があったんですが、『3』ではフルーツを集めてジュースを作れば、日数が延長されるようになっているんです。ですので、フルーツがなくならない限り、ゆっくり遊んでもクリアーまで行けます。そして、これは任天堂のゲームで初だと思うんですが、ボスに与えたダメージが翌日に継承されるんです。『ゼルダ』が典型ですけど、だいたいボス戦で負けると、最初からになりますよね。あれが、おもしろいと思う人もいますが、あきらめてしまう人も多かった。それが、本作は甲殻などを破壊していれば、壊れたままでいますから。ぜひ気軽に、ちょっとずつ遊んでほしいですね。

──でも、ちょっとずつ遊ぶつもりが、つい夢中になっちゃうんですよね。
宮本 そうそう。やっぱり空いた時間に手軽に遊べて、気がついたら夢中という。ちょっとのつもりで夜が明けてしまったというのが理想ですから(笑)。何回か遊んでいると、上達するのが確実にわかってくるんですよ。1プレイでも十分楽しめますし。だいたい2回遊んでも朝の連続テレビ小説ちょっとオーバーくらいのプレイ時間です(笑)。

──朝ドラは確かに気軽に見られるボリュームですね(笑)。
宮本 僕はいま、『あまちゃん』から、『あさイチ』で『あまちゃん』の感想トークをするまで、そこを1セットにして長めに録画してます(笑)。

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ピクミンのCG短編も!? ピクミン、TOHOシネマズ進出のヒミツ

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──最近、 TOHOシネマズのスクリーンにピクミンが出ていますが、あれはどういったきっかけで実現したのでしょうか?
宮本 じつは1、2年以上前から、『ピクミン』のCGアニメを作っているんです。商業的なものではなく、実験的なものなんですけどね。

──宮本さんがアニメを手掛けるというのは、意外ですね。
宮本 そうですね。ふだんはチームで動画を作ると言うと、「インタラクティブなものを作りなさい」と反対するくらいなんですが、『ピクミン』はゲームの中では使えないけど、見せたいモーションがあるので、それでアニメを作ってみようということになりました。ただ、発表の場もないので、どうしようかと思っているときに、映画の上映前に流れる劇場マナーのコマーシャルを見て、「こういうところにピクミンが出てくるといいな」と、ふと思いついたんです。それがきっかけになって、とんとん拍子でTOHOシネマズさんと話が進んで、結果的に、2012年末からTOHOシネマズさんのロゴが出るバージョンと、3D映画の「3Dメガネをかけてください」という告知バージョンの、ふたつでピクミンが出るようになりました。

──なるほど。初めて見たときは驚きました。
宮本 実際に観に行くとお客さんの反応がおもしろくて。「何あれ?」って聞いてる人がいたり、連れの方に「あれは『ピクミン』って言って……」って、説明している人がいたりして。しかも、けっこう子どもが知っているんですよね。『Nintendo Land』のアトラクションに『ピクミン』が入っている影響なのか。そういった皆さんの反応が、うれしいです。

──最近ですと、WiiからWii Uへの引っ越しなどのツールソフトのデモにもピクミンが使われていますね。
宮本 そうですね。社内でもいろいろなチームがピクミンを使ってくれます。

──これをきっかけに、もっといろいろな場面で観たいですね!
宮本 ありがとうございます。もっと「観たい」という声が増えれば、いつか短編も放映してみたいなと思っています。

『3』は原点回帰。そして、ピクミンの名前の由来……

 
──『ピクミン』が、1作目から『2』、『3』とシリーズを重ねていくことで、完成形に近づいたというイメージはありますか?
宮本 いえ、『1』はロケットを飛ばすのが目的だったのですが、規定の日数をすぎると、パーツが揃っていなくても、飛び立って落ちてしまうんですね。それは、予定調和の映画に対してのマルチエンディングとして考えたんですが、ちょっと過激すぎたなと(苦笑)。

──そのままエンディングで、最初からやり直しでしたからね(笑)。
宮本 ロケットが落ちた後に、ピクミンが出てきて、“オリマーの思い出”として、透明のオリマーを操作して遊ぶというモードのアイデアもあったのですが、それは入れられなくて。僕の当初の予想では、それでも皆さんが1日目からやり直してくれると思っていたのですが、多くの人がそこであきらめてしまった。ですから、『2』では、『ピクミン』の仕組みで好きなだけ遊び尽くせるゲームに、方向転換をしたんです。それで確かに遊びやすくはなったんですが、くり返し遊んで効率のいいプレイを目指す……僕らは“段取りを極める”と呼んでいましたが、そういう方向性ではなくなったので、『3』では僕らの目指した原点をもっと深く掘り下げる方向に戻しています。

──なるほど。
宮本 ステージを広げたり、増やすのではなく、並行作業のゲームですので、GPADで全体を見つつ、複数の命令を同時に出せるようにしたりと、本来の目的の遊びやすさを向上している。ですから、『3』は『1』の延長線上としては、かなり極められたものになっているのではないかと思います。

──原点回帰したうえでの進化なんですね。宮本さんは、今回も『1』のように深く関わっていらっしゃるんですか?
宮本 いや、『1』のときはディレクターに近いことをしましたけど、今回はプロデューサーのように、全体を見る役目でしたね。先ほども言いましたが、もともと少人数でちまちまと作るチームだったので、“『ピクミン』はどのハードで作るのがもっともおもしろくなるのか“と、実験をしているところを横から見て、理屈ばっかり言う役目です(笑)。

──(笑)。恒例の“ちゃぶ台返し”はありましたか?
宮本 ずーっと試行錯誤しながら作っていたので、なかったんです。言ってみれば、『2』の延長線上で『3』を作らなかったという原点回帰が、ちゃぶ台返しかもしれませんけど。その方向性にしたことも、現場といっしょに長く考えていましたし。今回はちゃぶ台を返しようがなかったですね。

──ちなみに、原点つながりで、ピクミンの名前の由来をお聞きしたいのですが……。
宮本 ひさしぶりに聞かれました(笑)。うちの犬の名前のピックからとか、“Pick Me(私を引き抜いて)”からとか、いろいろな要素があるのですが、どちらも違います。もともとは恐竜などが攻めてくる村で暮らしている、原子生物のゲーム企画があって。その住人を1匹、2匹の“ピキ”と呼んでいたんですね。それからしばらくして、海外でも発音しやすい“ピッキー”という名前になったんです。ですが、商標の問題などもありまして、改めて出した案の中に、“ピクミン”があったんです。

──それで、その名前に決まったと。
宮本 ピクミンという語感が、よかったんですね。“ビタミン”とか、いろいろな言葉にも似ていて、発音もしやすいので、すぐに定着していきました。

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宮本茂氏が関わるWii Uの新作

 
──今後のタイトルについても、お聞きしたいと思います。まず、先日のE3のタイミングで発表された『スーパーマリオ 3Dワールド』ですが、こちらは新感覚のマルチプレイですね。
宮本 今回は協力だけではなく、みんなでワイワイ競争できるものを目指しています。ですので、ストイックな競争だと差をつけづらかったキャラクターも、今回はそれぞれに能力差を入れて、いろいろな遊びかたができるようになっています。

──ピーチ姫が操作できることに驚きました。「今回、さらわれないの!?」と(笑)。
宮本 驚きますよね(笑)。『New スーパーマリオブラザーズ Wii』などは、マリオとルイージ以外のキャラクターはキノピオになっているので、女の子がプレイするときに「キノピオ以外の選択肢がほしい」というリクエストがあったんです。

──マリオやルイージという選択肢は……!?
宮本 女の子にとって、ヒゲのキャラクターは、率先して動かしたいわけではないのでしょう(笑)。それで、いくつか候補を考えたのですが、『スーパーマリオUSA』のピーチ姫のように浮遊するキャラクターがいれば、初心者に扱いやすいですし、女の子にも向いているなということで、開発陣からもリクエストが出ていたピーチ姫を出すことにしたんです。

──あと、ネコマリオが気になりますね。
宮本 僕はネコマリオの仕様に関しては、何も言わないようにしています。ただ、尻尾のデザインがあんまり猫っぽくなかったときに、「これは猫じゃないなあ」って、何度も言った気がします(笑)。猫はいいですね。それこそタヌキの復活など、いろいろとチャレンジしてきましたし、ピーチ姫がああいった着ぐるみを被るとしたら、タヌキは嫌がりそうですからね(笑)。でも、ルイージは緑なので、どれだけイジってもカエルに見えちゃうんです。それもまた、ルイージらしいかな。

──(笑)。『nintendogs + cats』のときもお話されていましたが、猫を飼われているんですよね?
宮本 そうですね。ここ4年くらい。いま、犬と猫が家にいてけっこう仲よくしています。猫は気難しいから、どうなるか心配だったんですが、犬を親のように思っているのか、仲よくいっしょにいます。

──犬はピックでしたけど、猫の名前は?
宮本 何だと思います?(笑)。どちらもギターに関係した名前なんですよ。

──うーん。……ゲンとか?
宮本 メスなんですよ(笑)。カポって言います。

──ああ(笑)。『nintendogs + cats』のときは、猫の習性を参考にされていましたが、ネコマリオは?
宮本 してません(笑)。

──(笑)。ネコマリオは、ゴールのポールをするすると頂点まで上っていくのに驚きました。
宮本 何でもアリですね(笑)。そのあたりの難易度調整は、遊ぶ人に合わせた攻略をしてもらえればいいと思っています。

──マルチプレイでは、4人が自由にキャラクターを動かすものの、とても遊びやすかったです
宮本 4人で遊びやすいように、プレイヤーどうしの距離が離れるとカメラが遠ざかって、フィールド全体を映すようにしています。3D『マリオ』のファンの中には、「『ギャラクシー』シリーズのマルチプレイを遊びたい」と言う人もいると思いますが、球体を舞台にしたゲームでマルチプレイをすると、見づらくなってしまうんですよね。やろうと思えば、『ギャラクシー』のような視点はもちろん、映画のような大胆な演出のカメラワークも可能です。でも、僕らは、プレイヤーが何をしているかがわかるゲームを作りたいので、遊びづらくしてまでそういう視点を入れるとしたら、おまけ的なものになるでしょうね。

──プレイのしやすさが重要だと。
宮本 『マリオ』はジャンプアクションですからね。最近のゲームに多いカメラワークで、自分は何をしているかわからないけれど、爽快感がすごいというものもありますが、それを否定するのではなく、それぞれのゲームの違いだと思うんです。ただ、やはり僕らは、『マリオ』にしても『ピクミン』にしても、プレイしているものを自分の頭で整理しながら、みずからの意志で先へ進むということがいちばんおもしろいと思っているので、それを変わらず守り続けていこうと思っています。

──任天堂作品の本質ですね。そのほかに、宮本さんが関わっているタイトルはありますか?
宮本 最近配信された『New スーパールイージ U』は、『ピクミン3』のミッションモードのように気軽に遊べるのがいいですね。最近は豪華なゲームが多いぶん、1プレイが長くなりがちですが、『ルイージ U』はピシッと区切りがいいので、小気味よく遊べます。あと、マルチプレイで操作できるトッテンですね。

──敵に当たってもミスにならないという。
宮本 『New スーパーマリオブラザーズ Wii』で初めて“おてほんプレイ”を入れたときは、ちょっと議論もありましたが、最近では、“おてほんプレイ”を使いたい人は使うし、頼らない人は自力でがんばると、それぞれのプレイスタイルが確立してきたと思います。ただ、全部のゲームに“おてほんプレイ”を入れればいいというわけではなく、形を変える必要がありますので、トッテンはマルチプレイにとっての“おてほんプレイ”に近いものだと思っていただければ。ゲームが苦手な人もトッテンを選んで、マルチプレイに参加していただきたいんです。

──マルチプレイの入門ですね。あと、『Wii Fit U』はいかがでしょう?
宮本 『Wii Fit U』は、ちょっと仕上げに時間をいただいていますが、できていますよ。じつはいまも身につけていまして……(と、ベルトを見せる)。

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──えっ! ベルトについているものは!?
宮本 これが“Fit Meter”です。一般的には活動量計と呼ばれるもので、歩数計より高性能です。これに蓄積したデータを家のWii Uに送信して、健康管理ができるんですよ。できれば、家族みんなでひとりひとつずつ持って、つけてほしいですね。きっとまた、新しい遊びが楽しめると思います。

──ちなみに、『Wii Fit U』の発売時期は?
宮本 本当は、今年の夏とお伝えしたかったんですが……。年内には、万全の形で皆様のもとにお届けできるようにしたいですね。

──では、年末までにWii Uの新作が続々発売されることになりますね。
宮本 先日のバージョンアップで、システム的な改良をしましたし、今後も改良は継続していきますが、現時点でも十分リビングで使える便利なものになってきたと思います。ですが、やはりうちがゲームを出さずに、それ以外で充実していると言っても始まらないので、ぜひ今後のゲームに期待してほしいですね。来年春には『マリオカート8』も出て、ひと通りのものは揃うので、そろそろ新しいフランチャイズを出さないとなと思っています。

──新しいフランチャイズ! 宮本さんが手掛ける、完全新規のタイトルでしょうか?
宮本 詳細はまだ言えませんが、最近はこのタイトルがかなり忙しくなって来ました。

──それは楽しみです! ニンテンドー3DSが、『スーパーマリオ 3Dランド』を皮切りにブーストがかかったように、Wii Uは『ピクミン3』でブーストがかかるイメージでしょうか。
宮本 もともとは、『ピクミン3』はロンチ周辺、1、2月くらいに出したかったんです。それが、最初に言ったように予想以上に時間がかかってしまって。でも、ちゃんと遊べるものに仕上げたかったので、ここまでお時間をいただきました。それなりに遊べるものならば、春の時点でできていたんですが、1年近く遊べるもの、そして1年経っても新作と遜色なく選んでいただけるものとなると、ここまできっちり仕上げる必要があったと思います。お子さんたちに、「お年玉取っておいたのに……」と言われると申し訳ない気持ちになるんですが……。でも十分おもしろいと思いますので、夏休みにじっくり遊んでください。

──そして、先日ファミコンが発売から30周年を迎えましたが、感想や30年間応援してきたファンへのメッセージをいただけますか?
宮本 30年あっという間ですよね(笑)。同じような仕事をしながら30年間、楽しませていただきました。って言うと、もう終わりみたいですけど、まだ引退しません(笑)。何より、ゲームを創るということが、本当におもしろかったですね。ゲームというメディアがあって、本当によかったなと思います。これも皆さんにたくさん遊んでいただいたおかげです。ありがとうございます。

──『スーパーマリオブラザーズ』のドットのマリオが、いまでもデザインとして使われていたり、バーチャルコンソールで遊ばれていたりと、30年経ってもファミコンの文化が息づいていますね。
宮本 ありがたいですね。『スーパーマリオブラザーズ』なども、いまでも遊んでくださる方がいて。きっとコンパクトなボリュームで、忙しい現代で遊ぶのに丁度いいんでしょうね。8ワールド×4コースで全32コースしかないのに、28年間も楽しんでもらっているのは、本当に光栄なことです。じつは、『スーパーマリオブラザーズ』のカセットの容量は256キロビットで、携帯で撮ったちょっとした写真以下のサイズに全部入っているんです。当時は、パズル職人のように容量を極力削って作るのが楽しかったですね。

─最近の開発では、そういう容量削減はあまりないですよね?
宮本 はい。最近はそういうことをしても誰も褒めてくれません(笑)。ただ、作る楽しみで言えば、ゲームデザイナーとしては、「ここを工夫して作っているんですよ」と説明するのが楽しいんですが、いまはどこを説明すれば、ファミ通の読者さんなどに楽しんでもらえるのかがわかりづらくなっていますね。「この人は、絵が上手いですよ」とか「この人は、プログラムがすごいですよ」と、細分化してしまって、ゲームデザイナーが喜んで、「ここを工夫したんですよ!」と言える部分がだんだんなくなってきました。でも、今回の『ピクミン3』は、昔のゲームのように総合的なゲームデザインをがんばっています。じっくりと遊びこめるゲームに仕上がっているので、ちょっとストイックな遊びかたもできますし、懐かしいかもしれませんね。

──ありがとうございます。それでは最後に、読者へメッセージをお願いします。
宮本 『ピクミン3』は、アクションゲームが上手な人も、苦手な人も遊べるような内容に仕上がりました。することと言えば、ピクミンを呼んで投げるだけです。それから徐々に敵を倒すとか、ハイスコアを目指すとか、目的を設定していくと、もっとおもしろくなると思いますので、まずは手に取って遊んでみてください。また、ミッションモードやビンゴバトルなど、ふたりで遊べるものも収録しています。とくに、ミッションモードでは、ふたりで協力して巨大ボスに挑むと、かなりの爽快感が味わえると思いますので、一度挑戦してください。

──本当に多彩な遊びかたができますね。
宮本 もともと『ピクミン』は、『ピクミン』という仕組みでいろいろな遊びを楽しむ、いわば“ピクミンワールド”と言えるゲームなので、好きな遊びかたで遊んでほしいなと思います。ひとりはもちろん、家族や友人を誘っても楽しめますので、遊んでみてください。