シリーズに深く関わるふたりのイラストレーターに直撃

 2013年6月27日に発売されたバンダイナムコゲームスのニンテンドー3DS用ソフト『デジモンワールド リ:デジタイズ デコード』。今回は、シリーズの立ち上げ時からデジモンのデザインを担当している渡辺けんじ氏と、“X抗体デジモン”のデザインを中心に手掛けるAs'まりあ氏のインタビューをお届けする。

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ウィズ
チーフプロデューサー
渡辺けんじ氏(左)

PROTOTYPE AZMAX
As'まりあ氏(右)

――『デジモン』シリーズにおけるおふたりのお仕事を教えていただけないでしょうか。

渡辺けんじ氏(以下、渡辺) 私は、『たまごっち』や『デジモン』などの液晶玩具が得意なウィズという玩具企画会社でデザイナーをしています。液晶玩具の『デジモン』時代からキャラクターデザインを務めています。

As'まりあ氏(以下、A) 初めて『デジモン』シリーズに関わったのは、カードダス(バンダイのトレーディングカード)のイラストを手掛けたのが最初でした。その後、『デジモン』シリーズで“X抗体デジモン”の企画が動き出した時期に、私のサイトを見てくださったウィズさんからお声が掛かり、第1弾“メタルガルルモンX抗体”を始めとした、20体以上のX抗体デジモンの担当させていただきました。

――男の子向けの『デジモン』ですが、キャラクターデザインでどのように“男の子”らしさを表現されているのでしょうか?

渡辺 液晶玩具当初は、『たまごっち』の影響があり、かわいい系の丸いデザインが中心でした。しかし、その当時はアメコミが本格的に日本に入って来た時期でもありますので、アメコミの画風を取り入れ、「強そう、カッコいい」というイメージを意識してデザインしました。

――恐竜をモチーフにしたデジモンが多いのはなぜでしょうか?

渡辺 まず、玩具の液晶画面は16×16ドットという領域でしたから、小さい画面でもわかりやすいデザインということが前提としてありました。そして、当時の企画担当者から「恐竜を連れて歩くのが子どもの夢では?」という話を聞いて、恐竜、怪獣系のデザインに決めました。ちなみに、最初に描いたデジモンはティラノモンです。

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渡辺氏が最初に描いたデジモン、ティラノモン。左が当時のイラストで、右が現在のイラスト。「最近は多くのイラストレーターさん、アニメーターさんに描いていただくことを考慮して、骨格がわかるがっしりした絵を描くようにしています」とのこと。

デジモンデザインができるまでラストティラノモン編

――個性的でユニークなキャラクターの多いデジモンのデザインは、どのような過程を経て完成するのでしょうか? 初登場のラストティラノモン、タイタモンを例に教えていただけないでしょうか?

渡辺 まず、ラストティラノモンはプロデューサーの羽生さんからのオーダーでした。

(ここで羽生プロデューサーが登場)

羽生 ティラノモンは記念すべき最初のデジモンでありながら、最近のシリーズでは登場機会が減っていました。本作ではこれまで支えてくれたファンに応える意味も込めて、ティラノモンを登場させるだけではなく「新規に“究極体”を出したい」と相談させていただきました。

渡辺 当初は武器だらけのデジモンにしたいということから“メカ恐竜”とだけ決まっていて、そのほかは自由に進めさせていただきました(笑)。

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渡辺氏が描いたラストティラノモンの初期ラフスケッチ。

渡辺 “究極体”は輝くような色になることが多いので、ラストティラノモンも初期は同様の色を考えていました。自分の中では、「デジモンは同じ系譜で描かない」というルールがあり、進化の過程で、デジモンの色や形が大きく変わることは気にしていません。なぜなら、液晶玩具ではデジモンの数に制限があった事情で、形のつながりがないさまざまな進化形態のデジモンが登場していましたから。とはいえ、ティラノモンの場合、ゲームの中で突然キンキラキンになるのはイメージが違い過ぎると思い、赤系統にしました(笑)。

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全身を赤くしたラフスケッチ。

――そして、このスケッチですね。

渡辺 ただ赤くするのはつまらない。「歴戦の勇者のごとく、全身を“錆”にさせてください」とお願いしました。デザインはいつも“物が変化していく”ことを意識しています。メカやモンスターは戦っていれば傷付く、という変化ですね。ラストティラノモンの場合、限界まで戦って、メカが腐食しながらも強く生きているさまを表現ができないかと。ずいぶん関係者の方に困惑されましたが(笑)。

――ティラノモンの歴史も表しているようですね。

渡辺 私の手掛けたのはここまでです。ラストティラノモンはもっとカッコよく描ける方にお願いしたいと考えまして、以降をAs’まりあさんにお願いしました。As’まりあさんとはツイッターで交流するようになっていたので、せっかくだから「お願いしちゃえ!」と(笑)。

A お話をいただいた瞬間は、断る理由がどこにもないという思いでとにかく「やります!」とお返事させていただきました。そして、デザインコンセプトを聞いて「これはたいへんなことになったぞ……」と思いました(笑)。

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渡辺氏から引き継いだ案をもとに、As'まりあ氏が自分の解釈で発展させたラフスケッチ。

――渡辺さんのコンセプトを踏まえつつ、メカニカルな要素を突き詰めていったのでしょうか?

A そうですね。細かいところでは、手足のツメの形も変えました。また、「メタルティラノモン(※)のらしさが少ない」(※:ティラノモンの“完全体”)と渡辺さんから指摘がありまして、顎と鼻にメタルティラノモンと同じ装飾を入れたり、サイボーグ風の“意匠”を加えました。そのため、パイプ風のギミックがたくさんついています。そして、公式イラストの前段階というほぼFIXされた状態のデザインになりまして、最後にフィニッシュワークとして迷彩塗装、錆、塗装剥げのCG加工を施しています。こうして完成したのが、公式イラストというわけです。

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これが、最終形となるラストティラノモンの公式イラスト。

A さらにこのデザインを詰めていく作業と同時進行で、モデリングに必要な三面図も作成しました。ここまで複雑ですと、線を矛盾することなくつなげるだけでたいへんな作業でしたが(笑)。

――フィニッシュワークをご覧になった渡辺さんの感想はいかがでしたか?

渡辺 「まさかここまで描いてくれるとは!」という感じでしたね。大満足ですよ。

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ゲームで使用するポリゴンモデルを作るうえで欠かせない三面図。

――それにしても、当初のアイデアが検討とラフスケッチを重ねることでここまで変わるものなのですね。

渡辺 デジモンのデザインに決まりごとはありませんが、「このような表現がいい」という共通認識が、携わる人たち皆さんに存在しているのではないでしょうか。少しお話するだけで、いろんなアイデアを出してくれる。初期段階のアイデアが、プロデューサーやほかのデザイナーのアイデアを加えることで、さらにおもしろいものに進化していく。そのようなキャラクターデザインができるのはいいですね。このおかげで、いろいろなキャラクターが生まれたのでしょう。

デジモンデザインができるまでタイタモン編

――こちらも本作で初登場となるタイタモンですが、デザインが完成するまでの経緯を教えていただけないでしょうか?

渡辺 『デジモン』の世界には“オリンポス十二神”という設定があるのですが、まだ十二神すべてが出揃っているわけではありません。当初のタイタモンは、このひとつでありながら、まだ存在していないオーガモンの“究極体”という羽生さんの依頼から始まりました。最初のラフスケッチがこちらです。

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渡辺氏によるタイタモンの初期イメージ。名称と腕に注目! 武器はワインにちなんだ道具がモチーフに。

渡辺 オーガモンの進化形なので、ガッチリ腕を大きくしています。

A でも、このスケッチには「バッカスモン」と書いてありますよ(笑)。

渡辺 バッカス神が酒の神ですので、酒と鬼で酒天童子をイメージしていました。

羽生 じつは当初オリンポス十二神のひとつとして、バッカス神をもとにして進めていたんです。プロデューサーの立場としては、どちらかというとオーガモンの究極体という要素を強く打ち出したかったという思いがあったので、このスケッチの段階で渡辺さんには改めてその旨をお願いをさせていただきました。

渡辺 ワインを持たせたら「オーガモンはそんなのは持っていないでしょう!」と言われまして(笑)。

羽生 この時点でふたつの要素を取り入れることは難しいという判断をしまして、狙いをオーガモンの“究極体”のみに絞ってまとめ直していただきました。一応、設定だけはオリンポス十二神とつなげましたが。

渡辺 ギリシャ神話の十二神に敵対する巨人“タイタン”をもとに、その関係も持ってこようかと考えました。その結果、オーガモンで巨人だからとタイタモンとなりました。最初のラフスケッチでのイメージ自体はそんなに悪くなかったので、より怖さや強さを強調する方向で進めました。ここから「腕がカタコンベ(教会地下や洞窟の墓場)のようになっていて頭蓋骨が埋められている」、「敵を倒すと骨が増えていく」というイメージを広げていきました。

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タイタモンラフスケッチその2。タイタモンとして改めて練り直したラフスケッチ。腕のワインボトルが頭蓋骨になっている。
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フィニッシュを施した完成形(写真左)。ギミックこそ変わっているが、基本は当初のバッカスモンの流れと同一であることがわかる。

渡辺 武器として、腕にはスカルグレイモンの頭部もついています。これは、オーガモンのこん棒状の武器はグレイモンの骨という設定にちなんでいます。スカルグレイモンとまったく同じデザインにするとつまらないから、加工して取り付けたというイメージですね。

――腕のボリュームは踏襲されていますね。

渡辺 ゲーム上で表現する際も、このボリュームによってカッコよく栄えるのではないでしょうか? デジモン全体にいえることなのですが、“末端肥大”で描くものが多いですね。この表現のほうが、モンスターらしくなるという効果もあります。

――こういったところから、デジモンらしいワクワク感が生まれてくるのでしょうね。

渡辺 特徴のないデザインはおもしろくないですからね。バッカスモンのような腕にワインボトルを仕込むというアイデアもその考えから出てきたものです。最終的には、ワインボトルの代わりに骨をたくさん入れられたので満足です。

X抗体デジモンは「鎧」デザイン

――As'まりあさんは本作でX抗体デジモンのデザインの多くを手掛けていますね。

A X抗体デジモンの中でも、メカニカル系のものを担当させていただきました。いずれもストーリーのカギとなるものです。

――デザインするうえで、意識されたところはどこですか?

A X抗体デジモンはメカニカルというよりは、鎧系のデザインですね。硬いものは硬く見えるように表現して、羽根のように柔らかいものはそれらしく表しています。鎧は、いつアクションフィギュアの企画が来てもいいように、立体デザインに落とし込んであります(笑)。

――鎧デザインの究極形という感じですね。

A たとえば、デュークモンはもともと騎士というモチーフのデザインだったこともあり、そこから自分なりにブラッシュアップしていきました。その結果がデュークモンX抗体です。じつは線を減らしていくと、もとのデュークモンそのままになるんですよ。

――なるほど!

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鎧をもとにの重厚感、パーツのディティールをとことん突き詰めたX抗体デジモンのデザイン。

A このX抗体デジモンのデザイン作業は“解像度を上げていく”ということだと考えています。たとえば、昔のマンガやアニメのヒーローのデザインをリメイクする映画などありますが、ああいった考え方と同じ方法論かと思います。

渡辺 シルエットはもとのデジモンと変わらないのだけど、ディテールがとても凝っているんです。必ず“アズマグリーン”が入っていますよね。

――アズマグリーン?

渡辺 As'まりあさんが描いたグリーンのパーツだから、“アズマグリーン”と呼ばれる部分があるのです(笑)。

A 緑の発光物体がついているんです。ラストティラノモンの場合はX抗体なのかどうか不明でしたので、色味を変えてセンサーライトやデジコアだったりという解釈にしてあります(笑)。

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As'まりあさんの描くデジモンのアイデンティティともいえる、緑の発光物体。デザインのワンポイントとして、要となる場所に配置されている。

新たに作成したX抗体デジモンの背面図

羽生 従来のX抗体デジモンには正面から描いたイラストしか存在していないものが多いのですが、今回はAs’まりあさんに背面図も描いていただきました。

渡辺 ほかのデザイナーさんに描いていただいたX抗体デジモンの背面を、改めて描いていただいたんです。生物っぽいデジモンならだいたい描けるものですが、X抗体デジモンは無理なので(笑)。

A 渡辺さんからメールで相談されまして、「全部、私が描きます」と志願しました。

渡辺 これはスゴイデキですよ。

――確かに。パーツの整合性も考えなければいけないですから、相当苦労されたのでは?

A すでにアクションフィギュアのスケッチの仕事も手掛けていましたから、立体に落とし込む整合性を把握する力は以前の自分と比較すると格段に向上していると思います。自分の担当しているX抗体デジモンも、すべて三面図までこのような形でまとめました。

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正面を描いた公式イラストと設定を元に、背面のディティールを構築。まさに職人のお仕事!

デジモンに関わって

――これまで印象に残っているデジモンをお教えください

渡辺 オメガモンですね。デジモンはアニメをきっかけに本格的にブレイクしましたが、そのアニメを代表するデジモンとして描かせていただきました。そして、自分たちが表現したいものを突き詰めて生まれた、デュークモンに代表されるアニメ『デジモンテイマーズ』のキャラクターたち。オメガモンの系譜を持ったつぎのヒーローとして印象に残っています。また、「いちばん好きなデジモンは何?」と聞かれたときにいつも答えているのがベルゼブモンです。ダークな部分とカッコよさを併せ持っているキャラクターという部分に惹かれているんですよ。

A 私もオメガモンですね。初登場した映画(『劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム』)を見ていなかったら、ここまでデジモンにハマっていなかったし、仕事ともつながっていなかったんだろうな、と思うほど当時は衝撃を受けました。オメガモンX抗体のデザインを担当させていただくと知ったときは、本当にうれしかったです。そして、個人的にはガイオウモン。X抗体のデザインの中で、唯一「○○モンX抗体」という形式ではない、オリジナルの名前を付けていただいたデジモンです。

――誕生15周年が経過した『デジモン』シリーズ。その歴史についてはいかがでしょうか?

渡辺 初代の液晶玩具を遊んでくれた当時の子どもたちは、いまは20代。自分の道が歩める年齢になりました。当時遊んでいた人たちとネットなどの場を通じて交流ができる時代になったと思うと、「ここまでやったんだな」という思いと、「みんないままでデジモンを見てくれていたんだな」という喜びがあります。また、バンダイさんとオリジナルキャラクター商品でここまで関わっていただいている例は、ほかにそうありません。ゲーム初期のタイトル『デジモンワールド』の最新作がいまこうして発売されることは、非常に感慨深いですね。『デジモンワールド』はアニメ開始前から存在するタイトルですから、長く関わっていただいていることは感謝の気持ちでいっぱいです。16×16ドットの画面しかなかった世界が、まさかここまで広がるとは。

A 私は局所的なお手伝いをする立場ではありますが、10年前はX抗体デジモンがメインストリームで活躍するような状況は想像もつきませんでした。いまではX抗体デジモンを望む皆さんの声が増えたことが喜びです。その流れを受けて、X抗体デジモンを大きな柱にした本作にとても感謝しています。さらに新しいX抗体デジモンをデザインできる日がくるといいな、と思います(笑)。

――これまでの『デジモン』の歴史同様、X抗体デジモンもさらに深く広がっていくのかもしれませんね。

渡辺 そのときは描いてくれますか?

A ええ、もちろんです!(笑)

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デジモンワールド リ:デジタイズ デコード
メーカー バンダイナムコゲームス
対応機種 3DSニンテンドー3DS
発売日 2013年6月27日発売
価格 5480円[税込]
ジャンル RPG / 育成
備考 開発:トライクレッシェンド、24Frame、キャラクターデザイン:ヤスダスズヒト、プロデューサー:羽生和正、ディレクター:友野祐介