ローカライズ担当を直撃!

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 Quantic Dreamスタジオリポートの最終回は、ソニー・コンピュータエンタテインメント JAPANスタジオのローカライズ(その国の言語や文化に適合するように改訂すること)担当で、現在『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウル)』の日本語版を開発している谷口新菜さんにお話をうかがった。

キーパーソンへインタビュー『BEYOND: Two Souls』Quantic Dreamスタジオツアーリポート【その5】_01
ソニー・コンピュータエンタテインメント
ワールドワイド・スタジオ
JAPANスタジオ
プロデューサー
谷口 新菜氏(たにぐち にいな)

――『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウル)』の開発で、谷口さんはどのパートを担当しているのでしょうか?

谷口新菜氏(以下、谷口) 『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウル)』を、日本のユーザーの皆さんに楽しんでいただけるようにローカライズしています。日本語版の開発作業のすべてを管理するのは当然として、あとはオリジナル版の台本を日本語に翻訳し、そこからさらに脚本を作り込む作業も担当しています。あとは弊社のマーケティングチームといっしょにパッケージのデザインや広告展開を考えたりすることもあります。おおまかに言えばそんな感じです。

――『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウル)』をローカライズするにあたって、大事にしていることは何ですか?

谷口 トレーラーなどをご覧いただいた皆さんには、感じていただけたと思いますが、本作のディレクターのDavidさんが目指している表現はかなり繊細なテーマで、プレイヤーの心の動きが重要になってきます。ですので、Davidさんが書いた台本を日本語に置き換えるときに、彼が本当に伝えたいことが皆さんにうまく伝わることを第一に考えてローカライズしています。海外産のゲームを遊んでいるときに、ニュアンスが実際とは異なる吹き替え音声が聞こえると、一気に現実世界に引き戻されてしまいますよね? 『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウル)』では、そういうことが起こらないように気をつけています。

キーパーソンへインタビュー『BEYOND: Two Souls』Quantic Dreamスタジオツアーリポート【その5】_02

――谷口さんは、『HEAVY RAIN(ヘビーレイン) -心の軋むとき-』のときもローカライズを担当されていますよね?

谷口 ええ。『HEAVY RAIN(ヘビーレイン) -心の軋むとき-』でもローカライズプロデューサーとして携わりました。海外のゲームを日本向けにローカライズするときは、ふつうは翻訳会社に台本を渡し、上がってきたものをチェックし、編集するというプロセスを踏むことが多いと思います。でも、私の場合、Quantic Dreamのゲームに関しては、すべて自分で日本語に訳しています。作業工程としては、Quantic Dreamから台本が届いたら自分で翻訳し、つぎに実際の音声データを聴きながらセリフの尺を合わせます。そこから映画やテレビドラマの吹き替えを担当している収録会社のディレクターさんと協力して脚本を練り込んでいくという形になります。

――翻訳するときに、どう表現したらいいか迷うことはありますか?

谷口 それはしょっちゅうですね。同じ意味の文章でも英語と日本語で長さがぜんぜん違うので、どこかで意訳しなければいけない部分があったりしますから。あとは、海外と日本の文化を考えたときに、英語の言い回しをそのまま訳しても意味がわからなくなることがあり、そういうところですごく悩んだりします。ただ、先ほど説明した収録会社のディレクターさんは経験豊富で実力のある方で、しっかりとしたサポートをしてくれるので、心強かったですね。

――谷口さんご自身が台本を翻訳するという、こだわりを持ってローカライズを行っているのは、なぜですか?

谷口 私はふだんから、Quantic DreamのトップであるDavidさんだけでなく、彼の下で働くスタッフの皆さんともやり取りをしていますが、彼らのゲーム開発にかける情熱とこだわりは本当にすごいです。そういう熱量を持った人たちとはいっしょに仕事をしていて気持ちがいいですし、こちらも彼らのため、そして彼らの作品を待っているファンの方々のためにもしっかりローカライズしよう、という気にさせてくれます。あとはQuantic Dreamは日本のゲーム市場を特別な存在だと考えていて、いろいろなサポートをしてくれるのも大きなポイントです。

――彼らは、日本のゲーム市場をどう思っているのでしょうか?

谷口 欧米では、FPS(一人称視点のシューティング)やアクションゲームがポピュラーですよね。でも、Quantic Dreamが作っているゲームはそれらとは少し毛色が違うものです。彼らは、いろいろなジャンルのゲームが発売される日本のゲーム市場と、自分たちのゲームにある種の共通点を見出しているようです。Davidさんはインタビューで「日本での成功は、すごく意味があること」だとよく語っています。

キーパーソンへインタビュー『BEYOND: Two Souls』Quantic Dreamスタジオツアーリポート【その5】_03

――先ほどおっしゃっていたサポートとは何ですか?

谷口 いろいろありますが、ひとつ挙げるとしたら、ローカライズ担当である私のところにコンセプトや台本などが届くのが、ものすごく早い点ですね。本作に関しても開発の初期段階で台本がもらえたので、時間をかけて翻訳作業を進めることができました。Quantic Dreamのスタッフは、開発中のプロットを逐一こちらに見せて意見を求めてくるんです。「ここはどう思う?」とか「ここは、たとえば日本だったらどう思われるかな?」といった感じで。

――それに対して谷口さんがリアクションを返す、と。

谷口 はい。日本語版のローカライズプロデューサーとして意見を伝えています。ちなみに、Quantic Dreamが「日本でユーザーテストをやってほしい」という提案をしてきたこともありました。

――ということは、『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウル)』には、日本の文化の意見が反映されているわけですね?

谷口 そうなりますね。

――開発会社とローカライズチームで、ゲームをよい方向に導くために良好な関係を築いていると。

谷口 築いています。築けているといいなあ(笑)。

――お話を聞いた限りでは大丈夫だと思います(笑)。ところで、日本では“フランス人は頑固”と言われることがよくありますが、谷口さんの話を聞いていると、ぜんぜんイメージが違いますね。

谷口 確かに頑固だと感じることはありませんね。私も『HEAVY RAIN(ヘビーレイン) -心の軋むとき-』のローカライズで初めてQuantic Dreamを訪れたとき「繊細な内容のゲームを作るスタジオなので、どんな人たちがいるんだろう?」と構えてしまって。でも実際に会ってみたらとても気さくな人たちで安心しました。

――Quantic Dreamというと、“作家性を追求する孤高のクリエイター集団”という勝手な思い込みがあったので、それは意外でした。

谷口 もちろん、彼らは強い信念を持ってゲームを作っているので、ときには自分たちの信条を貫くために強く主張することもあります。でも、だからといって頑なではなく、いろいろな意見を取り入れようとする姿勢を見せてくれるのです。彼らが積極的に意見を聞いてくるのは、おそらくクオリティーの限界を目指しているからだと思います。彼らはプレイヤーの感情を突き動かすゲームを作るために、キャラクターの瞳のアニメーションやサウンドなど、開発の残り10%のブラッシュアップを追求しようとしています。なるべく早いタイミングで仕上げの部分に取りかかるため、早い段階でコンセプトや台本を関係各所に渡してフィードバックを取り入れているのでしょうね。

――仕上げの部分に注力するために、土台を急ピッチで構築するのですね。

谷口 はい。海外のゲーム開発会社としては珍しい手法だと思います。

キーパーソンへインタビュー『BEYOND: Two Souls』Quantic Dreamスタジオツアーリポート【その5】_04

――なるほど。そんなQuantic Dreamのゲームを、理想的な形で日本のゲームファンに届けるのが谷口さんのお仕事だと思います。『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウル)』では、レーティングの基準の違いなどから、欧米版と日本語版で一部表現が異なることはあるのでしょうか?

谷口 現時点では、何も変えていません。私たちはすべて同じ内容で発売することを目指しています。というのも、『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウル)』に関しては、すべての地域で同じバージョンのものを発売できるよう、あらかじめQuantic Dreamと弊社の各国のスタジオで協力して開発を進めているからです。今回は開発の初期段階で各リージョンのプロデューサーが台本を読み込み、表現的に問題になりそうな部分をチェックして意見を集めました。そこからQuantic Dreamと意見交換をして、彼らが表現したいものを損なわないように練り上げていったのです。

――それはすごいですね! 『HEAVY RAIN(ヘビーレイン) -心の軋むとき-』のときは、残念ながらカットされたシーンがあったので。

谷口 『HEAVY RAIN(ヘビーレイン) -心の軋むとき-』のときも可能な限りオリジナル版と同じ内容にしようと尽力したのですが、諸事情によりどうしてもカットせざるを得ない箇所が出てしまいました……。あのときは本当に残念でしたね。やはり、ゲームのシステムや表現は、その部分が作品にとって必要だから採用されたのだと思います。ですので、私はどんな要素でもカットすることはできるだけしたくないと考えています。

――そのときの教訓を活かし、今回は最初からすべてのリージョンで同じ内容を目指していると。

谷口 はい。ただ、ひとつだけつけ加えると、Quantic Dreamはレーティングに基準に引っかかるようなシーンを売りにしているわけではありません。Davidさんはメディアに対しても「プレイヤーの感情を揺さぶるため、ときにショッキングなシーンを表現することはあるけれど、それもある種のテイストを持って作っている」と語っているので。

――なるほど。ちなみに、これまでお聞きした以外で日本のユーザーにアピールしたい点はありますか?

谷口 今回も、吹き替え音声と日本語字幕を収録しています。ローカライズ担当としては「ぜひ吹き替え音声を!」と言いたいところですが、できれば両方を楽しんでほしいですね。

――1本で2度楽しめるということですね。オススメの順番はありますか?

谷口 このゲームはキャラクターに感情移入することが重要となるので、最初は吹き替え音声で遊ぶことをオススメします。字幕を追っていると、キャラクターの演技や細かい表情の変化などを見逃すこともありますから。そして、吹き替え音声でゲームをクリアーしたら、ぜひ字幕版もプレイしてみてください。字幕版では、エレン・ペイジとウィレム・デフォーのオリジナルの演技が見られます。彼女たちの表現力は本当にすばらしいので、必見ですよ。

――それは期待しています。あとは気になるのがソフトの発売時期ですが、海外では2013年10月8日にリリース予定ですよね。

谷口 そうですね。私の希望としては、できれば海外版と同じくらいのタイミングで遊んでほしいので、そこを目指してがんばっています。どうかご期待ください。

キーパーソンへインタビュー『BEYOND: Two Souls』Quantic Dreamスタジオツアーリポート【その5】_05

BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー ソウル)
メーカー ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア
対応機種 PS3プレイステーション3
発売日 2013年発売予定
価格 価格未定
ジャンル アドベンチャー / ドラマ
備考 開発:Quantic Dream