拡がり続けるゲーム産業、その未来は?

エンターブレイン・浜村弘一による講演”ゲーム産業の現状と展望 2012年秋季 ~クラウドゲーム開幕、ソーシャルアプリ第二幕~ 止まらないゲーム産業”が開催_01

 2012年10月12日、都内のエンターブレイン社屋イベントスペースにて、同社代表取締役社長・浜村弘一による講演”ゲーム産業の現状と展望 2012年秋季”が行われた。この講演は、エンターブレインがまとめたゲーム産業に関するデータに基づいて、アナリストや報道関係者向けに定期的に行われているもの。今回のテーマは“~クラウドゲーム開幕、ソーシャルアプリ第二幕~ 止まらないゲーム産業”。新ハードの登場で大きく様変わりした国内、及び海外のゲーム市場の現状を分析しつつ、新たなフェイズを迎えたというソーシャルゲーム、注目のクラウドゲームの展望などについても解説。さらなる拡大が急速に進むゲーム産業の”現在”と”未来”について語った。(※本記事中の数値はエンターブレイン調べ)

家庭用ゲーム機市場は全体でダウンも、日本では復調の兆し

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 2012年上半期の家庭用ゲーム機市場は、日米欧を合わせた全体で約20%のダウンとなった。これは「ハードの世代交代期間であることや、現世代ハード(おもに据え置きゲーム機)の普及が一巡したことなどがおもな要因」とのこと。そんな中で、新ハードが登場した2011年から始まった新世代のトレンドの兆しがもっとも早く見えているのが日本で、2012年度上半期はハードとソフトを合計した売上、販売数ともに2011年度の同時期を上回ったというデータを提示。「日本の家庭用ゲーム機市場の中心は携帯ゲーム機」なため、ニンテンドー3DSなどの登場によって市場が活性化して成長しているとのことだ。
 下期の展望としては、日本は「ニンテンドー3DSは好調を維持、Wii Uが発売となり、PS3にも有力タイトルが複数控えているため、市場は伸びていく」と予測。これに対して据え置きゲーム機が主流の欧米では「Wii Uの普及と、噂の絶えないPS3とXbox 360の次世代機待ちの状態になっている印象。下期に強力なタイトルも少なく、ふたたび成長の兆しが見えるのは少し先、2013年以降になりそう」との見方を示した。

世代交代を完了し、勢いを増すニンテンドー3DS
 つぎに、家庭用ゲーム機市場の現状を踏まえたうえで、各ハードの今期について解説。まずはニンテンドーDSとニンテンドー3DSについて。ニンテンドーDSの今期のソフト販売本数は、『ポケットモンスターブラック2・ホワイト2』が抜きんでた数字を残したものの、これを除くと2011年度上半期との比較ではほぼ半減という状況。対してニンテンドー3DSは、累計ですでにミリオンセラーが4本、今期のソフト販売本数も前年比の3倍を記録しており「世代交代はほぼ完了したと言っていい」との見解。ハードの販売台数に関しても、ニンテンドーDSに匹敵する勢いで700万台に到達しており「発売3週目以降、週間販売台数の6割を占めるようになったニンテンドー3DS LLがさらなる追い風になり、順調に推移していくだろう」と展望した。ただし、ソフトの販売本数に関しては、同時期のニンテンドーDSとの比較で約1000万本の差がついており、「やや物足りない印象」としている。この要因としては「ニンテンドーDS躍進の原動力となった実用・学習系のソフトがニンテンドー3DSでは伸びておらず、ゲームへのロイヤリティが低い層の市場をスマートフォンやタブレットのフリーゲームに少し取られた可能性はある」と分析した。とはいえすでにこれに対する対策も取られているとのことで、ニンテンドーDSよりも高いソフトのサードパーティー比率(ニンテンドーDSは30%以下、ニンテンドー3DSは約50%)や、ゆっくりとだが着実に進んでいるダウンロード販売などの施策を例に挙げ「ファミリーゲームとコアゲームの絶妙なバランスを保っていくことがニンテンドー3DS伸長のカギになる」と述べた。今後に関しては「『とびだせ どうぶつの森』や『わがままファッション GIRLS MODE よくばり宣言!』などで女児向けの市場も拡大。サードパーティーのコアゲーマー向けタイトルや任天堂タイトルも数多く控えており、日本市場でのメインプラットフォームとしての地盤を固めるだろう」と展望した。

PSPのタイムリミットまでに立ち上がりたいPS Vita
 続いてPSPとPS Vitaについて。PSPに関しては「値下げの効果は多少あったものの、さすがに息切れしている状態」で、ソフトの販売本数も前年同期と比較して30%ダウンしているとのこと。そのPSPの世代交代先となるPS Vitaについては「ゆっくりとコア向けゲーム機としてのスタイルを築きつつあるが、ハードの売れ行きがいまひとつ」との見解。「SCEとしてはPS Vitaが垂直立ち上げにならなくても、PSPとPS Vita両方での市場拡大を期待していたのだろうが、両者を合わせても2011年度上半期のPSPの販売台数に及ばない水準で推移している」という現状を語った。PSPでNo.2、No.3の人気だった赤系と青系の新色2種の投入で販売台数も伸びてくるだろうが「市場が待っていたのは値下げだったのでは?」とも。今後については、『サムライ&ドラゴンズ』などフリートゥプレイのタイトルが存在感を示してきているなかで、PC版が100万IDを突破した『ファンタシースターオンライン2』(PS Vita版は2013年春発売予定)が控えている点。PS3、PSPとのマルチプラットフォーム戦略、PSPユーザーとPS Vitaユーザーが一緒に遊べることでその魅力を伝え、PSPからPS Vitaへの買い換えを促す効果が期待されるクロスプレイ、さらに、コンテンツ充実の大きな一手となるであろうPlayStation Mobileのサービスインなどをハード普及への注目要素として挙げた。そして最後に、中期的な展望について「とはいえ、大きな普及にはまだ少し時間がかかりそう。キラータイトルの登場も待たれることろ」と語った。

PS3、今期の据え置きゲーム機ではNo.1に
 携帯ゲーム機に続いては、据え置きゲーム機。まずは今期もっともいい流れだったというPS3。ハード、ソフトともにビッグタイトルの不在から販売数では2011年度上半期と比較してややダウンしたものの、注目すべきポイントとして「ルーキータイトルが非常に元気だった」点を挙げた。2012年度上半期に発売されたすべてのルーキータイトルの中でPS3タイトルが占める割合は約6割にのぼり、『ドラゴンズドグマ』の初週販売本数30万本超えはルーキータイトルでは10年ぶりの快挙、といったトピックを紹介し「新規のチャレンジが成功するのは、ユーザーの気持ちが温まっており、ハードが健全な状態ということ。これを足がかりにソフトメーカーにとっていい循環が生まれる可能性も十分にある」と語った。今後についても「新モデルも市場の好感度、期待は高く、下期に50万本を狙えるタイトルが複数揃っている」と、見通しは明るいとのこと。「PS3は、日本ではコアゲーマー向けハードとして確固たる地位を築いていると言っていいだろう」とまとめた。

合わせ技でリビングの覇者を目指すXbox 360
 欧米では据え置きゲーム機のシェアトップを誇るXbox 360。しかし、国内ではXbox 360のソフト累計販売本数TOP50に2012年度上半期のタイトルが1本も入っていないなど「PS3とのマルチタイトルも多く、日本では厳しい状況」と、現状を解説。ワールドワイドではXbox SmartGlassやXbox on Windows 8など、タブレットやスマートフォンと連動することでリビングでの存在感を増すための施策は引き続き行われているが、「目立ったエクスクルシーブタイトルが少ない状況で、日本での普及はなかなか進まないだろう」と述べた。

Wii U ふたつの思惑
 据え置きゲーム機の最後は、WiiとWii Uについて。まずWiiに関しては、2012年度のソフト販売本数TOP20に2012年発売のタイトルが4本のみと、Wii Uへの世代交代の準備段階とのこと。そんななかで「上半期一番の話題はやはり『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン』。パッケージの販売本数ではシリーズ作品と比べて大きく見劣りするが、同社の『FF』シリーズでもっとも利益を上げたのは同じMMORPGである『FFXI』と言われている。その『FFXI』と比較すると、初回の販売本数は『DQX』が『FFXI』の約5倍。ビジネスモデルがパッケージ作品と違うことを考えると、非常に順調なスタートを切ったのではないか」と語った。
 つぎに発売を目前に控えたWii U。その戦略については「ふたつの思惑があると感じている。ひとつは、Wiiで取れなかったコアゲーマー層を獲得すること。もうひとつは、スマートフォンやタブレットへの対抗手段とすること。この視点で見ると、ローンチタイトルは『マリオ』があり、リメイク中心ながらコア向けのタイトルも揃って、十分戦える体制。”任天堂が提供する安心安全なSNS”とも言えるMiiverse、テレビ番組や映画、スポーツ中継の検索・視聴を支援するNintendo TVii(当初は米国とカナダのみでの提供)など、サービス面も充実しており、加えて価格も、欧米では高めの印象があるかもしれないが、安価に抑えてきた」と分析。「いいスタートが切れるのではないか」との見解を示した。

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大きな転機を迎えたソーシャルゲーム

 家庭用ゲーム機市場の次のテーマは、ゲーム産業における大きな柱のひとつとなりつつあるネットワークプラットフォームについて。まずは、近年話題を提供し続けているソーシャルゲーム。直近の四半期では各社とも前四半期比で横ばいからマイナスとなったが、この要因が”コンプガチャ騒動”だったとのこと。各社ともにその影響は軽微だったとの見解を示してはいるものの「想定外のことがふたつあった。ひとつは、この騒動を受けてソーシャルゲームプラットフォーム連絡協議会が出したガイドラインが非常に厳しいもので、コンプガチャを取り入れていないカードバトルゲームにも大きな影響が出たこと。もうひとつは、顧客のイメージダウン。これにより、おもに無料でプレイしている低年齢層のユーザーが離れてしまったこと。協力と同じくらい競争という要素が大事なソーシャルゲームでは、無料のユーザーが減ってしまうと課金ユーザーが優越感を感じられなくなってしまうため、この影響も大きかった」と分析した。とはいえ、「コンプガチャやカードバトルだけがソーシャルゲームの魅力ではなく、新たに収益を上げる形も出てきている」ことや、「加えて、ヤマダ電機やNTTドコモのソーシャルゲームプラットフォームへの参入といった動きを見ると、ソーシャルゲームは第二幕に突入し、まだまだ勢いは持続するだろう」とのことだ。
 一方で、欧米で中心となっているPCのソーシャルゲーム市場は、「アジアなどでは成長が見込まれるものの、欧米では足踏み状態が続く可能性が高い。最大手のFacebook上におけるゲームについては、数年後にはFacebook以外のプラットフォームも台頭してくることが予測される」と現状分析と今後の予測を示した。また、Zyngaなどの有力ソーシャルゲーム企業は、従来型のビジネスモデルに見切りをつけて、新たな事業展開や顧客開拓、新技術の導入に取り組んでいるとのこと。そのなかの注目の施策として、Zyngaが発表した現実通貨を用いたポーカーゲームを2013年に投入するという計画を紹介。「もし実現すれば、欧米のソーシャルゲームも新しいフェイズ、第二幕に入ることになるだろう」と語った。
 スマートフォン、タブレットの市場については、「フィーチャーフォンのみのビジネスからの脱却を目指して、顧客の塊を得るべく積極的に企業買収を進めているGREEとMobage。海外での成功例が生まれ始めたメイドインジャパンゲームなどが注目されるところ。また、ソーシャルゲームにもリソースを大きく割き始めた国内の大手パブリッシャーは、フィーチャーフォンに対してはライセンスアウトし、スマートフォン向けのタイトルは自社で運営するという形態が主流になりつつある。タブレット向けでは、Kindle Fire向けに独自のプラットフォームGameCircleを立ち上げたAmazonの動きにも注目したい」と現状を解説。また地域としては、これまで家庭用ゲーム機には大きな関税が掛ってしまうため価格が上がり、普及が進まなかったブラジルやメキシコといった南米に注目とのこと。大手メーカーも含めてすでに各社が進出の動きを見せており「今後、一気に大きな市場になる可能性がある」と述べた。

大きな成長が期待されるクラウドゲーム

 家庭用ゲーム、オンラインゲームに加えて、市場として大きな成長が期待されるクラウドゲーム。これについては、今後、Gaikaiを買収したSCEの動きや、クラウドゲームサービス大手のOnLiveの動向は、注目すべきポイントとの見方を示した。また、ブロードメディア社が先頃発表した世界初のWi-Fiクラウドゲーム機”G-cluster”の登場や、PCのフルダウンロードゲームを提供するSteamがクラウドサービスにも着手するなど、クラウドゲーム周辺の動きは日に日に活発化している。「これ以外にも、Core OnlineやG Cloud、Ouyaなど、プラットフォームが乱立し、急速に動き始めたクラウドゲーム。まずは欧米での伸長が進むと思うが、期待を持って見守りたい」と語った。

ゲームの拡散は無限に広がっていく

 最後に、ここまでの内容を踏まえて浜村は「これまではゲームプラットフォームと言えば任天堂、SCE、マイクロソフトだったが、先に述べたように、現在はプラットフォーマーが乱立している時代。ほかのコンテンツも融合してあらゆるところでゲームができるようになってきている。ゲームの拡散は止まらない状況です。プラットフォーマーにも決まった形はなく、今後、あるのは特性を活かした販売のストアだけになるのではないかと。わかりやすい例で言えばソニー。ソニーはハードメーカーだったが、現在はゲーム、音楽、映像、電子書籍、あらゆるコンテンツを集めて、それをスマートメディアも含めてすべてに出力している。ハードメーカーからデジタルコンテンツを販売するネットショップへと業態を変化させてきているわけです。これは将来的にはすべてのメーカーに当てはまる事象だと思います。そして、そのデジタルコンテンツの中心にあるのはゲーム。多くのプラットフォーマーが並び立ち、ゲームは拡散し続ける。そういう時代へと向かうのではないでしょうか」と講演を締めくくった。