株式会社メディア開発綜研
主席研究員 戸口功一

 パッケージビジネスを展開している企業は、デジタル化、ネットワーク化の流れの中で、今まで通りのマーケティングやビジネスフローだけでは機能しなくなってきている。では今、次世代に向けた新しい息吹は芽生えているのだろうか。

◆アニメ産業拡大の経緯

 コンテンツビジネスはメディアと共存し拡大してきた。アニメも然りである。1980年代以前は、アニメの収入源はテレビアニメの制作費、それに付随するマーチャンダイジング(MD)に係るライセンスフィーでしかなかった。そして劇場用アニメで一部の作品がヒットし始めると、テレビアニメから劇場版アニメといったビジネスの流れができる。そして80年代に入ると家庭に録画機が普及し始め、映像をビデオソフトで販売するビジネスが登場する。これによって映像ビジネスは一気に売上を拡大し、その中でアニメはアダルトビデオと双璧を成すコンテンツとしてビデオ産業を牽引することになる。

 1985年から1990年にかけてアニメ市場が急激に伸長したのはビデオソフト市場(セル&レンタル)のおかげである。アニメ産業はビデオソフトという間口が広がったことで、マンガ→TVアニメ→劇場用アニメ→ビデオソフト→マンガ……といった循環型のビジネスモデルを形成し、市場は徐々に拡大していく。

 その中からスタジオジブリというビックブランドが生まれ、さらにドラえもん。クレヨンしんちゃん、ポケットモンスターなど毎年恒例のヒットタイトルが確立し、アニメ市場は2000年から繁栄期に突入する。

 2004年からはビデオソフトを効果的に販売するためにテレビの深夜枠を利用したマーケティング展開が横行し、テレビアニメバブルといわれる時期が3年間ほど続いた。

 ビデオソフトは、ビデオカセットからDVDへ移行し、市場がさらに大きくなった。しかしDVDの最盛期が過ぎ、次の規格であるBlu-rayへの移行は今のところ成功していない。その時代に登場し、普及し始めたのがインターネット網による配信ビジネスである。かつての循環型ビジネスモデルはさらなる新しい流通手段によって変化を余儀なくされる時期に来ている。

図表1国内アニメ市場規模<ユーザー支出ベース>

【特集コラム】ファンを巻き込み収益の最大化を目指す!~新しいメディア展開事例(アニメ編)~_01
株式会社メディア開発綜研「アニメーション市場分析プロジェクト」より

◆変化の兆しを感じるかで今後が決まる!

 日本のアニメ制作プロダクションは、市場規模がここ数年微増しているにも関わらず疲弊しているといわれている。自社の売上と業界マクロデータが連動していないといったことをよく耳にする。しかしアニメ市場は日本のアニメだけではないことを忘れているケースが多い。

 テレビアニメバブルが弾け、深夜枠のアニメが一気に減少する中、ハリウッド系3D劇場アニメがここ数年ヒットしている。2010年はトイ・ストーリー3が興行収入100億円を突破し、国内のアニメでトップになっている。またアニメ市場は、一部のヒット作品によって支えられており、中間ヒットが少なく、より寡占化し、裾野が広くなってきている。すでに循環型ビジネスモデルは一部のヒットタイトルしか通用せず、さらなる収益の出口を求め模索し始めている。

 アニメ制作プロダクションの売上構成をみても、変化の兆しがみてとれる。2010年はテレビの制作費・放映権料の割合が最も高く32%、次いで映画の制作費・上映分配の22%となっている。そして商品化収入が17%となっており、テレビと映画でヒットさせ、マーチャンダイジングでさらに収益を確保する構図がみえる。しかしたった5年前の2005年の状況をみると、最も売上比率が高いのは、ビデオ収入の37%、テレビは2番目で19%、商品化が10%となっていた。5年間でビデオ収入が大きく落ち込み、売上構成が変化している。その他5年前と比べてシェアが若干高くなってきているのは、配信収入(0.7%→3%)と海外収入(8.7%→10%)などである。また新規項目としてはパチンコ・パチスロ関連(2%)が項目として登場している。

 今後のアニメ産業をみていく上で、図表2は非常に大切な指標といえる。流れは急速に変化してきているのがわかる。5年前売上構成トップであったビデオ収入が26ポイントも減少し、今や海外収入とほぼ同じ比率になってしまっている。ビデオソフト収入に頼ってきた企業は、今や苦しい対応を迫られているであろうことは想像に値する。変化の兆しをいち早く感じ、次にどのような手を打っていくかで、未来の状況は一変するのである。

 図表2には、今後のアニメ産業が拡大していくヒントが隠されている。アニメは意外に幅広い収入窓口があることがわかる。今シェアが低い項目を底上げできれば、さらなる市場拡大が見込まれるだろう。ではどのようにすればいいのだろうか。そのヒントは新しい取り組みを始めている企業事例からみえてくる。

図表2アニメ制作プロダクションの売上構成<2010年度>

【特集コラム】ファンを巻き込み収益の最大化を目指す!~新しいメディア展開事例(アニメ編)~_02
一般社団法人日本動画協会「アニメ産業レポート2011」をもとに株式会社メディア開発綜研作成

◆アニメをコアに収益を拡大させる仕掛けとは

 サンライズが2011年4月から2クール間放映したテレビアニメ「TIGER&BUNNY(タイガー&バニー)」は今後のコンテンツビジネスを示したひとつの事例といえよう。

 関西の毎日放送深夜25:58から30分枠で放映されたテレビアニメが話題になった。勿論、アニメのクオリティが高くなければ話題にならなかったことは言うまでもないが、注目すべきはアニメを最大化させるための多岐に渡る仕掛けである。制作サイドは、「とにかく誰もやったことのない新しいチャレンジをしよう」という姿勢で取り組んでおり、いくつもの業界のタブーを破ることから始めたという。

 一つ目は、テレビ放映と同時にUSTREAMにて無料配信したことである。東京キー局での放映では未だに考えられないタブーであり、視聴分散のご法度を関西ローカル、深夜枠ということで実現させた。二つ目は、キャラクタープレイスメントを実施したこと。これもアニメ業界では始めてのことである。アニメのキャラクター(ロボット)にスポンサーロゴをつけ、作品の中に広告を持ち込んだ。モータースポーツを観ていたときに思いついたとのことで、車のロゴステッカーと同じ概念である。

 一つ目のWeb配信との同時放映は、視聴者(ファン)の伝達力を利用し、作品の最大化を図るトライアルであり、twitterとの連動でさらなる拡散を意図したもの。二つ目は広告収入の新しい最大化である。

 このトライは放映回数を重ねるごとに効果が現れ、最終回の視聴率は深夜では非常に高い3.8%を記録し、USTREAMで視聴した人は9.3万人、twitterのつぶやきが25万ツイートという結果を残すことになった。ここまでの新しい取組みの成果も注目すべきであるが、この取り組みはここからが本題となる。最終回放映時間に併せて有料イベントを開催し、全国の劇場へライブビューイングを仕掛けた点にある。

 テレビアニメを家庭で視聴するものから同時間に皆で共有するもの、コミュニケーションを取り合いながら、同じ仲間と同じ場所で共感するものへと変容させ、マネタイズ化させる新しい循環を作り上げたことが、この取り組みのキーではないだろうか。

 今後のヒントは、新しい取り組みにたくさん隠されている。新しい取組みをしている企業自体も取り組みながら経験を蓄積しているのであろう。ただ言えることは、良い作品を作れば売れる単純な時代は終わり、作品が持っているポテンシャルを最大化させるための仕掛けを見出さなければならない時代に突入しているということではないだろうか。

図表3「TIGER & BUNNY」メディア展開フロー

【特集コラム】ファンを巻き込み収益の最大化を目指す!~新しいメディア展開事例(アニメ編)~_03
各種資料より株式会社メディア開発綜研作成

記事:f-ism Access Research/2011年9月期コラムより