●Flash×Kinectのさらなる可能性

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 手振り身振りや音声認識などでゲームを操作できるXbox 360のゲームシステムKinect。次世代のテクノロジーを気軽に使えるということで、ゲームクリエイターのみならず技術者やアーティストなどもKinectに注目。マイクロソフトがPC向けのKinect用SDK(開発キット)を無償提供していることもあり、Kinectのテクノロジーを実装した多くの実験的な作品が明らかにされている。その一端は、先日行われた“デジタルコンテンツEXPO 2011”などでもお披露目されていたが(⇒こちら)、2011年10月26日には、Kinectを使用したコンテンツへの取り組みを紹介する講演“『ピグファイター』メイキングセミナー”が、デジタルハリウッド東京本校にて開催された。『ピグファイター』とは、アバターコミュニケーションサービス“アメーバピグ”とKinectを連動させた、PCベースの体験型対戦格闘ゲーム。セミナーには、『ピグファイター』を制作したサイバーエージェントに所属するPiggFighter制作チームの浦野大輔氏、大庭俊介氏、冨塚小太朗氏、西原英里氏が参加。『ピグファイター』の制作経緯などを語った。デジタルハリウッドの本科デジタルコミュニケーションアーティスト専攻では、2011年度からFlashとKinectの授業を取り入れており、そういった面からも今回のセミナーに至ったようだ。

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▲講演をしたPiggFighter制作チームの大庭俊介氏。

 “アメーバピグとKinectが連動しての対戦格闘ゲーム”と聞くと極めて興味深いが、「なぜアメーバピグとKinect?」との問いには、開発にあたったPiggFighter制作チームの何たるかを紹介するのが近道だろう。プレゼンの紹介文から孫引きすると、PiggFighter制作チームとは「社内のデザイナー・プログラマー・サウンドエンジニアによるユニット。新しいデバイスやUIを使った実験的な作品を制作している」とのこと。つまり、日常の業務などをこなす一方で、未来の可能性などを探って、UIの検証などを行なっているチームのようだ。本来メンバーは6人なのだが、今回の講演は4名での参加となった。

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 そんなPiggFighter制作チームのアンテナに引っかかったのがKinect。『ピグファイター』制作過程のプロセスを大庭俊介氏は、(1)既存物の情報収集、(2)既存物を組み合わせる、(3)情熱、だったと説明。“既存物の情報収集”では、現在、世に出ているFlashゲームはほとんどマウスとキーボードを使用していると分析。“既存物を組み合わせる”では、Kinectを使うことによってマウスとキーボードだけでは味わえない新たなインタラクティブが模索できるのではないか?と続けた。“Kinect×Flashでおもしろさを最大限に活かすにはどうすべきか”とのディスカッションでは、自分視点の3D『マリオ』風アクションやエア楽器などのアイデアも出たそうだが、最終的には「ゲームファンなら誰しも一度は実際に波動拳を撃ってみたくなる」との思いから格闘ゲームに落ち着き、『ピグファイター』ができあがったのだという。最後の“情熱”については、「ものづくりの発想やきっかけは何でもよくて、自分たちがこれなら楽しいと思えるものを見つけるのが大切。“自分の手で波動拳を撃ちたい”という情熱で『ピグファイター』を制作しました」(大庭氏)とのことだ。なお、PiggFighter制作チームの6人は、通常業務を終えた平日の夜2〜3時間や土日を『ピグファイター』の制作にあて、2011年4月〜6月の約3ヵ月でソフトを作り上げたのだそうだ。

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 気になる『ピグファイター』の操作は、攻撃方法は2種類。通常の必殺技が、両手を前に押し出す操作で“ピグファイヤー”で、超必殺技が両手をねじって前に押し出す“ピグゲイザー”というもの。“ピグゲイザー”を出すには、両手を挙げて、必殺技ゲージを貯める必要がある。ガードは、両手をクロスさせることで可能になる。ジャンプやしゃがむといった動作も可能だ。

 ちなみに、この『ピグファイター』はあくまでテクニカルデモ用で、現時点では一般の人が遊べることは多くなさそうだが、何らかの形で触れられるようになる機会を期待したいものだ。

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▲ジェスチャーでピグを操作する『ピグファイター』。格闘ゲームにすることで、直感的なジェスチャーで技が出ることが楽しいなどの利点があると分析。

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▲『ピグファイター』は最初に礼をすることでゲームがスタートする。それは、「敬意と感謝をゲームに導入したかったからです」と大庭氏。Kinectだからこそ実現した心得と言えるだろう。

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▲浦野氏は技術面から『ピグファイター』を分析。骨格トラッキングを扱うためのライブラリ“Kinectas”を無償提供していることなどを説明した。

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▲結論は。「とにかく、Kinectを使ってみよう!」というもの。それだけKinectが魅力的ということなのだろう。

 当日は、『ピグファイター』の講演の前に、デジタルハリウッドの学生、茶谷亮裕さんが授業の課題として制作したKinect対応『Lifting Master』も披露された。東京ヴェルディ協力のもと制作されたこちらのゲームは、誰でも簡単にリフティングを体験できるというゲーム。『ピグファイター』にせよ、『Lifting Master』にせよ、Kinectがいかに作り手の発想を刺激せずにはいられないゲームシステムか、ということを実感させられるセミナーとなった。

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▲高校時代はサッカー部に所属していたという茶谷さん。Kinectでリフティングという発想はユニーク。将来的にはいろいろな展開も思い描いているようだ。