●思えばあの頃からテレビに銃口を向けていた

 『ザ ガンストリンガー』は、マリオネットを操作して敵を倒す、3人称視点のアクションシューティングと横スクロールアクションを融合した全く新しいKinect 専用ゲーム。座りながら両手の動きだけでプレイができる最初のKinect専用ゲームとしても注目を集めている。同作の魅力をライターの戸塚伎一が語る。

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 家庭のテレビに銃口を向けてバキューン! ということをした最初の記憶は、かれこれ四半世紀以上前のもの。強面ガンマンと早撃ち対決したり、飛び立つ鴨を狙い撃ちしたりと、やれることは単純でしたが、光線銃という特殊なコントロールデバイスを使ってガンマンになりきり……否、ガンマンそのものになってテレビゲームに参加できること自体が愉しかったことを覚えています。

 『ザ ガンストリンガー』は、亡霊ガンマンとなって、荒野のならず者と銃撃戦メインの死闘をくり広げられる、Kinect専用のアクションアドベンチャーです。題材が近い……ということで前述の懐かしいゲーム体験が蘇ったのですが、さて、テレビゲームはあの頃からどれだけ“進化”したのでしょうか。

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●ガンマンの命運はその両腕にかかっている

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 『ザ ガンストリンガー』のゲーム世界は、ちょっとねじれています。「あの世からガイコツ姿で蘇ったガンストリンガーが、自分を裏切った連中をひとりずつ始末していく」というストーリーの舞台人形劇……という体裁で、フィールドのそこかしこに安手の舞台セットっぽさを感じさせる物体が描かれたり、イベントシーンに対する観客のリアクションをわざわざ実写映像で見せるなどの演出が多数盛り込まれています。ゲーム内の虚構とゲーム内の現実がごっちゃになって表現される映像スタイルは、誰もがスッと受け容れられる類のものではありませんが、何とも評しがたいキッチュな魅力に溢れているのは確かです。

 基本的な操作は、片手で拳銃全般、もう片手で移動全般をまかないます(左右の手の役割は変更可)。カラダのひねりや下半身の動きは一切必要なしという、“全身がコントローラ”を謳っているKinect専用ソフトにしては、だいぶ控えめな仕様です。

 そのかわり、プレイ自体はエキサイティング。前方に突き出した拳を銃に見立ててターゲットに狙いを定めていくと、最大6体の標的をロックすることができます。その状態でひじを直角に立てる──拳銃を片手で撃った瞬間、反動で腕が跳ね上がるのをイメージしてクッとやると、ロックした標的を早撃ちで一気に仕留めます。鉄砲ごっこ感覚で敵をまとめ消しする爽快感は、一度体験するとクセになるでしょう。移動は、前に出した手を左右に動かせばその通りに動き、上に持ち上げればジャンプという、直感的にもほどがあるシンプルさ。ルート固定のフィールドをオートでズンズン進むガンストリンガーにふりかかるあらゆる災厄を、窓拭きチックな手さばきで華麗に回避できるというわけです。

 「両手で同時に異なる動きをすることは脳の活性化に繋がる。しかも、手の動きが大きいほど効果が高い」という、いわゆる脳トレのセオリーに照らし合わせてみると、本作はそっち方面の価値もあるソフトといえます。目まぐるしく変化し続ける状況に対応し続けなければその時点でゲームオーバーというプレッシャーこそあるものの、従来スタイルの3Dアクションゲームになじみがあれば、何ということはないでしょう。

 また、各ステージには、通常と異なる特殊なアクションが要求される場面がいくつか用意されています。それらは、ただ殴ればいいとか、ただタイミングよくジャンプすればいいといった単純なものが半分、ボス戦など、ターゲットの動きを読んでテクニカルに操作するものが半分といったところで、プレイの程よいアクセントになっています。動かす部分は基本操作同様、両手のみ。始終椅子に腰かけた状態で遊べるのも、本作の大きな特徴のひとつです。

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●Kinectスタイルのもうひとつの可能性が、ここに!

 単にKinect専用ゲーム初のガンシューティングにおさまらず、両手でできるアクションの多彩さと、それらが生きるシーン構成、演出にこだわった『ザ ガンストリンガー』。全身をコントローラすること自体をエンジョイするタイプのKinect専用ゲームとはまったく異なるコンセプトで作られているのは明らかです。

 プレイ中気になったのは、過去の名作ゲームを思わせるシーンが多数あったこと。そのものズバリ! はさすがにないものの、こんな外見の敵がこんな動きをして……とか、ゲーム画面の視点がこんな風に変わって、こういうアクションがはじまって……という外骨格が、見覚えあるもので満載でした。

 若いゲーマーさんは「何でもすぐ過去の記憶に結びつけようとして、鬱陶しい」と思われるかもしれませんが、わざわざ視点や操作システムを変更してまでそれを再現しようとするからには、作り手にそれなりの意図があるように思えます。

 となると本作は、あらゆるタイプのゲームの操作系はKinectスタイルに置き換え可能だ、ということを証明する役割を担っているのかもしれません。

 これまでのKinect専用ゲームは、個々のアクションに対応するゼスチャーの判定が「フィーリングとしてだいたい合っていればよし」というアバウトな精度に抑えられていたのに対し、『ザ ガンストリンガー』では、ゲーム画面内のキャラクターの位置どりに厳密さが求められる場面が多い。このスペースにすばやく潜り込まないとダメージ……といった、従来のコントローラ操作のアクションゲームと変わらない精度が、ごく普通に要求されるのです。慣れるまでにはある程度の時間と努力が必要ですが、ひとたび本作の操作感覚を自分のものにしたら、過去のあんなゲーム、こんなゲームをKinectスタイルで遊べるイメージが、ぐぐっと膨らむはずです。

 従来のテレビゲームは、ガンシューティングを楽しむには拳銃型コントローラ、レースを楽しむにはハンドルコントローラ……といった具合に、ゲームジャンルに応じて異なる形状のコントローラに持ち替えるのが、醍醐味のひとつでもありました。Kinectセンサーもともすれば、そうした”キワモノデバイス”のひとつとして扱われてもおかしくない性質を持っています。

 しかし、『ザ ガンストリンガー』をプレイして、私は考えを改めました。Kinectスタイルの操作は、フィジカルな自分を実感するためだけに意義があるわけではない。これからの、そしてこれまでのあらゆるテレビゲームの操作系を取り込む、そう遠くない未来のスタンダードになりそうだ、と。

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【戸塚プロフィール】
ファミ通Xbox 360誌でクロスレビューを担当する文章&漫画かき。Kinectゲーム生活も1年が近づいてきました。当初は家具大移動状態だったプレイスペース作りも、今では手慣れたものに。“何もない空間作り”を意識していると、自然と断捨離が進むものですね。

ザ ガンストリンガー
メーカー 日本マイクロソフト
対応機種 Xbox 360
発売日 2011年10月06日
価格 3,990円[税込]
備考 Kinect専用
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