『FFXV』のプロジェクトについて田畑端氏と野末武志氏を直撃! 「もう一度、『FF』が勝つ姿を見せたい」【ダイジェスト版】

公開日時:2016-03-31 12:30:00

 2016年3月30日(現地時間)にアメリカ・ロサンゼルスで開催されたUNCOVERED:FINAL FANTASY XVにて、ついにヴェールを脱いだ『FFXV』。発売日の公開だけでなく、複数タイトルの発表を行った壮大なプロジェクトについて、田畑端氏と野末武志氏にうかがった。なお、本インタビューはダイジェスト版となっている。詳細は週刊ファミ通2016年4月7日発売号でチェックしてほしい。

【英語版】Head-to-head with Hajime Tabata and Takeshi Nozue about FFXV - Making FF Great Again

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▲田畑端氏(左・文中は田畑)と、野末武志氏(右・文中は野末)。聞き手は週刊ファミ通編集長 林克彦。

FF』というIPの危機と、チームの意識を変えるところからのスタート

――今回の発表で、プロジェクトの全体像が見えてきましたね。『FFXV』はタイトル変更やディレクターの交代など、ここにたどり着くまでにさまざまな難所を越えてきました。まずは、開発チームがどういった意思のもと、『FFXV』を制作されているのかをお聞きできれば。

田畑 最初に、なかなか発売できなかった『FF ヴェルサスXIII』を待っていたファンに対して、スクウェア・エニックスとして責任を果たしたい、という思いがありました。『FFXV』として再出発したときに、絶対にやらなければならないと思ったのは、“『FF』を近代化する”ということ。つまり、いまの時代で通用する『FF』にするということです。そのためには“『FF』を挑戦者に戻す”ことが必要だと考えて、そのためにやれることはすべてやろうと決めました。

――プロジェクトを引き受けたとき、田畑さんは『FF』というコンテンツをどう見ていたんですか?

田畑 僕は自分でナンバリングの『FF』を制作した経験がなかったので、客観的に見ていましたね。ひとつの見かたとして、かつて所属していた会社で作れるか、作れないかといった線引きをしていました。ナンバリングの『FF』は、いくらでも突っ込みどころがある。けれど「じゃあ、おまえのところで作れるのか?」と言われると、作れない。それがナンバリングの『FF』に共通して言えることでした。でもあるとき、「あれ? これは作れるかもしれない」とちょっと思えてしまった。僕は『FF』をユーザーとしても体験していて、『VII』のすさまじいパワー、エッジの鋭さというものをすごく感じているので、あの作品がユーザーのあいだで伝説的な存在になるのもよくわかる。でも、そのインパクトを超える『FF』はいまだ出ていないんです。

――それは、現在の『FF』に危機感を抱いているということですか?

田畑 ええ、危機感はありました。でも、引き受けた後のほうが増しましたね。『FFXV』として進めていくことになったとき、社内や他社、とくに海外のデベロッパーの反応などから、「自分が思っているよりも、『FF』はIP(知的財産)としてやばいんだな」という感覚がどんどん増していって。リアルな温度感に直接さらされる立場になって、それを思い知りました。

――重い出発ですね。

田畑 そうですね。でも、IPの危機感の前に、そもそも目指すものをきちんと作れていないという現実があった。『FFXIII』も、いろいろなきびしい意見があるのはわかるんですが、最初からそこを目指していたわけではなくて、目標はもっと高かったはず。しかし結果、リニア(1本道)だと言われる作品になってしまった。それは狙ってやったのではなく、いままでのやりかただと、HDでの制作の壁を突破できず、そこへ着地せざるをえなかった現実があったのだと思います。どちらかというと、そういった現実をどう打開していくかという意味で重かった。“『FF』というIPはヤバイな”という重さは、そこに上乗せされてきたんです。

――そういった現実があったなかで、田畑さんはどう動いたのでしょうか。

田畑 ゲームチームもムービーチームも技術チームもいっしょになった独立した新チームを立ちあげました。それが、旧『FF ヴェルサスXIII』チームと合流し、『FFXV』を制作することになる、現在の第2ビジネス・ディビジョンの前身となるチームでした。

――そうして制作に入り、『FFXV』はどうするべきかテーマを定めていった?

田畑 いえ、『FFXV』をどうするかという具体的な話の前に、やるべきことがありました。みんなが『FF』は勝てていないという現実と向き合い、それを乗り越えるための覚悟を決める必要があった。関係者全員の一致した見解として、“HDで『FF』は勝てなくなっている”わけだから、いままでのやりかたを踏襲するのではなく、HD世代で勝つためにやらなきゃいけないことはすべてやる。全員が挑戦者の意思を持って制作に取り組む、ひとつのチームを作るところから始めたんです。

――それから……?

田畑 組織のヒエラルキーをリセットしました。というのも、セクションのリーダーを務める人が、十数年もずっと同じ地位にいたりして。そうすると当然ながらスタッフどうしの力関係が決まっていて、ものの真贋や、チームとしての勝利条件ではなく、その人の感覚や主観といった個人的な尺度に従う形でみんなが仕事をしてしまう。そういう不要な関係性をリセットする意味で、「いまからここは上も下もない、修羅の国だ!」という話をしました(笑)。

――つまりは実力主義にしたと。

田畑 はい。最初に全員と面談をして、“残るか残らないかは自分で決めてね”、“残るからにはオレの改革に従ってもらうよ”、“前はこうだったと言い訳するのはナシ”というのを伝えました。それから、「キミは何ができるのかを見せてよ」という話し合いを行って、個々がチームに対して何ができるのかをはっきりさせたんです。そのうえで、あなたはバランス感覚がいいのでプリプロフェーズのリーダーね、これまでリーダーだったあなたはクオリティーの高いものは作れるけどほかのセクションとの交渉や取りまとめは苦手だから、このフェーズは部下ね、と配置替えをしていきました。超モメましたね!

――それはモメる(苦笑)。

田畑 でも、変化に対してポジティブな人が多かったし、それによって自分が成長しているという実感を多くの人が得られていたから、雰囲気はよかったんですよ。見えないパワーバランスや、指示系統とは違う力学が働かない組織になって、みんな自分のパフォーマンスを最大限出せるようになった。いままで挑戦できていなかった領域に踏み出せる人も増え、それが作品に反映されていきました。

――徹底していますね。『FF』で勝ちたい、巻き返したいという、強い言葉を使うなら“逆襲”に懸ける熱のようなものが、チームの皆さんの中にあったからこそできたのだろうと思います。

田畑 その通りです。『FF』はいまピンチだけど、みんな気持ちの部分では「でも“俺たちは”負けていない」と思っていたはず。HDになって日本のゲームが欧米に負けていると言われているときも、負けていたのはそのときフロントにいた人たちで、「俺たちはまだ、そこで勝負していない」と。僕も日本のゲームだって絶対勝負できると確信していたけれど、当時は制作に携わっているプラットフォームがHDではなくて、勝負の土俵に立ててはいなかった。だからみんな、「俺らが挑戦して成功しよう」というマインドを持っている。「勝手に負けたことにしないでくれ、俺たちは負けてない」って。

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FFXV』を取り巻く多彩なコンテンツとその狙い

――UNCOVERED:FINAL FANTASY XVでは、ついに『FFXV』の発売日が告知されました。

田畑 はい、9月30日に発売します。地域によっては多少前後する可能性がありますが。

――言い切るということは、開発の目処が立っているということですよね。現状の手応えは?

田畑 9月30日です……と、ギリギリ言いきれるな、って感じです(笑)。

――ギリギリですか(笑)。

田畑 日本語版だけだったら万全なんですけど、今回はグローバルで発売するので、ローカライズに時間をかけるために開発期間を圧縮ぜざるをえないんです。僕らも踏み込んだことがない領域で、やってみないとわからない。でも、それを承知したうえでの宣言なので、9月30日の発売は守ります。

――キングスグレイブ FFXV』は、9月30日より前にリリースされるんでしたよね。なぜ本編発売前の公開に?

田畑 発売後であれば、いわゆるスピンオフということで腑に落ちやすいし、金銭の計算もしやすい。発売前にやるとなると、そういう予測が立たない。でも、だからこそ新しく、意味も価値も生まれる。我々はそこに張ったんです。日本のPS4やXbox Oneのマーケットを広げたい、よりよい状況を作ってから『FFXV』のローンチを迎えたいという意識が強くありました。

――野末さんとしては、発売前に出すというのはプレッシャーにはなりませんでしたか?

野末 僕はけっこうアグレッシブなので、「めっちゃおもしろいっすね」というノリでした(笑)。恐怖や不安はいっさいなかったです。みんな本気なので、自然とそういう気持ちになっちゃうんですよ。

――では、そんな野末さん肝入りの『キングスグレイブ FFXV』についてお聞きしていこうかと。尺は110分もあるそうで、かなりガチ感がありますね。

野末 『FFXV』が本気で取り組んでいるので、そこに対して『キングスグレイブ FFXV』が生半可なものだと成立しないんです。最初から、映像コンテンツとして楽しめるよう、十分な長さを確保すべきだと考えてプランニングしていて、脚本家には実力のある外部のプロの方、ハリウッドのスタッフにも参加してもらい、劇場作品として作っています。

――ハリウッド! 制作は、どのような体制で行っているのですか?

野末 スーパーバイザーが集まっている50人程度のチームが社内にあり、世界各国のプロダクションと協力して制作しています。『アサシン クリード』のDigic Pictures、『ジュラシック・ワールド』や『ゲーム オブ スローンズ』などのハリウッド映画を手掛けるImage Engineといったスタジオに参加してもらっていますね。日本だけでチームを作ろうとすると500人は必要だったかなと。朝はロス、夜はヨーロッパと、ずっとどこかの現場が動いている状態です。

――FFXV』の設定などをまったく知らずに観ても、楽しめますか?

野末 はい、もちろん。『FFXV』では、冒頭でノクトがよその国のお姫様と結婚するために旅立ちます。その裏で、ノクトの父であるレギス国王は何をしていたかを描いているのが『キングスグレイブ FFXV』です。ストーリーは、『FFXV』のゲームスタートから同じ時間軸で動いていきます。

田畑 基本的には、片方だけ体験する形でもオーケーです。でも、両方体験すれば“極上”。そういう造りになっています。

野末 『FFXV』のテーマは“親子”なのですが、『キングスグレイブ FFXV』ではその“親”であるレギスを表現しています。レギスは『FFXV』と『キングスグレイブ FFXV』をつなげる存在でもあります。

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――キングスグレイブ FFXV』だけでなく、セルアニメ『ブラザーフッド FFXV』などのコンテンツも公開になりました。

田畑 『ブラザーフッド FFXV』は1話10分、全5話を予定していて、ノクトたちがどうやって仲間になっていったのかが明かされていく作品です。RPGって、まず仲間集めをしますよね。でも『FFXV』は最初から仲間がいる。仲間になるプロセスを描くコンテンツを通して、ゲームより前にキャラクターを知って、感情移入してもらいたかった。そのための手法として選択したのが、アニメでした。それぞれ描かれる年代が違っていて、子どものころだったり、少し大きくなっていたりしています。

野末 ゲームとは違った角度から、キャラクター性を知ることができると思います。けっこう深いところまで描かれていますよ。

田畑 それからアプリの『ジャスティス モンスターズ ファイブ』は、『FF』の特徴のひとつとなっているミニゲームを本編より先に遊んでもらい、興味を持ってもらおうと用意したものです。新しいユーザーとの接点を作る窓口のひとつですね。いまは、とくに10代の方がそうなんですが、スマホのアプリで『FF』を初めて触ると言う方がすごく多くて。

――ジャスティス モンスターズ ファイブ』は、本編でも遊べるんですね。

田畑 ノクトたちが立ち寄るガソリンスタンドに設置されているゲームなんですよ。ポイントは、ノクトたちはこのゲームが大好き、というところ。彼らが好きで遊んでいるものを、ユーザーも共有できるというのは、いいんじゃないかなと。本編で遊べるミニゲームはほかにもいくつかあって、その中でアプリとして先に触ってもらおうと思っているものはもうひとつあります。

――アプリと本編で連動するような要素は?

田畑 ランキングなどは共有する予定です。

――それから、『プラチナデモ FFXV』についてもおうかがいできれば。

田畑 以前、プレイアブルのテックデモみたいなものを出そうと思ってます、ということを言ったんですよね。それを実現した形です。ノクトが子どものころに見た夢の中の出来事を体験していきます。

――ノクトが何歳ごろのお話なんですか?

田畑 8歳だったかな。『ブラザーフッド FFXV』で、ノクトが幼いときにモンスターに襲われて、生死をさまようというエピソードがあるんです。その生死の境をさまよっているときに見ている夢の中のお話になります。

――夢の中でナビゲートをしてくれるのは、おなじみの召喚獣、カーバンクルですね。

田畑 いろいろなところにノクトとカーバンクルの会話が仕込まれていて、それを見るとノクトがどういう幼少期を送っていたのかが垣間見えます。ノクトは母親がおらず、すごくガマンをする子で、国王である父もなかなか時間がないのでご飯を食べるのもひとり。『FFXV』本編のノクトからは想像がつかないかもしれませんが、彼の幼少期を知り、人生に触れることでキャラクターに深みが感じられると思います。

――すごく手がかかっていますよね。当初“テックデモ”とおっしゃっていたので、こうしたストーリー仕立てのものとは思いませんでした。

田畑 僕らも最初は無機質な方向で考えていたんですが、『FF』に接点を持ってもらう手段のひとつとして、それではつまらないだろうと。ちなみにこれは、開発が完了した要素を取り出して、少人数で1ヵ月半~2ヵ月で作りました。『FFXV』の開発を放ってやっていたわけじゃないのでご安心を(笑)。

――ボリュームはどれくらいなのでしょう。

田畑 まっすぐクリアーするだけなら30分くらいですが、コインを集めて武器をアンロックしたり、隠しボス的なものもいるので、やり込もうとするとけっこう遊べますよ。『FFXV』の操作を自然と覚えられ、天候の変化や召喚獣とのちょっとした出会いも楽しめる。最後には本格的なバトルが入っていて、本編へのブリッジも用意してあります。

――と、言いますと?

田畑 最後にカーバンクルに名前をつけられます。すると、本編でピンチになったとき、そのカーバンクルが駆けつけてくれるんです。体験版でのみ仲間にできるので、ぜひプレイしてもらいたいですね。

3つのキーワードと“ユーザー体験”を重視する『FFXV

――FFXV』の物語は“親子”がテーマとのことですが、ゲームプレイのコンセプトについてもおうかがいしたいです。

田畑 最初にキーワードを3つ、決めました。“旅”と“仲間”、そして“クルマ”です。“旅”は、本当に旅をしたような体験を、このゲームで味わってほしいということ。そのために、なるべくシームレスな世界を、ある程度引いた視点でとらえられるようにするなど、旅を実感させるための手法を探っていきました。そして旅という体験を、最大化するのが“仲間”の存在です。彼らをリアルに感じられれば、パーティー全員に感情移入でき、旅で起こった出来事に一喜一憂できる。そのために、仕草や言動、ノクトとの距離感にまでこだわりました。AI的にもアニメーション的にも一足飛びには完成度が上がらず、すごく地道にやらなければならない部分で苦労も多いんですけど、誇れるものになってきたなと。彼らといっしょにいるのは、とても楽しいですよ。

――“旅”と“仲間”は密接に関わるわけですね。では、“クルマ”は?

田畑 “クルマ”は、“親子”というテーマに基づいたものです。ノクトと仲間たちは、レギスのクルマで旅をします。クルマは親子をつなぐもの。ストーリー体験の軸であり、移動の手段であり、ゲームシステム的にはカスタマイズできるものでもあります。

――カスタマイズできるんですか?

田畑 はい。変形して飛び立ちます(笑)。

野末 見るとだいたい笑いが起きますけどね。「こうきたか」と(笑)。

――衝撃です(笑)。なるほど、その3つのキーワードが軸になるわけですね。

田畑 それから、大切にしているのは“ユーザー体験”です。ゲームシステムから作っていったとか、世界観から着想してとか、ゲームの制作の流れにはさまざまなパターンがありますよね。『FFXV』はユーザーにどんな体験をしてもらうかをまず考え、そのためにどんなシステムにするか、どんな技術が必要か、どんなアートにするかを決めていきました。

――バトルはどんなものになっているのですか?

田畑 バトルは、駆け引きに軸を置いたものになっています。ただキャラクターが強くなるだけではなく、つねに駆け引きがあることで仲間との連携がより重要になり、いっしょに戦っている実感を得られるはずです。連携自体も気持ちよく、攻防が一体となった流れるようなアクションがくり出せます。そうしたバトルを成立させるため、敵の思考や個性に相当こだわっているのも特徴です。

――プレイボリュームはどれくらいに?

田畑 想定はエンディングまで40~50時間です。でも、ぜんぜんわかんないですね(苦笑)。ストーリーをチャプターで区切っていて、ここからここまで1時間、と想定していてもぜんぜん終わらなかったりする。平均プレイ時間はもう少し延びるんじゃないかなと。

――さて、『FFXV』はゴールが見えているわけですが、その先のことについても何か考えていらっしゃるわけですよね。

田畑 『FFXV』によって構築したいろいろな環境や基板があるので、それらを使って新しいプランを始めるのがすごく楽しみです。死ぬほど苦労して基盤を作ったので、そこからまた新しいものを生んでいける。そのためにもまず、『FFXV』を成功させないといけないと強く思っています。

――先々も見据えた展開、期待しています。では最後に、ユーザーにメッセージを。

野末 『FF』って、お祭りに近いものだと思うんです。今回、それを最高のものにするために必死に準備しています。世界に挑むべくオリンピックに行くようなものかもしれません。それを楽しんでほしいし、応援してもらえればうれしいです。

田畑 『FFXV』は、世界に挑む挑戦者になります。うまく言えないんですけど、ユーザーの皆さんと目線を合わせて、いっしょに発売を迎えたい。もう一度、『FF』が勝つ姿を見せたいし、いっしょに楽しみたい。世界中の人に「日本のゲームはすげえ」って驚かせたいし、「日本のゲームはすごいだろ」って誇れるようにもしたい。そのために、やれることはすべてやってきました。あと少し、がんばります。

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