坂口博信氏&田畑端氏スペシャル対談【前編】

公開日時:2016-05-13 21:00:00

 現地時間3月30日(日本時間3月31日)、アメリカ・ロサンゼルスにて開催された、『ファイナルファンタジーXV』の発表会“UNCOVERED: FINAL FANTASY XV”(以下、UNCOVERED: FFXV)。そのオープニングを飾ったのは、『FF』の生みの親であるトップクリエイター・坂口博信氏だった――。

 『FF』を手掛けたレジェンドは、世界に挑む最新作『FFXV』をどう見ているのか。新旧『FF』の制作者たちの対談で新たな『FF』像が見えてくる。(聞き手:週刊ファミ通編集長 林克彦)

※本記事は、週刊ファミ通2016年5月12・19日合併号に掲載されたものをファミ通.com用に編集したものです。

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坂口博信氏(写真左)
ミストウォーカー代表取締役社長。スクウェア(当時)より『FF』を世に送り出した、『FF』の生みの親。現在は『テラバトル』を運営中。

田畑端氏(写真右)
スクウェア・エニックス第2ビジネス・ディビジョン ディビジョン・エグゼクティブ。『FFXV』ディレクター。『FF零式』などを手掛けてきた。

一大イベントを終えて

――坂口さんが『FF』のオフィシャルなイベントに出演されるのは、久しぶりでしたね。

坂口 はい。最後に出演したのは『FFXII』の発表会でしたね。そのときに僕が、「松野(松野泰己氏。『オウガバトル』シリーズなど数々のヒット作品を手掛け、『FFXII』を監修)のことを愛していて」と言ったら、その言葉がひとり歩きしたこともありました(笑)。

――そんなこともありましたね(笑)。イベントのオープニングに坂口さんが登場するという演出は、田畑さんの発案ですか?

田畑 そうですね。

坂口 田畑さんがオフィスに来たときに、「オープニングをお願いします」と言われて、「え? それでいいの?」みたいな(笑)。

――そこにいたるまでに、どういった経緯が?

坂口 田畑さんと何度か食事に行く機会があったんです。そこで、今回のイベントとはとくに関係なく、熱く語っちゃったことがあって。どうも僕は酒を飲むといいことを言うらしいんですよ。あまり覚えてないんですが(笑)。

田畑 覚えていないんですか(笑)。

坂口 なんとなくは覚えているんだけどね。「挑戦しなきゃだめだよ! いま僕も挑戦してるんだ」みたいな話。後日、そのときのことをオープニングで話してほしいって言われて、出演することになったんです。

――なぜ、坂口さんをオープニングに起用されたのでしょうか。

田畑 理由を挙げようと思えばいくつもあるのですが、いちばんは直感ですかね。『FFXV』の発表会という場で、『FF』を生んだ坂口さんからユーザーに、「いっしょにこのイベントを見よう」と言ってほしかった。そこで、僕が食事の際に「『FF』を挑戦者に戻したい」と言ったとき、坂口さんが返してくれた言葉を、イベントの最初にユーザーの皆さんにも伝えてくれませんか? とお願いしました。オープニングで、いちばん伝えたいことを言ってもらいたかったんです。

――坂口さんは、オファーがきたときにどう感じましたか?

坂口 客観的に見て、イベントとしておもしろいなと思いましたね。「あ、俺が真っ先に出ちゃうの?」って(笑)。

田畑 「それは盛り上がるよ!」と言ってましたよ(笑)。すぐにプロデューサー視点になっていました。

坂口 いちいち通訳すると間が空いてよくないから、字幕を出してもらうようにお願いしたりね。

田畑 自分のペースでしゃべりたいから、後ろに字幕を出して同じペースで場が盛り上がったほうがいいと。ストリーミング配信もするので、「視聴者も会場内の人も同じものが見られていいよね」と、イベントのプランについても話していました。

坂口 そうそう。演出する側になってた(笑)。

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――会場で発信されたメッセージは、坂口さんがお考えになったんですよね。

坂口 そうですね。食事の際に田畑さんにした話を要約しつつ、かつて挑戦者だった『FF』が、『XV』でまたチャレンジャーとして帰ってくるよ、ってことを伝えようと。途中の作品はそうじゃなかったの? って言われると、そういうことではないのですが。

――もちろん、全シリーズ作で挑戦はされていますよね。

坂口 今回はとくに大きなチャレンジだ、ということです。

――オープニングの後、客席から見た発表会の感想もぜひお聞きしたいです。

坂口 欧米に向けて日本の作品や会社がプレゼンするときって、日本式になっちゃうか、完全に欧米のスタイルに合わせたものになってしまいがちじゃないですか。それに対して今回のイベントは、きちんと日本の色を出しつつ、全世界の人が親しみやすいものになっていたことがいちばん印象に残りましたね。ありそうでなかった、すばらしいイベントでした。すごくいい雰囲気で。

田畑 『FF』がまさにそうなんですよね。『FF』自体が、メイドインジャパンのすごく強いIP(知的財産)で、同時にグローバルなIPでもある。だから、イベント自体もああいった形のものにしたんです。

――イベントを振り返っての田畑さんのご感想もお聞きしたいです。

田畑 あの日を無事に迎えられたという満足感でいっぱいでした。あとは、ようやく発売日というゴールを設定できたので、もう戻れないという感覚も。

坂口 自分の首を絞めるイベントになったわけだ。「発売日言っちゃった!」みたいな(笑)。

田畑 はい(笑)。ただ、今回の発表で、発売することに対して覚悟や責任が持てたので、チーム全体がピシッと締まったなと。

坂口 チームにとってもいいことだったんだね。

田畑 すごくありがたいイベントになりました。大きな声援をいただいたことで、いっぱいエネルギーをもらえましたしね。ただ、イベント後に坂口さんからダメ出しされて(笑)。

坂口 何か言ったっけ?

田畑 「エアボタン(※注1)はねえよ」って(笑)。

※注1……当初は司会者が持つボタンではなく、田畑氏が持つ本物のボタンを押して発売日を発表する予定だった。しかし、田畑氏は本物を渡されないままステージに上げられてしまったため、機転を利かせてポケットから見えない“エアボタン”を取り出し、「It's air button!」と、ボタンを押すパフォーマンスを行った。

坂口 そんなこと言ってないよ。よく英語でアドリブできたねって感心してたんだよ!

――確かに、あの場面でアドリブができるのはさすがです。

坂口 そうなんですよ。すごいですよね。それと、ダメ出しではないですけど、僕の登壇はサプライズ扱いだったので、クルマを裏口に止めて、「みんなに見られちゃうから早く入ってください!」って急かされ……けっこう苦労したよ、ということだけは伝えておきたい。「サプライズってたいへんなんだな」って思った(笑)。そうそう、壇上でもたいへんだったことがあって。女房に言われて、がんばってお腹を引っ込めていたんですよ。

田畑 そうだったんですか(笑)。

坂口 リハーサルで、「しゃべってるときはいいんだけど、歩いているときに出てる」と言われたので、ずっと意識していました(笑)。

チームの個性が『FF』を作る

―― UNCOVERED: FFXV当日から配信が始まった『プラチナデモ FFXV』や『ブラザーフッドFFXV』に対する反響はどうでしたか?

田畑 両方とも期待以上で安心しました。『プラチナデモ FFXV』は、発表してすぐに触れられるものを提供しようというのをひとつの目標にしていたので、そこに対するユーザーの方々の反応の大きさはすごく励みになりましたね。やってよかったなと。皆さんのリアクションを見て、本編側でこれから改善しなければいけないところや、もっと伸ばすべきところも客観的に見えてきました。『ブラザーフッド FFXV』は、会場の反応が期待以上で。トータルの視聴回数も予想を大きく上回っていて、『FFXV』にとって新規の方々との大きな接点になっていますね。こちらもさまざまな意見が寄せられていますので、今後に活かしつつ制作を進めていきます。

――いろいろな意見が飛び交うのも、『FFXV』らしいですね。

田畑 『FF』はすごいですよね、やっぱり。じつは、僕がスクウェア・エニックスに入社したときは、それほど『FF』に思い入れがなかったんです。1作目はすごく遊びましたが、『FFII』は途中でやめていて。

坂口 『II』は河津(河津秋敏氏。坂口氏とともに『FF』、『FFII』を制作後、『サガ』シリーズを生み出した)が作ったからね(笑)。

田畑 すみません、リアクションに困ります(笑)。

――そういう意味じゃないですよね(笑)。

田畑 河津さんを悪く言うつもりはぜんぜんないですよ。攻撃を受けて成長していくシステムには、夢を感じましたし。でもシステム上、自分を鍛えるために自分を攻撃したりするのが有効だったじゃないですか。あれに何度か失敗して、ちょっと面倒になっちゃったんです(笑)。もちろん、『FF』は発売されると絶対に注目するようなゲームでした。ゲームを作る側になってからもそこは変わらなかったんですが、当時所属していた会社では作れないなという悔しさもあって、“好きになりたくない”という感覚もありました。

――嫉妬に近い感情があった?

田畑 そうですね。ただ、スクウェア・エニックスに入社した後、『FF』を成立させている人たちのなんと多いことか、制作に取り組んでいる人たちのなんと本気なことか、それを支えているファンのなんと熱く誠実なことか……そういうことを肌で感じるようになって。大勢の人が、会社の柱となる事業にもなっている『FF』という作品を、きびしい声も含めてファンの期待に応えるものにしようとしている。僕は、そういうところを見てだんだん『FF』に感情移入し、好きになっていったクチなんです。今回、こういうイベントができたことで、ようやく『FF』に貢献できそうだ、という感覚もあります。

――徐々に『FF』に対する思い入れが強くなっていったんですね。

田畑 10年前は『FF』のナンバリングを手掛けるなんて、まったく考えていなかった。いまは自分も『FF』を支える者のひとりになりたいと思っています。

――以前、坂口さんが“『FF』は、テキストが乗った青いウインドーさえあれば『FF』なんだよ”とおっしゃったというお話がありました(※注2)。田畑さんは、“『FF』らしさ”の出しかたをどうやって身につけられたのですか?

※注2……2014年12月18日に行われた坂口氏と北瀬氏の対談の際、野村氏がかつて坂口氏に言われた言葉として紹介。青いウインドーさえあれば、何をしてもいいという『FF』の自由度の高さを表している。

田畑 いちばん影響が大きかったのは、北瀬さん(北瀬佳範氏。『FFV』から参加し、多数のシリーズ作でディレクターやプロデューサーを務める)と哲さん(野村哲也氏。『FFVII』でメインキャラクターのデザイナーとして抜擢。以降、複数のシリーズ作に携わる)といっしょに仕事をしたことですね。坂口さんが『FF』にどういうものを求めていたか、『FF』という名のもとにどういう挑戦をしてきたかは、ふたりの仕事ぶりで伝わってきました。『FF』を名乗るからにはどうあるべきかという部分も含めて。

坂口 北瀬も役に立ってるんですねぇ。よかったよかった(笑)。僕はやっぱり北瀬にバトンを渡したと思っていますから。そういう意味で、北瀬から意志を引き継いだというのはなかなか美しいですね。

田畑 直接「こういうものだよ」とは教わってはいませんが、仕事を通じていろいろと教えていただきました。

坂口 姿勢みたいなところだよね。ここは妥協しない、とか。

田畑 あと、『FF』ってチームがすごく大事になってきますよね。『FF』は、個人の力で作れるものじゃない。チームのいろいろな個性が必要になってくるものなのではないかなと。

坂口 確かに『FF』って、最初から“チームで作りあげたもの”だったんですよね。『ドラゴンクエスト』や『マリオブラザーズ』からは、個人の才能の輝きをすごく感じていたので、そういうものに対抗するために、いくつものエネルギーを集めて立ち向かわなきゃ、と思っていました。だから、“『FF』はチームで作るもの”っていう伝統も受け継がれているのかもしれないね。

田畑 それはすごく感じますよ。「このチームなら、ここまでの挑戦ができる!」という発想になっていくんです。

坂口 結果的に作品にCGを取り入れられたのも、チームとして作っていたからやれたんですよね。もっと個の力によった作品だったら、『FF』も違う方向に行っていたんじゃないかな。

――坂口さんから改めて、ナンバリングの『FF』を作ることに対してのアドバイスはありますか?

坂口 田畑さんだけじゃなくて、吉田さん(吉田直樹氏。『ドラゴンクエスト モンスターバトルロード』シリーズなどを制作後、『FFXIV』のプロデューサー兼ディレクターに就任)と会ったときにも、「僕が作っているものを『FF』と呼んでいいんですかね」みたいな会話の流れになったときがあったのですが、「胸を張って『FF』って言えばいいじゃない」とは伝えましたね。ふたりからは“挑戦しよう”という姿勢と覚悟がにじみ出ていたので。

田畑 「自由にやれよ」と言ってくださったのを印象深く覚えています。

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後編へ続きます

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