“禁忌とされる、魔法と科学の融合”

 “発展した都市、その影に広がるスラム”

 “血の繋がり、家族、守るべきものは何か”

 “お互いを想っていながらも、どうしようもなく引き裂かれる姉妹”

 ……これらの単語に少しでも「おっ、いいじゃん」と思った方。そんなアナタにぜひともオススメしたい作品がある。

 それこそが『ARCANE』(アーケイン)。2021年にNetflixで配信され、いまなお高い評価を受けるアニメーションシリーズだ。

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 『メタルギア』シリーズや『デス・ストランディング』などの名作を世に生み出してきた小島秀夫氏が「これを観てしまうと、しばらく他のCGアニメは観れなくなる!」と絶賛していたことからも、名前だけは知っている方もいるだろう。

『ARCANE』は『LoL』知識がなくても最高におもしろい。映像作品としての味わい深さ、見どころを第2シリーズの配信前に再確認

 筆者も公開されてすぐ視聴。自分の中にあった3DCG アニメの常識を打ち破られるような演出の数々に、見事打ちのめされた。

 そして、2024年には待望の第2シリーズが公開予定となっている。よいタイミングだし、2021年の公開よりいまだ冷めやらぬ『ARCANE』熱を記事にぶつけてしまえと、編集部より命じられ筆をとった次第だ。

 文字通り臭いモノに蓋をしながら発展してきた、貿易により栄えた進歩の都市“ピルトーヴァー”と、その地下に広がりピルトーヴァーの汚染を受ける都市“ゾウン”。対立するふたつの都市における人間模様を描く、本作の魅力をお伝えしよう。

Arcane(アーケイン): オフィシャルトレーラー日本語吹替版

進歩の都市と退廃の地下都市が舞台。注目してほしいのはキャラの“表情”

 本作ではピルトーヴァーとゾウンの都市間対立を軸としながら、そこに暮らす人々の複雑な人間模様が描かれる。

 その中心となるのが、ゾウンに住む姉妹である“ヴァイ”と“パウダー”。物語の発端は、ふたりがゾウンの悪童たちとともに、ピルトーヴァーのとある富裕層の家へ空き巣に入ったことから始まる。その家は研究者である“ジェイス”の家であり、彼は秘密裏に資材を持ち込み、ピルトーヴァーにおいて禁忌とされていた魔法(アーケイン)を科学で再現する研究をしていたのである。

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 研究の要となるのは膨大かつ不安定なエネルギーを宿した結晶“ヘクス・クリスタル”。厳重な箱に仕舞われていたそれをお宝だと思い、パウダーが盗んで持って帰ろうとしたところに、家主であるジェイスが帰宅。慌てたパウダーは、床へとクリスタルを落としてしまう。

 結果、不安定な状態だったクリスタルはエネルギーが暴走し大爆発。部屋の壁も破壊し、大きな騒動へと発展してしまう。命からがらゾウンへと逃げ帰るも、その事件により表面上は穏やかに見えていたゾウンとピルトーヴァーの関係性に、決定的な亀裂を生んでしまうことに……というのが、1話のあらすじとなる。

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 見どころのひとつは、キャラクターたちの感情の揺れ動きと、その表現だろう。3DCGによって描かれる微細な表情の作り方は、視聴していてとくに衝撃を受けた部分だ。

 それらを序盤から強く感じられるのが、先ほど紹介した1話のあらすじから少し先のシーン。失敗を仲間から責められ落ち込むパウダーに対し、ヴァイが優しく「私たちもあんな失敗をしたんだよ」と教えるところ。暗い表情のパウダーが、じわりと笑みを浮かべる、その表情の変遷がとてもいい。

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2Dのアニメーションと比べても遜色ない表情の豊かさと言えばいいのだろうか。とにもかくにもよく動く。

 アニメーションスタジオはフランスの“Fortiche”。海外のスタジオということもあってか、作中には洋画や海外ドラマのような皮肉の聞いたセリフや大仰なリアクションが多い。だからこそ、表情の動きがよく映える。観る際には表情……とくに目や眉に注目すると、その変化がよりわかりやすいかもしれない。

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この困りがちな八の字眉の感じ。これがたまらない。

『LoL』と関係あるけどプレイの有無は関係ナシ。『ARCANE』は単独で楽しめるコンテンツ

 さて、最初にサラっと“引き裂かれる運命の姉妹”みたいなことを書いちゃったりしたが、お察しの通り、これはヴァイとパウダーのことである。流石にネタバレになるので理由までは明記しないが……結果的に引き裂かれる運命、ということは言ってしまってもいいだろう。というかそもそも、この末路自体はすでに公開されている情報だったりする。

 本作は『リーグ・オブ・レジェンド』(以下、『LoL』)というRiot Gamesのオンラインゲームが原作となる作品。先ほど書いた“ヴァイ”と“パウダー”の両名は、『LoL』に登場するプレイアブルキャラクター(チャンピオン)たちだ。

 ただし『LoL』において、ヴァイはピルトーヴァーに住む警官として、パウダーは“ジンクス”へと名前を変え、ゾウン出身のイカれた大犯罪者として登場している。追う者と追われる者として、すでに袂を分かっている……というのが原作『LoL』におけるヴァイとジンクス(パウダー)の関係性だ。

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『LoL』の名前ぐらいは知っている方も多いだろう。後述するが、「あ、LoL』って聞いたことあるわ」くらいの認識でも十二分に『ARCANE』は楽しめるので安心してほしい。

 つまるところ、本作はこのふたりが何故こうなってしまったのかを描く、“『LoL』のスピンオフ的な過去編”である。

「え? じゃあ『LoL』やってないといろいろ分かんないんじゃない?」

 と思う方もいるかもしれないが、その辺りは心配しなくていい。そもそも『LoL』に明確なストーリーモードみたいなものがあるわけではないので、『LoL』をプレイしたところで物語がわかる、というわけでもない。

 というか、筆者含め大半の『LoL』プレイヤーは「どうやらジンクスとヴァイは姉妹らしい」「ゾウンとピルトーヴァーはなんか近いらしい」くらいの認識で『ARCANE』を観ていたのではないだろうか。当時のプレイヤーより、いまこの記事を読んでいるあなたのほうが『LoL』の世界設定に詳しいまである。

『ARCANE』は『LoL』知識がなくても最高におもしろい。映像作品としての味わい深さ、見どころを第2シリーズの配信前に再確認
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 そもそも『LoL』の世界設定はけっこう頻繁に変更が入り、なんなら『ARCANE』の物語は最近正史扱いになるなど……、いろいろ語っているとキリがないのでここまでにしておくのだが、とにかく『ARCANE』を楽しむのに『LoL』をプレイしておく必要はない、ということを理解しておいてもらえれば幸いだ。

 むしろプレイせず、事前知識なしで単純な映像作品として楽しむほうが、変な偏見がなくてハマりやすいかもしれない。

 ただ、なかにはいろいろ知識を抑えてから観てみたい、という方もいるだろう。それなら公式サイトの“ユニバース”を確認するのがオススメだ。『LoL』の膨大な背景設定が閲覧できる場所になっており、向こう2年ぐらいは読むものに困らないぐらいの物量がある。

 ヴァイとジンクスの設定は『ARCANE』とは少し食い違っているので混乱するかもしれないが……もし気になるなら、そちらをチェックしてから『ARCANE』を観るのもいいかもしれない。

魅力的なオリジナルキャラクターたち。悪役であり父親・シルコの葛藤が胸をうつ

 ジンクス(パウダー)やヴァイ以外にも、あらすじで紹介した“ジェイス”。その研究仲間である“ヴィクター”。ピルトーヴァーの執行官である“ケイトリン”。ゾウンにいる悪ガキのひとりであり、天才少年発明家の“エコー”など、本作に登場する『LoL』のキャラクターは多数いる。

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この毛むくじゃらの小さい人(ヨードル、という種族)は“ハイマーディンガー”。200年以上生きており、その叡智でピルトーヴァーの発展に貢献してきた。なんでこんな格好をしているのかについては本編で。
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ケイトリンはヴァイとバディを組んでいる、ピルトーヴァーの執行官。おや、でもヴァイはゾウンの人間では……? というのもぜひ本編で。ネタバレを気にすると言えないことが多すぎる。

「じゃあ結局『LoL』の予備知識いるんじゃねえかよ!」

 いや、そんなことはない。だって『ARCANE』初出のキャラクターは、その『LoL』から登場するキャラクターのおおよそ2倍以上はいるからだ。筆者は『LoL』をかれこれ8年ほどはプレイしているが、知らないキャラクターのほうが余裕で多い。

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めちゃめちゃパンチの効いた見た目で、いかにもゲームのキャラっぽいでしょう。でもこいつは『LoL』に出てこない。完全なオリジナルキャラクターです。

 しかも、そのオリジナルキャラクターたちがことごとく魅力的な人物ばかりというのがなんとも憎らしい。

 なかでも筆者のめちゃくちゃお気に入りのキャラクターが、この“シルコ”だ。

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恐らく『ARCANE』でいちばん好きなキャラは? と観た人に聞けばまっ先に名前があがるであろう人物。

 シルコは常に冷静沈着。落ち着いた口調で物事を推し進め、権謀術数で人々を支配する、まさに悪のカリスマともいうべきキャラクターとして物語に登場する。序盤においては、まさにラスボスのような雰囲気で他の登場人物を圧倒していた。

 しかし、中盤以降はこの印象が一変する。シルコに娘ができるからだ。ただの悪の支配者……ではなく、父親として、守るべきものを前に葛藤する彼の苦悩はなんとも人間臭く、ひたすらに魅力的だ。

 彼の思想や行動原理が見えてくる後半は、きっとシルコのことがもっと好きになるはず。守るべきものがある悪役は、どうしたってかっこいいものだ。

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余談だが、シルコは人気すぎて『LoL』のゲームモードのひとつ『Team Fight Tactics』(『TFT』)に逆輸入された。画像はゲーム内で確認できるスプラッシュアート(立ち絵)である。

『ARCANE』から繋がるいくつもの道。『LoL』が見せてくれる世界は広い

 さて、ここまで長々語ってきたが、言いたいことは結局ひとつ。

「とにかく『ARCANE』を見てくれ」

 ということである。いやまあ当然ではあるのだが、結局これに帰結する。

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いちばん好きな戦闘シーンのワンカット。ここに至るまでの過程がアツい。

 筆者はそもそも『LoL』が好きで、好きだからこのアニメを観始めた。でも『ARCANE』は、間違いなく『LoL』が好きじゃない人でもおもしろいと断言できる。

 だから、何も臆せず『ARCANE』を観てほしい。いままでずっと記事内で言ってきた通り、本当に予備知識なく楽しめるから。

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魅力的なオリジナルキャラクターのひとり。シルコの腹心であるセヴィカ。

 そして、できれば『ARCANE』を観た後、一度『LoL』関連タイトルを何か触ってみてほしい。チーム戦が苦手なら、オートチェスである『TFT』をするのもいいし、『LoL』の物語を知りたければ、前述したユニバースを片っ端から読むのもいい。

 さまざまなキャラクターが登場するデジタルカードゲームの『Regend of Runtera』もおもしろい。Steamなどで、Riot Forge関連のゲームを触るのもオススメだ。『ARCANE』を観た後なら、エコーが主役の『コンバージェンス』なんかがいいかもしれない。

 もちろん本家の『LoL』もめっちゃくちゃに楽しい。ひとりで始めるのもいいし、もし可能なら友人を誘って集団でやるともっとおもしろくなるだろう。

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 『LoL』が見せてくれる世界は広い。『ARCANE』を入り口に、あなたがこの世界に入ってくれたなら、そしてともに、2024年公開予定の『ARCANE』第2シーズンの配信開始を祝える人が増えるのならば、これほどうれしいことはない。

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