2021年の東京五輪で初めて正式種目に採用されたスケートボード競技。日本代表は最年少メダリストを含む金3・銀1・銅1という快進撃を見せ、瀬尻稜選手によるフランクな実況解説も話題となった。

 そんなスケボー日本代表の活躍ぶりを見て、僕は「ついに、このときがきた!」と興奮していた。スケボーブームの到来? まあ、それもあるけど、ここはゲーム情報を載せるWEBサイトファミ通.comだ。大事なキーワードが抜けている。

 僕が期待していたのは、スケボー“ゲーム”ブームの到来だ。

 スケボーカルチャーの本場アメリカでは、人気ゲームジャンルに数えられるスケボーゲームだが、日本においては“知る人ぞ知る存在”でしかなく、ジャンルを代表する『トニー・ホーク プロ・スケーター』(以下、『THPS』)シリーズも新作が発売されたりされなかったりという状態である。

 しかし、スケボー日本代表の大活躍ですべてが変わる予感がした。スケボー人気が加熱すれば、その熱の一部はゲームにも波及する! そうなればスケボーゲームを長年プレイしてきた僕の元には執筆や取材依頼が山のようにきて年収がアップするに違いない!

 ……と、輝かしい未来を夢見たあの日から約2年が経った。

 日本におけるスケボーゲームの現状はどうかと言えば、いくつかの快作が登場した一方で、『THPS』シリーズのナンバリング最新作(『5』は五輪前に発売されたタイトルですが)は相変わらず日本未発売だったり、がんばって書いた『Session: Skate Sim』のレビュー記事が記録的にリツイート数が少なかったりと、やっぱりスケボーゲームは“知る人ぞ知る”の域を出ていない印象だ。

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ナンバリング作なのに、日本では発売されていない『THPS 5』(写真は筆者私物)。

 嘆かわしい。じつに嘆かわしい! なぜ、こんなに多様でおもしろいスケボーゲームというジャンルが、日本では遊ばれていないのか。

 なぜ、フォロワー数100万を超えるファミ通.comの公式Twitterでツイートされた『Session: Skate Sim』のレビュー記事のRT数が12(2023年6月23日現在)という、奇跡的な少なさなのか! まったくもって嘆かわしい!

 という“私怨”をファミ通.comの編集F氏に愚痴っていたところ「じゃあ、スケボーゲームの魅力を猛プッシュする記事を書いていいよ」という許可をいただけたので、この記事では、キックフリップのごとく軽やかさでスケボーゲームの魅力をお伝えしていこうと思います。

そもそもスケボーゲームってどんなゲーム?なにがおもしろいの?

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筆者が所有しているスケボーゲーム。『THPS』シリーズが圧倒的に多いが、じつは過去にはKONAMIやUbisoftも出していたりするのだ。

 スケボーゲームとはその名のとおりスケボーをモチーフにしたゲームのこと。『OliiOlii』シリーズや『Skate City』など横スクロールの作品もあるが、多くは3Dマップ内でスケーターを操作するシステムで、プレイ感覚はレースゲームと3Dアクションゲームが融合したようなもの……と言えば想像がつきやすいかもしれない。

 ただし、スケボーゲームには順位を競うコースや、倒すべき敵などは基本的にない。

 作品や与えられたミッションによってゲームの目的は異なってくるが、基本的にプレイヤーに求められるのは、マップ内にあるレールやランプ、階段、はたまた電線や噴水など、あらゆる構造物を利用してクールなトリックをメイクしてより高いスコアを叩き出すことだ。

 どんなトリックをメイクするかには正解などなく、猛スピードでランプ(ジャンプ台のようなもの)へ突っ込んでビッグエアーを決めてもいいし、歩道に置かれたベンチで鮮やかなスライドを決めてもいいし、あるいはその両方を一連のトリックで流れるようにメイクしたっていい。

 プレイヤーのアイデア次第でやれることの可能性が広がっていく喜び、そしてなによりも映えるトリックをつぎつぎとくり出していく快感はスケボーゲームでしか味わえないものと言っていいだろう。

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スケボーゲームにおいてマップ内に配置された構造物は障害物や飾りではなく、トリックメイクに利用されるためにある(画像は『トニー・ホークプロスケーター 1+2』)。

 さて、スケボーゲームのゲームプレイ部分に関する説明としては、おそらく以上の内容である程度伝わったかと思うが、ジャンルの魅力を説明するにはまったく言葉が足りていない。

 そもそもの話で恐縮だが、スケボーとはなんだろうか?

 たとえばスケボーを競技として見た場合、ハーフパイプでトリックを競うバーチカル、五輪でも採用された手すりや階段といった実際の街に存在する構造物を相手にするストリート、フラット(平面)でトリックの技術を競うフリースタイルなどさまざまな種目があり、それぞれ表現方法や求められるスキルは異なる。

 また、スケボーはスポーツであると同時に、ファッション、音楽、映像などと密接に関わるユースカルチャーでもあるし、大企業や公的機関によって作られた構造物(=権威)を“挑発的に再利用”するカウンターカルチャーという見方も可能だろう。

 スケボーゲームとは、そういったカルチャー方面の魅力や楽しみも全力でゲームに詰め込むことにトライし続けてきたジャンルであると僕は考えている。

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『THPS 2003』のパッケージ裏面には「観る!聴く!キメる!」と書かれている。つまりそういうことだ(写真は筆者私物)。
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アメリカの老舗スケボー専門誌にして、ボンクラカルチャー誌としての側面も強い『THRASHER Magazine』が全面監修した『スラッシャー SK8』(写真は筆者私物)なんてソフトもある。開発はなんとロックスター・ゲームス!スタンガンを持ったポリスが追いかけてきたりと、R★らしい内容だ。

 つまり、スケボーゲームにはスポーツゲームの楽しさに加えて、クールなファッション、夢中になれる音楽と映像、権威に対する挑発的なスタイルが詰まっているのだ。

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画像は『Session Skate Sim』。

 『THPS』シリーズであれば最高の楽曲リストだったり、『Skate』シリーズであればひとりのスケーターの視点で描く充実のストーリーだったり、『Session: Skate Sim』であれば実在するブランドのアパレルが着られることや実在するスポットでのトリックメイクだったりにスケボーカルチャーの熱を感じることができるだろう。

 ほら、どう考えても最高なゲーム体験の予感がしないだろうか?

スケボーゲームってどんな作品があるの?とりあえず何から遊べばいいの?

 そんな最高のゲーム体験が味わえること間違いなしのスケボーゲームには、具体的にどんなタイトルがあるのか。

 スケボーゲームの進化をまとめたYouTube動画“Evolution of Skateboard Games 1986-2020”を見ると、1986年にアーケードで稼動していた『720°』を始め、現在までに数多くのスケボーゲームが発売されていることがわかる。そのなかから、現代のスケボーゲームへの影響力という点で重要なタイトルを挙げるとすれば、『THPS』と『Skate』シリーズのふたつになるだろう。

スケボーゲームの代名詞とも言える『THPS』シリーズの魅力とは?

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初代プレイステーションで発売された『THPS』シリーズの1作目(写真は筆者私物)。

 トッププロスケーター、トニー・ホーク氏の名を冠した『THPS』シリーズはスケボーゲームというジャンルの人気を決定づけたパイオニアであり、1999年に初代プレイステーションで1作目が登場して以来、現在まで20年以上ジャンルを牽引し続けている現役のトップランナーでもある。

 『THPS』が偉大なのは、オーリーやグラインド、マニュアルなどの各種トリックをボタンと方向キーの組み合わせという、多くのゲームユーザーにとってなじみ深い3Dアクションの文法に落とし込んだうえで、3Dマップ内で自由にトリックをメイクするという遊びかたを提供した点だろう。スケボーでトリックをメイクする楽しさと喜びを、ゲームへ移植することに成功した最初の作品……と言ってもいいかもしれない。

 また、スケーターのハートに刺さる“ノリ”を大胆に取り入れた点も、同シリーズが熱い支持を得るうえで重要なポイントとなっている。

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画像は『トニー・ホーク プロ・スケーター 1+2』。

 具体的に言えば、ロック、パンク、ハードコア、スラッシュメタル、ミクスチャー、ヒップホップを中心としたサウンドトラック、エクストリームに振り切ったアクション、ステージ構成&ミッション、そして個性的なスケーター(基本的には実在するプロスケーターだが、ロボとかスケルトンとかもいる)といった要素だ。

 言ってしまえば“悪ガキ”がよろこびそうなノリである。

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画像は『トニー・ホーク プロ・スケーター 1+2』。

 いかにゲームプレイ部分がよくできていたとしても、サウンドが退屈だったり、ミッションがバカげていなかったり、キャラが際立っていなかったら、それは『THPS』ではない……と言えるくらい、このノリは同シリーズに欠かせないものだし、その後に登場したスケボーゲームへの影響力を見ても非常に重要なポイントなのだ。

トリックメイクのリアルさに驚かされた『Skate』シリーズ

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『Skate』(写真は筆者私物)。

 対する『Skate』シリーズもスケートカルチャーへの深い理解にもとづく作品だが、アプローチの方向性が『THPS』シリーズとは異なっている。

 エクストリームに振り切った『THPS』に対して、『Skate』はリアル路線(ただし『THPS』と比べての話)で、それがもっともよく現れているのがコントローラーのアナログスティックを使ったトリックメイクだ。

 スケボーの基本トリックである“オーリー”は、デッキ(ボード)の後方を地面に叩きつけて前方を浮かすと同時にもう片方の足でデッキをすりあげることによって、フラットな状態からボードごとジャンプするというものだが、『THPS』シリーズはこれを、オーリーするためのボタン、つまり“ジャンプボタン”を用いて表現した。

 一方『Skate』シリーズは“右スティックを下方向に入れてから上方向に弾く”という、実際にオーリーをするときの足の動きを模した操作にしたのだ。

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画像は『Skate』のもの。

 どちらがゲームとしてすぐれた入力方法かを比較することは難しいが、少しだけスケボーをかじった身としては『Skate』の操作は圧倒的にリアルで、より直感的に出したいトリックが出せるようになった印象を当時受けた。

 また『Skate』シリーズはリプレイエディターの機能を充実させたところも、『THPS』とは異なったアプローチのひとつ。スケーターにとっては自身の滑りを映像に残すことも非常に重要であり、またその映像には特有のスタイルがある。『Skate』シリーズではそれの再現にも注力してきたのである。

 以上がスケボーゲームにおける最重要タイトル『THPS』と『Skate』シリーズの概要だ。

 現在発売されているスケボーゲームの多くは、このどちらか(あるいは両方)の影響下にあるので、もしスケボーゲームに少しでも興味があったら、とりあえずどちらかをプレイしておけば間違いないだろう。

いま遊べるおすすめのスケボーゲーム5選

 ここからは、上記で紹介した重要作の最新タイトルも含めて、現行機で遊べるおすすめスケボーゲームを紹介していこう。

おすすめ1:『トニー・ホーク プロ・スケーター 1+2』

■対応機種:Nintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC

 スケボーゲームを遊ぶなら、まずは『THPS』シリーズに触れないことには始まらない。ナンバリング最新作は日本未発売の『5』だが、シリーズ全体での最新作は2020年に発売されたこの『トニー・ホーク プロ・スケーター 1+2』だ。

 少し話が逸れるが、いちプレイヤーの感覚として、『THPS』シリーズはプレイステーション2(初代Xbox)の時代までが全盛期で、それ以降は『Skate』シリーズという強力なライバルの登場もあったりして長らく迷走していた印象が強い(ただし『THPS』シリーズは日本展開されていない作品が多く、僕もプレイしていないものがいくつかある。そのため、この印象は誤っている可能性もある)。

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個人的な印象では、このあたりの『THPS』シリーズがいちばんノリにのっていた(写真は筆者私物)。

 プレイステーション3、Xbox 360で発売された『トニー・ホーク プロジェクト 8』も、Xbox Live アーケードで配信された『Tony Hawk's Pro Skater HD』も、スケボー型コントローラーで遊ぶ『Tony Hawk: Ride』も悪くはなかった。

 しかし、初期『THPS』の集大成とも言える『4』やXboxで展開された外伝的な『アンダーグラウンド』シリーズという傑作の印象が強すぎて、心の底から楽しめなかったというのが正直な気持ちだ。

 そんなシリーズが入り込んでしまった長すぎるトンネルを、原点回帰&丁寧なアレンジによってついに抜け出したのが『トニー・ホーク プロ・スケーター 1+2』である。つまり、ファンとしては「俺の好きなトニホが帰ってきたーーー!」と感涙にむせび泣きたくなるような快作なのだ。

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 タイトルのとおりシリーズの1作目と2作目のステージが完全収録されており、グラフィックは最新技術で現代的な美しさに仕上がっている。また、ゲームシステムの部分も個人的にシリーズで最良のデキだった『トニー・ホーク プロ・スケーター 4』(日本発売時のタイトルは『2003』)のものに準拠しているので、非常に遊びやすい&古臭さは感じられない(ちなみにオリジナルのシステムでも遊べるモードが収録されています)。

 スケートパークを作れる&シェアできたり、オンラインで世界中のプレイヤーと対戦できたりと、オンラインを活用した遊びも搭載。

 すべての現行ハードで遊べるうえに、2022年8月にPS Plusのフリープレイ対象にもなっていたので、すでに所有している人も少なくないだろう。セールで安くなっていることも多いので、とりあえずスケボーゲームに少しでも興味があるなら、まずはこの作品から!

おすすめ2:『Skate』シリーズ

■対応機種:Xbox Series X|S、Xbox One(の後方互換でプレイ可能)

 『THPS』シリーズと並ぶスケボーゲームの重要作『Skate』シリーズだが、じつは2010年の『Skate 3』発売後に開発スタジオが閉鎖してしまったため、最新作は出ていない。つまり、PCも含めて現行ハードで『Skate』シリーズは発売されていないのだ。

 しかし幸いなことに、『Skate』シリーズはすべてXboxの後方互換対応タイトルなのでソフトさえ手に入れれば現行ハードでもプレイが可能だ。また、『1』と『3』に関しては米国でXbox Game Pass対応タイトルとなっている。だからそのーー、なんだ、ほら、なんていうか、Xbox本体の設定を米ゲフンゲフン!! ……まあ、そんなわけで現行ハード向けの作品ではないのだが、プレイするのはじつはそんなに難しくない。

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『Skate 2』。

 10年以上前のタイトルだが、アナログスティックを使ったトリックのメイクの直感的な楽しさはまったく古びていないし、オープンワールドの広大なマップ内を自由にすべる体験(とくに『2』のマップがすばらしい!)は、いまだ『Skate』シリーズでしか得られないものだ。オリジナルの実写ムービーパートや充実したストーリーなど、これほどリッチにつくられたスケボーゲームはいまだほかにないだろう。

 なお、ご存じの方も多いと思うが、2020年に突如『Skate』シリーズの再開が発表され、現在基本プレイ無料の『skate.』として開発が進められている。発売日は未定だが、開発途中の映像が定期的に公開されているので、気になる人は公式サイトやSNSをチェックしておくといいだろう。

『skate.』公式Twitterはこちら

おすすめ3:『オリオリワールド』

■対応機種:Nintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC

 スケボーゲームが好きな人に「スケボーゲームでもっとも気持ちいい瞬間はなに?」と聞いたら、8割くらいの人が「グラインド/スライドをキメているとき」と答えると思う。

 たとえば『THPS』シリーズであれば専用のボタンがあって、しかるべき場所で押せば「カチン!」という小気味よい音とともにプレイヤーがグライド/スライドをキメてくれるのだが、これが本当にもう、キャラクターの挙動から音、バランスを取るための操作まですべてがとにかく気持ちいい。グラインド/スライドからエアーに移って、そのまま別のレールでふたたびグラインド/スライドをしようものなら、脳汁がドバドバ出てしまうだろう。

 前置きが長くなってしまったが、『OliiOlii』シリーズの最新作『オリオリワールド』はそんなグラインド/スライドを始めとした"スケボーゲームの気持ちよさ"を凝縮したような作品だ。

 トリックのメイクは『Skate』シリーズのアナログスティック操作を簡略したものだが、2D横スクロールのステージクリアー型というスタイルなので、遊んでいる感覚はジャンプアクションに近いかもしれない。

 ただし、某青いハリネズミに並ぶくらいの猛スピードでキャラクターが走るうえに停止ができず、さらにステージを進むためにはスケボーのトリックを駆使する必要がある。障害物や穴を飛び越えるためにフリップをキメて、狭い足場はグラインド/スライドで乗り切り、足場がまったくないときは背景の壁をウォールスライドしていく……といった具合だ。

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 もちろん、行く手を阻むトラップは行儀よく順番に置かれているわけがなく、フリップで穴を飛び越えたらそのままグラインドへ移らないとダメだったり、連続でウォールスライドを求められるシーンもあったりする。つまり、けっこう難しい。

 しかし、すべてのアクションがクールでキャラクターを動かしているだけでも楽しく、なんといってもグラインド/スライドをつぎつぎとキメたときの快感は、自分が知るスケボーゲームの中では間違いなくナンバーワンだ。そのうえ、トリックを途切らせないとコンボになる要素もあるのでハイスコアを目指すこともできてしまう。

 “スケートウィザードを目指す"という能天気なゲームの目的からもわかるとおり、ポップなアートスタイルを含めて全体がピースなバイブスに満ちているのも魅力的な作品だ。

おすすめ4:『ローラードローム』

■対応機種:プレイステーション5、プレイステーション4、PC

 タイトル名は、このゲームの世界で行われている“過剰な残虐性と暴力に満ちた新たなスポーツ”の名称。プレイヤーはこの危険なスポーツに参加する新人選手カーラ・ハッサンとなり、ローラースケートを駆ってフィールド内を走りながら、命を殺りにくる数多の刺客たちをアクロバットなアクションと銃撃によって打ち倒していく。

 つまり、このゲームはスケボーゲームではない。

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 しかし、プレイヤーの移動手段がスケボーではなくローラースケートで、さらに敵を倒すことが目的であるという違いはありつつも、マップ内を自由に動きながらトリックをキメる操作方法は明らかに『THPS』シリーズの影響下にある。

 精緻な操作が求められるシューターと豪快でアクロバティックなアクションが魅力のスケボーゲーム。一見すると相容れないものに思えるが、『ローラードローム』はトリックメイクによる弾薬補給というアイデアによって、水と油のような両システムを鮮やかに融合させた。

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 ファミ通.comに掲載されているNeverAwakeMan氏のレビューにもあるとおり、「『ローラードローム』において、最適解は美しさ」であり、スケボーゲームの快感は本作において勝利に直結する重要な要素のひとつなのである。

 ちなみに開発を担当したのは『オリオリワールド』と同じRoll7。2Dと3D両方のシステムですぐれたスケボーゲームを手掛けているなんて、スケボーゲームファンとしてはマジでRoll7に足を向けて寝られない気持ちだ。

おすすめ5:『Session: Skate Sim(セッション:スケートシム)』

■対応機種:Nintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC

 2003年に発売されたプレイステーション2版の『トニー・ホークプロスケーター3』で、僕は初めてスケボーゲームというジャンルを知った。それから現在まで、それなりに多くのスケボーゲームをプレイしてきたが、『Session: Skate Sim』は現時点での生涯ベストスケボーゲームだ。

 ただしこのゲーム、初心者にはおすすめできない。理由はシンプルで、アホみたいに難しいから。

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 システムの違いはあれど、ほとんどのスケボーゲームは“とりあえず動かしているだけで楽しい”ものだったり、“慣れれば超気持ちいい”ものだったりするのだが、『Session』にはそのどちらもない。一回のグラインドをメイクするために数十回の失敗をくり返すことも珍しくない、ひたすらにストイックなゲームなのだ。

 でも、それがいい。積み重なる失敗が成長への階段となり、遊ぶたびに確実にうまくなっていることが実感できる感覚は、良質なソウルライクに通じるものがある。そしてなにより、難しいトリックに辛抱強く向き合う感覚が「ああ、いま自分はスケボーをしている!!」という気持ちにさせてくれるのだ。

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 また、間違いなく歴代のスケボーゲームでもっとも充実しているリプレイエディタの存在も大きい。前述のとおりスケボーカルチャーは自身のスキルを映像にすることも重要であり、『Session』はその点もしっかりゲームに落とし込んでいる。

 さまざまなスケボーゲームを遊び、そこから派生してリアルのスケボーにもある程度理解が高まったタイミングが、本作の“遊び時”だ。そしてこのゲームが楽しいと感じられたら、それは完全にスケボーゲーム沼にハマったことを意味する。

 以上、現行機で遊べるスケボーゲームを紹介した。おすすめには入れなかったが、小鳥がスケボーをする『SkateBIRD』(操作方法は『THPS』だが、小鳥なので2段ジャンブできるのがユニーク)や、指一本で遊ぶ『THPS』とも言える内容のスマホ向けタイトル『Perfect Grind』、同じくスマホ向けタイトルでフィンガースケートボードをゲーム化したような『True Skate』など、ユニークなタイトルもあるので、ぜひチェックしてみてほしい。

 また、今後発売予定のタイトルでは個人的に『Skate Story』に注目している。プレイヤーはガラスでできたデーモンで、オーリーやキックフリップなどのトリックを決めて敵(?)を倒して進む……という内容のようで、ユニークなゲーム内容はもちろん、重さを感じるキャラの挙動がスケボー好きとしてはグッと来きてしまう。

 あとは『Bomb Rush Cyberfunk』も忘れちゃいけない。セガの往年の名作『ジェットセットラジオ』シリーズに大きな影響を受けている同作は、もちろんスケボーゲームファンにも楽しめる内容となっているはず。

 というわけで、スケボーゲームはいますぐ遊べるタイトルも、これから遊べるタイトルも大充実なので、もう遊ばない手はないのだ!

スケボーカルチャーをより深く知るためのおすすめ映画

 記事の前半でも書いたが、スケボーゲームには多様なスケボーカルチャーが積極的に詰め込まれている。そのため、ゲームにハマることで自ずとスケボーそのものに興味が向かうはずだ(ちなみに『トニー・ホーク プロ・スケーター』シリーズの一部には、登場するプロスケーターのプロモーション映像が収録されているので、プレイ中に燃え上がったスケボーへの興味をすぐに満たしてくれる点でもやっぱり素晴らしい作品なのである)。

 そこでここでは、スケボーへの理解を深めるうえでぜひチェックしてほしいおすすめ映画を紹介しよう。もはや完全にゲームの話ではなくなっているが、どうか付き合ってほしい。

 なお、作品紹介と合わせて記載しているサブスクリプションサービスの配信情報は、すべてFilmarks(フィルマークス)”の2023年6月26日時点データを参考にした。

おすすめ1:『DOGTOWN & Z-BOYS』

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■サブスク配信:なし

 スケボーはスポーツであると同時にカルチャーでもある……という状況はいつから始まったのか? 答えは70年代に活躍した伝説のスケボーチーム“Z-Boys”の登場からだ。すべてはここから始まった。

 70年代初頭、アメリカ西海岸サンタモニカ周辺のサーフィン文化が盛んな地域、通称“DOGTOWN”にあるサーフショップ“ゼファー”のメンバーが中心となってZ-Boysは結成された。

 彼らはサーフィンの動きを応用した立体的な滑りやプールスケーティングといった、現代のスケボーに通じるテクニックをつぎつぎと“発明”しただけでなく、ファッション、アートといった面でもスケボーのスタイルを決定づけたのだ。

 チームメンバーと関係者へのインタビュー、当時の映像・写真によって構成されたドキュメンタリーの本作では、若者の健全なレジャーだったスケボーが、Z-Boysによってカルチャーに塗り替えられていく流れを知ることができる。

 サブスク配信がないうえにセルDVDも廃盤となっているので、視聴するのはやや難しいかもしれないが、スケボーカルチャーの“原典”とも言える内容なので、どうにかがんばってチェックしてほしい一本だ。

 なお、Z-Boysを題材にした劇映画『ロード・オブ・ドッグタウン』もある。こちらは複数のサブスクで配信されていて、セルDVD/Blu-rayの入手も容易だ。

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おすすめ2:『ボーンズ・ブリゲード』

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■サブスク配信:なし

 連続でサブスク配信がない作品になってしまい申し訳ないが、これもスケボーカルチャーを知るうえでは『DOGTOWN & Z-BOYS』に並ぶ重要作なので外すことができない。

 カルチャーを含めてスケボーの“スタイル”を生み出したのがZ-Boysだとしたら、それを発展させ世の中に定着させたのが、80年代に結成されたトニー・ホークやスティーブ・キャバレロ、ロドニー・ミューレンといったレジェンドスケーターを擁する“ボーンズ・ブリゲード”だ。

 ボーンズ・ブリゲードはチームとしても個人としても卓越した存在であり、彼らがスケボー界で成し遂げたことはあまりに多いが、その中でもとくに重要な“革命”を挙げるなら、ロドニー・ミューレンが発明したフラット(平地)でのオーリーになるだろう。

 ジャンプ台などを使うことなく、いつでも飛べるオーリーは、現代のスケボーには欠かせないものであり「オーリーなくしてストリートスケートはありえない」とトニー・ホークも言っているほどだ。

 『DOGTOWN & Z-BOYS』と同じくドキュメンタリー映画である本作では、そういったスケボー史における重要な出来事を当事者の言葉で知れるという点で大変に貴重だが、それ以上に青春物語としてめちゃくちゃおもしろくて、感動させる内容となっている。

 僕がとくに好きなのはランス・マウンテンのエピソードだ。ボーンズ・ブリゲードのメンバーの多くはティーンネイジャーだったが、ランスだけは少し年上で、家族もいたうえに、技術面でも劣っていた。若さと才能、その両方を持たないことに悩みながら、自分にしかできない戦い方を見つけ、チーム屈指の人気者となっていく姿には胸が熱くなるし、気持ちを鼓舞されること間違いなし。

 また、全体的にワルな雰囲気があったZ-Boysに対して、ボーンズブリゲードは典型的なバカ男子のノリなのも見ていて楽しい。そして、そのノリが伝説のスケボービデオ『アニマル・チン』の成功につながっていったりするんだから……もう本当になんていうかすべてが最高なのだ。

 見方によっては『THPS』の原作とも言えるような作品なので、サブスク配信はないがなんとかレンタルとか購入とかして見てほしい。また、ロドニー・ミューレンの自伝『ザ・マット』は本作の副読本とも言える内容なので、機会があればこちらもぜひ。ちなみにトニー・ホークの自伝は日本語未翻訳……なんてこったい!

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おすすめ3:『mid90s ミッドナインティーズ』

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■サブスク配信:U-NEXT、DMM TV、Hulu

 映画『スーパーバッド 童貞ウォーズ』で最高でサイテーなボンクラ男子を演じ一躍コメディ界の人気者となり、近年は実力派俳優としても評価が高まっているジョナ・ヒル。彼の初監督作となる『mid90s ミッドナインティーズ』は、90年代半ばのロサンゼルを舞台に、スケボーを通じて世界を広げていく少年の姿を描いた半自伝的作品となっている。

 90年代と言えばストリートスケートの全盛期(ちなみに、トニー・ホークの主戦場だったバーチカルは低迷していたが、90年代中盤に始まったエクストリームスポーツの祭典“X Games”の登場によって息を吹き返した)。主人公のスティーヴィーが口うるさい母、暴力的な兄から逃げた先も当然スケボーコミュニティーだ。

 白人中流家庭のスティーヴィーに対して、スケボー仲間たちは貧困を始めさまざまな困難を抱えており、そこには明らかな社会的な分断がある。しかし、コミュニティーはテクはないが無茶はするスティーヴィーを仲間として温かく迎え入れてくれるのだ。

 当時のスケボーシーンのムードを反映した本作には、全体的に明るくて温かい雰囲気が広がっている。もちろん貧困やドラッグといった現代アメリカを蝕む問題は90年代から存在していたし、本作の登場人物たちの中にも困難を抱えているものは少なくない。しかし、それでもまだ、未来に対して漠然とした能天気さを持つ余裕が、この時代にはあったように感じられる。

 つまり『mid90s』はスケボーカルチャーがもっとも豊かで幸せだった時代の空気が感じられる作品、と言うこともできるだろう。

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おすすめ4:『行き止まりの世界に生まれて』

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サブスク配信:Prime Video、U-NEXT、DMM TV、Hulu

 スケーターたちは、なぜスケボーをするのだろうか? 純粋に楽しいから、気の合う仲間がいるから、スケーターファッションが好きだから……理由は人によってさまざまだが、ドキュメンタリー映画『行き止まりの世界に生まれて』の登場人物のひとりザックは、スケボーにのめり込む理由をこう話す。

 「(スケボーがないと)イカれた世界でまともでいられない」から、と。

 アメリカ、イリノイ州ロックフォードに暮らす3人の若者キアー、ザック、ビン。幼いころからのスケボー仲間である彼らの12年間の軌跡を本作は描く。“アメリカの繁栄から完全に見放された地”に生きる彼らの生活は、貧困、暴力、家庭不和といった多くの問題に囲まれており、また地場産業の衰退によって将来も見通せず、文字どおりの“行き止まりの世界”だ。

 スケートカルチャーを通じて若者たちの人生を切り取るというテーマは『mid90s』に共通しており、アメリカにおいていかにスケボーが身近なものかがわかるが、一方で本作には『mid90s』に見られたような能天気さはない。未来は見通せず、過去も現在も苦痛に満ちているのが、00年代以降を生きる彼らの現実であり、世界はいつだってイカれているのだ。
 
 しかし、それでも生きていかなければいけない。行き止まりとわかっていても、彼らはスケボーという鎮痛剤に助けられながら、人生のきつい上り坂をプッシュしまくって、ひたすら前へ進んでいくのだ。

 本作はスケボー映画ではないが、スケボーカルチャーがいかに若者たちの救い(精神的にはもちろん、ときには経済的にも)となっているかを知るうえではこれ以上ない作品だ。

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日本のゲーマーよ、いいかげんそろそろスケボーゲームを遊べ!

日本のゲーマーよ! なぜキミたちは“スケボーゲーム”を遊ばないのか!? スケボーゲーム歴20年のライターがこの素晴らしきジャンルの魅力と楽しみかたを猛プッシュします

 70年代にZ-Boysとともに誕生したスケボーカルチャーが90年代に成熟を迎えたように、スケボーゲームも『THPS』第1作目の登場から約20年の時を経て、ジャンルとしての成熟を迎えているように思える。

 『トニー・ホーク プロ・スケーター 1+2』(2020年発売)という王者の帰還、『Skate』シリーズの再起動(2021年発表)、スケボーゲームの新時代を予感させる『Session』の登場(2022年発売)、そして『THPS』と『Skate』シリーズの遺伝子を継ぐ作品の数々……スケボーゲームのことを売上ランキンやSNSで目にする機会は決して多くないが、ラインアップの充実ぶりで言えば、間違いなくいまは全盛期だ。

 こんなに熱いジャンルを、マイナーだから、スケボー知らないから、難しそうだからといった理由で見逃していいのだろうか? どう考えてもそれはもったいない!

 僕はあまり読者に対しても挑発的な言葉はつかいたくないのだが、勇気を出して言わせてもらう。

 日本のゲーマーよ、いいかげんそろそろスケボーゲームを遊べ!

執筆者紹介:ヨージロ

 元ファミ通編集部ニュース班。今回の記事を書くにあたって、スケボーゲームについていろいろ調べてみたのですが、日本展開されていない作品がめちゃくちゃあってビックリしました。コツコツと遊んでいきたいと思っています。