スクウェア・エニックスより発売中の2大ミステリーアドベンチャーゲーム『春ゆきてレトロチカ』、『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』。

 2023年4月25日より『春ゆきてレトロチカ』のスマートフォン版が配信開始になることを記念して、2作品のコラボ企画が発表。両タイトルのファンを中心に反響を呼んでいる。

 本記事では、『春ゆきてレトロチカ』江原純一プロデューサーと、『パラノマサイト』石山貴也ディレクターによる特別対談を掲載。お互いのタイトルに対する感想や、ミステリーアドベンチャーというジャンルへの思い、次回作の構想などをたっぷり語ってもらった。

『春ゆきてレトロチカ』×『パラノマサイト』「続編の構想はあります」「GOサインが出れば」続編はファンの声援しだい!? スクエニ・ミステリーADV特別対談
『春ゆきてレトロチカ』×『パラノマサイト』「続編の構想はあります」「GOサインが出れば」続編はファンの声援しだい!? スクエニ・ミステリーADV特別対談
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江原純一 氏(えはら じゅんいち)

スクウェア・エニックス所属。プロデューサーとして『春ゆきてレトロチカ』を手掛ける。過去には、同社の齊藤陽介氏の指揮下で『NieR: Automata』の共同プロデューサーも務めた。

石山貴也 氏(いしやま たかなり)

スクウェア・エニックス所属。『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』、『スクールガールストライカーズ』などでディレクターおよびシナリオを担当。『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン』ではVer.1のライブプランナーチーフを務める。

『パラノマサイト』はホラー要素と実在感のギャップが魅力

――2022年5月12日に『春ゆきてレトロチカ』が、2023年3月9日に『パラノマサイト』が発売され、スクウェア・エニックスからおもしろいアドベンチャーゲームが立て続けに出たぞ、と、話題になりました。

江原おもしろいですよね、『パラノマサイト』。

石山ありがとうございます(笑)。

――本日はその2作についていろいろとお聞きしたいと思います。まず、今回、両作がコラボすることになった切っ掛けからお伺いします。

江原『春ゆきてレトロチカ』スマートフォン版が4月25日に配信開始されまして、その告知展開を考えていたのですが、その少し前に『パラノマサイト』が発売されて。遊んでみたらこれがすごくおもしろかったので、「何かいっしょにやれませんか?」とお声がけさせてもらったんです。

 同ジャンルということで親和性もあり、コラボできたら盛り上がるんじゃないか? と。しかも両作の感想を共有しているユーザーがSNSで少なからずいらっしゃいましたし。

石山うちのチームでも『パラノマサイト』をどう宣伝していこうかとずっと考えていて。『レトロチカ』とのコラボも案としてはあったのですが、部署どうしのつながりがなくてなかなか切っ掛けがなかったんです。そうしたら、江原さんのほうから声をかけてくださって。そこからは急ピッチで話が進んでいきました。

――おふたりはスクウェア・エニックス所属ではありますが、もともと面識があったわけではないのですか?

江原じつは、今回のコラボ施策で初めて会ったんです。

石山『パラノマサイト』の開発中に『春ゆきてレトロチカ』のことを知りました。「へ~こんなの出るんだ~」って驚いたので、誰が作ったのかは気になってました。

江原昔は社内ボドゲ会とかがあって、ほかの部署の人と知り合う機会もあったんですけど、いまは少なくなってしまって。

石山開発がリモートですからねえ。

――そんな中で、お互いの開発ソフトについてはなんとなくご存知だったので?

江原僕は『パラノマサイト』のことは、ニンテンドーダイレクトで初めて知りました。

江原それで、社内の事情に詳しそうな人に「この『パラノマサイト』って、誰が作ってるの?」と聞いたら、第四開発だと教えてくれて。さらによく聞いたら、石山ディレクターはもともと『ドラゴンクエストX』の開発チームにいらっしゃったということで。

――よーすぴさん(齊藤陽介氏)に聞けばよかった! って(笑)。

石山僕はその後、第四開発で『スクールガールストライカーズ』などを作っていたので、江原プロデューサーとは面識がありませんでした。

――大きな会社ですもんね。今回のコラボの内容というのは?

江原Twitterキャンペーンの形式で、リツイートしてくれた方の中から抽選で数名様に、コラボイラストが描かれたオリジナルAmazonギフト券とクリアファイルどちらかをプレゼントします。

『春ゆきてレトロチカ』×『パラノマサイト』「続編の構想はあります」「GOサインが出れば」続編はファンの声援しだい!? スクエニ・ミステリーADV特別対談
コラボイラスト。イラスト:小林元

石山これはすごいですよ! 『パラノマサイト』のキャラクターデザインの小林元さんに、『春ゆきてレトロチカ』の実写をもとにした似顔絵を描き下ろしてもらいました。絶対欲しいですね。ぜひ応募しましょう!

 ……あ。ちなみにキャラクターの指定がはるかと永司ではなく、佳乃と如水(大正時代)だったのは、なぜなのです?

江原ゲームのメインビジュアルもこの衣装なんですよ。着物のほうが絵的に映えるかなと。あと、イラストにしたとき、現代風のふつうの衣装だと『パラノマサイト』の濃さに負けそうかなと(笑)。

石山おお、そうでしたか。でも、あがってきたラフを見たとき、『春ゆきてレトロチカ』のふたりは和服で華があるのに、こちらは地味だなと……(笑)。利飛太はキャラクターが立っているけど、マダムがちょっと……。だからせめて「マダムに桜の枝を持たせてください」ってお願いしました。

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『春ゆきてレトロチカ』×『パラノマサイト』「続編の構想はあります」「GOサインが出れば」続編はファンの声援しだい!? スクエニ・ミステリーADV特別対談
『春ゆきてレトロチカ』(左)と『パラノマサイト』マダム(右)。

江原これ、なんで桜なんですか?

石山『レトロチカ』に合わせてです。コラボですから!

江原あっそうなの!? ありがとうございます。

――『パラノマサイト』側のキャラクターをマダムと利飛太のふたりにしたのは?

石山男女ペアならキービジュアルにいる興家くんと葉子ちゃんにしようかとも思ったのですが、今回はミステリーコラボということで、“探偵”っぽい方がいいかなと思い、利飛太とマダムにしてみました。

――(探偵っぽいかな?)。

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プロの探偵、通称プロタンこと櫂利飛太(かい りひた)。

江原かなりのレアアイテムですのでこの機会に引き当ててもらいたいですね! ちなみにクリアファイルはクリアポスター風にできるギミックになっています。

――スクウェア・エニックスから立て続けに良作アドベンチャーがリリースされたのには、何か理由があるのでしょうか?

江原良作といっていただけるのはうれしいです。しかしこれは、たまたまじゃないですかねえ。

石山たまたまですよねえ。

江原……。

石山……。

――終わり!?(笑)。

江原(笑)。さっきも言った通りで、僕の方では『パラノマサイト』を開発していること自体、発売間近になるまで知らなかったんですよね。

石山そう(笑)。こちらも『レトロチカ』は、発表されるまでまったく知らなかったですし。

――別の部署がどんなタイトルを作っているのか、知らないものなのですか?

江原・石山 知らなかった。

――そういうものなのですね……それぞれの作品をプレイされたうえでの感想など聞かせてもらえますか?

江原『パラノマサイト』は演出がすごくおしゃれで、とくにカメラワークがいいんですよ。ふつうならキャラクターをしっかり映したくなるところを、背景からキャラクターにパンしたり、その逆もあったり。360度見回せる視点も含めて、カメラをうまく使っているなという印象です。

 もう1点は“ギャップ”ですね。呪いという外法がまかり通る世界設定に対して、昭和の東京都・墨田区という地に足のついた、現実感ある舞台を用意していて。いわゆるホラー寄りのファンタジーなんだけど、ものすごく“実存感”があるところがいいなと思いました。

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キャラクターイラストが見きれるほどにアップにしたりカメラを傾けたり、大胆なカメラワークが特徴的だ。

――江原さんは墨田区に聖地巡礼で行かれていましたよね?

江原行きました。こういうおもしろいゲームにはどんどん媚びていこうと思って!

――(笑)。

江原Twitterにアップしたらけっこう“いいね”をいただきました、『パラノマサイト』の人気を感じます(笑)。

――聖地巡礼という意味では、『春ゆきてレトロチカ』も実写である以上、撮影ロケ地がありますよね。場所は公式サイトなどで公開されていたりするのですか?

江原スタッフロールなどで撮影場所がわかるようにはなっていました。

 おすすめなのは第四章の舞台になった伊豆にある新井旅館というところなんですけど、僕も泊まりに行ったことがあります。あと相模湖にある野呂ロッジも行きやすくていいところですよ。

――「『パラノマサイト』は呪術・外法といった要素と実存感のギャップが魅力」とのことですが、そこは石山さんにとっても狙い通りだったのでしょうか?

石山もちろん狙っていました。

 新しいタイトルでどうやって独自性を出すか、スタッフ間でものすごく話し合って。“ギャップ”というのもそのひとつですね。

江原ギャップで言えば、キャラクターでは僕はミヲちゃんが好きだったなあ。ふだんはふわふわ~ってやさしい感じなんですけど、とあるホラーな場面ではビシッ! ……っとこう(指を立てて)。

――ああ、あの廊下のシーン、けっこうホラーな雰囲気ですけど、かっこいいですよね!(指を立てて)。

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ミヲちゃん。

石山ミヲちゃん、いいですよね! ゲーム全体にホラーテイストを取り入れたのは、「配信して世の中に広めてほしいから」というのがいちばんにあったんです。本作で取り組んだチャレンジのひとつは、アドベンチャーゲームでありながら最初から“配信オーケー”にしたことです。

――物語が重要なアドベンチャーゲームでは珍しいですよね。配信を見て「ネタバレ動画で見たから買わなくていいや」となってしまう人もいるでしょうし。

石山なのでチャレンジです。新規オリジナルタイトルなので、とにかく配信などで目に付く機会を増やしたいなと。そして、この試みをさらに加速させるべく、4月25日に配信ガイドラインの改定を行いまして、エンディングを含むすべての制限を解除しました。とことんやっていきます。

――一方の『春ゆきてレトロチカ』は逆にスクリーンショットなどは一切撮影できないようになっていますよね。これは実写ゲームであるがゆえに、俳優の肖像権などが関わるからということでしょうか?

江原いえ、じつはそこは関係なく、僕の判断なのです。「ミステリで一部だけ見られることが、本当に魅力的なプレイ体験につながるのかな?」と考えまして。

 ですが、4月25日のアップデート以降、第四章までのシェアが可能になりました。実況配信の規約も改訂しましたので、ストリーマーの方はぜひ配信してほしいです。

――おお、そうなのですね。

石山『パラノマサイト』は最初から口コミで評判が広がることに期待していて、さらにお値段もお手ごろ価格に設定し、「この価格なら買ってみようか」と思ってもらえるようにする……そうやって裾野を広げていって、続編で勝負を掛けるという戦いかたをしています。

――えっ、最初からシリーズ化前提だったので? ということは、もう第2作の予定があるのです?

石山ネタはいろいろと考えていますが、まったく未定の状態です。これで第2弾が作れなかったら意味がなくなっちゃうので、まさに背水の陣です。よろしくお願いします。

――なんと(笑)。そういう意味では、『パラノマサイト』ファンが聖地巡礼で盛り上がってくれるのは、開発側にとってもありがたいことですよね。

石山はい。墨田区さんに協力してもらって、実在する場所を舞台にした甲斐がありました。

石山撮影した写真をイラストにする際、我々は「昭和加工」と呼んでいたのですが、なるべく当時の空気感を出すために、高い建物を低くしたり、大気汚染などさまざまな環境問題もあった時代なのであえて彩度を落としたり、ぼやかしたり、背景にゴミを散らかしてみたりしました。

 ゲームは昭和ではありますが、現在の場所と見比べると、ここだとわかるようになっていると思いますので、ぜひ各地を巡って、「ゲームと同じだ!」という感覚を楽しんでいただきたいです。

江原みんなで公園の遊具をペチペチしたりしてね(笑)。

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“推理することの楽しさ”を『レトロチカ』で体感

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――石山さんの『春ゆきてレトロチカ』に対する印象はいかがでしたか?

石山初めて見たときは「こんなゲーム、まだ出せるんだ……」と言いますか、「よく作ったなあ!」というのが第一印象でした。

江原ふふ。

石山いまの時代にこのプロダクトを製品として成立させるなんて、ものすごく剛腕プロデューサーがいるんだろうなと思っていました。

江原ふふふ。

石山個人的にはゲームに実写を取り入れるのはアリだと思っていまして。CGがどんどん綺麗になって、実写と見間違うほどのものができるんだったら、もう実写が混じっていても気にならないというか。

 受け取る側からしたら、それがCGか実写かというのは、そんなに気にしなくなってきているように思うんです。あとはフィーリングといいますか、実在社会を舞台にしたミステリーであれば、実写も違和感なく受け入れてもらえるのではないかと。

 自分も過去に実写アドベンチャーの企画を考えていたんですけど、やっぱり「作るのはたいへんだろうな」と思い提案はしませんでした。だから、第一印象としては「すげえ」、「しっかり作ってある」でした。

 発売当時は開発が大変だったのでプレイできたのは今年に入ってからだったのですけど、遊んでみたらすごく丁寧に作ってあって、アドベンチャーゲームの感触が、ちゃんとあるんです。

 テレビで観るミステリードラマと、推理アドベンチャーの世界観って、似ているようで少し違うじゃないですか。

江原そうなんです! “体験の質”がちょっと違うんですよ。

石山『春ゆきてレトロチカ』は、実写映像を見てるのに「推理アドベンチャーゲームだ!」と感じる世界観がきちんと構築されていて、まず、そこがとてもイイなと思いました。

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――具体的に言いますと?

石山なんでしょうね……。屋敷の図面が出てきたり、画面外で登場人物が確認できたり、そういう介入できるところがきちんとゲームとして整っているせいですかね。あとは情報の出しかたとか、登場人物の動きかたとかがそれっぽいというか。触ってみて不思議な感覚でした。

 『春ゆきてレトロチカ』は、昔から脈々と受け継がれてきた推理アドベンチャーゲームの流れの先にあるものだと感じました。そのあたりでこだわっていたところはあるんですか?

江原僕がこだわったというより、監督の芝崎弘記さんと、メインキャメラのふじもと光明さんがゲームのことをすごく研究してくれたんですよ。

※芝崎の崎は正しくはたつさき。

 僕とディレクターの伊東幸一郎さんが「ゲームは見るではなく体験するものなので、そこは気をつけてやっていきたいです」と話していたので、そこからおふたりが研究してくれて。

 カメラワークやテンポ感をテレビドラマとは異なる形に変えてくれたんです。ただ目の前で起きることを見ているのではなく、いかにプレイヤーに当事者意識を持って踏みこんで来てもらうか。

 そのためのアプローチをおふたりが苦心して作ってくれた結果だと思います。

石山ああ、なるほど……。あと『春ゆきてレトロチカ』で、ほかの推理アドベンチャーゲームにはなかなかない要素としては、“推理のしかた”をきちんと教えてくれる、というのがいいと思いました。

江原そう! そうなんですよ!

――“推理のしかた”というと?

石山小説やテレビドラマ、映画やゲームなどでミステリーに触れる機会はけっこうありますが、自分で推理をして、きちんと論理立てて犯人捜しをしながら読んだり観たりしている人って、じつはそんなに多くないと思っていて。

 筋道通りに物語を追って、しだいに真相が明かされていって「こいつが犯人だったんだ」となる、受け身の楽しみ方をしている人が多いと思うんです。

――ああ、僕もそうですね。推理しても当たった試しがなくて……。

石山いえ、そちらのほうが多数派だと思います。

 けれど、『春ゆきてレトロチカ』では「推理ってこういうふうにやるんだ」という手ほどきをしてくれるのが新鮮で。「推理ができる人はこういう考えかたをするんだ」、「この要素とこの要素を結び付けて、こういう仮説を導き出すんだ」という体験ができるのも、おもしろさを感じたポイントのひとつです。

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ヒントの出しかたにも光るこだわり

――アドベンチャーゲームの場合、「謎解きで詰まり先に進めない」という人が出てくると思うのですが、ヒントを出し過ぎるとかえってつまらなくなる……というジレンマがあると思います。その点はどのように対応されているのでしょう?

江原『春ゆきてレトロチカ』は、物語の結末までたどり着かないと価値を感じてもらいづらいゲームなので、「プレイヤーが最後まで詰まらないようにしたい」ということは、ディレクターの伊東さんと何度も話し合いました。

 その結果、段階を分けてヒントを提示する形に落ち着きました。ヒントの段階が大きく分けて3つありまして、ひとつ目は、オンオフの切り換えが可能な“手がかりの模様ガイド”。

 ふたつ目は、回数制限付きで手がかりをハイライトで見せる機能。そしてみっつ目は、推理評価は下がってしまいますが、バッドエンドになると正しい未来を垣間見ることができる機能を取り入れたことです。

 そういったかたちで多段階にヒントを用意し、どこまで使うかは選べるスタイルにすることで、解決策をプレイヤーに委ねました。

――ヒントは用意するけれど、それらを使わずにプレイすることも可能なんですね。

石山『パラノマサイト』は基本的にコマンド総当りで先に進めるようになっているんですけど、途中途中で特別な行動が必要になってくる場面では、できるだけヒントを入れるようにしています。

 これは僕の個人的な意見ですが、ミステリーの肝って“情報の出しかた”にあると思っていまして。怪しい人物が出てきたらその動向に注目するだろうし、気になる出来事が起きれば、必然的にそちらに注意が向きますよね。プレイヤーがその時点で何を感じているか、どこに疑問を持つであろうか、つねに意識して書いています。

 そうすることで、どのタイミングでどれくらいの情報量をどういった手順で明かせば真相に気付けるか、あるいはミスリードできるかのコントロールができるので、何度も自分で試遊して微調整を重ねながら、うまくバランスを整えています。

――しかし石山さんはご自身でシナリオも書かれるわけですから、展開や謎がわかっている状態なわけで、初めて遊ぶプレイヤーの感覚で試遊するのは難しくないですか?

石山そうなんですよね。で、あの……これは自分の特技なのかなとも思ってるんですけど、自身で書いたものでも、まっさらな気持ちで読み返せるんですよ。だからグッとくる場面のシナリオは、自分で読んで毎回泣いたりしてます!(笑)

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石山初めての気持ちで読み返すのは、なかなかできないとは周囲からも聞くんですけども。

江原努力を要しますね。

石山なのでこれは、もしかして特殊能力なのかな、と(笑)。ただ忘れっぽいだけかもしれませんが。昔からそうやって、何度も何度も読み返して推敲してお話をブラッシュアップしていく作りかたをしています。

江原固有能力かもしれない(笑)。ブラッシュアップというところでは、僕もくり返し推敲はします。で、『レトロチカ』について言えば、なるべく説明がクドくなりすぎないようテンポがよくなるよう、情報量やセリフ量を減らす方向で調整したんです。

 とはいえ、削り過ぎると逆に「説明が足りなくなっていないか?」という不安が生じてきて。初めてプレイされる方が「これは削り過ぎでしょ」と感じるか、それとも「説明がくどくてかったるい」と感じるか……その塩梅を見極めるのは難しいですね。

 ですが、『春ゆきてレトロチカ』に関しては発売後の評価を見る限り、ほどよい感じにまとめられたんじゃないかと思えています。

――過剰な説明と、説明不足のバランス。

石山クドくし過ぎないという話では、自分ももう1点。『パラノマサイト』もそうですが、前にやっていた『スクスト』でも“読むテキスト”ではなく“見るテキスト”にするということを強く意識しています。

 基本的に画面上に表示するテキストは最大でも2行までにして、パッと見るだけで頭に入る文章を心掛けています。あと、テンポ良く読み進めやすくする工夫としては、地の文を使ってないという点もそうです。

石山ドラマのように会話劇中心で話を進めていく形になっているので、たまに『パラノマサイト』がノベルゲームと言われているのを見ると、やや違和感があって。地の文章で心情や状況をしっかり描写していくのが味わいのノベルゲームとは、また違う表現手段なんじゃないかなと思っています。

 ちなみに、“見るテキスト”という考えかたは、『ドラゴンクエストX』のチームにいたときにシナリオチームから教わったメソッドです。僕も「なんとなくそうかな?」と以前から思っていたことではあるのですが、それが明確に言語化されていることに非常に感銘を受けて、それ以降、テキストに読点を使わずにスペースを使うようになりました(笑)。

 これは完全にドラクエの……というか堀井さんのテキストの影響です。

――あああ。言われてみると。

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江原堀井さんは言葉のリズムにもこだわられていますよね。

石山文字を塊として見た場合、目に入る限界がたぶん3行なんですけど、それも20文字で1行にするより、10文字で2行にした方が目に入りやすい、とか。あと言葉のリズムもありますけど、セリフが2行になった場合は、スペースの位置が上下でかぶるとブロックが分かれて見えるのでかぶらないようにするなど、見た目に関してもものすごく気を配られています。

 ですので、「小説とか長い文章は苦手であまり読めないんだけど、『パラノマサイト』のテキストは読みやすい」という感想がもらえると、「そうでしょう!」とすごくうれしい気持ちになります!

――けっこう要望があるのではと思いますが、ボイスを付ける展開などは考えていませんか?

石山開発初期に検討しましたが、今回は無しでいくことにしました。でもボイスが付くとなると、また違う調整が必要になりますよね。ボイス付きテキストと文字のみのテキストでは、情報量を変えないといけないので。

 たとえば「そ、それは……」とか、文字なら噛んでるように書きますけど、声が入るとしたら、声優さんの感情が入るので「それは……」と書くだけでいいですし。それだけで0.5秒くらい違います。短くすっきりさせないとテンポが悪くなるので。そんな感じでまた別の調整が必要になってくるのでたいへんだなと。

江原『パラノマサイト』はボイスなくてよかったなと思うし、たとえばほかのアドベンチャーゲームですと『ダンガンロンパ』はボイスがあってよかったなと思いますし。プレイヤーにどういう体験を味わってほしくて、何に特化しているかという考えかたの違いでしょうね。

『パラノマサイト』第2弾はSFに!? 次回作の構想とは

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――この機会に、お互いに聞いておきたいことはありますか?

江原次回作について教えてください! これは聞いておかないと(笑)。

石山さきほども言いましたが、まだまったくのノープランです!

 ただ、今回は“FILE 23”とタイトルに入っていますが、つぎが“FILE 24”になる……というわけではなく。もしかしたらめちゃくちゃ飛ばして、“FILE 200”とかになるかもしれないです。

江原飛ぶな~(笑)。

石山もともとオムニバスのイメージで作っているので、舞台もガラリと変わるかもしれません。

江原時代設定も昭和から変わる可能性があると?

石山それもありにしたいなーとは思ってます。創作の幅は広くしておきたいので。一応、パラノーマル(超常現象)から来ているタイトルなので、やろうと思えばUFOでも、タイムマシンでも、SF的な話でも行けるのではないかと。

――ドラマの『X-ファイル』みたいになってきた(笑)。

石山そうした幅を見せるために、次回作はあえて“お決まり”から外したほうがいいのか? それとも“FILE23”を引き継いだものにするべきか? そのあたりはまだ、まったく決めきれていないです

江原キャラも引き継がない?

石山引き継いでもいいですが、何の予定もございません。本当に妄想のレベルです。

――実写になる可能性も?

石山あるかもしれないですね。でも、コバゲンさん(小林元氏)にはやってもらいたい気はしています。

江原『パラノマサイト』の続編なら、小林さんに描いてほしいと思いますね。

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石山ところで『春ゆきてレトロチカ』には、次回作の構想はあるんですか?

江原じつは完成と同時に次回作のシナリオブレスト(※ブレインストーミング。複数人でどんどんアイデアを出し合う)はやっていたんですよ。「つぎはこれでいきたい」というネタ自体はすでにあります。会社のGOサインが取れれば動けます……つまり、セールスしだいです。

石山おお、いいですね! みんな大好きGOサイン! うちも欲しいです!(笑) お互いに盛り上げていって、いつかビッグタイトルに負けないくらいの存在感を放ちたいですね。

どんどん新作を開発し、推理ADVというジャンルを盛り上げたい

――『パラノマサイト』は発売後の評判もよく、ネット上でも好意的なコメントを多く見かけますが、石山さんはこういった状況をどのように捉えられているのでしょう?

石山いやあ、驚いています(笑)。

 自分の中では「こうすればおもしろくなる」というやりかたがあって、それをもとにゲームを作ってきたので、少なくとも「これまで僕が作ってきたタイトルを楽しんでくださった方には絶対に刺さる作品になる」という思いはありました。

 ですが、初めて触れてくださった方からもたくさんのコメントをいただけて、大勢から「おもしろい」と言っていただけたことが本当にうれしいですし、ありがたいです。ありがとうございます。

――『春ゆきてレトロチカ』も、“ファミ通・電撃ゲームアワード2022”のアドベンチャー部門で最優秀賞を獲得されましたね。

江原スマートフォン版の発売に向けて、ちょうどよいタイミングでアワードをいただきました。ファミ通・電撃アワードで司会を務められている青木瑠璃子さんと週刊ファミ通でコラム連載をされている香川愛生先生をキャスティングした甲斐があったというものですよ!

――厳正な投票結果ですから!

江原冗談です(笑)。

石山『春ゆきてレトロチカ』が評価されて、僕個人としてもうれしく思っています。推理アドベンチャーというジャンルは、これからまだまだ伸びていくんだという希望も持てるうれしい結果でした。

江原ファミ通電撃アワード2023ではぜひ、『パラノマサイト』に受賞していただきたいです(笑)

 ちなみに、2022年度をふり返ってみると、アドベンチャーゲームが豊作でしたね。たくさん出るのはいいことですし、作品本数が増えれば、自然とジャンルそのものも注目されるようになるので、これからもライバルとなるタイトルが続々とリリースされ、切磋琢磨していける環境になることを祈っています。

石山他社でアドベンチャーゲームを開発されている皆さんとも、仲よくやっていきたいです。「みんなでこのジャンルを盛り上げていこうぜ!」という気持ちでがんばっていきましょう。仲よくしてください。

――おふたりとも、今後もアドベンチャーゲームの開発に取り組まれる意欲は十分おありということで……それぞれ、続編に期待しても!?

江原・石山 会社しだいです。

――(笑)。

石山もちろん会社しだいではありますが、この勢いを止めることはないんじゃないかと思いますけど……ねえ?

江原会社の判断ってかなり公平で、セールスがとにかく重要な指標になります。

 セールスが伸びるかどうかは、遊んでくださった皆さんの声が何よりの力になる時代です。プレイして「おもしろい」と思っていただけましたら、ぜひ、そのように声を上げていただけますとありがたいです。

石山そうして「いま、アドベンチャーゲームがおもしろい」という流れができれば、メディアも注目してくれて、後続のタイトルも作りやすくなる……と思います、きっと。

 あと、アンケートの回収率もけっこう重要なので、公式アカウントなどで実施しているアンケートにはご協力いただけますとうれしいです。『パラノマサイト』の公式アンケートもご協力ありがとうございました。

江原『春ゆきてレトロチカ』も、公式のアンケート結果を見て、僕たちも見つめ直すことができた点はありますね。ここがよかった、悪かった、と。実際にアンケート後に改修パッチも出すことができましたし。

 石山さんみたいな能力をみんな持っているわけではないので、作ってる途中で何が正しいのかわからなくなることはよくあるので、プレイヤーの皆さんの声をSNSやアンケートからも届けていたければ。

石山はい、もちろん皆さんの声は参考にしますので。純粋な売り上げのほかにもファンの盛り上がりが実際にあれば、つぎの展開も起こしやすいでしょうから。そういう意味では、『パラノマサイト』はLINEスタンプも発売が始まりましたので、皆さんよろしくお願いします。

『春ゆきてレトロチカ』×『パラノマサイト』「続編の構想はあります」「GOサインが出れば」続編はファンの声援しだい!? スクエニ・ミステリーADV特別対談

セール開始でGWに遊ぶチャンス!

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 スマートフォン版が配信になったばかりの『春ゆきてレトロチカ』は、家庭用ゲーム機版のダウンロード購入が50%オフとなるセールが開始。

 さらに、『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』も発売後初のセールが始まり、LINEスタンプも配信開始となっている。それぞれチェックして、未プレイの方はこの機会にプレイしてみては。

『春ゆきてレトロチカ』

App Store『春ゆきてレトロチカ』
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『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』

※価格はすべて[税込]。

App Store『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』
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LINEスタンプ『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』第1弾(LINE STORE)