古今東西のインディーゲームを紹介するコーナー。今回お届けするのは、“ノベルゲームがもたらす物語体験の神髄が味わえる”というPC用ソフト。お届けするのは、“今年のプリキュア超おもしろいよ”という小林白菜

架空の街“Y地区”でくり広げられる血みどろの群像劇

『BLACK SHEEP TOWN』ノベルゲームがもたらす物語体験の神髄が味わえる、破滅へと向かう人々が必死に生きた日々を描く群像劇【とっておきインディー】

 コアなファンを多く生み出した『SWAN SONG』や『キラ☆キラ』などの美少女ゲームの脚本を手掛けてきた瀬戸口廉也氏が脚本、監督を手掛けた最新作は、日本のどこかにあるという設定の、とある奇妙な街を舞台としたデジタルノベル。特殊な力を持った人々の存在や、彼ら特有の疾患により、暴力や貧困、差別が横行する破綻寸前の世界で生まれ育った、さまざまな立場の人々を描いた群像劇だ。

 ある者はみずからが望んだわけではない裏社会の謀略の渦中へと、諦観とともに身を投じ、またある者は自分が何者なのかを知るため、街が抱えた闇へと足を踏み入れる。彼らの人生が複雑に絡み合い、それぞれの“結末”へと向かっていく描写が、ときに生々しく、ときに冷酷に――鋭敏な筆致で紡ぎ出されていくさまは圧巻だ。

◆終わりのない地獄が幕を開ける……

『BLACK SHEEP TOWN』ノベルゲームがもたらす物語体験の神髄が味わえる、破滅へと向かう人々が必死に生きた日々を描く群像劇【とっておきインディー】
物語の中心人物のひとり、謝亮(ツェー・ルォン)。ギャングを毛嫌いしていたが、組織のボスだった父親の死により、その世界に身を投じる。

◆無数に分断された物語で街のゆく末を多角的に描く

『BLACK SHEEP TOWN』ノベルゲームがもたらす物語体験の神髄が味わえる、破滅へと向かう人々が必死に生きた日々を描く群像劇【とっておきインディー】
特定のエピソードを読み終えると、これに紐付く新たなエピソードが解禁され
る。同じ場面でも、別の人物の視点で見ると異なる印象を受けることも……?
『BLACK SHEEP TOWN』Steamサイト

暗黒小説×異能力バトル それだけでは語り尽くせぬ魅力

 本作はギャングもの、いわゆる暗黒(ノワール)小説の側面がありながら“異能力”を扱った物語でもある。これだけ聞くと、敵対者どうしが互いの能力をぶつけ合う、激しい戦闘描写を期待する人もいるかもしれないが、その根幹たる魅力は別の部分に宿っている。

 その一端は、舞台となる“Y地区”を形作るべく綿密に構築された世界設定の一部を解説することで、ある程度つかんでもらえるのではないかと思う。独自用語が多いため、小難しい印象を受けるかもしれないが、心配はいらない。ゲーム内では独自用語や登場人物の氏名に限り緑色のテキストで表示され、クリックすると画面下にこの用語のTIPS(説明文)が立ち現れるからだ(この記事に登場する太字で表記された用語の説明文も、記事の下のほうに入れてあるので確認してほしい)。

『BLACK SHEEP TOWN』ノベルゲームがもたらす物語体験の神髄が味わえる、破滅へと向かう人々が必死に生きた日々を描く群像劇【とっておきインディー】

 この世界では各地に“グレートホール”と呼ばれる巨大な穴が突如生まれており、Y地区にもこれがある。穴の周囲では大きく2種類に分類されるミュータント(突然変異体)の人間が生まれやすくなるが、メカニズムは明らかになっていない。“右手で触れるとなんでも切断できる”、“他人に認識されなくなる”、“人の心が読める”といった、ひとりひとりに個別のサイキック能力があるミュータントはタイプAと呼ばれており、目が金色に輝くとともに、常人離れした身体能力を発揮できるミュータントはタイプBと呼ばれている。

 奇異の視線や恐怖、侮蔑の対象になることも多い彼らがY地区の外で生きるのは並大抵のことではなく、一方で彼らの人口比率が高いこの街ならば、差別的な扱いは軽減されるし、互助組織も結成されているのだ。

『BLACK SHEEP TOWN』ノベルゲームがもたらす物語体験の神髄が味わえる、破滅へと向かう人々が必死に生きた日々を描く群像劇【とっておきインディー】

 こうした事情を持つY地区は、ミュータント以外にも人種・国籍を問わずほかの場所では生きてゆけない訳アリの人々が移り住み、事件や犯罪が絶えない治外法権の街と化している。警察では維持し切れない街の治安を、ときに暴力を行使してでもある程度の均衡状態に保っているのが巨大ギャング組織“YS”だ。YSを取り巻く状況の変化によって生じた波紋が、多くの人々を引き返せない血塗られた一本道へと駆り立てることとなる。

『BLACK SHEEP TOWN』ノベルゲームがもたらす物語体験の神髄が味わえる、破滅へと向かう人々が必死に生きた日々を描く群像劇【とっておきインディー】

 暴力描写ですら冴えわたる文章表現で克明に描かれる(こちらは仔細に描かれはしないが、性暴力描写もある)ため、読み手によっては苦痛をともなうシーンもあるかもしれない。それでも、人間の醜悪な面をも描き切るからこそ、確かに存在する善性もまた際立つと言える。“Black Sheep(黒い羊:厄介者、鼻つまみ者の喩え)” が集う街でしか生きてゆけない者たちの、懸命に生きた記録――そこから何を感じ取るかは、我々に委ねられている。

『BLACK SHEEP TOWN』ノベルゲームがもたらす物語体験の神髄が味わえる、破滅へと向かう人々が必死に生きた日々を描く群像劇【とっておきインディー】

■Y地区
 日本にある都市。基地の跡地を再開発する計画があったが、グレートホールができて白紙に。のちに独自の発展を遂げ、国内有数の歓楽街となった。

■グレートホール
 正体不明の巨大な穴。世界に7つ存在しており、Y地区のものは5番目に生まれた。穴に近づいた者は放射線障害と似た症状を発症するが、原因は不明。

■タイプA
 科学的に説明できないサイキック能力を持つミュータント。額に第3の目がある、人間と思えぬ顔を持つなど先天的に特異な身体的特徴を持つ者も多い。

■タイプB
 常人離れした身体能力を行使できるミュータント。引き換えに幻覚などにとらわれる精神異常をきたすことがあり、加齢によりこの傾向は強まる。

■YS
 Y地区で活動していた複数のギャングどうしの同盟により生まれた巨大組織。繁華街の奥に位置する建造物・グランドタワーを本拠地としている。

『BLACK SHEEP TOWN』ノベルゲームがもたらす物語体験の神髄が味わえる、破滅へと向かう人々が必死に生きた日々を描く群像劇【とっておきインディー】
『BLACK SHEEP TOWN』ノベルゲームがもたらす物語体験の神髄が味わえる、破滅へと向かう人々が必死に生きた日々を描く群像劇【とっておきインディー】
『BLACK SHEEP TOWN』ノベルゲームがもたらす物語体験の神髄が味わえる、破滅へと向かう人々が必死に生きた日々を描く群像劇【とっておきインディー】
『BLACK SHEEP TOWN』ノベルゲームがもたらす物語体験の神髄が味わえる、破滅へと向かう人々が必死に生きた日々を描く群像劇【とっておきインディー】
『BLACK SHEEP TOWN』ノベルゲームがもたらす物語体験の神髄が味わえる、破滅へと向かう人々が必死に生きた日々を描く群像劇【とっておきインディー】
『BLACK SHEEP TOWN』ノベルゲームがもたらす物語体験の神髄が味わえる、破滅へと向かう人々が必死に生きた日々を描く群像劇【とっておきインディー】

BLACK SHEEP TOWN

  • メーカー:BA-KU
  • 発売日:2022年9月15日発売
  • 価格:2800円[税込]
  • ジャンル:アドベンチャー
  • 対象年齢:――
  • 備考:ダウンロード専売
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