『パラノマサイト』レビュー・感想。騙されない人はいない!? 呪いのデスゲームに複数の事件と思惑が交錯する贅沢なホラーミステリー

　スクウェア・エニックスより、2023年3月9日に発売されたNintendo Switch、PC（Steam）、スマートフォン向けホラーミステリーアドベンチャーゲーム『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』（以下、『パラノマサイト』）のクリアー後レビューをお届けします。

石山貴也氏新作ホラーミステリーを『探偵・癸生川凌介事件譚』ファンがレビュー

　またひとつ、ミステリーゲームの傑作が生まれてしまいました。自分は最後の謎を解き終えたとき、思わず「いくるみ……じゃない、やってくれたな石山貴也！」と叫んでしまったほどにプレイヤーを巧妙にワナにはめ続け、練り、考えさせる。そして、自力でたどり着いたときの驚きに変える。そんな物語の全貌をこの目で確かに見たからです。

　携帯電話（フィーチャーフォン）でミステリーアドベンチャーを作り続けていたディレクター・石山貴也氏に求めていた良質なミステリー要素と、軽妙な掛け合いによる魅力的なドラマ。このふたつのテイストが、まさに自分の望んだ状態で出てきたのですから。

　今年発売されたなかでも、すでにホラーミステリーの傑作カテゴリに入れていいのではないかと言えるくらいのダークホース。まだアドベンチャー好きにそこまで注目されていない印象もあるのですが、やらないともったいないくらいの作品です。

　それくらいの仕掛けと驚きに満ちているのはもちろん、自分の頭で推理することが好きな人にはプレイしながら真相までたどり着けるような絶妙な謎と伏線のばらまきかた。それが『パラノマサイト』だったのです。

　物語は昭和後期の東京都墨田区が舞台。実際の墨田区にも伝わる怪談・本所七不思議による呪いの力を得た9人の男女が、七不思議に隠された“蘇りの秘術”を巡り、殺し合いや謎にぶつかっていく群像劇（マルチサイト）の形で呪いにまつわる巨大な事件の全容が描かれていきます。

　先に書いておくと、冒頭からプレイヤーが驚くギミックが仕掛けられており、ホラーというだけではなくつねにこちらの想像を超えて驚かせてくれます。なので、公式サイト以上の内容を知るよりも自分で遊んでみることをオススメしたいゲームです。

　とはいえ、ミステリー好きの人にも事前情報では「ふつうのデスゲームもの？」くらいにしか思われていない可能性もあります。だとすれば、それは全然違いますよ！　むしろ、呪いを使った殺し合いだけではありません。

　本作は、呪いにまつわるデスゲーム要素もあるホラーミステリー。本質は巨大な事件の謎に迫る推理ゲームなのです。ただ、まだゲームの魅力自体が伝わりきっていないと思うんですよね。それに、ディレクターである石山貴也氏の手掛けた『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズ（And Joy作品）のファンは以下の2点が気になっていると思います。

1. 石山氏特有のノリやミステリーの仕掛けがあるか。
2. いま、石山氏がミステリーを書いても筆が鈍っていないか。

　ご安心ください。期待以上ですよ。ミステリーとして騙してくる謎はもちろん、こちらをおちょくっているようでもあり、端的に本質をつかむ漫才のような掛け合いも絶妙。話の間、ジャンプスケアで驚かせるホラー演出。細かい部分にいたるまで、これはまごうことなき“石山貴也氏が手掛けるホラーミステリー”です。はずしていません。

　推理物という性質上、極力ネタバレはしたくないのですが、本作はキャラクターも魅力的なのでどうしても語りたい！　ぶっちゃけ、どうせほかのメディアでもレビューすると思いますし、自分は同じ『癸生川』シリーズのファン向けにも話しておきたい！　というわけで、いったいどんなゲームなのか。遊んでみてわかった魅力をお伝えしていきましょう。

呪主（かしりぬし）となって他者を呪殺し、蘇りの力を得るデスゲームが……？

　東京都墨田区の深夜0時。愛犬の蘇生のために秘術を探す・福永葉子（ふくなが ヨーコ）に頼まれ、深夜の錦糸堀公園を訪れた興家彰吾（おきいえ しょうご）。彼は、そこで人を呪い殺す力・呪詛（じゅそ）を手に入れ、蘇りの秘術を巡る争いに巻き込まれてしまいます。

　同じ呪いの力を持つ呪主（かしりぬし）を殺し、滓魂（さいこん）と呼ばれる魂の欠片を集めることで発動する蘇りの秘術。彰吾は呪主たちと騙し合い、殺し合い、蘇りの秘術を手にすることができるのか。

　まるでデスゲームのような導入部分から、まず惹きつけられます。呪いを使うもの同士の駆け引きが静かに熱い。

　彼らが持つ呪詛は、それぞれに異なる発動条件があり、条件を満たさないと呪い殺せません。オカルトという前提がある作品ですが、超能力バトルのような独自のルール上で殺し合いが成り立っています。

　呪い自体も“呪影”という呪われた者同士にしか姿が見えない背後霊のような姿があり、やっていることは完全に呪主同士の呪いバトル。相手に条件を踏ませて呪いにハメる。このやり取りが、いわゆる超能力者同士の頭脳戦としておもしろいんですよ。

　たとえば、彰吾が持つ“置いてけ堀”は“相手が立ち去ろうとしたとき”に発動可能。立ち去ろうとした瞬間にボタンを押せば、呪詛が発動して相手を呪い殺せます。そのため、どうやって相手に立ち去ってもらえるかを考えて行動しなければなりません。導入から、こうした頭脳戦をわかりやすく楽しめます。

　さらに、本作は珍しい360度視点を採用したアドベンチャー。目の前の相手と会話するだけではなく、グルっと視点を回すことで新たな発見があります。テキトーに入っているシステムではなく、さまざまな場面で活用できるので、困ったらグルグル回してみるといいかもしれませんね。呪いの発動もそうですが、プレイヤー自身が頭を使って謎を解くことで道が開けるゲームになっています。

　上記説明はまだまだチュートリアル。本番は、ストーリーチャートを使って違う登場人物のストーリーも見られるようになってからです。呪主たちの群像劇を見ることで、全体の姿が浮かんでいく構成になっています。

　石山貴也氏の群像劇かつマルチサイトということでファンなら想像がつくと思いますが、とにかく、ひと筋縄ではクリアーできません。徹頭徹尾、プレイヤーを騙してくるのが石山貴也氏の真骨頂。ゲーム冒頭から驚かされたあなたは、もうすでに作者の術中にハマっているのです。

　でも、ご安心を。このゲームはとてもフェア。すべての答えはゲームの中にあるので、インターネットで答えを調べたりといったゲーム外の情報は必要ありません。よく考えて謎を解けば、必ず答えにたどり着けるようになっています。

　推理に必要な情報もメニュー画面の中の資料としてまとめてくれますし、聞き逃していた……なんて場合でも台詞のログから見返せますよ。それでもちょくちょく悩んで詰まると思いますが……！

　呪いを使った超能力バトルの駆け引き自体もあの手この手で唸らされるのですが、群像劇としてさまざまなキャラクターが追う過去の事件や現在の事件。これから起きそうな未来の事件が交錯しだすと、もうプレイする手が止まりません。呪いのデスゲームをベースに、さまざまな要素が混ざり合う本格的なホラーミステリーの始まりです。

　いわゆるマルチサイトの作品らしく、ほかのキャラクターで取った行動が別のキャラクターの場面に影響することも当然あります。各キャラクターの物語がすれ違っていくのですが、複雑ではなくストーリーの進行自体はわかりやすい作り。謎解きに悩んで詰まる場面はいくつかありそうですが、物語自体が興味深いのでどんどん先に進めたくなるはず。

　耐性がない人にひとつだけ気をつけてほしいのは、本作はホラーなので相当怖いです。こればかりは仕方ありません。

　ホラーとしての驚かせかたも心得ている作品なので、深夜にプレイするとドキッとなる場面も多発。テキストが軽妙でキャラクターの明るさに助けられている部分はあるのですが、呪い自体の描写も含めてホラーのテイストは強めです。昭和後期の独特な雰囲気も相まって、そりゃもうこわいですよ～。

じつはバディものの側面も。軽妙で天然ボケのような会話が味

　本作はミステリーとしての仕掛けがあらゆる場面で仕込まれているので、うかつなネタバレに繋がりそうなことはいっさい言えません。正解にたどり着いたあと、あとから違和感があった場面を読み返して「あっ、ああっ！　ここは、そういうことか！」となるのはミステリーの醍醐味。そこは、真っ新な気持ちで遊んでほしいですから。

　そういったわけで、最大の魅力である物語自体もここまでのチュートリアル的な部分しか語りません！　ここまでですら、実際に遊んだときの驚きを奪っている可能性があるくらいです。

　ただ、どうしても語りたいのがキャラクター。もうね、みんないい味を出しているんですよ。シリアスな場面でも、どこかおちょくられているような抜けたやり取りをしたり、突然有能さを見せてきたかと思えばエキセントリックな行動や言動をされたり、この作者にしか書けないキャラクターになっています。

　公式サイトにあるキービジュアルを見ると興家彰吾を中心にキャラクターが並んでいますが、本作はキャラクターがふたりずつ組んで物語を進めていくバディものの側面も。彼らのちょっとした掛け合いが楽しめるところも推したい要素です。最初に見られる興家彰吾と福永葉子たちの、真面目な話をしているようでどこかズレた会話もセンスを感じます。たぶん、このふたりは人気が出ますね！

　とくに自分が好きなのは津詰徹生（つつみ てつお）警部。彼はツッコミ気質でボケボケな部下の襟尾刑事に振り回されつつ、自分自身も割とノリがいいおじさんです。この人のパートでは音楽も急に刑事ドラマみたいになって、作中の雰囲気も刑事ものな雰囲気に。

　七不思議の呪いを追う刑事なのですが、ボケとツッコミを繰り返しながら真相に迫っていく刑事ドラマみたいになっています。もう、途中から津詰警部のツッコミが楽しくて仕方ない。ホラーのなかの癒し枠ですよ。なんなんでしょうね、この有能な警部のはずなのにいじられる感じのキャラクター。妙な親近感が沸きます。たぶん、刑事コンビは人気が出ますね！

　逆崎約子（さかざき やっこ）は親友の自殺の謎を追って同級生と行動する物語。彼女たちの視点はホラーの側面が非常に強く、怖がりな人は昼間に遊ぶことを推奨します。真面目に怖い。

　自分はバディを組む同級生のミヲがイチオシです。怖い場面が多い話のはずなのですが、掛け合いがおもしろくてクスっとくる場面も多いです。年相応の女子高生ふたり組と、彼女たちにタジタジな大人たちも見どころ。たぶん、この女子高生ふたり組は人気が出ますね！

　志岐間春絵（しぎま はるえ）は、とある事件で亡くした息子の蘇りと真相を求めて探偵の櫂利飛太（かい りひた）と行動する女性。

　この探偵がエキセントリックでありつつナイスガイ（昭和風表現）。どちらもちょっとズレているので、ツッコミ役がいない会話が続いたりもします。他者がいないとボケ続けて止まらない。かと思いきや、いきなりシリアスをぶち込んできて緩急のつけかたに心がバグりそうです。それが楽しい。

　ただ、根本が重い話なのでこれくらいボケてくれないと辛いかも。探偵は話が進めば進むほど味が出るキャラクターですし、たぶんこのふたり組は人気が出ますね！

　3月9日現在、公式サイトで紹介されている人物は5名ですが、まだまだいくらでもキャラクターがいる……というよりも多いです。群像劇として、さまざまな人物の思惑が飛び交って話が紡がれていきます。

　呪主によるデスゲームがメインというよりも、呪いバトルが同時進行しつつ巨大な謎を解くような話なので、どちらかと言えば残虐なデスゲームを期待する人よりもホラーミステリーとして謎解きを楽しみたい人向けですね。

　そうした人物の相関や手に入れた情報は資料としてまとめられており、メニュー画面からいつでも確認できるので安心です。新情報が手に入るたびに資料が更新されて、ちゃんと新着の資料が何かもわかります。

　また、攻略に役立つメモや現在の呪主と呪詛を持っている人物が誰なのかをまとめたページなどもあり、よく読み込むことで推理の手助けになるでしょう。

　そのほかには“なめどり”というシールを集める収集要素も。これはおそらく昭和後期に流行っていた“なめねこ”のパロディだと思われます。

　“なめどり”はSteam版における実績にしか関係しないオマケ要素。Switch版やスマホ版ではお遊びの収集要素ではあるのですが、メニュー画面で残りの“なめどり”の数を調べると収集できる場所のヒントをもらえるので、謎解きで詰まったときは気晴らしに集めてみてもいいかも。場面によっては、キャラクターのリアクションも楽しめます。

完全クリアーまで約10時間。いま出せるヒントもお届け

　公式Twitterによると、本作は“じっくりプレイして完全クリアーまで10時間程度”とのこと。倍速モードを使えば5～6時間程度というのが目安ですが、これは人によると思うんですよね。

　謎解きに捻ったものが多く、人によってはゲームの進行が止まって悩むような場面も出てくるはず。10時間でクリアーできる人もいれば、20時間くらいかかる人もいるくらい、個人差はありそうです。答えがわからないときは、正解にたどり着いていることにも気が付かないでずっと悩んじゃうかも。

　いま出せるヒントは、

• すべての謎と解答はゲーム内に必ずあります。
• ゲームと無関係の知識がないと解けないものは、ありません。
• それまでに入手した資料や会話に目を通し、自分の頭を使って考えれば、きっと先に進むはず。
• ストーリーが進まなくなった場合も、その時点でできることや探せるものがすべてです。
• 一言一句、一場面たりとも見逃さず、しっかり観察してよく考えてください。

　これくらい。最後の最後の謎まですべてを解き明かしたとき、きっと満足できると思います。諦めず、頑張って考えてみる価値はありますよ。

　ホラーミステリーというジャンルのなかでも最後までワクワクしながら楽しめましたし、サブタイトルに“FILE23”と入っているように、まだまだほかの数字がついたFILEや別の都市伝説を扱った怪事件も見られる余地がありそうなタイトルです。ぜひ、続編も作ってください。待っていますから！　そして、もっと売れてほしい!!　だから、みなさん……。

まさん

フリーランスでインディ―ゲーム関連の記事を担当するライター。メジャーなゲームではアトラス作品を深く愛しており、『真・女神転生』シリーズの話をし始めると、延々と止まらなくなる。愛が深すぎて怖いと言われ、記事を担当していないときも多い。

開発スタッフ・商品情報

【開発スタッフ】（※敬称略）

• ディレクター／シナリオ：石山貴也
  • 代表作：『スクールガールストライカーズ』『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズなど（※And Joy作品）
• キャラクターデザイン：小林元
  • 代表作：『スクールガールストライカーズ』『すばらしきこのせかい』シリーズなど
• サウンドコンポーザー：岩崎 英則（※）
  • 代表作：『FINAL FANTASY クリスタルクロニクル』『FRONT MISSION4』など

【商品情報】

• プラットフォーム：Nintendo Switch、Steam、iOS、Android
  • いずれもダウンロード販売のみ
• ジャンル：ホラーミステリーADV
• プレイ人数：1人
• 発売日：2023年3月9日(木)
• 希望小売価格：1980円［税込］
  • iOS、Android版は1900円［税込］
• CERO：D（17才以上対象）